メタバース世界が利権まみれなので、既得権益を打破します!

曽我雪政

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022. 一日の花を摘め

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——電子世界・天城市
 知らせが届いたのは、天城から出ていく直前であった。
「先ほどの眼帯男から受電、謎の衛星に関するデータです」
「謎の衛星?」
 ユミがそう訊き返すと、空中にデータが映し出される。衛星の形やビームについて、分析結果が出ている。
「これはまずいわね……」
 ユミがデータを読めるらしいが、私にはあまり分からない。
 ミコとユキノに訊いてみた所、ユキノは読めるらしい。
「天城よりも更に高い空を極軌道で飛行しているだなんて……」
 ユミがユキノに対抗策が無いかを訊いたところ、
黒騎士ブラックナイト衛星への対抗策、無い事もないけど、ヤスベーと地面・・が必要ね」

 久々に地上に帰ってきた我々は、ユミを連れて、ヤスベーの所に向かった。
「おかえりー」
 ヤスベーとウィステリアが迎えてくれる。
「至急だけど、君の知恵を借りたい」
 頭脳明晰なユキノがそう言うのは珍しい。ヤスベーも素早く状況を呑み込み、作戦会議が始まった。
「エネルギー源は恐らく太陽よね」
 ユミの発言にユキノが答える。
「太陽も1つだけど、主電源は核融合炉かもしれないわ」
「現実世界でも成功していない技術を?」
 ヤスベーの指摘に、ユキノが答える。
「相手は科学技術で常に最先端を行く秘密結社よ、既に成功している可能性があるわ」
「レーザー砲に対抗するためなら、こちらも高エネルギー砲しかないね」
 ヤスベーがこう言うのに対して、ユキノが補足する。
「高エネルギー砲を使うのは確定ね。実弾の弾幕で偽装もしたい所だわ」

 こんな調子で会議は進んでいった。
「ユキノ、作戦はまとまった?」
「殆どまとまったわ。地上に『天まで届く大砲台』を作るわよ」
 ユキノの作戦では、100m級の高エネルギー砲と、対宙砲を1000門用意するとの事。
「単位もスケールも分からない……」
 ミコが混乱していると、ユキノが補足する。
「ICBMを撃ちまくって誤魔化しつつ、某宇宙戦艦の艦首砲を撃つと思えば良いわよ」
「なるほど?」
 理解出来たような、出来なかったような。
 混乱しながらも、そのまま建設工事は進む。

「対衛星型破壊兵器・空銛くうせん、完成よっ」
 完成したのは、ゲーム内で数ヶ月が経った頃だった。
「こっちは対衛星小砲、弾幕型飽和かずうちゃ攻撃あたるを仕掛けるミサイル群ね」
 北極から南極への周回軌道は少しずつ動いており、真上を通るのは数日後だという。
 ゲーム内の数日は、現実世界では1時間ちょっとなのだが。

「間もなく黒騎士ブラックナイト衛星が直上を通過しますっ!!!」
 作戦本部には、いつの間にか宇宙センターのようなモニター群が完備されている。
「20、19……3、2、1、発射っ!!!」
 様々な防御機構に対抗するために多波長化された3本の虹色の筋が、空を切り裂いた。
「これが我々の三又銛トリシューラよ!!!」
 ユキノの急なテンションの変わりように驚いた私は、思わず訊き返した。
「トリシューラって何?」
 ユキノが早口になって説明する。
「闇を討つヒンドゥー教の善神シヴァの武器で、愛と行動と知恵を示す槍よ!!!」
「報告です、黒騎士ブラックナイト衛星の墜落開始を確認しました」
 これを聞いていた男が声を上げた。
「おぉっ、すげぇな地上の民は」
 誰かと思って見てみれば、例の眼帯男である。
「全てを失って地上にリスポーンしたんだが、地上も悪くないねぇ」
 ドラゴン狩りに勤しんでいた彼は、今はクジラ狩りをしているらしい。
「どうして巨体狩りばかりやるの?」
 訊いてみた所、眼帯男は意外な答えを返した。
「油は石鹸になるし、ヒゲは靴ベラになるし、余す所なく使えるんだよ」
 捨てる所なく全て使えるのが良いらしい。

「……これで、いよいよ予選突破ね」
 ミコの言葉はまさにその通りである。
 1つのメタ世界をやっと解放したのである。しかし、この世はオープンメタバース化されている。ここに繋がる全てのメタ世界で、従わない者を抹殺する行為が行われているのだ。
 最早、帰還不能点に来てしまった我々は、この全てを解放するしかない。
 言わば、県大会出場が決まったくらいの、スタートラインである。


——現実世界・ミコの家
「今日は私との『お砂糖デー』よね?」
 朝早くから雪乃がそう聞いてくる。寝床に突撃してくるのがミコと一緒だ。
「そうだね」
 私が答えると、雪乃がおねだりしてくる。
「ねぇ、ミコちゃんにはおはようのチューをしたよね……」
「まだ布団から出てないんですが……」
 厳密に言うと、布団どころか起き上がってすら居ない。
「それが良いのよ」
 せめて寝間着から着替えてから、そう言おうとしたら、雪乃も寝間着だった。
「『お砂糖デー』は日付が変わると始まるのよね?」
 何やらいきなり妙な事を……と思ったら、隣でこっそり寝ていたらしい。
「『1日の花を摘め』って言うじゃない?」
「何それ知らない」
「古代ローマの詩人ホラティウスの『今この時を楽しむべし』みたいな意味の句よ」
 有職故実に詳しい雪乃。
「どうして雪乃は古代ローマに詳しいの?」
「実はね、幼馴染ミコちゃんが中国好きで、それにつられたの」
 こんな感じでずっと寝床で話していても仕方がない。取り敢えず着替えと朝ごはんを済ませて、玄関に出た。
「今日は雨予報だから傘を持って行かなきゃね」
 雪乃は「持ってるから良いのよ」と言う。
「だって、相合傘したいじゃん?」
 珍しく今日は雨が降ってほしいな、と思いつつデートが始まった。
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