森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

文字の大きさ
61 / 140

61、ヤマモモを収穫しよう(2)

しおりを挟む
 藪を掻き分け、苔に足を滑らせながらも道なき悪路を進む。
 直線距離なら近いはずなのに、木々の入り組んだ森の中にはまっすぐに通れる場所なんかない。見えてはいるのに届かないもどかさを抱えつつ、リルがようやくヤマモモの木にたどり着いたのは、大樹を出発して小一時間経った頃だった。

「やっと、お宝にありつける」

 苦労した分、感激もひとしおだ。リルは鈴なりの赤い実を見上げ深呼吸した。

「よし、採るぞ!」

 自分に気合を入れて、勇んで木の下まで行くが――

「……どうやって収穫しよう」

 ――すぐに計画性のなさが露呈した。
 ヤマモモの木は思いの外高く、幹にはリルが登れるような低い位置に手がかり足がかりになる枝はない。熟れて落ちた実を拾ってもいいが、地面は膝丈ほどの長い雑草に覆われていて、傷のない実を選り分けて探すのも困難だ。

「戻って梯子を取ってこようか? でも、重い梯子を持ってこの道を往復するのはなぁ……」

 かと言って、目の前のごちそうヤマモモを諦める気もない。

「頑張れば登れるかな?」

 リルがヤマモモの木の周りを徘徊しながら考えていると、

「ねえ、何してるの?」

 不意に声をかけられた。驚いて振り返ると、背後には……誰もいない。

「あれ?」

 キョロキョロと首を巡らすリルに、「ここだよ、ここ」とまた声がする。声の方向を目で辿ると、ヤマモモの木の向かい側、楓の木の高い枝に誰かが座っているのが見えた。
 逆光に手を翳し目を凝らすと、それが若い男性だということが判った。
 外見年齢はスイウと同じ二十代前半だが、この森ではスイウと同様見た目は当てにならない。それに……人の形をしていても、人間ですらないことの方が多いのだ。
 リルは短い経験からでも雰囲気でこの青年が自分と同じ普通の人間ではないことに気づいていた。そしてそれは、彼も同じだった。

「君、ただの人間だよね。なんでこんなところにいるの?」

 陽気な声で歌うように尋ねる。声質は軽いのに、リルは何故か深い重圧を感じた。

「私は魔法使いの大樹の家でお世話になっている、リルと申します。あなたは?」

 聞き返すと、木の上の青年は涼やかに微笑んだ。

「俺の名はレオンソード。君、魔法使いの弟子なの?」

 堀の深い彫像のような整った顔立ち。長めの豪奢な金の巻き髪は、尊大な彼の態度によく似合っている。

「多分、一応……弟子、なのかな?」

 自信なさげなリルの返事に、レオンソードは「なにそれ」とケラケラ笑う。

「今の魔法使いって、誰? ディセイラちゃん?」

 聞き覚えのない名前に、リルは首を傾げる。

「いえ、スイウさんです」

「スイウ? 知らないなぁ」

 レオンソードも顎に手を当てて首を捻る。さらりと揺れた前髪が乱れ、彼の秀でた額が顕になる。その右半面には……抉れたような大きな傷があった。
 彼は「ま、いいや」と呟くと、枝の上で足をプラプラ揺らしながら、身を乗り出した。

「それで、リルちゃんは何をしてるのかな?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。 だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。 しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。 それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。 そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。 秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。 絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。 「余りもの同士、仲良くやろうや」 彼もまた、龍神――黒龍だった。 ★ザマァは軽めです! ★後半にバトル描写が若干あります! ★他サイト様にも投稿しています!

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...