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10、没落令嬢の素材集め(4)
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広葉樹の梢の間で、茨の藪が不自然に揺れている。
その揺れは右へ左へと徐々に大きくなっていき、ついには――
ゴシャアアァァ!!
――轟音を立てて跳ね上がった!
いや、違う。地面が隆起したので、茨が浮かんだように見えただけだ。
盛り上がった地面には、太く短い四肢があった。小高い丘のような背中にはびっしりと茨が密集している。丘の中央からニュルリと伸びた鎌首は……、
「か、亀⁉」
……のそれだった。
熊の五倍はあろうかという巨大な亀が主従の前に立ちはだかっている。
長く伸びた嘴に、尖った爪、甲羅に生えた茨。リュリディアは、それの正体を知っていた。
「茨陸亀だわ……!」
図鑑で観たことがある。ゾディアース大陸の南にしか生息しない原生の魔物。それがなぜ、東側に位置するピケスナ王国にいるのだ⁉
大木を踏み潰しのそのそと近づいてきた茨陸亀は呆然とする二人の前でブルリと体を震わせる。すると背中の棘が矢のように発射され、周囲に降り注いだ!
「リュリ様!」
コウは咄嗟にリュリディアに飛びつき、抱きしめたまま地面に転がる。彼らの頭上スレスレを、茨の棘が通り過ぎる。
間隙を縫って立ち上がると、コウは主を抱えて大木の後ろへ逃げ込んだ。
「リュリ様、コウの『制限解除』を」
間近で囁く彼の頬には血が滲んでいた。棘が掠ったのだろう。
「……いやよ」
リュリディアは首を振る。
「私はコウを使いたくない」
「意地を張っている場合ですか!」
頑なな主を従者が一喝する。
「あなたをお守りすることが、コウの使命。私に仕事をさせてください、リュリディア様」
琥珀色の真剣な瞳で迫られ、リュリディアは空色の瞳を揺らめかせ……、
「やっぱり、いやよ!」
木の影から飛び出した。
「リュ……」
「コウはそこにいなさい!」
命令して、茨陸亀へと駆けていく。
「風盾!」
口の中で唱えた呪文を解き放つ。
彼女は稀代と呼ばれる天才魔法使いだ。魔法学校の実習だって、年上の同級生に大差をつけてダントツ一位の成績だった。戦闘は専門外でも、魔導教本に書かれていた呪文は全部暗記している。
風の障壁が棘を弾き、リュリディアは無傷で亀の前まで突進する。
爬虫類の魔物は彼女を発見すると、一瞬竦めた首をありったけ伸ばして、その小さい体に喰らいついてきた!
茨陸亀は歯がない分、鋭い嘴と強力な顎を持っている。噛みつかれたら最後、骨ごと喰い千切られてしまうだろう。
リュリディアは迫りくる亀の頭を後ろに飛び退いて躱しながら、
「雷撃!」
黄色く濁った目に雷の呪文を叩きつけた。
ギュオオォォォン!
激痛に仰け反る茨陸亀に、魔法使いは勝機を逃さなかった。
「土錐!」
リュリディアの掲げた拳に呼応して、魔物の真下の地面が錐のように突き上がる。腹の甲羅を貫くほどの威力はなかったが、大地からのアッパーカットにバランスを崩した亀は後ろ足だけで立ち上がると……コテン! とひっくり返った。
短い足をジタバタさせ、裏返しの亀がもがく。
その様子に、リュリディアはほっと肩の力を抜いた。
「リュリ様!」
すぐ近くまで追ってきていたコウが手を伸ばしてくる。
「ほら、私一人で平気でしょ」
余裕のない表情の彼に、彼女は微笑みかける。
「さ、は――」
――やくこの場から離れましょう。という前に、リュリディアの体は吹っ飛んだ。
何が起こったのか解らない。
ただ……、驚愕に見開いたコウの目だけが、印象に残った。
その揺れは右へ左へと徐々に大きくなっていき、ついには――
ゴシャアアァァ!!
――轟音を立てて跳ね上がった!
いや、違う。地面が隆起したので、茨が浮かんだように見えただけだ。
盛り上がった地面には、太く短い四肢があった。小高い丘のような背中にはびっしりと茨が密集している。丘の中央からニュルリと伸びた鎌首は……、
「か、亀⁉」
……のそれだった。
熊の五倍はあろうかという巨大な亀が主従の前に立ちはだかっている。
長く伸びた嘴に、尖った爪、甲羅に生えた茨。リュリディアは、それの正体を知っていた。
「茨陸亀だわ……!」
図鑑で観たことがある。ゾディアース大陸の南にしか生息しない原生の魔物。それがなぜ、東側に位置するピケスナ王国にいるのだ⁉
大木を踏み潰しのそのそと近づいてきた茨陸亀は呆然とする二人の前でブルリと体を震わせる。すると背中の棘が矢のように発射され、周囲に降り注いだ!
「リュリ様!」
コウは咄嗟にリュリディアに飛びつき、抱きしめたまま地面に転がる。彼らの頭上スレスレを、茨の棘が通り過ぎる。
間隙を縫って立ち上がると、コウは主を抱えて大木の後ろへ逃げ込んだ。
「リュリ様、コウの『制限解除』を」
間近で囁く彼の頬には血が滲んでいた。棘が掠ったのだろう。
「……いやよ」
リュリディアは首を振る。
「私はコウを使いたくない」
「意地を張っている場合ですか!」
頑なな主を従者が一喝する。
「あなたをお守りすることが、コウの使命。私に仕事をさせてください、リュリディア様」
琥珀色の真剣な瞳で迫られ、リュリディアは空色の瞳を揺らめかせ……、
「やっぱり、いやよ!」
木の影から飛び出した。
「リュ……」
「コウはそこにいなさい!」
命令して、茨陸亀へと駆けていく。
「風盾!」
口の中で唱えた呪文を解き放つ。
彼女は稀代と呼ばれる天才魔法使いだ。魔法学校の実習だって、年上の同級生に大差をつけてダントツ一位の成績だった。戦闘は専門外でも、魔導教本に書かれていた呪文は全部暗記している。
風の障壁が棘を弾き、リュリディアは無傷で亀の前まで突進する。
爬虫類の魔物は彼女を発見すると、一瞬竦めた首をありったけ伸ばして、その小さい体に喰らいついてきた!
茨陸亀は歯がない分、鋭い嘴と強力な顎を持っている。噛みつかれたら最後、骨ごと喰い千切られてしまうだろう。
リュリディアは迫りくる亀の頭を後ろに飛び退いて躱しながら、
「雷撃!」
黄色く濁った目に雷の呪文を叩きつけた。
ギュオオォォォン!
激痛に仰け反る茨陸亀に、魔法使いは勝機を逃さなかった。
「土錐!」
リュリディアの掲げた拳に呼応して、魔物の真下の地面が錐のように突き上がる。腹の甲羅を貫くほどの威力はなかったが、大地からのアッパーカットにバランスを崩した亀は後ろ足だけで立ち上がると……コテン! とひっくり返った。
短い足をジタバタさせ、裏返しの亀がもがく。
その様子に、リュリディアはほっと肩の力を抜いた。
「リュリ様!」
すぐ近くまで追ってきていたコウが手を伸ばしてくる。
「ほら、私一人で平気でしょ」
余裕のない表情の彼に、彼女は微笑みかける。
「さ、は――」
――やくこの場から離れましょう。という前に、リュリディアの体は吹っ飛んだ。
何が起こったのか解らない。
ただ……、驚愕に見開いたコウの目だけが、印象に残った。
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