131 / 140
131、森の王(3)
しおりを挟む
『森の王』
その名を聴いた時、妙にしっくりくるなとリルは思った。明確な答えをもらわなくとも、森に棲んでいれば自ずと理解できる。
森の住人達は、皆大樹に敬意を払っている。
例えば、彼らは無断で大樹に侵入することはない。内側から魔法使いがドアを開ける、あるいは魔法使いと同伴でなければ入室を許可されない。
リルはスイウに居住を許可されているから自由に出入りできるが、それでも「ただいま」の挨拶がなければドアを開けてはもらえないし、機嫌を損ねると平気で追い出される。
森の中心に在り、絶対の権力を持つもの。
それが大樹、『森の王』だ。
物静かで常に家に配慮していたスイウが、大樹に気に入られていたことは想像に難くない。リルに冷たい態度だったのも、世代交代を嫌っていたからなら納得だ。
水の精霊であるクレーネは、樹木に恋をした。樹木だって、特定の誰かに特別な感情を抱いても不思議はない。それがここ、『碧謐の森』だ。
「ねえ、ルビータさん。前回大樹が魔法使いを閉じ込めた時、どうやって出したんですか?」
駄々をこねても歴史は動いている。前回もなんだかの形で収束したのだろうと思い、リルは訊いてみたのだが。
ルビータは困った風に首を竦めて、
「新旧の魔法使いが内側と外側から説得したの。何十日か掛かったわね」
「そんなに……」
「あと、あたしも協力しようと思って外側からちょっと樹皮を炙ったら、めっちゃ怒らせちゃった」
「……」
もしかして、火気厳禁なのはこの人のせいなのではないか……。リルは内心冷や汗を垂らす。
見上げる大樹の枝から、ハラハラと枯れ葉が舞う。瑞々しかった木は、今や倒れる寸前の老木のようだ。
「ヒメちゃん、スイウさんの様子はどうなの?」
「眠っておる。身の内に閉じ込めた禍物が発露しないよう戦っておるのじゃろう」
禍物に乗っ取られかけたリルとノワゼアにはその状況が理解できた。
……これは考えたくもないことだが……。
「もし、このままスイウさんが死んじゃったら……大樹はどうなるの?」
「大惨事だよ」
リルの恐ろしい問いにサラリと答えたのはレオンソードだ。
「魔法使いが死ねば、肉体は禍物に乗っ取られる。それに、現在魔法使いと寿命を共有している大樹も、内側から侵食されるだろうね。大樹は碧謐の森の始まりの一本。その根は森の隅々まで蔓延っている。ってことは……」
「森全体が禍物になっちゃうの!?」
レオンソードの言葉を継いで、リルが悲鳴を上げる。
五百年前の悲劇の比ではない。想像を絶する災禍が森とシルウァの街と……この世界を襲うのだ。
「どうしよう……」
スイウが意識不明な以上、内側からの説得は望めない。王である大樹は、精霊の声には耳を貸さない。
ならば……。
リルは冷たくなる指先を握り込み、意を固めた。
「私が大樹を説得する」
そしてもはやドアの形が判らない木の幹に頬を当て、語りかけた。
その名を聴いた時、妙にしっくりくるなとリルは思った。明確な答えをもらわなくとも、森に棲んでいれば自ずと理解できる。
森の住人達は、皆大樹に敬意を払っている。
例えば、彼らは無断で大樹に侵入することはない。内側から魔法使いがドアを開ける、あるいは魔法使いと同伴でなければ入室を許可されない。
リルはスイウに居住を許可されているから自由に出入りできるが、それでも「ただいま」の挨拶がなければドアを開けてはもらえないし、機嫌を損ねると平気で追い出される。
森の中心に在り、絶対の権力を持つもの。
それが大樹、『森の王』だ。
物静かで常に家に配慮していたスイウが、大樹に気に入られていたことは想像に難くない。リルに冷たい態度だったのも、世代交代を嫌っていたからなら納得だ。
水の精霊であるクレーネは、樹木に恋をした。樹木だって、特定の誰かに特別な感情を抱いても不思議はない。それがここ、『碧謐の森』だ。
「ねえ、ルビータさん。前回大樹が魔法使いを閉じ込めた時、どうやって出したんですか?」
駄々をこねても歴史は動いている。前回もなんだかの形で収束したのだろうと思い、リルは訊いてみたのだが。
ルビータは困った風に首を竦めて、
「新旧の魔法使いが内側と外側から説得したの。何十日か掛かったわね」
「そんなに……」
「あと、あたしも協力しようと思って外側からちょっと樹皮を炙ったら、めっちゃ怒らせちゃった」
「……」
もしかして、火気厳禁なのはこの人のせいなのではないか……。リルは内心冷や汗を垂らす。
見上げる大樹の枝から、ハラハラと枯れ葉が舞う。瑞々しかった木は、今や倒れる寸前の老木のようだ。
「ヒメちゃん、スイウさんの様子はどうなの?」
「眠っておる。身の内に閉じ込めた禍物が発露しないよう戦っておるのじゃろう」
禍物に乗っ取られかけたリルとノワゼアにはその状況が理解できた。
……これは考えたくもないことだが……。
「もし、このままスイウさんが死んじゃったら……大樹はどうなるの?」
「大惨事だよ」
リルの恐ろしい問いにサラリと答えたのはレオンソードだ。
「魔法使いが死ねば、肉体は禍物に乗っ取られる。それに、現在魔法使いと寿命を共有している大樹も、内側から侵食されるだろうね。大樹は碧謐の森の始まりの一本。その根は森の隅々まで蔓延っている。ってことは……」
「森全体が禍物になっちゃうの!?」
レオンソードの言葉を継いで、リルが悲鳴を上げる。
五百年前の悲劇の比ではない。想像を絶する災禍が森とシルウァの街と……この世界を襲うのだ。
「どうしよう……」
スイウが意識不明な以上、内側からの説得は望めない。王である大樹は、精霊の声には耳を貸さない。
ならば……。
リルは冷たくなる指先を握り込み、意を固めた。
「私が大樹を説得する」
そしてもはやドアの形が判らない木の幹に頬を当て、語りかけた。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】黒の花嫁/白の花嫁
あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。
だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。
しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。
それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。
そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。
秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。
絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。
「余りもの同士、仲良くやろうや」
彼もまた、龍神――黒龍だった。
★ザマァは軽めです!
★後半にバトル描写が若干あります!
★他サイト様にも投稿しています!
『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』
ふわふわ
恋愛
了解です。
では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。
(本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です)
---
内容紹介
婚約破棄を告げられたとき、
ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。
それは政略結婚。
家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。
貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。
――だから、その後の人生は自由に生きることにした。
捨て猫を拾い、
行き倒れの孤児の少女を保護し、
「収容するだけではない」孤児院を作る。
教育を施し、働く力を与え、
やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。
しかしその制度は、
貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。
反発、批判、正論という名の圧力。
それでもノエリアは感情を振り回さず、
ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。
ざまぁは叫ばれない。
断罪も復讐もない。
あるのは、
「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、
彼女がいなくても回り続ける世界。
これは、
恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、
静かに国を変えていく物語。
---
併せておすすめタグ(参考)
婚約破棄
女主人公
貴族令嬢
孤児院
内政
知的ヒロイン
スローざまぁ
日常系
猫
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる