異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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長期休暇 東レ島2

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 ハリーとフィーナが東レ島に到着して以来、カイトの建築への悩みは少しずつ解消されつつあった。特に貴族らしい建築のイメージが固まらず困っていたカイトに対し、二人は良きアドバイザーになってくれていた。ハリーは研究熱心なタイプだが、貴族としての生活が体に染みついており、思いのほか頼りになった。
 
「いいか、カイト。貴族と言っても好みは人それぞれだし、考えすぎるのは良くない。ルルソン村の建物を見てきたが、カイトの手掛けたものはどれも素晴らしかった」
 
   ハリーはカイトの肩をぽんと叩き、そう言って微笑んだ。フィーナも上品に頷きながら話を続けた。
 
「私もそう思いましたわ。ですからカイト様が思うように建てるのが一番よろしいかと思います。その代わり、家具や装飾については色々とアドバイスさせていただきますわね。内装で随分雰囲気は異なりますから、カイト様はあまり考えすぎずにご自身の建てたいようにすべきです」
 
「もしそれでも気になるのなら、これを参考にするといい」
 
 そう言ってハリーは一冊の本を差し出した。
 
「これは叔父が出版した、様々な建築様式について書かれている本だ。叔父は建築の研究を長年していて、大陸を放浪するような人物でね。この中には貴族の住む屋敷についても書かれているから読んでみるといい。きっと、今まで悩んでいたことが何だったのか、感じると思うよ」
 
 さすがは研究大好きなビルツ伯爵家の家系だと私は納得した。
 
 翌日、その本を読み終えたカイトは、迷いが晴れたように晴れやかな表情をしていた。そして、建てたいものを具体的にマッドに話し始め、作業が再開された。
 

 私たちの陶器コンテストに出品する作品も完成したので、ハリーとフィーナにも見てもらい、感想を聞くことにした。お披露目する作品の作者が誰かは明かさずに、二人の目の前の机に並べると、二人は目を見開いて驚きを露わにした。
 
「すごいな、まさかこれほどの作品が拝めるとは思わなかったよ」
 
 ハリーが言うと、フィーナも後に続いた。
 
「本当にどれも素晴らしいですわ。特にこのティーカップは、何と申しましょうか、見ていると心が癒やされる気がいたします」
 
「俺もそう思う。これを作ったのはキャロルではないのか?」
 
 ハリーがそう言うと、フィーナも私の顔を覗き込んで言った。
 
「ええ、私もそう思いますわ。キャロルらしさがとても出ていますもの」
 
「キャロル、これはコンテストに出品するべきではない。このティーカップから、不思議な魔力を感じる。付与までされているよ」
 
   マッドが真剣な、少し怖い顔で言った。
 
「マッド様、何の付与でしょうか?」
 
 ジルが尋ねると、マッドが教えてくれた。
 
「安らぎプラス2だ。プラス2は大きすぎる。悪い付与ではないが、精神面で頼りすぎるようになりかねない。それに何よりもキャロルのことが心配だ」
 
 マッドの言葉に、私は自分の胸の内を振り返った。

 私はこの作品を作っている間、幸せに満ちていた。かけがえのない仲間に囲まれ毎日笑って暮らしていた。ずっとこんな素敵な日常が続きますようにと祈ったのだ。でもマッドの言うこともよく分かる。
 
「キャロル、俺は怒っているわけではないからな。誤解するなよ」
 
 少し落ち込んだ表情を見せた私に、マッドは優しくそう言った。昔、同じようなセリフをお父様が言っていたのを思い出し、私は少し笑ってしまった。
 
「でもマッド、陛下や殿下がこの付与を理解した上で使用するのは良いかもしれないよ。諍いごとが減れば国にとっては良いことだからね」
 
 リオがそう言うと、ジルも同意するように話を続けた。
 
「献上するのは良いかもしれませんね。もうすぐ王太子殿下の御成婚ですし」
 
「王太子殿下が気に入ってくださったら私も嬉しいし、戻ったらお父様に相談してみるわ。でもコンテストはすごく残念だわ。今から取り掛かっても間に合わないし」
 
 私がそう言うと、バンスが呆れた顔で言った。
 
「いやあ、そんな作品を出品されたら俺たちの作品が嘆くだろう。そのティーカップが俺の作った花瓶の隣にあるせいで、俺の渾身作が目立たないだろう!」
 
「バンス、キャロル様になんてことを言うの! 隣に並べてもらえるだけで素晴らしい名誉なのよ!」
 
 バンスとドナのいつもの掛け合いに、私は思わず笑みをこぼした。彼らの遠慮のない会話は、聞いていて本当に楽しかった。
 
 最終的に、それぞれの想いが込められた三人の作品は、審査員たちの心を掴み、素晴らしい賞を受賞した。特にエリィの作ったスープ椀は、日常生活に使いやすいと好評で、その後もシリーズ化されるほどだった。その場にいたジータも、作品の完成度を見てすぐにホテル用として発注依頼をした。

 
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