森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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91、リルとジェレマイヤー(1)

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 ――あの禍物遭遇から七日が経った。
 その間、ジェレマイヤーは目覚ましい回復を見せ、事件の三日後には立ち上がり、五日後には歩いて自分の身の回りのことをこなし、今ではリルの畑を手伝うまでになった。

「ありがとうございます、ジェレマイヤーさん」

「なんの。お世話になっているのだから、これぐらいはしなくては」

 リルの言葉に、神殿騎士は鍬を振るいながら白い歯を見せる。少し前に始めたリルの畑は大豊作で、新しい作物を植える為に拡張している。

「良い土だ。これなら作物がよく育つ」

 土を触って頷くジェレマイヤーにリルは首を傾げる。

「慣れてるみたいですけど、ジェレマイヤーさんは畑仕事をしたことあるんですか?」

「ありますよ。聖域は基本自給自足ですから、畑仕事も治水工事も騎士の役目です」

 勿論戦闘もですが、と付け足す。

「聖域って、どれくらいの人が住んでるんですか?」

「それは秘匿事項です」

 何気なく聞いたことをぴしゃりと断絶され、リルは口を噤む。碧謐の森と同じくおとぎ話のような聖域。迂闊に外部に情報を漏らせば攻め込まれる可能性もあるのだろう。聞かれるまま何でも話してしまう魔法使い見習いとは違い、神殿騎士は慎重だ。身を縮込めるリルに、ジェレマイヤーは屈託なく笑う。

「口では言えませんが、実際に見て確かめることはできますよ。僕の伴侶となって聖域に来れば」

 この侵入者は、リルへのプロポーズを撤回する気はないようだ。かといって強引さはないので、無関心なスイウを合わせて三人の共同生活は穏やかに続いている。

「……聖域って、外部から来た人を住まわせてもいいんですか?」

 引っ越すきはないが一応確認すると、

「ありますよ」

 ジェレマイヤーはあっさり肯定した。

「僕は聖域生まれですが、聖女様のお許しがあれば誰でも住めます。たまに迷い込んだ旅人が居着くこともあるんですよ」

「へぇ」

 彼は額に浮いた汗を手の甲で拭いながら、眩しげに空を見上げた。

「簡単な任務のはずが、大分長居してしまった。そろそろ帰らないと聖域の皆が心配するな」

 その声には郷愁が滲んでいる。

「もう少し体力が戻ったらおいとましますね。……数日中には」

 宣言されると、急に寂しくなってしまう。せっかく日常会話を楽しめる友人ができたのにと残念に思うが、任務がある彼をリルは引き留めようとはしなかった。代わりに、

「そうだ、伝え忘れてたことがあったのですが……」

 おずおずと切り出した。

「実はジェレマイヤーさんが来てた甲冑、壊しちゃって」

「は?」

 目が点になる普段着(スイウの借り物)姿の騎士を連れて、リルは納屋へと向かう。

「これなんですけど……」

 床に敷いた布の上に並んでいたのは、確かにあのに日彼が身につけていた全身甲冑だった。……ただし、パーツはバラバラだが。

「傷の手当をする時に脱がせたんですけど、金具が折れちゃって。千切れた革ベルトはつけ直したんですけど、金属の接合部分はどうしても直らなくて……」

 それでもピカピカに磨かれた甲冑の残骸を前に、ジェレマイヤーが崩れるように膝をつく。

「……これを、リルさんが?」

 肩を震わせて尋ねる騎士に、少女は身を竦ませた。

「あの……わざとじゃないんです。ただ、必死で引っ張ったら取れちゃって」

 ジェレマイヤーは涙目で言い訳するリルを振り返ると……やおらガッと彼女の肩を掴んだ。
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