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第一章 一年生
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そんな王宮キッチンのクッキーや焼き菓子、パンやらで餌付けされ、日々振り回されながらも無事パーティの日を迎えた。これが終わればヤツも卒業。二年生になれば吾輩の雑用係生活も終わる。
次学年になったら、もう少し街の方へ遊びに行きたい。エヴァレインに振り回されて、吾輩、街グルメの方はまだ充分に堪能できていないのだ。
会場となっているアカデミーの大広間は人で溢れかえっていた。普段制服に身を包んでいる生徒達だが、今日だけは男も女も着飾り、いつもとは雰囲気が違う。
人数に制限はあるものの、それぞれ自分の家族や婚約者などを招待し、貴重な交流や出会いの場となっている。婚約者を見つけようと必死な、適齢期の女性やその保護者の血走った目は若干怖いが。
まぁ、吾輩に寄ってくる者などいないので、気にすることもない。
「……で、なぜ俺の隣にいるんです? エヴァ先輩は婚約者の方とご一緒じゃないんですか?」
会場内に不備がないかさりげなく確認していると、エヴァレインが吾輩の隣に来た。
「……私に婚約者はいないが? え? 君にも婚約者はいなかったよな?」
語尾が若干強いのはなぜだ? そんなに吾輩に先を越されるのが嫌なのだろうか?
「いや、俺は継ぐものもないし、しがない男爵家の次男なんで、期待されても困るというか。……まぁ、そもそもモテませんしね。でもエヴァ先輩は王族なので、幼い頃から婚約者の方がいらっしゃるのかと思っていました」
「ふむ。……君がモテないかどうかはさておき、誤解のないように言っておくぞ? 確かに立場上、婚約話はたくさん来るのだが、すべて断っている。私は政治関係なく、好きな者と結婚すると皆には伝えてある。……その……時にセラフィン……私は、どうだ? その……君の良い伴侶になれると思うのだが?」
「……いや、そーゆーの、いいんで」
こやつの冗談は意味がわからない。確かに貴様は美しい見た目はしているが、男相手に何をいっているんだ? それともこういう冗談が今の時代では流行っているのだろうか。
相手をするのも馬鹿馬鹿しくなって、食事を取りに行こうとその場を離れた。吾輩が離れればエヴァレインはあっという間に人々に囲まれる。令嬢も令息達も、なんなら大人達までエヴァレインと話したくてずっとチャンスを伺っていたのだ。さすがの吾輩もそのくらいの空気は読める。
エヴァレインは吾輩を責めるような目で見ているが、そんなことは吾輩の知ったことではない。一人の王族より、大勢の貴族の方が怖い。いつも吾輩を振り回している罰だ。わはは、せいぜい頑張るが良い。
皆が会話や交流に夢中になっている中、吾輩は一人食事を満喫した。800年の間に発展した料理の数々は素晴らしく、これだけで今の時代に生まれてよかったなと思う。そして腹が膨れれば、吾輩がここにいる理由もない。
パーティー会場を抜け、生徒会室に行く。寮に帰っても良かったのだが、さすがに生徒会雑用係が、途中帰宅もどうかと思ったのだ。生徒会室なら見つかっても言い訳ができる。
生徒会室へと続く廊下はしんとしていた。
大広間の方から聞こえる演奏や、皆の楽しそうな笑い声。自分の周りだけが静かで、ふと自分だけが切り離された空間にいるような気持ちになる。
前世の記憶と今生の記憶。
吾輩の前世の記憶は全てがあるわけではない。命に関わるような戦や、強く感傷が揺さぶられた時が殆どだった。大体がおぼろげな記憶。
だが、アカデミーへ来て、リディカントに似たエヴァレインという存在と出会って、吾輩は何か大事なことを忘れているような気がする。だがそれが何なのかわからない。
(そういえば、あの日もこんなパーティーの後だったな)
吾輩がパートナーを伴わなかったのには、婚約者がいないのもあるが、前世の記憶のせいもあった。
吾輩の死因は暗殺だ。
大王故にモテモテだった吾輩。吾輩と閨を共にする人物はリディカントが厳しくチェックし、警備をしていたのだが、その日に限ってイライラしていて魔が差したのだ。理由は覚えていないが、珍しくリディカントを怒鳴り、擦り寄ってきた女と一夜を共にした。相手がかつて吾輩が滅ぼした国の残党が送り込んできた刺客だとも知らずに。
だから今の時代のように命の危険がないのならば、他の令息達のように、もっと気軽に遊んでもよいのかな、と時々思う。だが今の吾輩には、相手に与えられるメリットが何もないのだ。貴族同士、メリットのない婚姻など許されないだろう。ましてや責任の取れぬ関係など持つべきではない。
前世は生きることも命懸け。なかなか波乱万丈だったからな。今生では、ゆっくり合う相手を見つければよい。焦る必要はないだろう。
そう考えさせられるのも、この時代が平和だからだ。問答無用に父親陛下によって戦争へ出兵されられ、敵からも身内からも命を狙われたかつてとは違う。信頼できる者などあいつしかいなかった。
そう思えば、昔に比べ何も持たない吾輩だが、心だけは穏やかだ。
もしかしたら、吾輩に前世の記憶などなかったらこのようなことは思わなかったかもしれない。
なぜ吾輩だけが前世の記憶を持つのだろう。持っていたところで、なんの役にもたたないのに。
次学年になったら、もう少し街の方へ遊びに行きたい。エヴァレインに振り回されて、吾輩、街グルメの方はまだ充分に堪能できていないのだ。
会場となっているアカデミーの大広間は人で溢れかえっていた。普段制服に身を包んでいる生徒達だが、今日だけは男も女も着飾り、いつもとは雰囲気が違う。
人数に制限はあるものの、それぞれ自分の家族や婚約者などを招待し、貴重な交流や出会いの場となっている。婚約者を見つけようと必死な、適齢期の女性やその保護者の血走った目は若干怖いが。
まぁ、吾輩に寄ってくる者などいないので、気にすることもない。
「……で、なぜ俺の隣にいるんです? エヴァ先輩は婚約者の方とご一緒じゃないんですか?」
会場内に不備がないかさりげなく確認していると、エヴァレインが吾輩の隣に来た。
「……私に婚約者はいないが? え? 君にも婚約者はいなかったよな?」
語尾が若干強いのはなぜだ? そんなに吾輩に先を越されるのが嫌なのだろうか?
「いや、俺は継ぐものもないし、しがない男爵家の次男なんで、期待されても困るというか。……まぁ、そもそもモテませんしね。でもエヴァ先輩は王族なので、幼い頃から婚約者の方がいらっしゃるのかと思っていました」
「ふむ。……君がモテないかどうかはさておき、誤解のないように言っておくぞ? 確かに立場上、婚約話はたくさん来るのだが、すべて断っている。私は政治関係なく、好きな者と結婚すると皆には伝えてある。……その……時にセラフィン……私は、どうだ? その……君の良い伴侶になれると思うのだが?」
「……いや、そーゆーの、いいんで」
こやつの冗談は意味がわからない。確かに貴様は美しい見た目はしているが、男相手に何をいっているんだ? それともこういう冗談が今の時代では流行っているのだろうか。
相手をするのも馬鹿馬鹿しくなって、食事を取りに行こうとその場を離れた。吾輩が離れればエヴァレインはあっという間に人々に囲まれる。令嬢も令息達も、なんなら大人達までエヴァレインと話したくてずっとチャンスを伺っていたのだ。さすがの吾輩もそのくらいの空気は読める。
エヴァレインは吾輩を責めるような目で見ているが、そんなことは吾輩の知ったことではない。一人の王族より、大勢の貴族の方が怖い。いつも吾輩を振り回している罰だ。わはは、せいぜい頑張るが良い。
皆が会話や交流に夢中になっている中、吾輩は一人食事を満喫した。800年の間に発展した料理の数々は素晴らしく、これだけで今の時代に生まれてよかったなと思う。そして腹が膨れれば、吾輩がここにいる理由もない。
パーティー会場を抜け、生徒会室に行く。寮に帰っても良かったのだが、さすがに生徒会雑用係が、途中帰宅もどうかと思ったのだ。生徒会室なら見つかっても言い訳ができる。
生徒会室へと続く廊下はしんとしていた。
大広間の方から聞こえる演奏や、皆の楽しそうな笑い声。自分の周りだけが静かで、ふと自分だけが切り離された空間にいるような気持ちになる。
前世の記憶と今生の記憶。
吾輩の前世の記憶は全てがあるわけではない。命に関わるような戦や、強く感傷が揺さぶられた時が殆どだった。大体がおぼろげな記憶。
だが、アカデミーへ来て、リディカントに似たエヴァレインという存在と出会って、吾輩は何か大事なことを忘れているような気がする。だがそれが何なのかわからない。
(そういえば、あの日もこんなパーティーの後だったな)
吾輩がパートナーを伴わなかったのには、婚約者がいないのもあるが、前世の記憶のせいもあった。
吾輩の死因は暗殺だ。
大王故にモテモテだった吾輩。吾輩と閨を共にする人物はリディカントが厳しくチェックし、警備をしていたのだが、その日に限ってイライラしていて魔が差したのだ。理由は覚えていないが、珍しくリディカントを怒鳴り、擦り寄ってきた女と一夜を共にした。相手がかつて吾輩が滅ぼした国の残党が送り込んできた刺客だとも知らずに。
だから今の時代のように命の危険がないのならば、他の令息達のように、もっと気軽に遊んでもよいのかな、と時々思う。だが今の吾輩には、相手に与えられるメリットが何もないのだ。貴族同士、メリットのない婚姻など許されないだろう。ましてや責任の取れぬ関係など持つべきではない。
前世は生きることも命懸け。なかなか波乱万丈だったからな。今生では、ゆっくり合う相手を見つければよい。焦る必要はないだろう。
そう考えさせられるのも、この時代が平和だからだ。問答無用に父親陛下によって戦争へ出兵されられ、敵からも身内からも命を狙われたかつてとは違う。信頼できる者などあいつしかいなかった。
そう思えば、昔に比べ何も持たない吾輩だが、心だけは穏やかだ。
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