森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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131、森の王(3)

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『森の王』

 その名を聴いた時、妙にしっくりくるなとリルは思った。明確な答えをもらわなくとも、森に棲んでいれば自ずと理解できる。
 森の住人達は、皆大樹に敬意を払っている。
 例えば、彼らは無断で大樹に侵入することはない。内側から魔法使いがドアを開ける、あるいは魔法使いと同伴でなければ入室を許可されない。
 リルはスイウに居住を許可されているから自由に出入りできるが、それでも「ただいま」の挨拶がなければドアを開けてはもらえないし、機嫌を損ねると平気で追い出される。
 森の中心に在り、絶対の権力を持つもの。

 それが大樹、『森の王』だ。

 物静かで常に家に配慮していたスイウが、大樹に気に入られていたことは想像に難くない。リルに冷たい態度だったのも、世代交代を嫌っていたからなら納得だ。
 水の精霊であるクレーネは、樹木に恋をした。樹木だって、特定の誰かに特別な感情を抱いても不思議はない。それがここ、『碧謐の森』だ。

「ねえ、ルビータさん。前回大樹が魔法使いを閉じ込めた時、どうやって出したんですか?」

 駄々をこねても歴史は動いている。前回もなんだかの形で収束したのだろうと思い、リルは訊いてみたのだが。
 ルビータは困った風に首を竦めて、

「新旧の魔法使いが内側と外側から説得したの。何十日か掛かったわね」

「そんなに……」

「あと、あたしも協力しようと思って外側からちょっと樹皮を炙ったら、めっちゃ怒らせちゃった」

「……」

 もしかして、火気厳禁なのはこの人のせいなのではないか……。リルは内心冷や汗を垂らす。
 見上げる大樹の枝から、ハラハラと枯れ葉が舞う。瑞々しかった木は、今や倒れる寸前の老木のようだ。

「ヒメちゃん、スイウさんの様子はどうなの?」

「眠っておる。身の内に閉じ込めた禍物が発露しないよう戦っておるのじゃろう」

 禍物に乗っ取られかけたリルとノワゼアにはその状況が理解できた。
 ……これは考えたくもないことだが……。

「もし、このままスイウさんが死んじゃったら……大樹はどうなるの?」

「大惨事だよ」

 リルの恐ろしい問いにサラリと答えたのはレオンソードだ。

「魔法使いが死ねば、肉体は禍物に乗っ取られる。それに、現在魔法使いと寿命を共有している大樹も、内側から侵食されるだろうね。大樹は碧謐の森の始まりの一本。その根は森の隅々まで蔓延っている。ってことは……」

「森全体が禍物になっちゃうの!?」

 レオンソードの言葉を継いで、リルが悲鳴を上げる。
 五百年前の悲劇の比ではない。想像を絶する災禍が森とシルウァの街と……この世界を襲うのだ。

「どうしよう……」

 スイウが意識不明な以上、内側からの説得は望めない。王である大樹は、精霊家臣の声には耳を貸さない。
 ならば……。
 リルは冷たくなる指先を握り込み、意を固めた。

「私が大樹を説得する」

 そしてもはやドアの形が判らない木の幹に頬を当て、語りかけた。
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