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006. 敵は評議会にあり!

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——西平峠・第一防衛線
「敵の破城槌はじょうつい隊が上がってきました」
「今だ、用意した岩を落とせ」
 山からわざわざ切り出した岩を縄で引き留めてあったものを落とし、破城槌隊は全滅した。
「敵方投石機隊、一斉射撃を開始した模様っ」
 破城槌隊への対応をしている中、斜面に投石機を配置する事に成功した敵軍は西平峠の第一防衛線を突破した。ヤスベーは重傷を負った所を発見され、捕虜となった。
 ミコはいち早く陥落に勘付き、第二防衛線の戦闘準備を整えた。
「西平橋に火を点けて!!!」
 橋は焼き払われ、敵軍の進軍は押し留められた。
「架橋部隊が来たら狙い撃ちするわよ」
 ミコがそう言う理由は、北岸に多くの兵を置いてきたために矢の本数が絶望的に足りない他、兵員も2割程度しか居ないからである。


——『はじまりの町』市街前。
「今より我々攻撃隊は、夜討ちを仕掛ける!!!」
「敵は評議会にありっ!!!」
 というのも、攻撃隊の人員には『和平交渉の護衛』としか言っておらず、情報漏洩を徹底的に防ぐ形で来ているのである。そのため少数精鋭部隊ではあるが、奇襲攻撃には十分だ。
「本会議場を制圧せよっ!!!」
 数人の警備員を倒した後、評議会を攻め落として議長を拘束した。
「降伏を要求する、さもなくば諸君らを捕虜として連行する」
「わ、わかった。話を聞こうじゃないか」
 首元に黒いチョーカーを着けた議長が交渉を提案した。

「我々はイルミの許で自由を与えられているに過ぎないんだ。その自由を破壊してどうするというんだ?」
「搾取されるための自由なんぞ、自由とは言わないっ!!!」
「イルミには勝てないんだ、我々にはこの箱庭世界で十分だろう?」
「お前には十分かもしれないが、私には不十分だ!!!」
 これを聞くと、議長はチョーカーを指差して言った。
「このチョーカーは、イルミナートへの反逆者を処罰する首輪だ。秘密結社に入った者は契約を結ぶ。契約により、秘密を漏らせば現実からも・・・・・処刑され……」
 その瞬間、議長の白灰化が始まり、あっという間に消え去った。振り返れば、捕虜となった議員たちも白灰化を起こしていた。

 我々以外には、誰もいなくなった。


——西平橋・第二防衛線。
 評議会陥落の報は未だ入らず。
「敵が伸ばしてきた丸太には油を塗って火矢を放ちなさい!!!」
 こうしたミコの指揮の許、防衛線は何とか維持されていた。しかし敵軍の猛攻は止まない。
「敵軍、峠を越えて鉄製仮橋を持ってきました!!!」
「ミコ様、敵は丸太を湿らせてきています!!!」
 川幅は30mほどあるが、橋を架けられては話にならない。
「総員、砦に撤退よ」
 こうして第二防衛線も陥落し、いよいよ最終防衛線へと戦場は移った。

「この砦が破られれば、我々の敗北よ」
 最初には8000人居た兵も、今では300人となっている。総勢4万ともされる敵軍には叶いそうにもない。
「降伏を勧告する」
 敵の降伏勧告に対し、ミコは逆に挑発に出た。
「貴様らごときに、私達は負けないわよ!!!」
 ミコは残っていた資材や木材などで木造人形を量産した。更にミコはそれを砦の周囲に括りつけさせ、広大な地下坑道に潜った。
 西平砦は抵抗なく陥落したが、敵軍は戸惑った。
「食糧が全くありません!!!」
「ここには2万人が籠城しているのではなかったのか!?」
「どこかに隠しているに違いない、探し出せ!!!」
 本当は8000人しか居なかった上に、残った食糧は全て坑道の中に持ち去ってしまったため、敵軍は大いに困窮した。
「食糧があるに違いない、探し出せっ!!!」
 退くに退けない敵司令官は、こう命じるしかなかったのである。


——『はじまりの町』・評議会跡。
「西平の敵軍が撤退するよう使者を飛ばさせたが、間に合うか……」
 私の呟きにサムが答える。
「勝った気分がしないとは、この事でござるな」
 今や『はじまりの町』は住人を失った都市と化した。敵を滅ぼしたという点では勝利だが、攻め込んできている敵の同盟国は未だ健在。
「……なあサム、ここを捨てても問題はないよな?」
「問題はないでござるが……?」
「ならば今からミコを助けに向かう、全軍出撃用意っ!!!」
「合点承知の助でござる!!!」
 急行軍で向かった先は西平峠。着いた頃には丁度夜。
「またしても夜襲じゃ、行くぞ皆の衆っ!!!」
 敵軍は仮橋の近くに陣を敷いている。そこを急襲した結果。
「敵襲、敵襲っ!!!」
 予期せぬ攻撃に混乱した敵軍は馬まで辿り着けずに倒され、橋から転げ落ちる者、坑道へと逃げ込む者が多く、指揮官を討ち取った事で敵陣は崩壊した。
「砦が既に陥落しているとは……」
 しかし敵に捕らえられていたヤスベーを救出した所、驚きの言葉を聞いた。
「ミコは今も坑道で徹底抗戦をしているよ……」
「最後までマサが助けに来ると信じてた大馬鹿者だと思ってたが……まさかミコが正しかっただなんてなぁ」
 急ぎ坑道の中に入り、敵を背後から次々と倒していく。しかし中々見つからない。
「ミコーっ、居たら返事してくれー!!!」
 何やら返事のような声が聞こえる方へ行ってみると、また敵兵が1人。
 敵兵を背後から一突きすると、その視線の先にはミコが居た。
「迎えに来るの、遅いわよっ!!!」
「そう怒るなって」
「ずっと迎えに来てくれると信じてたんだからっ」
「さっさとリスポーンすれば良かったのに」
「私がここでちょっとでも粘れば、マサの攻略の時間が稼げると思って……」
「そんな無理をすんなよ……」

 敵の同盟国として侵攻したスキート国の騎兵は敗走し、『はじまりの町』は滅び去った。
 こうして、『はじまりの町』との決戦は幕を閉じた。
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