森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

文字の大きさ
80 / 140

80、神殿の使者(3)

しおりを挟む
 魔法使いの去ったリビング兼病室には、街の少女と神殿騎士の二人きり。

「わ……私、何か食べ物を持ってきますね」

 気まずさに堪えきれず、炊事場へと逃げ出そうとする彼女を、

「リルさん」

 ジェレマイヤーが呼び止めた。

「貴女はこの森でどういう役割を担っている方なのですか?」

 訊かれて戸惑う。どういうといわれても……。

「私はスイウさんのお茶汲み係というか、魔法の勉強をしている一般人といいますか……」

 しどろもどろなリルに、ジェレマイヤーは小首を傾げる。

「魔法使い殿とは親密な間柄ではないのですか?」

「親密?」

「配偶者や情を交わす関係とか」

「違います違います!」

 リルは両手を突き出し首をブンブン振って否定する。

「一緒の家に住んでて魔法を教えてもらってますが、私とスイウさんは一切やましい関係じゃありません! ちょっと借金のカタになりましたが、至って健全です!」

「借金のカタ?」

「解決済みのこっちの話です!」

 ……余計なことを言った。

「とにかく、私とスイウさんは店子と大家さんってだけでだけですよ!」

 必死で言い募るリルに、ジェレマイヤーは口元に手を当ててクスリと笑った。

「そんなに精一杯否定しなくても。……でも、安心しました」

 榛色の目を細め、穏やかに微笑む。

「リルさん、貴女に特定の相手がいないのなら、僕が立候補してもいいですか?」

「……へ?」

 きょとんと瞳を見開くリルに、彼は真摯な眼差しで、

「僕は貴女が好きです。どうか僕の伴侶になってください」

「……!」

 途端に体中の血液が顔に上る。湯気が出るほど真っ赤になったリルは、震える手を握りしめ――

「ごめんなさいっ!!」

 ――床に着くんじゃないかというほど、全力で頭を下げた。

「違うんです。それ、ジェレマイヤーさんの本心じゃなくて、私のせいなんですっ」

「ど、どうしたんですか? リルさん……」

 突然謝りだした少女に狼狽える怪我人に、リルは涙声で事情を話す。

「私がジェレマイヤーさんに飲ませた薬湯に魅了の効果が入ってて、それでジェレマイヤーさんは私を好きだと思い込んじゃってるんです。本当にごめんなさい。暫くすると薬が抜けると思うので、それまで辛抱してください」

 赤毛のポニーテールがひっくり返るまで深く頭を垂れるリルに目をぱちくりさせていたジェレマイヤーだったが……、

「ふっ、ふふっ」

 堪えきれずに噴き出した。

「……ジェレマイヤーさん?」

 場違いに笑い続ける騎士をリルが呆然と見つめていると、彼は目尻に浮かぶ涙を拭いながら笑い収める。

「勘違いしているのは僕ではなく貴女の方ですよ、リルさん」

「……はい?」

 事情の飲み込めないリルに、ジェレマイヤーは諭すように言う。

「僕は訓練を受けた神殿の守護騎士です。魔法で心を操られることはありません」

「でも……」

 戸惑うリルの左手を、ジェレマイヤーの右手が握る。

「僕の治療をしている時、リルさんは祈ってくれていましたね。『死なないで』『元気になって』と」

「それは……」

 ……確かに祈った。名も知らぬ青年を助けたい一心で。

「貴女の僕を心配する気持ちが、僕の中に流れてきました。貴女の温かい心に触れたからこそ、僕は貴女に恋をした」

 ジェレマイヤーの手のひらの熱が、リルに伝わる。

「だから僕は、リルさんと生涯を共にしたいと思ったのです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。 だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。 しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。 それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。 そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。 秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。 絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。 「余りもの同士、仲良くやろうや」 彼もまた、龍神――黒龍だった。 ★ザマァは軽めです! ★後半にバトル描写が若干あります! ★他サイト様にも投稿しています!

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...