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138、魔法使い茶寮(3)
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……ごくっと、息を呑んだスイウの喉が動いた。
彼は一瞬だけ強張らせた表情を、すぐに柔らかく崩した。
「それは無理だ。聖域との制約を違えることはできない」
「でも! 私、魔法のことまだ全然知らないし、スイウさんに教えてもらいたいことがたくさんあります。出ていかれたら困ります!」
追いすがるリルに、スイウは苦笑する。
「困らない程度の引き継ぎはする。それでも解らないことは、大樹や森の住人が教えてくれる。碧謐の魔法使いはそうやって森と共に成長するものだ。今はできないことも、君ならきっとできるようになる。私はそれを知っている」
「でも……っ」
リルはグラスを落とし、スイウのローブにしがみついた。
「私、スイウさんがいなくなるのは嫌です。このまま一生お別れするなんて、絶対嫌! 私が魔法使いを継いだ時点で、スイウさんは魔法使いを名乗れなくなるんですよね? じゃあ、碧謐の魔法使いは私一人です。引退したスイウさんが森に留まっても問題ないじゃないですか!」
無茶苦茶な論理に、スイウは呆れてしまう。
「そんな屁理屈が聖域に通用するわけが――」
「――いいわよ」
言いかけたスイウの言葉は、思っても見ない方向に引き取られた。
驚くリルとスイウが振り向いた先には、豊かな金髪を優美に揺らし、こちらに歩いてくる聖女ヒルデリカの姿があった。その背後には、全身甲冑のジェレマイヤーが控えている。
「ヒルデさん、どうしてここに?」
「新しい魔法使いの就任を祝いに来たの」
リルの問いに、ヒルデリカは当然とばかりにコロコロ笑う。
――楔が一本欠けただけで森に配下を差し向けた彼女が、魔法使いの代替わりという大イベントに気づかないはずがなかった。
ヒルデリカは意味深にリルとスイウを交互に見つめてから、断言した。
「わたくし聖女ヒルデリカは、八代目碧謐の森の魔法使いスイウが森に残ることを許可します。これは聖域の総意です」
「ちょーーーっ!?」
彼女の言葉に飛び上がったのはジェレマイヤーだ。
「ちょっと待ってください、聖女様! こんな勝手な真似をして、元老院がなんと言うか……!」
「あら、大昔のわたくしが決めたことを、今のわたくしが撤回することに何の文句が出るというの? 常識は時代によって変わるもの。いつまでも古い風習に囚われる必要はないわ」
砕けたことを謳う聖女は、すいっと目を細めて、
「それに、八代目は魔法使いとしての能力が尽きかけているから無害よ。追い出すより、無知な九代目の補佐役についてもらった方が森の安寧のためじゃない?」
「ヒルデさん……!」
随分とケチョンケチョンに貶されてはいるが、確実に助け舟を出してくれているので、リルはヒルデリカには感謝しかない。
「スイウさん」
援軍に背中を押され、リルはスイウに向き直った。
「お願いです、森に残ってください」
祈るように手を組んで訴えるリルに、スイウは小さく首を振った。
「……できない」
彼は一瞬だけ強張らせた表情を、すぐに柔らかく崩した。
「それは無理だ。聖域との制約を違えることはできない」
「でも! 私、魔法のことまだ全然知らないし、スイウさんに教えてもらいたいことがたくさんあります。出ていかれたら困ります!」
追いすがるリルに、スイウは苦笑する。
「困らない程度の引き継ぎはする。それでも解らないことは、大樹や森の住人が教えてくれる。碧謐の魔法使いはそうやって森と共に成長するものだ。今はできないことも、君ならきっとできるようになる。私はそれを知っている」
「でも……っ」
リルはグラスを落とし、スイウのローブにしがみついた。
「私、スイウさんがいなくなるのは嫌です。このまま一生お別れするなんて、絶対嫌! 私が魔法使いを継いだ時点で、スイウさんは魔法使いを名乗れなくなるんですよね? じゃあ、碧謐の魔法使いは私一人です。引退したスイウさんが森に留まっても問題ないじゃないですか!」
無茶苦茶な論理に、スイウは呆れてしまう。
「そんな屁理屈が聖域に通用するわけが――」
「――いいわよ」
言いかけたスイウの言葉は、思っても見ない方向に引き取られた。
驚くリルとスイウが振り向いた先には、豊かな金髪を優美に揺らし、こちらに歩いてくる聖女ヒルデリカの姿があった。その背後には、全身甲冑のジェレマイヤーが控えている。
「ヒルデさん、どうしてここに?」
「新しい魔法使いの就任を祝いに来たの」
リルの問いに、ヒルデリカは当然とばかりにコロコロ笑う。
――楔が一本欠けただけで森に配下を差し向けた彼女が、魔法使いの代替わりという大イベントに気づかないはずがなかった。
ヒルデリカは意味深にリルとスイウを交互に見つめてから、断言した。
「わたくし聖女ヒルデリカは、八代目碧謐の森の魔法使いスイウが森に残ることを許可します。これは聖域の総意です」
「ちょーーーっ!?」
彼女の言葉に飛び上がったのはジェレマイヤーだ。
「ちょっと待ってください、聖女様! こんな勝手な真似をして、元老院がなんと言うか……!」
「あら、大昔のわたくしが決めたことを、今のわたくしが撤回することに何の文句が出るというの? 常識は時代によって変わるもの。いつまでも古い風習に囚われる必要はないわ」
砕けたことを謳う聖女は、すいっと目を細めて、
「それに、八代目は魔法使いとしての能力が尽きかけているから無害よ。追い出すより、無知な九代目の補佐役についてもらった方が森の安寧のためじゃない?」
「ヒルデさん……!」
随分とケチョンケチョンに貶されてはいるが、確実に助け舟を出してくれているので、リルはヒルデリカには感謝しかない。
「スイウさん」
援軍に背中を押され、リルはスイウに向き直った。
「お願いです、森に残ってください」
祈るように手を組んで訴えるリルに、スイウは小さく首を振った。
「……できない」
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