本を歩け!

悠行

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2章 本を出る

2章 本を出るー5

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 かなりの時間が経って、私と私の小説は別所さんから解放された。
「どうだった」
 先輩に聞かれて、私はなんとか「興味深くて楽しかったです。すごいですね、大学の文芸部って」と言った。先輩は心配した顔をしていたから、ばれていたのかもしれない。
 私は帰り、一人で帰った。帰りの道の道中で、涙が出て止まらなかった。道で泣いていたら変だと思って泣き止もうと思ってぬぐうのだけれど、悲しくて涙が止まらないのだ。
 家に帰ってからも泣きそうになった。しかしそんなことを家族には知られたくなかった。私は「暑くて夏バテした」といい、すぐに寝た。
 あの日のことを思い出して辛くなった。あの時の別所さんは怖かった。さっき会った時は思い出されなかったようだが、思い出したらどうしようかと思う。前に会った時より少しやつれているように見えた。渉さんと似ているが、なんだか老けて見えるのである。しかしまさかこの大学にいるとは思わなかった。
「渉さん、なんなんでしょうね」
 戸成さんがしばらくの沈黙を破って言った。部屋の中からは少し話し声が聞こえたが、良く聞こえない。
「さぁ、でも別所さんが話させてって言ったってことは、何か分かったんじゃない」
「でも知り合いではないようでしたよ」
「うーん、知り合いじゃないのに話するって変だよ。やっぱり知ってるんじゃない」
「嘘をついてるってことですか」
「いやそうは言わないけど」
 そう言ったところで後ろのドアが開こうとした。ドアの前でもたれかかって話していたので、慌ててどいた。別所さんが困ったように顔を覗かせた。
「話は終わりましたか」
「ああ、終わったというか、うーん」
 また別所さんは腕を組んで考えながら言った。
「ありえないことなんだけれど、彼の話を聞いていると、そう仮定せざるを得ないんだが、聞いてくれるかい」
「ありえないこと、ですか?」
「ああ、彼は、なんというか、俺の書いた小説の登場人物にそっくりなんだ」
 私と戸成さんは顔を見合わせた。その反応を見て、別所さんは頭がおかしいとでも思われていると思ったのか、「待ってくれ、いや本気なんだ、いや、俺も疑っているんだけど」と言った。
「渉っていうのは俺がこの前書いた小説の主人公の名前と同じなんだ。それで、俺の小説の内容はほとんど誰にも話していないのに、物語をすらすらと話すんだ」
「その小説はどこにあるんですか。読ませてもらえますか」
 私が聞くと、別所さんは厳しい目をした。そして
「それは出来ない」
 と小さな声で言う。
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