森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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19、初めてのお客様(7)

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「まあ、お前達のただれた出会いは置いておいて」

 誤解を誤解のままにして、ノワゼアは話を続ける。

「お前達は夫婦なのか? 一緒に暮してるのだろう?」

「まさか!」

 リルは慌てて否定する。

「確かに一緒に暮してるけど、なんにもないです! 私達の関係は、雇用主と給仕人というか、家主と店子というか……」

 いざ言語化しようとすると難しい。しどろもどろなリルに、ノワゼアは「ふむ」と顎に手を当てて、

「とりあえず、恋仲ではないのだな?」

 ブンブンともげるほど首を縦に振る人間の娘に、狐耳少年はポンッと手を叩いた。

「それならばリル、我と結婚しよう!」

「お断りします」

「なっ!?」

 瞬殺されて、ノワゼアは尻尾をぼわぼわに膨らませる。

「何故、断る? 我のどこに不満があるのだ? 耳か? 尻尾か!?」

「いや、耳と尻尾はむしろプラス要素なんだけど」

 もふもふは愛くるしいことこの上ない。

「では何故即答した? 礼儀として一度持ち帰って熟考する案件だろう!」

「……持ち帰るも何も、ここが私の家なんだけど……」

 無茶な要求にリルは苦笑を零してから、真顔に戻した。

「私、ノワ君のこと何も知らないし、ノワ君だって私のこと知らないでしょ? いきなりプロポーズは受けられないよ」

 彼女なりの精一杯の真摯な返答に、ノワゼアは子どもっぽく頬を膨らませる。

「……では、もっと知り合ったら、結婚してくれるのか?」

「まずは結婚抜きで知り合いたいな」

 ノワゼアは眉間にシワを寄せて難しい顔をしてから、カップに残っていた想織茶を一気に飲み干した。

「分かった。今日のところは引き下がろう」

 彼には少し高めの椅子を飛び降りると、ドアへと向かう。

「馳走になったな。リル、次はでっかいイノシシを捕まえてくるから、楽しみにしておれ」

 犬歯の目立つ白い歯を見せて二カッと笑うと、ノワゼアは外に出ていく。

「鱒、ありがとう。また来てね!」

 リルが開けたドアから声を掛けると、長い尻尾をたなびかせて木々の中に消えていく黒い狐が見えた。

(驚いたけど、お料理もお茶も喜んでくれたみたいで良かった)

 程よい疲れと充足感に、リルは閉めたドアを背にため息をつく。

「可愛いお客様でしたね。食材を持ってきてくれて助かりました」

 食器を片付けだしたスイウを、リルは隣で手伝う。

「ノワ君はよく来るんですか?」

「たまに」

「他にはどんなお客様が来るんですか? みんな、いい人ですか?」

 浮かれて見上げるリルに、スイウは上目遣いに、

「他はもっと……実体がない」

「……実体?」

 リルの背筋に冷たいものが流れ落ちた。
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