うちの同居重戦士さん【改稿版】

灯倉日鈴(合歓鈴)

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17、重戦士と時代劇

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 バイトのない日は、まだ明るい時間に家に帰り着く。

「リクトさん、ただいまー! ……あれ?」

 元気にドアを開けた一花は首を捻る。三和土に鉄靴とブーツが置いてあるのに、返事がない。
 部屋を覗くと、畳の上で正座をして食い入るようにテレビを観ている全身甲冑を発見した。

「ただいま、リクトさん」

 背後から声を掛けると、彼は正座のままビクッと10cmほど飛び上がってから振り返った。

「やや、これは一花殿! おかえりでござる」

「……ござる?」

 語尾を反復しながら、一花はリクトの隣に座り、ちゃぶ台に置いてある籠に入ったみかんに手を伸ばす。

「なに観てるんですか?」

「田中殿に教えてもらったテレビだ。ずっと細い剣を持った男達が戦っているぞ!」

 興奮気味にリクトが指差す先には、着物にちょんまげ姿の侍が斬り結んでいるシーンが映っている。

「その剣は刀っていうんですよ。観てるのは時代劇チャンネルですね。うちのアパート、ケーブルテレビ見放題だから」

 風呂はないのに。設備投資の箇所がイマイチ謎な集合住宅だ。

「昔の日本の話なのだと田中殿が言っていた。この戦っている男達は何者なのだ?」

「お侍さんですね」

「オサムライ?」

「ええと、偉い人に仕えている戦闘職の人……かな」

「ということは、彼らは騎士か」

「いいえ、武士です」

 一花の浅い知識では、この答えが精一杯だ。

「この物語はどれも面白い。特に身分を隠して市井に出て、悪人を懲らしめる話は痛快だ」

「わたしも好きですよ。殺陣たてが格好いいですよね」

 テレビ画面から目を離さないリクトの横で、一花は皮を剥いたみかんを一房口の中に放り込む。

「リクトさんも、トツエルデではこんな生活を送ってたんですか?」

「俺は身分のない平民だからな。ギルドから適当に仕事をもらってその日暮らしだった」

「でも、すごいランクの冒険者だったんでしょ?」

 一花は異世界担当行政官の水沢にそう聞いた覚えがある。

「運良く上級クエストをいくつか完遂できただけだ。その時はパーティーを組んでいたし、俺だけの手柄ではない」

「パーティー? リクトさんには仲間がいたんですか?」

「いや、基本的に一人だ。たまに大人数のクエストに参加したり、ダンジョン内で知り合って一時的に仲間になったりもしたが」

 ソロ狩りの重戦士は、郷愁の滲む声で言う。

「だが……このテレビ番組芝居のように、信頼する仲間と共に巨悪に立ち向かったり、旅をするのも楽しかっただろうな」

「……きっとできますよ」

──トツエルデに帰ったら。 
異世界の扉の情報は不明のままだ。それでも、一花は希望を捨ててはいない。

「ああ、そうだな」

 リクトも神妙に頷いて、それから明るくテレビを指差した。

「一花殿もこの国の住人なら、あれくらい習っているのだろう? トツエルデでも優秀な冒険者になれると思うぞ」

 映っていたのは、くノ一が数人の浪人との大立ち回りの末、煙玉で姿を消すシーンだった。

「……あれはもうちょっと修行しないと無理ですね」

 残念なことに、一花の高校では必修科目に忍術は含まれていなかった。
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