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入学してから早一カ月
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入学から早くも一カ月が過ぎた。私たちの学院生活は、思った以上に順調だ。
ボンドンやドナが授業についていけるか心配していたが、それは全くの杞憂だった。特にドナの医術の腕前は、先生も驚くほど高かった。元々魔力も多く度胸もある彼女だが、一番すごいのは、身体の弱っている箇所を的確に見つけることができる、その勘の良さだろう。リオが「野生の勘だ」と言っていたように、まさに天性のものだと思う。医術に関しては、私とドナは既に一年生ではトップの成績なので、半年後には二年生のクラスへ進級できるだろう。
ボンドンについても、領主補助の授業は彼に向いているようだった。ボンドンは元々細かいところに気が付く性格だし、何より努力家だ。リオのためになることなら、何が何でもやり遂げるだろうと確信している。
私たちが経営する店も、立地を考えれば驚くほど順調だ。私たちの家は魔道具とピッピの結界で可能な限りの防犯対策を施してあるため、バンス、エリィ、ベータは安心して店舗で働いてくれている。
授業が終わり、私たちはいつものように店舗へ向かった。店に足を踏み入れると、いつもの光景が広がっていた。
「ジル、そろそろ店員を数名雇ってもらえないか?宣伝もしてないのに客が日増しに増えて大変だぜ。今日なんて、釣りを間違えて多く渡しちまったよ」
バンスの切羽詰まった声に、ジルが冷静に返す。
「そうか、間違えた分は給料から引いておくから安心しろ」
「いやいや、間違えそうになっただけだよ!引くなよ、絶対引くなよ!」
バンスとジルのいつもの楽しそうな会話が、店内に響き渡る。
「でもジル様、やはり人は必要ですよ。お客様をお待たせしてしまっては、評判が落ちてしまいます」
エリィが口を挟むと、彼女の言葉には妙な説得力があった。
「長期休暇や魔獣討伐の合宿もあるからな。やはり各店舗で最低一人は雇う必要があるだろう」マッドが冷静に状況を分析する。
「うん、僕もそう思うよ。早速探してみるよ」リオもマッドの意見に賛成したようだ。
ジルとドナのお店は、冒険者ギルドに依頼して、採集や狩りがある程度できる人物を二名、店番ができる人を一名、合計三名ほど雇うと言っている。ジル曰く、それでも採算は十分に取れるらしい。
「キャロル様、屋台のお婆さんのお孫さんはどうですか?」
ドナが突然、私にそう尋ねてきた。
「串カツのお婆さんのこと?」
「はい、そうです。もうすぐ十五歳になるから仕事を探しているけど、なかなか見つからないって心配していましたよね。確か料理が得意って言ってましたよ」
「ええ、そんな話はしていたけど、この店が就職先というのは、ちょっと申し訳ないわ」
私が躊躇すると、ドナは勢いよく言った。
「そんなことないですよ!仮にもキャロル様のお店ですよ、絶対に喜びますよ!」
「そうかしら?では、仕事が見つかるまででも、お願いしてみる?」
「はい!私が今から行って話してきます!」
ドナはそう言って、私を置き去りにして走り去ってしまった。そんなに急がなくてもいいのに……。
マッドは、普段からよく店に顔を出す十七歳くらいの青年に、今度来た時に働けないか聞いてみると言っていた。リオとマリアは、教会の孤児院を巣立つ子供たちに声をかけてみるようだ。レティとボンドンのお店は、しっかりと店番ができる真面目な人物を探すとレティが言っていた。
まあ、どうなるかは分からないけれど、私は長期休暇や合宿の際は店を閉めてもいいかなと思っているので、さほど焦ってはいない。おそらくマッドたちも同じ考えだろう。
三日後、私は改めて「やっぱりドナはすごい」と思った。店には私たちと同じくらいの歳の子が三人も来ていたのだ。一人は串カツのお婆さんのお孫さんで、十四歳の料理が大好きな女の子。もう一人はそのお孫さんの近所に住む親友らしく、同じく十四歳の薬草に詳しい女の子。最後の一人は、その薬草に詳しい女の子のお兄さんで、十六歳の帳簿付けが得意な若者だ。なんでも、これまで働いていたお店の店主が急に店を畳んでしまい、働き口を探していたそうだ。
きちんとした働き先が見つかるまではここで働いてもらうことに決まった。そして、マッドの店の帳簿付けも、彼にお願いすることになった。
マッドが言っていた、よく店に現れる青年も働くことが決まり、最近はマッドがつきっきりで修理を教えている。彼は近いうちに修理スキルが現れると、マッドが言っていた。
マッドの仮説では、スキルは貴族ばかりに多く現れるものではなく、平民でもきっかけがあれば現れるのではないか、とのことだった。つまり、貴族は幼い頃から剣術や習い事をすることでスキルが身につきやすいが、平民にはそんな余裕がないからスキルが現れにくいのではないかというのだ。平民でも、興味があったり、楽しくてのめり込んだりするとスキルが現れる、と私たちの陶芸を見て思ったらしい。
結局、六店舗とも何名か雇ったため、従業員の休憩所を空いている土地に建てようかという話が出た。すると、みんなが「それなら住み込める家がいい」と言うので、マッドが「四階建ての家づくりに挑戦する!」と言い出した。マッド、ジル、バンスはまた忙しくなりそうだ。
バンスは何だかんだ言っても、マッドやジルの手伝いは当たり前のようにこなしてくれるので、とても助かっている。マッドはバンスにはまだ言っていないが、集合住宅建築というスキルが既にバンスに表示されているらしい。だから、バンスに全てを任せても問題ないだろうと笑っていた。
あと二カ月もすれば長期休暇になる。私、マッド、リオ、マリアはブレイブス港街で一カ月ほど過ごし、残りの期間はマッドとリオが領主の仕事を覚えるためにそれぞれの領地で過ごすことになるだろう。私はお母様やマリアと、教会や婦人会に積極的に参加するつもりだ。
新たな生活が始まり、仲間たちとの絆も深まっていく。
それぞれの場所で、新しい挑戦が私たちを待っている。
ボンドンやドナが授業についていけるか心配していたが、それは全くの杞憂だった。特にドナの医術の腕前は、先生も驚くほど高かった。元々魔力も多く度胸もある彼女だが、一番すごいのは、身体の弱っている箇所を的確に見つけることができる、その勘の良さだろう。リオが「野生の勘だ」と言っていたように、まさに天性のものだと思う。医術に関しては、私とドナは既に一年生ではトップの成績なので、半年後には二年生のクラスへ進級できるだろう。
ボンドンについても、領主補助の授業は彼に向いているようだった。ボンドンは元々細かいところに気が付く性格だし、何より努力家だ。リオのためになることなら、何が何でもやり遂げるだろうと確信している。
私たちが経営する店も、立地を考えれば驚くほど順調だ。私たちの家は魔道具とピッピの結界で可能な限りの防犯対策を施してあるため、バンス、エリィ、ベータは安心して店舗で働いてくれている。
授業が終わり、私たちはいつものように店舗へ向かった。店に足を踏み入れると、いつもの光景が広がっていた。
「ジル、そろそろ店員を数名雇ってもらえないか?宣伝もしてないのに客が日増しに増えて大変だぜ。今日なんて、釣りを間違えて多く渡しちまったよ」
バンスの切羽詰まった声に、ジルが冷静に返す。
「そうか、間違えた分は給料から引いておくから安心しろ」
「いやいや、間違えそうになっただけだよ!引くなよ、絶対引くなよ!」
バンスとジルのいつもの楽しそうな会話が、店内に響き渡る。
「でもジル様、やはり人は必要ですよ。お客様をお待たせしてしまっては、評判が落ちてしまいます」
エリィが口を挟むと、彼女の言葉には妙な説得力があった。
「長期休暇や魔獣討伐の合宿もあるからな。やはり各店舗で最低一人は雇う必要があるだろう」マッドが冷静に状況を分析する。
「うん、僕もそう思うよ。早速探してみるよ」リオもマッドの意見に賛成したようだ。
ジルとドナのお店は、冒険者ギルドに依頼して、採集や狩りがある程度できる人物を二名、店番ができる人を一名、合計三名ほど雇うと言っている。ジル曰く、それでも採算は十分に取れるらしい。
「キャロル様、屋台のお婆さんのお孫さんはどうですか?」
ドナが突然、私にそう尋ねてきた。
「串カツのお婆さんのこと?」
「はい、そうです。もうすぐ十五歳になるから仕事を探しているけど、なかなか見つからないって心配していましたよね。確か料理が得意って言ってましたよ」
「ええ、そんな話はしていたけど、この店が就職先というのは、ちょっと申し訳ないわ」
私が躊躇すると、ドナは勢いよく言った。
「そんなことないですよ!仮にもキャロル様のお店ですよ、絶対に喜びますよ!」
「そうかしら?では、仕事が見つかるまででも、お願いしてみる?」
「はい!私が今から行って話してきます!」
ドナはそう言って、私を置き去りにして走り去ってしまった。そんなに急がなくてもいいのに……。
マッドは、普段からよく店に顔を出す十七歳くらいの青年に、今度来た時に働けないか聞いてみると言っていた。リオとマリアは、教会の孤児院を巣立つ子供たちに声をかけてみるようだ。レティとボンドンのお店は、しっかりと店番ができる真面目な人物を探すとレティが言っていた。
まあ、どうなるかは分からないけれど、私は長期休暇や合宿の際は店を閉めてもいいかなと思っているので、さほど焦ってはいない。おそらくマッドたちも同じ考えだろう。
三日後、私は改めて「やっぱりドナはすごい」と思った。店には私たちと同じくらいの歳の子が三人も来ていたのだ。一人は串カツのお婆さんのお孫さんで、十四歳の料理が大好きな女の子。もう一人はそのお孫さんの近所に住む親友らしく、同じく十四歳の薬草に詳しい女の子。最後の一人は、その薬草に詳しい女の子のお兄さんで、十六歳の帳簿付けが得意な若者だ。なんでも、これまで働いていたお店の店主が急に店を畳んでしまい、働き口を探していたそうだ。
きちんとした働き先が見つかるまではここで働いてもらうことに決まった。そして、マッドの店の帳簿付けも、彼にお願いすることになった。
マッドが言っていた、よく店に現れる青年も働くことが決まり、最近はマッドがつきっきりで修理を教えている。彼は近いうちに修理スキルが現れると、マッドが言っていた。
マッドの仮説では、スキルは貴族ばかりに多く現れるものではなく、平民でもきっかけがあれば現れるのではないか、とのことだった。つまり、貴族は幼い頃から剣術や習い事をすることでスキルが身につきやすいが、平民にはそんな余裕がないからスキルが現れにくいのではないかというのだ。平民でも、興味があったり、楽しくてのめり込んだりするとスキルが現れる、と私たちの陶芸を見て思ったらしい。
結局、六店舗とも何名か雇ったため、従業員の休憩所を空いている土地に建てようかという話が出た。すると、みんなが「それなら住み込める家がいい」と言うので、マッドが「四階建ての家づくりに挑戦する!」と言い出した。マッド、ジル、バンスはまた忙しくなりそうだ。
バンスは何だかんだ言っても、マッドやジルの手伝いは当たり前のようにこなしてくれるので、とても助かっている。マッドはバンスにはまだ言っていないが、集合住宅建築というスキルが既にバンスに表示されているらしい。だから、バンスに全てを任せても問題ないだろうと笑っていた。
あと二カ月もすれば長期休暇になる。私、マッド、リオ、マリアはブレイブス港街で一カ月ほど過ごし、残りの期間はマッドとリオが領主の仕事を覚えるためにそれぞれの領地で過ごすことになるだろう。私はお母様やマリアと、教会や婦人会に積極的に参加するつもりだ。
新たな生活が始まり、仲間たちとの絆も深まっていく。
それぞれの場所で、新しい挑戦が私たちを待っている。
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