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マレ島
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3月の連休を利用して、念願のリオとマリアの島、マレ島に私たち8人は向かっている。船は揺れ、潮風が頬を撫でる。
「キャロル様、島が見えてきましたよー!」
元気な声でドナが教えてくれた。彼女はいつも通りの陽気さで、初めて行く地に胸を躍らせているようだ。
マレ島はピピ島と同じくらいの大きさだが、密林で覆われ、突然激しい雨が降るような島だと聞いている。船に乗っていても蒸し暑いので、島はさらに暑いかもしれない。どんな景色が私たちを待っているのだろう?
島に到着すると、視界いっぱいに樹木が生い茂った広大な大自然が広がった。
「凄いな、一面高い樹木ばかりだ!」
マッドが感嘆の声を上げた。私も同じ気持ちだ。鬱蒼とした緑が、私たちを圧倒する。
「本当ですね。頂上まで登ってみますか?」
ジルもこの大自然に心を惹かれているようだ。
「僕は頂上に行きたいな。今日は島に宿泊しようよ!」
リオは賛成のようだ。彼の言葉に、皆の目が輝く。私たちはマレ島が大自然の島と聞いていたので、念のためある程度の準備はしてきている。それに8人とも体力はあるので、特に問題もないだろう。
「キャロル様、なんだかワクワクしますね!」
ドナが興奮した声で言った。
「そうね、頂上に着いたらどんな景色が見えるのか楽しみだわ!」
私もドナの言葉に同意した。未知の場所への探求心に、胸がドキドキと高鳴る。そんな風に思い、のんびりと登っていたら突然、大粒の雨が降り出した。あっという間にスコールのような豪雨になり、視界が悪くなる。
「ここじゃ小屋は出せないな。洞窟とか周りにないか地図を見てみるよ。…………。あっ、あった! 多分、洞窟だと思う。10分ぐらい走った所だ」
マッドがそう言い走り出すと、皆も彼の後を追った。雨はどんどん勢いを増していく。
ようやく到着した洞窟の入り口は、雨風をしのげるだけでもありがたかった。しかし、その場に立ち尽くした瞬間、私たちは異様な気配を感じた。
「妙だな」
マッドが眉をひそめて呟いた。
「マッドが言うように、僕もなんだか変な気がするよ」
リオも同じように顔をしかめる。確かに、マッドやリオの言うように、ただの洞窟とは思えない、ひんやりとした、それでいて何かを秘めたような奇妙な気配がする。
「あっ、そういえばモドキが変な事を言ってましたよ!」
ドナが突然、声を上げた。
「ドナ、モドキは何て言っていたんだ?」
ジルが少し怖い顔でドナに言った。彼女は、ドナが重要なことを言い忘れていたことに気づいたのだろう。
「出発前にモドキは私に言いました」
全員がドナに注目した。一体、何を聞かされたというのだろう?
「『マレ島にはダンジョンもあり、契約魔獣や聖獣は入れない』って」
ドナの言葉に、私たちはハッとした。ダンジョン? そういえば、ランランもピッピ(私の契約魔獣)も、今日はついてこなかった。理由が分からず不思議に思っていたが、まさかダンジョンがあるとは。
「なるほど、ここはダンジョンの入り口なのか?」
マッドが呟く。その表情には、警戒心と共に、新たな冒険への期待が浮かんでいる。
「へー、面白そうだね!」
リオも楽しそうだ。彼は好奇心旺盛で、未知のものにすぐに興味を持つ。
私たちが一歩足を踏み出そうとすると、何故だか前に進めない。見えない壁に阻まれているような感覚だ。
「キャロル、ここの文字は読めるか?」
マッドに言われて見てみると、何やら壁に文字が彫ってあるようだ。古代の文字だろうか。
「なんとか読めそうだわ。『ここに入りたければ、手をかざせ』って書いてある」
「じゃあ、僕が先頭に行くよ」
リオが迷わず壁に手を触れた。次の瞬間、リオの体がわずかに光ったように見えた。リオの次はボンドンが触れた。彼もまた、躊躇なく壁に手を置く。
「では私も触れます」
マリアが触れた後に、レティが続いた。
ゴゴギギ……!
重々しい音を立てて、壁がゆっくりと開いた。その奥には、真っ暗な通路が続いている。
「手をかざした4人しか入れないみたいだな」
マッドが、奥に行こうとしても壁にぶつかるように前へ進めないようだ。
「そのようですね。私も中に入れません」
ジルも中に入ろうとしたが、やはり見えない壁に阻まれたようだ。
「リオ、気を付けろよ!」
マッドがリオに声をかける。
「ああ、行ってくるよ!」
リオは明るい声で応え、マリア、ボンドン、レティと共にダンジョンの中へと進んでいった。彼らが行くと、再びゴゴギギ、と音を立てて壁が閉じた。
「俺達はどうしようか?」
マッドが私に問いかけた。私たちは今、リオたちが行った壁の前に取り残されている形だ。
「昼ご飯には少し早いが、食べながら考えましょうか」
私は薬膳料理を皆に渡した。温かい料理が、冷えた体を少しだけ温めてくれる。
「でもダンジョンがあるなんて驚いたわね」
「ああ、まさかの展開だな」
私とマッドが話していると、ドナが驚いたように私に言ってきた。
「キャロル様、壁に何か表示されましたよ!」
「えっ、どこどこ?」
ドナが指さす方を見ると、壁に新たな文字が浮かび上がっている。
「俺たちも入れるんじゃないのか?」
マッドの言うように、私たちも入れそうだ。
「読みますね。『ここに入りたければ、手をかざせ』」
「同じだな」マッドが言う。
「でもさっきの壁の色とは違いますね」
ジルが指摘する。言われてみれば確かに、先ほどの壁は灰色だったが、今目の前の壁は、うっすらと緑色に光っているように見える。
「俺は行ってみたいんだが、どうする?」
マッドが私たちに問いかける。彼の目は、新たな挑戦への期待で輝いている。
「私はマッド様について行きます!」
ジルが即座に答えた。
「私も行ってみたいわ!」
私も好奇心を抑えきれない。
「キャロル様が行くなら、私も当然行きますよ!」
ドナも同意した。
順番に手をかざすと、壁が再び開いた。
ゴゴギギ……!
「行こう」マッドが力強く言った。
「はい!」ジルがそれに続いた。
「行きましょう!」私も同じように続いた。
「はーい!」ドナもワクワクしながら足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた途端、あたりは薄暗い洞窟の中に変わっていた。その時、どこからともなく、異形の群れが襲いかかってきた。まるで蟻の大群だ!
しかし、マッドは慌てることなく、一瞬で風魔法を放ち、それらを一気に吹き飛ばした。
「マッド様、あれは何でしょう?」
ジルが指さす先には、空中を漂う何かがいる。
「あれは妖精のように見えるが、錯覚か?」マッドが答える。
「ええー、あれはどう見ても大きなハエですよね? キャロル様」
ドナが私の顔を覗き込む。
「ドナ、あれはコウモリだろう?」ジルが言う。
3人とも跳ぶ物体には見えているようだが、目に映っているのは違うようだ。私の目には、形の無い光の粒子のように見えているのだが、何が正解なのだろう?
「鑑定はできないようだ。キャロルには何が見える?」
マッドが不思議そうな顔で尋ねた。
「私には形の無い光の粒子に見えるわ」
「なるほど、これが錯覚なのか。面白いじゃないか」
マッドは初めての錯覚にニヤリとした。彼の研究心が刺激されたようだ。
「生命体ではないから攻撃して来ないんですね。確かに興味深いですね」
ジルが謎が解けたとばかりに納得している。
その時、遠くから唸り声が聞こえた。
「ウルフです!」
ジルが警戒するように言った。
「ああ、俺にもウルフは見えるよ。行くぞ、ジル!」
マッドが走り出すと、ジルも続く。あっという間にウルフの群れは、マッドとジルが二人で連携して倒してしまった。彼らの戦闘能力の高さに、改めて感嘆する。
「先に進もうか」
マッドが先頭になり進もうとした時、ドナが洞窟の壁に何かを見つけたようだ。
「ここに何か書いてありますよ?」
ドナが手を伸ばそうとしたその時、マッドが鋭く叫んだ。
「ドナ、触るな!」
しかし、時すでに遅し。ドナの指が壁に触れた。
ギギ……!
壁の一部が突然、床へと傾き始めた。
「ドナ、危ない!」
私は咄嗟にドナの手を取った。その瞬間、足元の床が滑り台のように傾き、私とドナはそのまま滑り落ちていく。
「キャロル――!」
マッドの声が聞こえたけれど、私とドナは滑りながら下に落ちていく。まるで滑り台のようだ。
下まで落ちると、そこは真っ暗で何も見えない空間だった。
「キャロル、大丈夫か? 怪我はないか?」
どうやらマッドもジルも、私たちを追いかけてきてしまったようだ。彼らは、私たちを心配して飛び込んできてくれたのだろう。
「ドナ、いいか、今度からは触れる前に言うんだぞ。全く……」
ドナはいつものようにジルに叱られているようだ。しかし、彼女の口元は緩んでいる。
「少しだけ目が慣れてきたな」
マッドの言うように、私も少しずつ周りが見えるようになってきた。
「私も完全には見えませんけど、道は分かります。先頭は私が行きますね」
さすがはドナだわ。どんな状況でも、彼女は頼りになる。
「ドナ、頼むよ」マッドが言った。
「ドナ、絶対に壁には触れるなよ」ジルが念を押す。
「ジルはくどいわ!」ドナが不満げに言った。
一本道を10分ほど歩くと、壁に突き当たった。行き止まりだ。
「行き止まりです」
ドナが壁を触って確認する。
「横に水たまりがあるが深そうだ。ちょっと冷たいけど潜ってみるよ。少し待っててくれ」
マッドが水たまりを覗き込んだ。
「それなら私も行くわ」
私は迷わず言った。こんな場所に彼を一人で行かせるわけにはいかない。
「キャロルは待っててくれ」
マッドは私を止めようとするが、私は首を横に振った。
「駄目よ。一人で絶対に行かせないわ」
「分かったよ。では着替えてから2人で潜ろう」
マッドは諦めたように、でも少し嬉しそうに言った。確かに水は冷たかったが、綺麗な濁りのない水だった。15分くらい潜ったら、箱が目に入り、私は箱ごと手に入れた。マッドも何かを見つけて手に入れたようだ。
2人で水から上がると、ジルとドナが心配そうな表情で私たちを見ていた。
「何もなくて安心しました」
ジルがホッとしたように言った。
「キャロル様ー!」
ドナが駆け寄って抱きついてくる。
「ジル、これが底にあった。キャロルも何かを拾っただろう?」
マッドが持っていたのは、大きな箱だった。
「ええ、この箱よ」
私が拾ったのは、20センチほどの小さな箱だ。
「開けるぞ」
カチャッ、と音を立てて、大きな箱から出て来たのは、見るからに頑丈そうな盾だった。マッドは迷わずジルに手渡した。
「この盾の性能は凄いぞ。この盾ならいかなる武器も通さないだろう。良かったな、ジル!」
マッドの言葉に、ジルの顔がパッと明るくなった。
「マッド様、ありがとうございます!」
ジルは感激している。
「この箱も開けるわね」
私が開けると、中には小さな可愛らしい妖精のような人形が入っていた。
「可愛いわ!」
「なんとなくキャロル様に似ていますね」
ドナが嬉しそうに言った。
マッドが人形を鑑定した。「鑑定すると『案内役』と表示される」
「では出口を聞いてみたらどうでしょうか?」
ジルが言うと、ドナが人形に話し掛けた。
「出口はどこー?」
変化なし。人形はただじっとこちらを見ているだけだ。
「キャロル、名前を付けてから聞いてみて」
マッドに言われたので、私は名前を考えてみた。
「サリアというのはどうかしら?」
私がそう言うと、人形はゆっくりと目を開いた。
「サリア、登録完了しました」
人形が、まるで人間の声のように話したのだ。これには皆が驚きの声を上げた。
「おおー! キャロル、出口を聞いてくれるか?」
マッドが興奮したように言った。
「聞こえております。出口はこちらになります。ついて来てください」
サリアは妖精のように羽根を靡かせ、ふわふわと飛んでいる。私たちはその小さな体についていった。
連れて来られたのは、私たちが滑り落ちてきた場所だった。
「サリア、つまりここを登れと言うことか?」
「はい、出口はここしかありません」
「サリア、ありがとう。頑張って登るわ」
「頑張らなくても大丈夫。マッドの風魔法で登りましょう」
サリアが意外な提案をした。
「なるほど、その手があったか。試したことはないが、出来そうだ」
マッドはニヤリと笑った。彼の風魔法が、下から私たちを押し上げるように吹いた。
「うわー! キャロル様、これは気持ちいいですね!」
「ドナ、本当に気持ちいいわね! まるで飛んでるみたいだわ!」
私たちは空中に浮き上がり、そのまま一気に上まで登った。上まで登ると、先ほど落ちた場所に戻ったようだ。
「こちらの壁に文字が刻んでありますので、お読みください」
サリアが指さす方を見ると、壁に新たな文字が浮かび上がっていた。
「えーと、これかな、『3回ノックしろ』?」
マッドが読んでくれた。
「私が叩きます!」
ジルが躊躇なく壁を3回ノックした。
ギギ……ギギ……!
まるでドアが開くように、壁がゆっくりと横に開いた。その奥には、再び通路が続いている。
「進みましょう」
浮遊したサリアに、私たちはついていった。
「ここからは魔獣が強くなっていきますので、気を付けてください」
サリアが言うように、進めば進むほど、現れる魔獣は強くなり、数も増えていった。
「サリア、いつまで続くんだ? キリがないぞ!」
マッドが問いに、サリアが答えた。
「このダンジョンは『試練のダンジョン』と言われています。強くなりたい者が訓練するダンジョンです。終了したい場合は『セーブ』と言えば、次に来た時には続きからできます。『リセット』と言えば、次に来た時には最初からになります」
マッドは迷うことなく「セーブ」と言った。
すると私たちは一瞬で洞窟の入り口の前まで戻っていたが、サリアの姿はなかった。しばらくすると、リオたちも私たちと同じ場所に現れた。
「驚いたよ、あれ、マールがいないな」
リオの一言で、リオたちも案内役に出会ったのだと私たちは悟った。マールは、きっとリオたちの案内役の名前だろう。
このマレ島は私たちを強く鍛えてくれるようだ。頂上でゆっくりと身体を癒し、私たちは3日間滞在してダンジョンに挑み続けた。そしてマレ島を後にした。
「キャロル様、島が見えてきましたよー!」
元気な声でドナが教えてくれた。彼女はいつも通りの陽気さで、初めて行く地に胸を躍らせているようだ。
マレ島はピピ島と同じくらいの大きさだが、密林で覆われ、突然激しい雨が降るような島だと聞いている。船に乗っていても蒸し暑いので、島はさらに暑いかもしれない。どんな景色が私たちを待っているのだろう?
島に到着すると、視界いっぱいに樹木が生い茂った広大な大自然が広がった。
「凄いな、一面高い樹木ばかりだ!」
マッドが感嘆の声を上げた。私も同じ気持ちだ。鬱蒼とした緑が、私たちを圧倒する。
「本当ですね。頂上まで登ってみますか?」
ジルもこの大自然に心を惹かれているようだ。
「僕は頂上に行きたいな。今日は島に宿泊しようよ!」
リオは賛成のようだ。彼の言葉に、皆の目が輝く。私たちはマレ島が大自然の島と聞いていたので、念のためある程度の準備はしてきている。それに8人とも体力はあるので、特に問題もないだろう。
「キャロル様、なんだかワクワクしますね!」
ドナが興奮した声で言った。
「そうね、頂上に着いたらどんな景色が見えるのか楽しみだわ!」
私もドナの言葉に同意した。未知の場所への探求心に、胸がドキドキと高鳴る。そんな風に思い、のんびりと登っていたら突然、大粒の雨が降り出した。あっという間にスコールのような豪雨になり、視界が悪くなる。
「ここじゃ小屋は出せないな。洞窟とか周りにないか地図を見てみるよ。…………。あっ、あった! 多分、洞窟だと思う。10分ぐらい走った所だ」
マッドがそう言い走り出すと、皆も彼の後を追った。雨はどんどん勢いを増していく。
ようやく到着した洞窟の入り口は、雨風をしのげるだけでもありがたかった。しかし、その場に立ち尽くした瞬間、私たちは異様な気配を感じた。
「妙だな」
マッドが眉をひそめて呟いた。
「マッドが言うように、僕もなんだか変な気がするよ」
リオも同じように顔をしかめる。確かに、マッドやリオの言うように、ただの洞窟とは思えない、ひんやりとした、それでいて何かを秘めたような奇妙な気配がする。
「あっ、そういえばモドキが変な事を言ってましたよ!」
ドナが突然、声を上げた。
「ドナ、モドキは何て言っていたんだ?」
ジルが少し怖い顔でドナに言った。彼女は、ドナが重要なことを言い忘れていたことに気づいたのだろう。
「出発前にモドキは私に言いました」
全員がドナに注目した。一体、何を聞かされたというのだろう?
「『マレ島にはダンジョンもあり、契約魔獣や聖獣は入れない』って」
ドナの言葉に、私たちはハッとした。ダンジョン? そういえば、ランランもピッピ(私の契約魔獣)も、今日はついてこなかった。理由が分からず不思議に思っていたが、まさかダンジョンがあるとは。
「なるほど、ここはダンジョンの入り口なのか?」
マッドが呟く。その表情には、警戒心と共に、新たな冒険への期待が浮かんでいる。
「へー、面白そうだね!」
リオも楽しそうだ。彼は好奇心旺盛で、未知のものにすぐに興味を持つ。
私たちが一歩足を踏み出そうとすると、何故だか前に進めない。見えない壁に阻まれているような感覚だ。
「キャロル、ここの文字は読めるか?」
マッドに言われて見てみると、何やら壁に文字が彫ってあるようだ。古代の文字だろうか。
「なんとか読めそうだわ。『ここに入りたければ、手をかざせ』って書いてある」
「じゃあ、僕が先頭に行くよ」
リオが迷わず壁に手を触れた。次の瞬間、リオの体がわずかに光ったように見えた。リオの次はボンドンが触れた。彼もまた、躊躇なく壁に手を置く。
「では私も触れます」
マリアが触れた後に、レティが続いた。
ゴゴギギ……!
重々しい音を立てて、壁がゆっくりと開いた。その奥には、真っ暗な通路が続いている。
「手をかざした4人しか入れないみたいだな」
マッドが、奥に行こうとしても壁にぶつかるように前へ進めないようだ。
「そのようですね。私も中に入れません」
ジルも中に入ろうとしたが、やはり見えない壁に阻まれたようだ。
「リオ、気を付けろよ!」
マッドがリオに声をかける。
「ああ、行ってくるよ!」
リオは明るい声で応え、マリア、ボンドン、レティと共にダンジョンの中へと進んでいった。彼らが行くと、再びゴゴギギ、と音を立てて壁が閉じた。
「俺達はどうしようか?」
マッドが私に問いかけた。私たちは今、リオたちが行った壁の前に取り残されている形だ。
「昼ご飯には少し早いが、食べながら考えましょうか」
私は薬膳料理を皆に渡した。温かい料理が、冷えた体を少しだけ温めてくれる。
「でもダンジョンがあるなんて驚いたわね」
「ああ、まさかの展開だな」
私とマッドが話していると、ドナが驚いたように私に言ってきた。
「キャロル様、壁に何か表示されましたよ!」
「えっ、どこどこ?」
ドナが指さす方を見ると、壁に新たな文字が浮かび上がっている。
「俺たちも入れるんじゃないのか?」
マッドの言うように、私たちも入れそうだ。
「読みますね。『ここに入りたければ、手をかざせ』」
「同じだな」マッドが言う。
「でもさっきの壁の色とは違いますね」
ジルが指摘する。言われてみれば確かに、先ほどの壁は灰色だったが、今目の前の壁は、うっすらと緑色に光っているように見える。
「俺は行ってみたいんだが、どうする?」
マッドが私たちに問いかける。彼の目は、新たな挑戦への期待で輝いている。
「私はマッド様について行きます!」
ジルが即座に答えた。
「私も行ってみたいわ!」
私も好奇心を抑えきれない。
「キャロル様が行くなら、私も当然行きますよ!」
ドナも同意した。
順番に手をかざすと、壁が再び開いた。
ゴゴギギ……!
「行こう」マッドが力強く言った。
「はい!」ジルがそれに続いた。
「行きましょう!」私も同じように続いた。
「はーい!」ドナもワクワクしながら足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた途端、あたりは薄暗い洞窟の中に変わっていた。その時、どこからともなく、異形の群れが襲いかかってきた。まるで蟻の大群だ!
しかし、マッドは慌てることなく、一瞬で風魔法を放ち、それらを一気に吹き飛ばした。
「マッド様、あれは何でしょう?」
ジルが指さす先には、空中を漂う何かがいる。
「あれは妖精のように見えるが、錯覚か?」マッドが答える。
「ええー、あれはどう見ても大きなハエですよね? キャロル様」
ドナが私の顔を覗き込む。
「ドナ、あれはコウモリだろう?」ジルが言う。
3人とも跳ぶ物体には見えているようだが、目に映っているのは違うようだ。私の目には、形の無い光の粒子のように見えているのだが、何が正解なのだろう?
「鑑定はできないようだ。キャロルには何が見える?」
マッドが不思議そうな顔で尋ねた。
「私には形の無い光の粒子に見えるわ」
「なるほど、これが錯覚なのか。面白いじゃないか」
マッドは初めての錯覚にニヤリとした。彼の研究心が刺激されたようだ。
「生命体ではないから攻撃して来ないんですね。確かに興味深いですね」
ジルが謎が解けたとばかりに納得している。
その時、遠くから唸り声が聞こえた。
「ウルフです!」
ジルが警戒するように言った。
「ああ、俺にもウルフは見えるよ。行くぞ、ジル!」
マッドが走り出すと、ジルも続く。あっという間にウルフの群れは、マッドとジルが二人で連携して倒してしまった。彼らの戦闘能力の高さに、改めて感嘆する。
「先に進もうか」
マッドが先頭になり進もうとした時、ドナが洞窟の壁に何かを見つけたようだ。
「ここに何か書いてありますよ?」
ドナが手を伸ばそうとしたその時、マッドが鋭く叫んだ。
「ドナ、触るな!」
しかし、時すでに遅し。ドナの指が壁に触れた。
ギギ……!
壁の一部が突然、床へと傾き始めた。
「ドナ、危ない!」
私は咄嗟にドナの手を取った。その瞬間、足元の床が滑り台のように傾き、私とドナはそのまま滑り落ちていく。
「キャロル――!」
マッドの声が聞こえたけれど、私とドナは滑りながら下に落ちていく。まるで滑り台のようだ。
下まで落ちると、そこは真っ暗で何も見えない空間だった。
「キャロル、大丈夫か? 怪我はないか?」
どうやらマッドもジルも、私たちを追いかけてきてしまったようだ。彼らは、私たちを心配して飛び込んできてくれたのだろう。
「ドナ、いいか、今度からは触れる前に言うんだぞ。全く……」
ドナはいつものようにジルに叱られているようだ。しかし、彼女の口元は緩んでいる。
「少しだけ目が慣れてきたな」
マッドの言うように、私も少しずつ周りが見えるようになってきた。
「私も完全には見えませんけど、道は分かります。先頭は私が行きますね」
さすがはドナだわ。どんな状況でも、彼女は頼りになる。
「ドナ、頼むよ」マッドが言った。
「ドナ、絶対に壁には触れるなよ」ジルが念を押す。
「ジルはくどいわ!」ドナが不満げに言った。
一本道を10分ほど歩くと、壁に突き当たった。行き止まりだ。
「行き止まりです」
ドナが壁を触って確認する。
「横に水たまりがあるが深そうだ。ちょっと冷たいけど潜ってみるよ。少し待っててくれ」
マッドが水たまりを覗き込んだ。
「それなら私も行くわ」
私は迷わず言った。こんな場所に彼を一人で行かせるわけにはいかない。
「キャロルは待っててくれ」
マッドは私を止めようとするが、私は首を横に振った。
「駄目よ。一人で絶対に行かせないわ」
「分かったよ。では着替えてから2人で潜ろう」
マッドは諦めたように、でも少し嬉しそうに言った。確かに水は冷たかったが、綺麗な濁りのない水だった。15分くらい潜ったら、箱が目に入り、私は箱ごと手に入れた。マッドも何かを見つけて手に入れたようだ。
2人で水から上がると、ジルとドナが心配そうな表情で私たちを見ていた。
「何もなくて安心しました」
ジルがホッとしたように言った。
「キャロル様ー!」
ドナが駆け寄って抱きついてくる。
「ジル、これが底にあった。キャロルも何かを拾っただろう?」
マッドが持っていたのは、大きな箱だった。
「ええ、この箱よ」
私が拾ったのは、20センチほどの小さな箱だ。
「開けるぞ」
カチャッ、と音を立てて、大きな箱から出て来たのは、見るからに頑丈そうな盾だった。マッドは迷わずジルに手渡した。
「この盾の性能は凄いぞ。この盾ならいかなる武器も通さないだろう。良かったな、ジル!」
マッドの言葉に、ジルの顔がパッと明るくなった。
「マッド様、ありがとうございます!」
ジルは感激している。
「この箱も開けるわね」
私が開けると、中には小さな可愛らしい妖精のような人形が入っていた。
「可愛いわ!」
「なんとなくキャロル様に似ていますね」
ドナが嬉しそうに言った。
マッドが人形を鑑定した。「鑑定すると『案内役』と表示される」
「では出口を聞いてみたらどうでしょうか?」
ジルが言うと、ドナが人形に話し掛けた。
「出口はどこー?」
変化なし。人形はただじっとこちらを見ているだけだ。
「キャロル、名前を付けてから聞いてみて」
マッドに言われたので、私は名前を考えてみた。
「サリアというのはどうかしら?」
私がそう言うと、人形はゆっくりと目を開いた。
「サリア、登録完了しました」
人形が、まるで人間の声のように話したのだ。これには皆が驚きの声を上げた。
「おおー! キャロル、出口を聞いてくれるか?」
マッドが興奮したように言った。
「聞こえております。出口はこちらになります。ついて来てください」
サリアは妖精のように羽根を靡かせ、ふわふわと飛んでいる。私たちはその小さな体についていった。
連れて来られたのは、私たちが滑り落ちてきた場所だった。
「サリア、つまりここを登れと言うことか?」
「はい、出口はここしかありません」
「サリア、ありがとう。頑張って登るわ」
「頑張らなくても大丈夫。マッドの風魔法で登りましょう」
サリアが意外な提案をした。
「なるほど、その手があったか。試したことはないが、出来そうだ」
マッドはニヤリと笑った。彼の風魔法が、下から私たちを押し上げるように吹いた。
「うわー! キャロル様、これは気持ちいいですね!」
「ドナ、本当に気持ちいいわね! まるで飛んでるみたいだわ!」
私たちは空中に浮き上がり、そのまま一気に上まで登った。上まで登ると、先ほど落ちた場所に戻ったようだ。
「こちらの壁に文字が刻んでありますので、お読みください」
サリアが指さす方を見ると、壁に新たな文字が浮かび上がっていた。
「えーと、これかな、『3回ノックしろ』?」
マッドが読んでくれた。
「私が叩きます!」
ジルが躊躇なく壁を3回ノックした。
ギギ……ギギ……!
まるでドアが開くように、壁がゆっくりと横に開いた。その奥には、再び通路が続いている。
「進みましょう」
浮遊したサリアに、私たちはついていった。
「ここからは魔獣が強くなっていきますので、気を付けてください」
サリアが言うように、進めば進むほど、現れる魔獣は強くなり、数も増えていった。
「サリア、いつまで続くんだ? キリがないぞ!」
マッドが問いに、サリアが答えた。
「このダンジョンは『試練のダンジョン』と言われています。強くなりたい者が訓練するダンジョンです。終了したい場合は『セーブ』と言えば、次に来た時には続きからできます。『リセット』と言えば、次に来た時には最初からになります」
マッドは迷うことなく「セーブ」と言った。
すると私たちは一瞬で洞窟の入り口の前まで戻っていたが、サリアの姿はなかった。しばらくすると、リオたちも私たちと同じ場所に現れた。
「驚いたよ、あれ、マールがいないな」
リオの一言で、リオたちも案内役に出会ったのだと私たちは悟った。マールは、きっとリオたちの案内役の名前だろう。
このマレ島は私たちを強く鍛えてくれるようだ。頂上でゆっくりと身体を癒し、私たちは3日間滞在してダンジョンに挑み続けた。そしてマレ島を後にした。
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女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
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17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
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恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
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英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜
詩月結蒼
ファンタジー
白髪碧眼の美少女公爵令嬢に転生した主人公が「私って、主要人物なの!?」となり、読書のため脇役を目指し奮闘するお話です。
読書時間を満喫したいという思いから、あれやこれやと頑張りますが、主要人物である以上、面倒ごとに巻き込まれるのはお決まりのこと。
腹黒(?)王子にウザ絡みされたり、ほかの公爵令嬢にお茶会を持ちかけられたり。あるときは裏社会へ潜入して暗殺者を従者にし、またあるときは主要人物と婚約し……ん? あれ? 脇役目指してるのに、いつのまにか逆方向に走ってる!?
✳︎略称はあくモブです
✳︎毎週火曜日と金曜日午前0時更新です。
✳︎ファンタジー部門にて6位になりました。ありがとうございます(2025年10月7日)
✳︎カクヨムでも公開しております
→https://kakuyomu.jp/works/16818093073927573146
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
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レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
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