森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

文字の大きさ
99 / 140

99、来訪(7)

しおりを挟む
 木洩れ日の降り注ぐ小径を、軽やかな足取りで進んでいく。
 魔法使い達と別れた聖域の二人はシルウァの街に向かう為、森の中を歩いていた。

「緑の香りが濃い。聖域も木が多いけど、この森はもっと原初的で猛獣が息を潜めているような緊張感がある。たまには自分の足で外界を歩かなきゃダメね。頭の中の知識と実際に物事に触れる経験とでは大違いだわ」

 上機嫌な聖女に、守護騎士は困った顔でついていく。

「だからって、聖女様が自らお越しになるなんて。よく神官長が許可しましたね」

「あら、神殿で一番偉いのは私よ。他の誰の許可が必要なの?」

 悪びれないヒルデリカにジェレマイヤーは頭を抱える。
 ……きっと、神殿に帰ったらジェレマイヤー自分が一番怒られるのだろうなぁ……。
 心の中でぼやいでも仕方がない。そもそも彼が任務中に負傷したのが原因なのだから。

「それに、今代の魔法使いにも会っておきたかったしね。いい機会だったわ」

 ヒルデリカは小鳥の囀りに耳を澄ませ、歌うように言う。

「八代目碧謐の森の魔法使い。魔法界隈だと殆ど噂にも上らない人だけど、この森を見れば判るわ。優秀な人だったのね」

 今、聖女が歩いている道は魔法使いが客人の為に拓いた『道』なので地面はなだらかで歩きやすいが、実際は一般人が深部に入れぬよう巧妙な術が幾重にも施されている。

「……?」

 言葉尻を捉えて聞き返すジェレマイヤー。その問いには答えず、ヒルデリカは意味深に口角を上げた。

「ところで。あのリルってお嬢さん、可愛かったわね」

 いきなり変えられた話題に、騎士はビクリと肩を跳ねさせる。

「人の多い場所で育ったのかしら? 朗らかで人当たりが良くて親しみのある子。魔法使いの森でお茶の味のリクエストを聞かれたのなんて、永い記憶の中で初めてだわ」

 クスクス思い出し笑いするヒルデリカに、

「ぼ……僕は、リルさんの治癒能力と薬草で命を救われました」

 ジェレマイヤーは頬を赤らめながら精一杯話し出す。

「聖域にもリルさんほどの治癒術師は稀でしょう。それに彼女は精霊とも対話ができる、素晴らしい才能の持ち主です。だからどうでしょう? 彼女を神官として聖域に迎え入れたら!」

 いきなりの部下の提案に、聖域の主は上目遣いに考えて、

「そうねぇ。リルが聖域に来たら、きっとすぐに私の右腕になって目覚ましい功績を上げるでしょう」

 ヒルデリカの言葉に、ジェレマイヤーは瞳を輝かせた。

「でしたら……!」

「でも、無理ね」

 喜びに駆け出しそうな騎士に、聖女は冷たく水を差す。

あの子リルは森に愛されている。私達が引き離すことはできないわ」

「そんなぁ……」

 ジェレマイヤーはがっくりと肩を落とす。聖女との問答は抽象的で難解だが、結論が出た答えは決して覆らないのだ。
 落ち込む騎士に、聖女はにんまり微笑んだ。

「貴方、リルが好きなのね?」

「……そうですけど」

 聖女にはどんな嘘も通じない。素直に頷くジェレマイヤーの顔を見上げ、ヒルデリカは眩しげに目を細めた。

「それなら、足掻いてみるのもいいんじゃない?」

「は?」

 視界の先が明るくなって来る。森の出口はもうすぐだ。
 聞き返す彼に、彼女はいたずらっぽくウインクした。

「守護騎士ジェレマイヤー。聖女を愉快な場所に連れてきてくれた貴方に、ご褒美を上げましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。 だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。 しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。 それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。 そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。 秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。 絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。 「余りもの同士、仲良くやろうや」 彼もまた、龍神――黒龍だった。 ★ザマァは軽めです! ★後半にバトル描写が若干あります! ★他サイト様にも投稿しています!

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...