一室の記録及び手記

國光 安刻

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  不愉快。実に不愉快である。
黎明期の朝、投函される新聞の音、都会の喧騒。
そして東京。
それら全てが私にとって不愉快なのである。
 しかしながら、一つだけ愉快な日課があるのだ。
それはニュースなるものである。
退廃的で荒唐無稽な「めでぃあ」が発信する大して役に立たない情報だ。

私は上体を起こしノロノロとした動作でりもこんを拾い上げ、電源を付け、薄汚れた布団に胡座をかきながら紫煙を天井へ踊らせる。

「次のニュースです。昨近問題として挙げられている…」

 それを石膏板が黄ばみ、天井は不安定な様子で付いたライトと、畳が寝癖の様に跳ねている。
私の様に老けた部屋で俯瞰している。

 情報が錯綜する。
私には関係ない事、全くもって滑稽である。
 然し乍ら布団から出れない有り様であって、とやかく言う権利は無いのは重々承知している。
  権利?権利とは、なんとあるか?誰かから保証される物であるか?ならば権利などというものは畳に伏すノミと同等であろうか。

等と考えていたら遮られた。
 ピンポンとチャイムが鳴ったのである。
大家であろう。気付けばもう4ヶ月も家賃を払っていないのだ。

「硲さん、おはようございます。今日も寒いですね。所で~」 

  息を潜め先程までの思考の残り香がある布団にくるまった。
五月蝿いハエである。安らかな思考を妨げられるのは実に不愉快である。
私は無視を決め込む事にした。
これもまた権利であろう。

幾分か小言が聞こえたがコン、コン、コン、と暫くすると階段を降りる音が聞こえた。ボロアパートは階段を利用するだけで音が響くのだ。
 prrrrr…次はなんであるか、電話か。
表示された名は課長であった。
これも無視し、尚且つ電源を切る事にしよう。
社会に準ずる事は罪なのである。

さて、これで私を邪魔するものは居なくなった。
何をしようか。
脳みそを掻き分け思考に耽るか、駅前にでも行って馬鹿な政治家に対して啓蒙するか。
はたまた私のお陰で死んだ旧友にでも逢いに行くか。
否、生憎そんな時間は持ち合わせていないのだ。
私にはやるべき事柄がある。
早速私はー……
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