異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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ディラン港町復興作業

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 順調に話は進み、私たちはディラン港町にやってきた。マッドとジルは船を一時的に動かせる状態にするためにブルーム港町に残り作業をしているが、2日もあれば動くと言っていたので、時期にこちらへやってくるだろう。
 
 ディラン港町にはバンスとカイトも来ており、私たちが前褒賞で得た土地に店を建ててくれる予定だ。彼らが来てくれたおかげで、一気に現実味を帯びてきた。
 
「ヒュムスカの店より高級にするんだろう?」
 
 バンスが少し不安そうに尋ねた。「ヒュムスカ」は、素朴で温かみのある品揃えが特徴だ。
 
「高級って程ではないよ。貴族も立ち寄れるように、馬車が止められればいいと思うよ」
 
 リオはいつものように冷静だ。
 
「別で近くに馬車置き場を作ってはどうかな?」

 カイトがリオに聞いた。
 
「それでも良いと思うよ、僕はバンスとカイトに任せるよ」
 
 リオは全て二人に任せるらしく、簡単な店の説明が記入されたメモを手渡した。
 
店について
 * 薬屋:一般的な薬から専門的な薬まで。
 * 化粧品屋:石鹸、化粧水、クリーム、入浴剤といった品揃え。
 * 家具屋:腕の良い家具職人が作る家具、オーダーも受け付ける。
 * 惣菜屋:地元で採れた新鮮な食材を中心にした弁当、惣菜、おにぎり。
 
 私たちはこの港町を見た時に、皆で決めたことがあった。かつての栄えていた港町の雰囲気を再現し、落ち着いた古き良き町にしたい。遺跡も今のまま残したい。だから、真新しいものは置かないことに決めたのだ。

「これだとホテルがガラガラではないのか?」
 
 そのままではバンスの言うように、ホテルはガラガラだろう。でも貴族のリゾート地とはコンセプトが違う。
 
「あの巨大船はホテルだけではなく、役所や病院、それに居住区としても使用することにしたんだ」
 
 リオが言うと、マリアが続いた。
 
「そうなのよ。ゆっくりと静養できて、医術も確かであれば、自然に人は集まるわ。観光は遺跡目的の人が来て楽しめれば良いと思うのよ。言ってみれば、巨大船も遺跡のようなものだし、普通では拝めない貴重な船だもの」
 
 マリアの言葉に、皆納得したような顔をした。
 
「冒険者を呼び込むんではなかったのか?」
 
 バンスの質問にレティが答えた。
 
「船ですと冒険者には少し宿泊代が高くなりますし、魔獣のいる場所まで遠くなってしまいますから、中心地にいくつか冒険者向きの宿を建設する予定です。当然、ギルドも小さい規模ですが建設予定です」
 
「器の展示室も作るから、バンスも展示してね」
 
 私がそう言うと、バンスは目を輝かせた。
 
「私たちのだけではなく、色々な人の作品を展示販売する予定よ。大半は一点物だけど安価な器も少しは置く予定よ。後は大きめな古本屋と古い文献を複製した書物を多くの人が気軽に見れる展示室、後は別大陸から取り寄せた書物を販売する建物も建築予定よ」
 
「それは凄いですね」
 
 私が言うと、カイトが感心したように言った。
 
「つまり、カイトとバンスは大忙しね」
 
 私が少し小声で言うと、しっかりと聞いていたバンスが天を仰いだ。
 
「ですが俺はそんな大それた物は建てれませんよ」
 
 カイトは不安そうだ。無理もない。
 
「俺も忙しすぎて無理だぞ、それだと俺には作品を作る暇がないだろうが。それに東レ島の建築だって始めたばかりだし、無理無理無理!」

 バンスは大きく否定してきた。確かに最近のバンスは大忙しだ。
 
「国の事業ですから職人や大工も大勢雇われます。お二人には指示だけしてくれれば問題ありません。二人には主に若者を付けますので、その者たちの育成をして欲しいのです。二人のレベルは既に多くの建築で証明されていますし、問題ありません」
 
 レティが淡々と説明する。彼女はいつも冷静で的確だ。
 
 バンスは渋々といった顔つきで、「でも俺は奴隷だぞ、指示は無理だろう」と呟いた。
 
「バンスは私と明日、陛下の元に赴く予定です。そして奴隷ではなくなり、新たに契約魔法を結んでいただきます。無事に今回の事業をやり遂げたら、二人は男爵位を授かる予定ですので、頑張ってください」
 
 マリアが説明した。バンスの顔が驚きで固まった。
 
「えっ? 嘘だろう、俺が男爵?!」
 
 バンスは混乱しているが、無理もない。カイトは無言だが、大丈夫だろうか?
 
「こんな俺で良いのですか? キャロル様、マッド様は何か言ってましたか?」
 
 カイトにとってはマッドは師匠なのだろうから、気になるのは当然だ。マッドにもそれは分かっていたから、私に伝言したのだろう。
 
「マッドはカイトに、『希望の星になれ』と伝言してくれと言ってたわ」
 
「希望の星? そうか、分かりました。俺は精一杯努めます」
 
 カイトは真剣な眼差しで頷いた。バンスはまだ戸惑っているようだが、決意したようだ。
 
「俺は、面倒だな、ったくしょうがねえな。分かったよ、俺もやってやるよ」
 
 国の町興しはこうして進み始めた。
 
 私たちの事業計画書が発表されると、少しずつだが貴族が賛同を始めて土地を購入し、事業を始めた。私の養子先であるマクミラン伯爵もディラン港町に合わせたセレクトショップを開店する運びになった。他にも、フィーナの父であるクワン侯爵と、ハリーの父であるビルツ伯爵が共同で薬草研究所を手掛けることになった。
 

 数日後、マッドとジルがディラン港町にやってきた。
 
「マッド、船は順調に修復できそう?」
 
 私が聞くと、マッドは笑顔で答えてくれた。
 
「ああ、思った以上に頑丈な船だから、予定より早く修復できそうだよ。大津波が来た時にも対処できるようにすれば、避難先にもできるだろう。それにしても、この船の魔道具は凄いものばかりだよ」
 
 マッドが興奮したように話す。彼がそこまで言うのは珍しい。
 
「何が凄いの?」
 
「この魔道具は船全体を強力な結界で守ってくれる。そしてこっちは、広範囲の敵や魔獣を感知できるものだ。そしてこれもすごいぞ、どんな質問にも分かる範囲で的確に返答してくれる。他にもあるが……本当に凄いよ」
 
 マッドの言葉に、皆が息を呑んだ。そんな高性能な魔道具が、この古い船に備わっていたとは。
 
「魔力が多いと、こんな物まで作れるのね」
 
 私は感嘆の声を上げた。
 
「そうだな、魔力があるものがこうやって皆を守ってきたんだろうな」
 
 マッドはどこか遠い目をして言った。
 
「その魔道具は全て修復するの?」
 
「殿下に聞いてからにするが、俺としては結界の魔道具だけはきちんと修復したいな」
 
 マッドは優しい笑顔で微笑んだ。彼のその笑顔に、町の未来の希望が見えた気がした。
 
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