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004. 竹槍でB29を撃ち落とすが如く

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「騎馬軍団に包囲されているミコたちを助けるにはどうすれば良いか」
 この議題を論じるのに集めた軍師のヤスベーと武器屋のトモナリ。この軍議の最中にも報告は入ってくる。
「また別の騎馬隊が商丘に迫っており、外側の水路を挟んで対峙中です」

 この報告を受けたヤスベーが口を開く。
「起死回生の一手ならあるが、悪手かもしれねぇ」
「ただ、そもそも歩兵で騎兵を倒す事自体が、竹槍でB29を撃ち落とすようなもんだからなぁ」

 ヤスベーに解説を求めると、
「敵はあくまで烏合の衆、徹底的統率に基づく槍兵なら、勝てない訳じゃあねぇ」
「統率とは、絶対に崩れない密集陣形、つまり隙のない槍衾やりぶすまだ」
 トモナリが尋ねる。
「必要な槍の本数は?」
 ヤスベーが1万本と即答し、続けて
「内訳は、長槍9000本と投げ槍1000本だ」
 掴み所がないので、トモナリがどういう作戦なのかを訊いた。
「事前に投げ槍攻撃で打撃を加え、突撃してきたら密集槍兵で水路を渡る騎兵を殲滅する」
 外側水路の幅は10m程度だが、周辺の泥沼地を含めると50m。
「密集槍兵が陣形を崩さない事が鍵だなぁ」
 こうして作戦は決した。

「明日の戦いに備えて、密集槍兵の陣形を訓練する!!!」
 ヤスベーの指導による徹底的訓練が行われる中、西平から密書が届いた。
「坑道の要塞化と、脱出路の確保を急いでる。脱出した後の避難の工面をお願いね」
 しかしどこから脱出するかが書かれていない。これには困った。

 更に困った事態が発生した。
「槍1万本、間に合わないかもしれない」
「材料も30%しかない、人手も全然足らない」
 仕方がないので市民総出で材料の確保と槍の製作に当たった。
 市民はトモナリを質問攻めにしながらも、
「木造家屋も槍に出来るかしら?」
「家1軒から100本の槍ができる」
「槍の先に付ける刃物は包丁で代用できるかしら?」
「三徳包丁でも牛刀でも何でも構わん」
 こうしてトモナリは夕方に槍1万本を納入し、何とか首都決戦に間に合った。

——翌日、商丘市西端。
 指揮官は私、副官がヤスベーで戦いが始まった。
「敵の唯一の弱点は結束力の無さ、我が軍は密集陣形によりこれを破る!!!」
 商丘市民からなる槍兵軍団は総勢6000。敵騎兵は数百。
「水路沿いに陣形構築開始っ!!!」
 数分のうちに500mに亘る槍兵の陣列が完成する。勿論、横からの攻撃にはとても弱い。
「投げ槍隊、投擲とうてき開始っ!!!」
 重装甲な騎兵にはあまり効果がなかったが、戦いの始まりを知らせるには十分であった。

「10歩前進」
 密集槍兵が一斉に動き始めると、騎兵らもそれに反応して突撃を始めた。
 敵騎兵は足場を取られて形勢不利となっていき、殲滅に成功した。

 殲滅した敵騎兵が残した馬や装備を接収し、降伏した敵からは装備などを奪って解放した。これはヤスベーの指示であった。
「敵はどうせリスポーンするのだから、復活しない資源である馬や装備品を奪った方が良い」
 獲得した馬は40頭足らずであったが、それよりも莫大な財宝が目を引いた。平均して1人当たり50万円相当の財宝を有していたらしく、総額は数億円相当のものとなった。
 これについてヤスベーは、なるべく全てを分け与えるようにと言い、それを聞いた私はこの財宝の全ては市民兵に分け与えた。

「騎兵を倒すとこんな臨時報酬があるのか」
 歓喜する民衆を前に、ヤスベーはこう言った。
「諸君らの密集陣形が崩れなかったから勝てたのであって、この財宝は平等に分配してある。連携を崩す者があれば、幾ら戦功を挙げようとも褒美はやらん」

 席を外したヤスベーがふと呟いた。
「これで伝われば良いが……取り敢えず次の戦いにはこれで良いだろう」

——更に翌日。
 ヤスベーを交えて2人で作戦会議を開く。
「西平を包囲する騎兵隊1000に勝つにはどうすれば良い?」
 こう訊いたのは良いが、結果はよろしくない。
「無理だ」
「ただ、追い払う事なら出来なくもない」

 そこでヤスベーには追い払うための奇策を考えてもらう事とした。
「西平の地形は谷になってるから、山から奇襲攻撃を仕掛ければ良い」
「敵の休息中に襲撃を仕掛ければ、敵も流石に驚くだろう」
 西平には行った事がなく、詳しい地形も分からないが、ヤスベーのお陰で地形も掴めてきた。

 西平は山岳地帯にある都市で、簡易的な山城として現在も籠城を続けているのだとか。
「南西から北東へと流れる川沿いの谷が唯一の平地だ。ここを占領すれば騎兵の出る幕はない」
 平地に30騎を配置する事について理由を尋ねた所、ヤスベーは断言した。
「1000騎に対して30騎とはいえ、騎兵がある事をアピールする良い材料になる」

「作戦は、騎兵隊を谷の下流域に置いた上で、谷の上流側、両側の山から総攻撃を仕掛ける」
「奇襲である事が前提なので、火矢を放ちつつ夜襲を決行する」
「兵数が多い事をアピールするため、2万人の勢力だと自称する事とする」

——深夜11時、敵陣。
「元から略奪するものが無さそうだよな」
「何故ここを包囲し続けるのか全く分からんよな」
「敵襲、敵襲っ!!!」

 山の両側、川の上流側の三方からの一斉攻撃が始まった。
 大火事の中で体制を立て直した一部の騎兵は山を駆け下りたが、下流の30騎の騎兵に降伏した。

「西平から報告です、ミコ様始め全員無事との事」
 あとは追い払うだけである。そんな中、ある知らせが入ってきた。
「敵の首領を捕らえたとの事です」

 面会すると返答し向かった先には、きらびやかな装飾に身を飾った男が縛られていた。
「次々と都市を襲い、西平を包囲していたのはお前だな?」
 そう訊くと、男は驚くべき事を口にした。
「そうだ、依頼を受けて襲撃した」
 一連の襲撃や略奪は依頼によるものらしい。
「『はじまりの町』から離反した諸勢力を叩き潰してくれと依頼があった」
「他の騎馬集団にも同じ依頼が来ている」
 誰からの依頼か、これを訊いたが、知らないものの名前だった。
「イルミだ」

 全く知らない名前を出されても、話が分からないので深掘りして訊いてみる。
「イルミとは誰?」
「人物ではない。秘密結社イルミナートの事だ」
「イルミナートは何故我々を狙う?」
「邪魔者だからだ。核心的な事は言えない」
「お前が率いた騎兵たちはそれを知ってるのか?」
「一切教えていない」
「連れ去った人々はどうなった?」
「『はじまりの町』で地下労働に従事している」

 こうした問答を続けていったが、イルミナートの目的を訊いた時の事。
「現実を含めた全世界の支配っ……」
 突然のプツッという音の後、男の体は白い灰になって消えた。通常のものとは違う、初めて見るデスポーンである。更に、一向にリスポーンして来ない。確かに近くの寝床にセーブ地点を設定させてあった筈なのに。
 後で確認した事だが、リスポーンどころか、アカウントすら削除されていたのであった。

「取り敢えず、男の装備品を分配する」
 騎兵隊長の装備品は非常に豪勢なもので、恐らく100万円は下らない品々が沢山存在した。そんな中で、少し目に入ったものがあった。
 黒いチョーカーである。どこか焦げ付いていて、不思議と『既に使われた』という印象を受ける。
 しかし今は謎の究明どころではない。ミコたちの救出が最優先である。

 西平は山の斜面に作られた都市であった。段々畑の中に製錬所や坑道への入口があるなど、中々珍しい風景であった。
 ミコたちは町を殆ど放棄して山頂に籠り、谷から登ってくる敵に小石や巨岩、熱湯などで抵抗し続けていたらしく、町は無傷のまま放置されている。
 放棄された町で待っていると、ミコたちが山から下りてきた。

「久しぶりね」
 西平が陥落しなくて本当に良かった。後で調べた話だと、襲撃や略奪に来た騎士たちは元々連れ去られた人々で、洗脳の末に捨て駒とされていたらしい。

 全員の救出が完了した所で、作戦は終了した。
 しかし商丘に帰るや否や、また事件が発生した。

「『はじまりの町』より、最後通牒が届いています」
「最後通牒は、商丘の自主破壊と全市民の『はじまりの町』への帰還が条件です」
 事実上の降伏要求でしかない最後通牒であるから、勿論拒否せざるを得ない。
 他にも、3日間だけ待ってやるといった内容のものが書いてあったが、恐らくその3日で体制を整えるのであろう。

「仕方ない、第一種戦闘配備だ!!!」
 こうして『はじまりの町』との総力戦が幕を開けようとしていた。
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