少年のいる火曜日

悠行

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少年のいる火曜日‐1

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 今日もいつも通り、従弟の比呂が来ている。
 比呂の母である叔母の涼子ちゃんは毎週火曜日にフラダンスの教室に通っていて、いつも火曜日の夕方になると比呂が預かられにやってくる。
 我が家は母子家庭なので母は夜遅くまで働いている。いつも比呂の面倒をみるのは私の役目だ。私の迷惑も考えて欲しいのに、涼子ちゃんはいつも晴れやかな笑顔で駅前の「渡部フラダンス教室」へと去って行ってしまう。
 母さんも母さんだ。私が結局見ると分かっていながら、どうして引き受けるのだろう。いや、分かっているから引き受けるのか。まぁ、迷惑と言いつつそんなに迷惑していないからいいのだが。
 比呂を見るといつもの通りレゴブロックでロボットっぽい何かを作っている。そのレゴの一部は元々私のものだった。小さい頃はレゴで家を作り、シルバニアのウサギとクマの赤ちゃんを住まわせたものだ。
 比呂は大人しいのでそんなに見ているのも苦ではない。大体見ていると言ってもリビングで遊ばせておいて、ただ横に居ればいいだけである。昨日録画したドラマを見ているだけと言ってもいい。
ふと比呂の顔を見ていて、いつもの通りお父さんと似ていないなぁと思う。絶対あんたパパと血つながってないよ。なんて言わない。いつかばらされるのだろう。涼子ちゃんはきっとげらげら笑いながら言うだろう。
 涼子ちゃんには困ったものだ。全く。
 ブブ・・・とバイブ音が鳴って、携帯がメールを受信した。音にびっくりして比呂が振り返る。
「メールだよ、メール」
いい加減、慣れなさい。比呂は安心してまたレゴに没頭し始める。
メールはハルからだった。「メアド変えました」あんた変えすぎだよ。私は適当に打って送信ボタンを押す。
「ねぇちぃちゃん」
「ん?」
 ドラマでは女優が花屋(イケメンが働いている)で花を選んでいる。
「のど乾いたー」
「何飲みたいの」
「ポカリ」
「そんなの無いよ」
「ええーなんで?うーんじゃあお茶飲む」
「はいはい」
 私は立ち上がってお茶を入れる。

 九時頃、涼子ちゃんが迎えに来た。私はいつも通り、居座られ酒を飲み始めなかなか帰らないことを危惧して玄関で追い返そうとする。
「いつもありがとうね」
 涼子ちゃんはそんな私の考えを見抜いているにも拘らず、切れ長のきれいな目でふんわりとほほ笑む。
 涼子ちゃんは美人だ。背の高い母さんと比べると低めの背で、ふんわりパーマをかけた髪に、サンゴ色のくちべに。かわいらしい外見で、八歳の息子がいると聞くと驚いてしまうし、まず普通に結婚しているということに驚きを覚える。それは私は涼子ちゃんの中身を知っているからなのだろうか?ふんわりなんて言葉とはほど遠い、武器を担いだ人だと言うこと。
「これ、ちぃちゃんが食べたがってたって、比呂が言ってたから」
 差し出されたのは今話題の菓子店のプリンだった。
「わ。ありがとう」
「玲子ねぇちゃんと一緒に食べてね」
「全部一人で食べるよ」
 そう言うと涼子ちゃんはうふふふと笑った。
「喜んでもらえたようで良かった」
「甘いものなら何でもうれしい」
「じゃぁスーパーの安物プリンでも良かったかしら?」
「いえいえそんなこと」
「玲子ねぇちゃんはいつ帰ってくるのかしら」
「さぁ・・今日は遅くなるって言ったから・・涼子ちゃんは帰らなくていいの」
「ちいちゃんはいつも私を追い返そうとするのね」
「母さんと涼子ちゃん、話が長くて酒に強いんだもん。私は明日学校があんだよ?」
 今まで何度もそういうことがあったのだ。しかも母さんはそう言う時、平気で会社を休む。意外にも勤勉に働いているので、有休があるのだとか言って。
「パパが単身赴任することになったのよ。」
「ええっ」
「それを言っておきたいの。今日はその送別会で遅くなるからって言ってたから遅くていいのよ。じゃあ、上がらせてもらうわね」
 そう言って勝手に上がって来てしまう。別にそれぐらい、私が伝えるし電話でも、と言うが一向に聞く耳を持たない。比呂は昔私がはまっていた戦隊モノの特撮のビデオに夢中になっていたのでまだ帰らなくていいと知って喜んでいるようだった。
 しばらくドラマの話やフラダンス教室の仲間の愚痴などを聞いて過ごしていたら、母さんが帰って来た。鍵を持っている癖に開けろとチャイムを押すので、私は毎日のことだが立ち上がらねばならない。
「ただいまぁ・・あら、涼子まだいるの?」
 玄関に置いてある靴を見て言う。
「うん、なんか小林さん、単身赴任になったって」
 私は比呂の父、かつ涼子ちゃんの夫の小林政史氏のことを、私は小林さんと呼んでいた。結婚するまで、そしてしてからも、しばらく涼子ちゃんは旦那さんのことを「小林くん」と呼んでおり、その名残で母さんやおばあちゃん、私も「小林さん」「小林くん」と呼ぶのだ。ちなみに、私が涼子ちゃんを涼子ちゃんと呼ぶのは叔母さんとか、さん付けとか、そういうのを涼子ちゃんが嫌がったからであり、また周りの母さんをはじめとする大人たちがそう呼んでいるのを真似したからである。
「へぇ、どこへ?」
「知らない」
 そう言いながらリビングへ。
「玲子ねぇちゃん、お帰りなさい」
 いつの間にか酒を飲み始めているではないか。
「あんたはまた、うちに入り浸って」
「あっ玲子ねぇちゃん、おかえりなさい!」
 比呂も母のことを玲子ねぇちゃんと呼ぶ。
「ただいま、比呂ちゃん」
 案の定、着替え終わった母さんは涼子ちゃんと飲み始めた。
 母さんはいつも私にしているのと同じように、会社の人の愚痴を語った。涼子ちゃんはフラダンス教室にいる奥様方の会話が信じられないと言う。涼子ちゃんも昼間は働いているので、関心を持ったりすることがぜんぜんちがうというのだ。レベルが低いとまで言った。 
 明日も水曜で二人とも仕事なんだから、といったにもかかわらず二人はかなり遅くまで盛り上がってしまった。比呂はすでにタオルケットをかぶって寝息をたてている。
 気づいたら私もうとうとしていた。そしてうとうとしていると思ったら、次は床に寝ころび,、毛布を体に巻いて寝入っていた自分に気づいた。体が痛い。
 時計を見るとそんなに時間は経っていなかった。明日も学校があるし、と起き上がろうとする。母さんたちはどうしたのだろう、そう思ったら、まだ二人がしゃべっている声が聞こえた。ぼんやりした頭がはっきりしてくる。明日の授業の時間割を思い出し、宿題のやり残しはないか、など頭が勝手に確認を始めたりする。
「あんた、本当に懲りないわねぇ」
 母さんの声である。寝ているふりをし続けた。
「いいじゃないの。別に、誰にも迷惑はかけてないわよ」
「小林くんがかわいそうでしょう」
「小林のことも好きよ」
 涼子ちゃんが言うと、母はふっと笑った。
「変わらないわねぇ。中学の時、他校の男子三人にさんざんおごってもらって、その気にさせて、最後だってみんな好きなんだもの、選べないわ、だからお友達だと思ってた、とかいったのよね」
「だってそう思ってたのよ」
 涼子ちゃんは美少女だった。母もまぁまぁだけど、その妹の涼子ちゃんは、同じ親からの遺伝子が奇跡的なバランスで統合し、超がつくほどの美少女だったという。特に、中高は天使のようだったと言い、街を歩けば声をかけられ、ファッション雑誌のモデルもちょっとやったという。しかし当の本人は純粋で、少女漫画のような恋に憧れ、男子の好意には鈍感だった。そのせいでたくさんの人の涼子ちゃんへの恋は成就せず終わった。しかも、その事実を涼子ちゃんは大学卒業後に行った同窓会で言われるまで気づかなかったという(まぁ、本人談などで怪しい部分はある話だが)。ちなみに、中高を過ぎても美しさは健在、ミスコンで優勝するなどした(これは写真も見せてもらったので確実な話だ)ので、涼子ちゃんはその流れでアナウンサーになろうとしていた時期がある。しかし、親に反対され普通の会社で働いている。
「あんたはいまでもそんなこと言って。だから女友達がいないのよ」
「いるわよ」
「何人よ、言ってみなさいよ」
「十人はいるわよ」
「少ないわね。そこら中で敵を作るからいけないのよ」
「勝手に敵が増えるのよ」
 今では涼子ちゃんは立派な「こわいおんな」である。と、私は思う。頭がいいのだ。事実、彼女はどんどん出世している(念のため言っておくが枕営業ではない)。私はまだ比呂がいなかった遠い昔、涼子ちゃんと一緒にいつも買いに行っていたパン屋に行き、パン屋のお兄さんが恋に落ちて言った瞬間を見たことがある。私が彼女の姪っ子だと分かった途端、サービスが買った量よりも多くなった。
「それで、次に好きになったっていうのは誰なの」
 母さんの声が響く。どきりとする。次に、好きになった人。
「ええ、まぁ、自分でも驚いたんだけど」
 涼子ちゃんの声が小さくなる。恥ずかしがっているのだろうか?あんなに強い人が。恥ずかしがっているというなら、その顔が見てみたい、という好奇心に駆られる。
「早く言いなさいよ」
「・・・フラダンス教室の先生よ」
 ふぅ、と息を吐く音が聞こえた。
「あんたはもう、なんでそんなこと私に言うのよ」
「だって、おねぇちゃんなら、許してくれるでしょう?それに、恋は秘めても楽しいけど、誰かに言うとまた楽しいのよ」
「あんたは秘めないでしょう」
 秘めないのか、そうなのか。
「ええ、ねぇちゃんとおなじよ」
 ねぇちゃんと、おなじよ。その言葉が頭に響く。
「でも、まだ何もないんでしょう」
「そうね」
「また気が変わるんじゃないの?」
「そうかもしれないわ」
 涼子ちゃんはくすくす笑った。そのあと、二人は景気とか仕事の調子の話を少しして、私たちを起こしにかかった。私はとても自然に起きた。それぐらい簡単なことだ。なんてったって私は、演劇部の部長なのだ、と心の中でつぶやく。
「じゃぁね、ちぃちゃん、明日の授業、ちゃんと出ることよ。私はサボってばかりいたけど。」
 そう言って手をつなぎ、「じゃぁ、また来週」と言って帰って行った。比呂は目をこすっている。かわいそうに。


 私が生まれたのは、母さんが二十六のときだった。母さんはその時も働いていたが、産休を取った。その期間はとても幸せだったわよ、と今でもたまにいうことがある。夜中に鳴き声で起こされるのは辛かったけど、と付け足されるが。
 父さんは当時結婚していた福本さんである、ということになっているが、それは嘘っぱちである。正確には、その福本さんの当時の部下であった山本氏であろう。
 母は恋多き人であった、ということであるが、実際のところ私はその現場を見たことはないし、例えば母が幼い私に相手に会わせたとか、相手について話したとかいうこともない。
 福本さんとは離婚した。このような書き方をすると私がとても冷淡な娘のように思われるかもしれないが、会ったことが無いし彼については写真と名前しか知らないという状態なので仕方がない。
 何故だか分からないが、私はそれを聞くことがタブーだと思っていた。昔から、極力触れないようにしようとしていた。
 でも、一度だけ、聞いてしまったことがある。いや、他にもあったかもしれないが、覚えていない。
 小学五年生の頃だった。私は学校帰りだったか、ランドセルを抱えて母の運転する車に乗っていた。その頃は、いや今もかもしれないが、私はかあさんに何でも話す子供だった。その時、クラスメイトの恋愛について話していた。
「うん、木山さんは松永君のことが好きなんだって、みんなが噂してる」
「へぇそうなの」
「木山さん、女子なのに毎日男子と帰るの」
「男好きなの?」
 私は木山さんと仲が良かったので、何となくかばう。
「そうじゃなくて、木山さんはかわいいから、モテるのね、それで怖い女の子たちが木山さんを嫌ってて、一緒に帰るのが男子ばっかりになるの」
「木山さんはいい子なの?」
「うん。仲いい」
「じゃぁなんでちぃは一緒に帰らないの」
 そういわれると説明に困る。私も嫌っているとか、怖い女の子に目をつけられると怖いとか、そういうのではないのだ。でも、一緒には帰らない。一緒に帰るのは美奈子ちゃんだった。
「なんていうか、一緒に帰る仲ではないんだ」
「ああ、そういうの、あるわね」
 私は母さんが分かってくれたのだと思い、うれしかった。そして、うっかり言ってしまった。
「でも、木山さんは背が高くて目が大きくてうらやましい。母さんは背が高いのに、父さんからの遺伝かな」
 すこしの沈黙が流れた。私は言った瞬間に、これはやっちまった、と思った。何も声が出なかった。
 しかし、母はあっさりと言った。
「そうねえ、順は背が低いものねぇ、でもこれから伸びるかもしれない」
「そうだね」
 順、と言うのは恐らく父の名前だろうか。
「だから好き嫌いしてちゃダメなのよ、あと牛乳よ、牛乳」
 私は牛乳が好きではなかった。一年生や二年生の時はいつも残して先生に怒られた。冷たい牛乳はおいしいものではなかった。
「ええーやだよ、まずいもん」
 その時うっすらと、福本さんは下の名前、昭正だったような、と思ったのだ。そのあと家で写真を見ていて知ったのだが、順というのはお花見で福本さんの隣で笑っている山本氏の下の名前なのであった。
 このように母はぼんやりとしながらはっきりと私の出生について伝えたのである。
 どのような経緯で母が福本氏と結婚し山本氏との子を身ごもったかはわからないが、あまり衝撃ではなかった。もしも私が母さんの子ではないと言われたら怒り狂ったり泣いたりぐらいするかもしれないが、もともと父さんとされている人とも会ったことはない。どうでもいいし、小学五年生の私に貞操観念やらなんやら考える脳はなかった。
 今から考えると、それで私は父さんと会うようなイベントがないのである。クラスメイトの岡田さんは月に一回父に会いに行く日があると言っていた。私は福本さんと血のつながりがないから、相手にされていないのである。戸籍上とか法律上は知らないが。
 その当時私はセックスについて知らなかった。いや、保健の授業で習ってはいたがそんなもんでわかるわけがない。存在とうっすらとした方法をなんとなく知っていただけだし、小学生はそんなこと知らなくていいと私は今思っている。
 だから私が思ったのは母さんがこの人とセックスしたんだ、ではなく本当はこっちの人が好きだったんだな、ということであった。好き同志は子供が生まれるというのが子供の世界の常識である。
 そのあと、ぼんやりと山本氏はどこでどうしているのだろうと思った。私の父が福本氏(戸籍上)であることを知っているのは祖母から聞いたためであった。そして、その人は建築士であると聞いていた。その部下なら、山本氏も建築士なのであろうか。
 母が恋多き女だということを知ったのは涼子ちゃんのせいである。小さいころから涼子ちゃんは内に遊びに来ていたし、よく遊びにもいっしょに行った。三人でディズニーランドにもよくいった。
 そして涼子ちゃんは私と付き合っている人を良く引き合わせた。
「この子がちぃちゃん、いつも話しているわたしの姪っ子。かわいいでしょ」
「本当だ、涼子によく似ているなあ」
「ちぃちゃんのことってなに、なんてはなしてるの」
「涼子はいつも、ちぃちゃんがかわいいって話をしているんだよ」
 いつも涼子ちゃんと付き合っている人は悪い人ではなさそうに見えた。なんだかよくわからないが涼子ちゃんは私にランドセルとか手提げかばんとかを買ってくれた。その時は母さんはいなくて、涼子ちゃんがうちにやってきて、私を連れ出す。そのあと駅とかに行くと恋人が待っているのである。
「今日はちぃちゃんの小学校入学が近いということで、ランドセルを買いに行きます」
「えっ、ほんと!?」
「そうよ、私、姪っ子にランドセルを買うのが夢だったのよ」
 そのほかにも涼子ちゃんのこぶつきデートは何回かあったのだが、恋人は嫌がった様子を見せなかった。どの人も。
 そんな謎のデートの時に、私がいるのにもかかわらず涼子ちゃんは母の恋人事情について恋人に話すのである。恋人は少し私を気にしたそぶりを見せるが、どうやら分かっていないのだということを察すると普通に聞くようになる。実際長い間私は何の話かよくわからなかったが、だんだん何の話か分かるようになり、3年生くらいになると分からないふりをして聞いていたのであった。
「おねえちゃんはまだ上司と付き合ってるんだけど、どうなるのかしら」
「おねえちゃんは上司と別れたはいいんだけど、次は高校の同級生だかと付き合い始めたわ」
「いまはなんか取引先と付き合ってるのよ」
 さすがにそのデートは涼子ちゃんが小林さんと結婚してからはなくなった。それにしても、小林さんは母のことをどう思っているのだろう。そして、そんな姉を持つ涼子ちゃんのことはどう思っているのか。
 涼子ちゃんは私をつれてデートに行ったわけだけど、実のところ私はそのたびに同じ人であるということはなくて、同じ期間に三人ぐらいと会ったりした。つまり涼子ちゃんは三股ぐらい平気でかけていたのであった。
 だから、しばらく人は同時に何人もと付き合ったり結婚したりできるのだと思っていた。ものすごく危ない勘違いである。口に出さなくてよかった。
 しかしなんとなく他の人の話はしてはいけないと思ったので、私から三股をばらされることはなく、涼子ちゃんの悪事がばれることはなかった。子供で阿呆だったし何を考えていたかは覚えていないのだけど、なんとなく口に出しちゃいけないんだろうなとは思った。出したくてむずむずしていたことも憶えているが、多分言っても子供の言うことだとスルーされただろう。
 小林さんとも謎のデートには行った。三回ぐらいだったかなと思う。マフラーとコートを買った冬の回が最後で、そのあとの春涼子ちゃんは結婚して比呂が生まれた。
 最後の冬の回の時、寒いと私が言ったので、小林さんは私と涼子ちゃんを広場に残して、近くの自販機にココアを買いに行った。その隙に涼子ちゃんは私に聞いた。
「小林君のこと、どう思う」
「どうって・・・やさしい人だと思うけど」
「実はね、これ、誰にも秘密よ、ちいちゃんだけに言うんだから」
「えっ、なに?」
「わたし、小林くんにプロポーズされたのよ」
「プロポーズって・・結婚しようって言われたの?」
 私はとても驚いた。そんなことを言われたのも初めてだった。
「そうよ。この前ちいちゃん抜きでデートに行ったんだけど、その時に」
 私はおそらくクリスマスだろうかと思った。クリスマスはイブと当日があるからよいなと思った。
「いいとおもう。小林さん、かっこいいし、やさしいもの」
「え、小林君、かっこいいの?じゃあこの前の松田君は?」
「ふつう」
「熊井君は?」
「あんまり好きじゃない」
 涼子ちゃんはちょっと面白くなってきたようで、そのあと何人か名前を出してきたのを覚えている。
「かっこいい」「ふつう」「覚えてない」
 私にも好みの顔というのがあったのだが、そんなことを私が考えているのが意外だったようで、覚えていない人ばかりになるまで涼子ちゃんはやっていた。
「ふーん、そっかー。ちいちゃんからみると小林君はかっこいいのかぁ」
 はっきりそういわれると私は恥ずかしかったので、
「べ、別に好きとかじゃないよ。でも、好みの顔ってあるでしょ」
 と私はしどろもどろに弁解した。
「うーん、じゃあオッケーしようかなー」
 しばらくすると小林さんはココアを抱えて戻ってきた。ココアは甘くてあったかくておいしかった。飲みながらちらりと涼子ちゃんの方を見たが、先ほどの会話などはなかったかのように、
「あったかーい。ありがと!」
 などと言っているのだった。だから私は冗談だったのかなと思ったのだが、本当に結婚してしまったというわけだ。
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