異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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帰還 マッド視点

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マッド視点
 
 東レ島で購入した土地に地下を作り、魔法陣を描くまでしか今回は叶わなかった。限られた時間の中ではそれが精一杯だったが、度々来て少しずつ作業をしようと思う。
 
 俺たちは東レ盆地まで戻り、学院の魔法陣で一瞬にして魔法学院まで帰還した。学院に到着すると、学院長が自ら出迎えてくれて、学院長室まで案内された。
 
「今回は大変な目に遭いましたね。大事なくて本当に良かった。君たちの家柄は、今回の件で教師は全員知ってしまった。この学院では身分は関係ないとはなっているが、教師も人間だから今まで通りとはいかないかもしれない。そのことだけは言っておきたくて呼んだんだ」
 
 学院長の言葉に、マリアが尋ねた。

「生徒たちにもそのうち知られるということでしょうか?」
 
 学院長は頷いた。
 
「この学院では私も含めて、入学時には生徒の家柄は一切見れないようになっている。家柄が分かってしまうとどうしても態度に出てしまうから、学院創設からそうなっているんだ。ただ、生徒を見れば想像はつくものなんだが、君たちは掃除も料理も自身で何でもこなせるからはっきり分からなかった。教師には口止めはしてあるが、時間の問題だろうと思う」
 
「問題ありません。ご迷惑をお掛けすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
 
 俺が落ち着いた声で返答すると、学院長は安堵したように息を吐いた。
 
「もちろんだよ。それと、早速で申し訳ないが、採集した物や討伐して得た魔石を提出したら、王宮に向かってほしい。国王陛下たちがお待ちだそうだ」
 
「分かりました。魔法陣を使用させて頂いても宜しいでしょうか?」
 
「準備は既にしてある。気を付けて行きなさい」
 
「では失礼致します」
 
 俺は学院長と手短に話し、王宮に急いだ。
 

 王宮のいつもの部屋に案内されると、陛下と王太子殿下がすぐにやってきた。
 
「お父様、お兄様、只今戻りました」
 
 マリアが陛下と王太子殿下に挨拶に行くと、王太子殿下であるラスティが、たまらずマリアをぎゅっと抱きしめた。その抱擁には、安堵と、言葉にできないほどの愛情が溢れていた。
 
「マリア、お帰り。私はマリアをきちんと理解していなかったんだな。これからは何でも兄である私を頼ってくれ」
 
 ラスティは、心からの言葉を紡ぐ。マリアがどれほど強く、そして危険な目に遭っていたかを知った今、兄として、そして王太子として、妹を守り支える決意を新たにしていた。
 
「お兄様、どうされたんですか? お兄様は今までも私をきちんと見てくれていたじゃないですか」
 
 マリアは驚き、困惑した顔でラスティを見上げた。
 
「ラスティ、私も久しぶりに愛しい娘に会うんだぞ。そろそろマリアを放しなさい」
 
 国王陛下の一言に、ラスティは少し照れながらもマリアを解放した。再会を喜び終えると、マーカスさんが今回の賊の件で分かっていることを説明してくれた。
 
「今回も黒幕までは辿り着くことはできなかった。捕まった101人の賊の八割が、様々な街のごろつきたちで、僅かな金目的で参加したようだ。残りの二割はまだ尋問途中だが、大したことは知らないと思われる。隣国の者も多くいたので他国が絡んでいると思われるが、はっきりとは分からない。ただ残念なことに、学院の生徒と教師も何名か含まれていた。話を聞く限り、狙ったのは妬みと金目的のようだ」
 
「その者たちはどうなるんですか?」俺は気になって聞いてみた。
 
「奴隷として売られることに既に決まっている。下っ端の賊は皆そうなる。ただ生徒たちが動揺するだろうから、学院長以外にはこのことは公にはしないつもりだ。前回の時と同じように、謝礼金や奴隷を一人一名選べるので、後で牢屋に案内するよ」
 
「分かりました」
 
「今回は君たちの身の安全もあり公にはしないので、大きな物を与えることは残念ながらできないが、何か望む物があれば言ってくれ」
 
 陛下が仰ってくださったので、俺は中古の大型船を頼んでみた。
 
「確か古くなったので、新しいのを王宮騎士団が一年前に購入したはずだな。その時の古い大型船をどうしたか、ラスティは知っておるか?」
 
「確か修理に出しましたが、痛みも酷く、操縦の為の魔道具も修復できずに解体する予定になっていると思います」
 
「ふむ、それなら丁度良いだろう。かなり大きな大型船だが、操縦士は大丈夫か? 必要であればそちらの手配もしておこう」
 
「僕とドナは大型船の免許もありますので、問題はありません」
 
 リオが答えると、陛下も殿下も驚いた顔をしていた。彼らはリオとドナの多才さに驚いているようだった。
 
「それなら同盟国への入国許可証も一つ付けてやろう。友好国しか許可できないが、望む大陸はあるか?」
 
「では、東方大陸の許可証をお願いします」
 
「良いだろう、直ぐに手配をしよう。但し行く時は必ずカルロとミランには伝えるように。それと、私とラスティが東方大陸に赴く際は利用させてくれると嬉しい」
 
「承知しました」俺は丁寧にお辞儀をした。
 
「東レ島に土地を購入したと聞いた。私と王太子妃になるポメラがお忍びで寛げる部屋も用意してくれると嬉しいんだが、頼めるか?」
 
 王太子殿下が爽やかに言うと、マリアが答えた。
 
「お忍びと言ってもお兄様たちの部屋となると、側近や護衛、侍女も連れて来るのでしょう? そうなるとあそこでは少し手狭ですわ」
 
「でしたら、隣の土地を購入した方が良いかもしれませんね」
 
 レティがそう言うと、殿下は嬉しそうに呟いた。
 
「そうか、直ぐに私財で隣の土地の購入をしよう。一から建築をするのは面白そうだ。これからはポメラも交え、頻繁に相談に乗ってもらうから頼んだよ」
 
 少しにやけて殿下は微笑んだ。やはり殿下とはこの先も縁がありそうだ。面倒ではあるが、陛下に似た慈愛に満ちた、どこか憎めない人柄だ。民や国を想う気持ちは誰よりも強く、そして家族を大切にするその姿勢は、王太子としてだけでなく、人としても尊敬に値すると俺は感じた。
 
 話がまとまり、俺たちは賊のいる牢屋に案内された。今回はリオもキャロルも首を横に振った。スキルを見る限りは悪くない者たちもいる。大工スキル持ちもいたが、俺も何だが「違う」と感じた。マーカスさんに今回は奴隷を断り、王都のタウンハウスに向かった。
 
 今回の件もあり、俺たちは今後について話し合うことにした。
 
「今回の賊たちは俺たちを弱いと思っていたから、数は多かったが強者はいなかった。お陰でこちらの被害もなかったから、結果的には良かったと思っている」
 
 俺がそう切り出すと、ジルが後に続いて説明をしてくれた。
 
「今回の件は公にはされません。詳細を知っているのは学院では学院長だけです。我々が襲われたことを知っている教師は数名いますが、学院長が上手く話をしてくれるでしょう。不本意ではありますが、生徒たちには『頭は良いが腕っぷしはからっきし駄目だ』と思わせておこうと思いますが、いかがでしょうか?」
 
 リオがジルに質問をする。
 
「それは構わないが、僕たちの成績はどうなるの?」
 
「全員が弱いというのはどうしても無理がありますので、私とボンドンだけはそこそこ強い設定にしようと思っています。そうすれば武術成績についてはグループごとに決まるので、問題なく進級できます」
 
「それが良いだろう。もうしばらくはそれで通そう」

 俺は皆の顔を見渡し、頷いた。
 
「私もそれで構わないわ」

 マリアがそう言うと、リオもキャロルも同じように頷いた。
 
 珍しくレティが一人、手を挙げている。
 
「もうすぐ魔獣召喚の儀式があるので、私は参加したいと思っていますが、問題ないですか?」
 
「もちろん、参加したい者は参加してくれ。俺はインディやラピスがいるから見送るが、儀式は見てみたいから、参加してくれるなら嬉しいよ」
 
「じゃあ私も参加する!」

 ドナが手を挙げて声高らかに宣言した。
 
「僕ももちろん参加します」

 ボンドンはなぜだか少し小声で宣言した。ドナの勢いに気圧されたのかもしれない。
 
「ドナ、モドキは魔獣召喚について何か言っていない?」
 
 俺が聞きたいことをキャロルがドナに聞いてくれた。本当に気の利く、俺の自慢の嫁だ。
 
「え? 聞いてないから聞いてみる。……」
 
 ドナは少しの間、モドキと会話をしているようだった。
 
「どうやら私が参加すると、モドキが聖獣だと判明してしまうらしいです。だから、辞めておけと言われました。とても残念です」
 
 結局のところ、ボンドンとレティだけが参加することに決まった。
 
 モドキが言うには、魔獣召喚で聖獣が召喚されることはあり得ないので、ボンドンもレティも参加するのは問題ないだろうとのことだ。ただし、召喚後は聖獣に変わる可能性もあるらしい。俺たちが儀式で変に目立つのは良くないから、召喚後はすぐに場を離れると決めた。
 
 それからしばらくは王都でのんびりと過ごした後に、学院山へ戻ったのだった。
 
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