異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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南方大陸 帰還

 リド国での外交任務を無事に終え、マリアは安堵の表情を見せた。明日には、船でドレスデン国へ戻る予定だ。

 王太子殿下はまだ滞在すべき仕事があるらしく、あと五日ほど残るとのことだが、私たちには学院での学業があるため、慌ただしくはあるものの帰ることを決めた。
 
 終始、案内役がつき、自由に行動できないのは私たちにとって苦痛でもあった。ドヤンさんが言っていた「見せたい場所」とは、立派な貴族の建物や砂漠の中のオアシスだった。どちらも素晴らしいものではあるが、自由に見て回れないため面白みに欠けてしまう。ラクダにも乗せてもらったが、乗り慣れていないせいか、翌日には見事な筋肉痛になってしまった。
 
 私とマッド、ジル、ドナの四人の今日の予定は、リド国の市場、本屋、鉱石屋を巡ることだ。もちろん、案内人のドヤンさんとロナさんも一緒である。それでも、ホテルで待機しているマリアやリオたちよりは自由だった。笑顔はいつもと変わらないものの、リオの顔が日に日に疲弊していくのが見ていて分かる。普段なら冗談の一つでも言っているはずなのに、口数も少なく、その瞳はどこか遠くを見つめているようだった。
 
 面白かったのは、やはり市場だった。虫が普通に食用として売られているのだ。国外に持ち出す数に制限はあるが、私たちも買って帰ることにした。作り方についてはロナさんがレシピを贈ってくれた。
 
 薬膳料理にも役立ちそうな虫が多くいたので、私はそちらも購入した。
 
「キャロル様、この虫、すごく綺麗ですよね」

 ドナは目を輝かせながら、私に言った。
 
「そうね、色が何とも言えないわね、七色かしら?」
 
「そちらは染色用です。魔力を少し与えながら染色すると、驚くほど綺麗な色が出ますよ。見本がこちらです」
 
 店員さんが見本を見せてくれたが、本当に綺麗だった。布が動くたびにキラキラと七色に輝いて見える。
 
「魔力の属性によって色が少し異なります。見本の色は土属性ですね」
 
「火だと赤みが出るとかなの?」
 
「はい、一般的にはそうです。ですが同じ属性でも同じ色が出ることはないですね。魔力は人それぞれですからね」
 
 面白いので、私はこの虫の購入もした。
 
 ロナさんが店員さんの補足をするように教えてくれた。
 
「私たちの国はどちらかと言うと強靭な肉体を持っており魔力量は中央大陸の方と比べると少ないです。なのでどんな色になるか私にもとても興味があります」
 
「他の大陸の方は試さないのですか?」
 
 私が聞くと、ロナさんは苦笑いをしながら言った。
 
「国交が開いたのも28年前ですし、それに何より他の大陸の方は虫と聞いただけで興味を持たれませんし触ろうとしませんからね」
 
 どうやら、私たちが変わっているということらしい。
 
 本屋ではマッドや私は多くの本を購入した。当然だが、ドレスデン国にはない本もたくさんあり面白い。
 
「皆さん、リド国の言葉が堪能で本当に驚きました。それに読むことも出来るんですね。素晴らしいです」
 
 ドヤンさんが驚いていた。外国語は私たち全員が授業を受けていたし、成績もかなり良かったから自信はあったが、改めて褒められると少し照れてしまう。
 
 最後に鉱石屋に行くと、色とりどりの鉱石が店内いっぱいに飾られていた。
 
「友好の証として皆様に進呈されます。こちらにお掛けください」
 
 ロナさんに椅子を勧められて座ると、机の上に石が並べられた。
 
「お好きな石を手に取ってください。職人が加工してアクセサリーにします。国からのささやかな贈り物です」
 
 友好の証だから、断るわけにはいかない。私は一粒の黄色い石を手に取った。自分の髪の色にとてもよく似ていたからだ。マッドは控えめな藍色の石、ジルは迷うことなく灰色の石、ドナは散々迷ってオレンジ色の石を選んだ。
 
 翌朝には男性はネクタイピンになり女性にはネックレスになりホテルに届けられた。
 
 マッドが鑑定して教えてくれた。
 
「リド国の王家の紋章が刻印されているからこれを身につけていれば国賓だと分かるらしい。それに宝石自体もすごく価値がある素晴らしいものだ。値段はあえて言わないでおくよ」
 
 マリアとリオにはさらに一回り大きな石のアクセサリーだった。
 
 翌日、私たちは船に乗り込んだ。もちろん、ユウトも乗っている。
 
 心地のいい海風が吹き、船は南方大陸をゆっくりと離れていった。甲板では、ユウトが名残惜しそうに遠ざかる陸地を眺めている。彼の瞳には、かつて宿っていた不安の色は薄れ、どこか穏やかな光が灯っていた。私たちもまた、この旅で得た多くの経験と、そしてユウトさんとの再会という予期せぬ喜びを胸に、故郷への帰路についた。船は波を切り裂きながら、遥か彼方の水平線を目指して進んでいく。この旅で得た新しい出会いと経験を胸に、私たちは次の物語へと向かっていくのだった。

 
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