森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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26、水のこと(1)

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「わー、朝日が眩しい! 緑鮮やか!」

 木々に残った水滴が日の光に乱反射して、森全体が輝いているようだ。雨上がりの碧謐の森は空気が澄んでいて、とても清々しい。

「昨日の嵐が嘘みたい。雨も嫌いじゃないけど、やっぱり晴れっていいね」

 青空の下、リルは顔を洗うために井戸に向かう。家の中の大瓶はほぼ飲料水用なので、身嗜みを整える時や洗濯などには、井戸から直接水を汲んで使っている。
 外に出る前に大瓶を確認すると、まだ半分ほどの水が残っていた。

(今日の分は足りそうだけど、明日は瓶に水を入れなきゃ)

 瓶の水は茶を沸かす用だけでなく、家《大樹》も飲むので切らすことはできない。重労働だが、大事な仕事だ。

「ていっ!」

 色々考えながらも、リルはいつも通りつるべを井戸に投げ込んで――

 カラカラカラカラ……カコーン!

「あれ?」

 ――いつもと違う音の響きに、首を傾げた。

◆ ◇ ◆ ◇

 その時、スイウは自室にいた。
 図解の多い魔導書を開き、難しい顔で文字を辿っていると……、

「スイウさーん! 起きてますかー?」

 部屋の外から、元気な声とノックの音が響いた。

「どうした?」

 ドアを開けると、同居人の少女が赤いポニーテールをぴょこんと下げてから訴える。

「おはようございます、スイウさん。大変です、井戸が枯れました!」

「……井戸が?」

 早朝の珍事に、さすがの魔法使いも怪訝そうに眉根を寄せる。

「見てみよう」

「お願いします」

 深緑のローブを翻し大股で歩き出すスイウに、リルも急いで後を追う。ドアが閉まる直前、視界に少しだけ彼の部屋の中が映った。リビングよりも少し狭い、リルの部屋の何倍も広い空間には、ぎっしり詰まった本棚と、学校の科学室のような器具の棚が並んでいた。

(……すっごい魔法使いっぽい!)

 リルは純粋に感動した。

  外に出ると、炊事場の隣にある屋根付きの井戸を二人で覗き込む。かなり深いが、底につるべの桶が転がっているのが見えるので、水が溜まっていないのが窺えた。

「どうしたんでしょう? 昨日の雨の影響ですかね?」

 といっても、大雨で増水するなら分かるが、干上がるなんておかしい。
 スイウは唇に手を当てて思案して、

「水源で何かあったのかもしれない」

「水源?」

 不思議顔で見上げる少女に、魔法使いは説明する。

「この井戸の水脈は、東の泉に繋がっている。泉から井戸の間で、何か水脈が塞がることが起きたのだろう」

「なるほど。それで、どうしますか?」

「必要ならば泉に行って、原因を探ってみるといい」

「はい!」

 リルは元気に頷いてから、「……ん?」と疑問を持つ。

「私が行くんですか? 一人で?」

 コクリと頷かれて、リルは真っ青だ。

「そんな、スイウさんも一緒に来てくださいよ。私、土地勘ないし、迷ったらどうするんですか!」

 森在住歴数日の少女の叫びに、百三十年以上暮らす魔法使いは飄々と、

「これも君の仕事だ」

「……ですよねー」

 無慈悲な言葉に、リルは肩を落とした。

「ここからまっすぐ行けば、泉に着く」

「この森に、まっすぐ歩ける道なんかあるんですか?」

 緑の木々を指差されても、絶望しかない。
 家に戻るスイウに背を向け、リルは鬱蒼と生い茂る藪の中に分け入っていった。
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