森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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87、昔話(2)

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「リルちゃん、知ってる? 聖域ってのはこの森と同じように精霊のもとが多く発生する場所なんだけどね」

 軽い口調の人外の声に、人間の少女は熱心に耳を傾ける。
 精霊は思念の粒子の集合体だと、リルはスイウに教わった。『精霊の素』は『思念の粒子』のことだろう。

「この森はいろんな精霊や霊獣が生まれるけど、聖域は違う。一つの場所で一つだけの『力ある存在』を崇拝し、敬愛し、神に高めることでその加護を受ける資格を得た者達が住まう場所」

「神様の加護を得る……」

 ジェレマイヤーが禍物にとどめを刺した力は、神の加護なのだろう。魔法の講義を受けてきたリルには、祈りが精霊――神――を育てる理屈が解る。

「森の騒乱を聞きつけた奴等は、事態が収束する頃に現れて森を浄化し、人の里の復興に手を貸した。聖域の連中は世界の秩序を正すことを信念にしてるらしくて、あらゆる怪異に介入したがるんだ。まあ、あくまで奴等基準の秩序だけどね。それから、生き残った魔法使いに碧謐の森を聖域の傘下に入るよう迫った」

 救済してくれたのはありがたいが、占領されるとなると話が違う。

「……それで揉めたんですか?」

「揉めた」

 レオンソードはあっさり頷く。

「森の住民は勝手気ままに生きてたからね。魔法使いの対立も好きな方に味方したし、最後まで我関せずな奴もいた。それがいきなり誰かの手下になれって言われたら反発するだろ? グラウンのジジイなんか噴火する勢いで怒ってたな」

「噴火するんだ……」

 比喩かもしれないが、リルは黒甲地竜の背中から溶岩が吹き出す姿を想像する。

「それで、森対聖域の追加試合が始まるかも! ……って時に、生き残りの魔法使いの一人が提案したんだ」

『碧謐の森に結界を張り、二度と人の里に危害を加えないよう管理する』

 ……と。

「当然、聖域は難色を示したよ。魔法使いの暴走でこんな事態になったのに、元同胞の魔法使いの言葉なんて信じられないよね。でも、森の住人全員を敵に回すには分が悪い。そこで聖域は条件を出した」

「条件?」

 鸚鵡返しするリルに、レオンソードは意味深に目を細めた。

「それは、『碧謐の森には魔法使いを一人しか置かないこと』だよ」

 不意に殺風景な大樹の家のリビングが脳裏に浮かぶ。

(ああ、だからか……)

 リルはすとんと納得した。

(だからスイウさんは、あの家に独りだったんだ)
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