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11話
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「尻尾に三角耳! その『ミルカ』って子が……『謎の嫁』が、『猫』だったってこと!?」
「そうだ。どうりで気配が一つしか感じられなかったわけだ」
同一人物なら当然だ。コウの勘は正しかった。感心しつつ、僕は話の続きに耳を傾けた。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、ミルカは……」
「獣人の子だろ?」
探るようなコウの問いを、大家があっさり解決する。
「今は数が少なくなったみたいだけど、あたしが小さい頃は森にはたくさんの獣人がいて、よく街を行き来してたんだよ」
エンバーの街の裏手には、広大な暗虚の森が広がっている。そこにはさまざまな獣や魔物、人と違う文化を持つ種族が息づいている。
長く森の畔で暮らしてきた大家にとって、異種族交流は珍しいことではない。
「炎竜の大難で苦労しただろうに、新しい環境で頑張ってるじゃないか。コウさん、ミルカちゃんを幸せにしてやるんだよ!」
「……はぁ」
バンバンと背中を叩いて激励してくる大家に、コウは曖昧な声を返した。
◆ ◇ ◆ ◇
「――で、それからどうしたの?」
「大家に金を渡した」
「へ? なんで?」
「俺には女物の服のことは分からないから、適当に見繕ってくれと」
「……」
淡々とグラスを傾けるコウに、目眩がする。それって、現状を容認したってこと? 流され過ぎにもほどがある。
「待って。コウはそれでいいの? 住み着いた猫が実は獣人の女の子で、周りから嫁認定されてるなんて」
納得のいかない僕に、無骨な傭兵は上目遣いに三秒考えて、
「いいんじゃないか? 俺の暮らしに支障はない。それに、今までは『猫』と『嫁』がいる状態だったが、『猫が嫁』だったことで、二つだった問題が一つに減ったのだから」
「全然よくない!」
僕はジョッキをテーブルに叩きつけた。
「二つの問題は元々一つだっただけで、事の大きさは最初から何も変わってないじゃん!!」
叫ぶ僕に、コウは目を瞬《しばたた》かせて、
「そういう考え方もあるのか。レイエスは賢いな」
「褒められても嬉しくない!!」
ほんっとにコウはズレている。自分自身のことにとことん無関心だから、こっちが心配になるよ。
「それで、当の『ミルカちゃん』には直接訊いたの? どういうつもりでコウの家に住み着いたのかって」
詰問口調の僕に、コウは飄々と一言。
「まだ姿を見ていない」
…………。
色々とダメじゃん!!!
「そうだ。どうりで気配が一つしか感じられなかったわけだ」
同一人物なら当然だ。コウの勘は正しかった。感心しつつ、僕は話の続きに耳を傾けた。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、ミルカは……」
「獣人の子だろ?」
探るようなコウの問いを、大家があっさり解決する。
「今は数が少なくなったみたいだけど、あたしが小さい頃は森にはたくさんの獣人がいて、よく街を行き来してたんだよ」
エンバーの街の裏手には、広大な暗虚の森が広がっている。そこにはさまざまな獣や魔物、人と違う文化を持つ種族が息づいている。
長く森の畔で暮らしてきた大家にとって、異種族交流は珍しいことではない。
「炎竜の大難で苦労しただろうに、新しい環境で頑張ってるじゃないか。コウさん、ミルカちゃんを幸せにしてやるんだよ!」
「……はぁ」
バンバンと背中を叩いて激励してくる大家に、コウは曖昧な声を返した。
◆ ◇ ◆ ◇
「――で、それからどうしたの?」
「大家に金を渡した」
「へ? なんで?」
「俺には女物の服のことは分からないから、適当に見繕ってくれと」
「……」
淡々とグラスを傾けるコウに、目眩がする。それって、現状を容認したってこと? 流され過ぎにもほどがある。
「待って。コウはそれでいいの? 住み着いた猫が実は獣人の女の子で、周りから嫁認定されてるなんて」
納得のいかない僕に、無骨な傭兵は上目遣いに三秒考えて、
「いいんじゃないか? 俺の暮らしに支障はない。それに、今までは『猫』と『嫁』がいる状態だったが、『猫が嫁』だったことで、二つだった問題が一つに減ったのだから」
「全然よくない!」
僕はジョッキをテーブルに叩きつけた。
「二つの問題は元々一つだっただけで、事の大きさは最初から何も変わってないじゃん!!」
叫ぶ僕に、コウは目を瞬《しばたた》かせて、
「そういう考え方もあるのか。レイエスは賢いな」
「褒められても嬉しくない!!」
ほんっとにコウはズレている。自分自身のことにとことん無関心だから、こっちが心配になるよ。
「それで、当の『ミルカちゃん』には直接訊いたの? どういうつもりでコウの家に住み着いたのかって」
詰問口調の僕に、コウは飄々と一言。
「まだ姿を見ていない」
…………。
色々とダメじゃん!!!
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