異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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魔物飼育店での嬉しい出来事

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 ギルド内のカフェで軽く食事を済ませてから、今日は念願の魔物飼育店へ行こうと思っていた。カフェに入ると、マーカスさんが食事をしているのが見えたので、声をかけて同席させてもらった。
 
「昨日は大変だったな。あの役人には前から悪い噂があったんだ。カルロがきっちり裁いてくれるだろうから安心しろ。それに指名手配の犯罪者を捕まえたんだから、謝礼だって出るだろうから期待していいぞ」
 
「そうですか。少し安心しました」マッドが答えた。
 
 4人で食べていると、そこにマーカスさんの父親であるお爺さんがやってきて、マーカスさんを退かせた。ガタイのいいマーカスさんが、実の父親には逆らえないようで、見ている私は思わず笑ってしまった。マーカスさんがカフェを出ていくと、お爺さんが「今から魔物飼育店へ行かないか?」と誘ってくれた。
 
「なんで今から僕たちが行こうとしているのが分かるの?」
 
 リオが尋ねると、お爺さんはニヤリと笑った。
 
「伊達に年を取ってないわ。顔を見ればわかるわい」
 
 え、そうなの?
 
 街にある小さな魔物屋ではなく、郊外にある本店に連れて行ってくれるらしい。馬車で2時間はかかるとのことなので、急いで支度をして出発することにした。
 
 郊外にある魔物飼育店は、広い土地に結界を張って魔物や動物を飼育しているようだった。私たちのお目当ては伝書鳩だ。それほど高くない上に、世話もほとんど必要ないらしい。福引券では鳩の餌などが当たるというから、ちょうどいい。
 
 店に着くと、店主が慌てた様子で駆け寄ってきて、お爺さんと大袈裟なほど親しげに挨拶を交わしていた。「やあ、じいさん! 今日も元気そうだねぇ!」と店主が言えば、お爺さんはニヤリ。「わしはいつも元気じゃわい!」と返す。どうやら昔からの知り合いで、よく一緒にお酒を飲む仲らしいが、店主の態度は少しばかりオーバーな気がした。
 
 店内に入ると、大きな木々が沢山植えられていて、まるでジャングルのような雰囲気だった。鳥たちの賑やかな鳴き声が響き渡り、どこからか獣の唸り声も聞こえてくる。
 
 最初に福引券を引くように言われたので、私が代表して引くことになった。結果は、なんと1等だ! さすが幸運スキル、実にいい働きをしてくれた。しかも、1等の景品は伝書鳩だった。店主は「おお! 一等が出たのは久しぶりだ!」と、これまた大袈裟に驚いていた。
 
 伝書鳩を見に行くと、50羽ほどの色とりどりの鳥たちが、所狭しと飛び回っていた。中には、明らかに太りすぎでヨチヨチ歩いている鳩もいて、マッドとリオと顔を見合わせて苦笑いした。
 
 店主のおすすめは、大きくてオレンジ色の派手な鳥だ。「どうだい? このド派手な奴! 飛ぶのも速けりゃ、目立つことこの上なし! おまけに偵察だってちょちょいのちょいだ!」と、捲し立てるようにアピールしてくる。ただし、値段を聞いてビックリ。福引券で当たるような値段ではなかった。
 
 私たちは手紙が出せればいいので、普通の伝書鳩にすることにした。
 
 私は小さな灰色をした鳥が気に入ったので、マッドとリオに尋ねてみた。
 
「この子はどうかな?」
 
「小さくて可愛いな。俺はいいと思う」マッドが即答した。
 
「僕も異論はないよ。可愛らしいと思う」リオも賛成してくれた。
 
 店主が私たちの選んだ小さな鳩を見て、困った顔で言った。
 
「うーん、この子、小さすぎて、もしかしたら手紙を運べないかもしれないぞ?」
 
 それを聞いたお爺さんが、店主に詰め寄った。
 
「伝書鳩で手紙が運べなかったら意味がないだろう! なんでそんなもんここで売っとるんだ!」
 
 店主は、お爺さんからの鋭いツッコミにタジタジになりながら、汗を拭いつつ小声で答えた。
 
「いやぁ、もっと大きく育つと思ったんだよ。ここにきて3ヶ月は経つんで、もう成鳥してるはずなんですけどねぇ……でも、ほら! ちっちゃくて、すごく愛嬌があるだろう」
 
「…………」お爺さんは納得がいかない様子で腕を組んでいる。
 
「いいんじゃないかな、もう1羽買えば」
 
 マッドが真面目な顔で言うと、店主はパッと顔を明るくして言った。
 
「よし! それなら、おまけをいくつかサービスするよ!」
 
「それなら、もう1羽はこの黒いカラスはどうかな?」
 
 リオが指さすと、店主は顔をしかめて言った。
 
「カラスかい? こいつは賢いんだが、気難しいところがあってな……人に懐くかどうか……」
 
 それを聞いたお爺さんが、またしても店主に質問を繰り出した。「伝書鳩が人を選ぶなんて、そんなもん使い物になんだろうが! なんでここで売っとるんだ!」
 
「…………」店主はもう完全に言葉を失い、苦笑いを浮かべている。
 
「いいんじゃないかな、もう1羽買えば」
 
 マッドが少し笑いながら言うと、店主はもう降参したように言った。
 
「あー、いいだろう! 更にとっておきのおまけを付けようじゃないか!」
 
「では、最初のおすすめの鳥を付けてもらおうかのう、ハッハッハ!」

 お爺さんが勝ち誇ったように大声で笑い、店主はげっそりとした顔で、もう1羽のおすすめを紹介し始めた。

「こっちの鳥も素晴らしいよ! 最近来たばかりなんだが、頭も良いし、大きさも手頃で、絶対に手紙は運べるからね! それに、これほど美しい羽の色はなかなかいない!」
 
 藍色の羽に黄色のクチバシの、とても美しい鳥だった。最初に見せてもらったオレンジの子より、一回り小さい。店主は、どこか疲れた笑顔で「この子なら、間違いない」と付け加えた。
 
 結局、店主は3羽と餌、それに可愛らしい鳥籠を1つ付けて、最初の値段からかなり値引きして7万リラで売ってくれると言う。マッドを見ると、ニヤニヤと面白そうに笑っていたので、きっといい買い物ができたのだろう。店主のぐったりした様子を見る限り、相当無理を聞いてもらったのかもしれない。
 
 役所に提出するために鳥たちに名前を決めて、書類にサインをしてほしいと言われたので、3人がそれぞれの鳥の所有者になり、書類にサインをした。
 
 * 小さな灰色の鳥:ピッピ   所有者:キャロル
 * 藍色の羽の鳥:ラピス   所有者:マッド
 * 黒いカラス:クロ   所有者:リオ
    
    私はピッピに挨拶をした。
    
   「ピッピ、私はキャロルよ。これからよろしくね」
    
    そう言ったら、ピッピが私の頭の中に話しかけてきたのだ。

「キャロル、よろしくね。手紙は運べるから安心してね」

 「えっ、えっ、えぇーっ!」
 
 マッドが私の口を手で塞いで、耳元で小声で喋ってくる。
 
「後で説明するから、今は静かにして」
 
 最後に店主は、3割引の割引券までくれた。
 
「期限はないものだから渡しておくよ、またおいでね」
 
 お礼を言って、3羽を連れてお爺さんの家へ向かった。
 
 ピッピについてマッドが教えてくれたのは、ピッピもスノウと同じで聖獣だけど、まだまだ子供だから多くのことはできないらしいということだった。今できるのは、小さな結界と私の防御だけで、これから私と共に成長していろいろ覚えていくみたいだ。
 
 嬉しい! 頼もしい親友ができたように嬉しい。
 
 マッドのラピスは水魔法を使うことができて、魔力量も多い魔獣のようだった。マッドもラピスと魔獣契約を無事にできたととても喜んでいた。
 
 クロは見た目通りのカラスで、手紙の配達は店主が言っていたように性格的には無理そうだが、畑を守るには最適だとマッドが言っていた。クロはその辺の魔獣よりずっと強く、自分のものと思った物は命懸けで守る性格のようだ……それって、少し怖くないだろうか。リオもクロと無事に契約ができたようだった。
 
 そもそも、動物や魔獣が人間と契約することはほとんどないと言われている。マッドが言うには、自分たちの持つ膨大な魔力のお陰だろうと言っていた。とにかく、頼もしい仲間が増えて、私たちは大喜びだった。
 
 その日は遅くなってしまったので、マクミラン伯爵のお屋敷に泊めていただくことになった。そこで、マルクさんの娘さんのマリアンと少しだけ会話する機会があった。
 
「マリアンは普段、何をしているの?」
 
 リオが尋ねると、マリアンはふわりと笑って答えてくれた。
 
「私はお茶をしたり、楽器を弾くことが好きですわ。あとは刺繍も少ししますが、実はあまり得意ではありませんの」
 
 マリアンさんは、絵に描いたような伯爵令嬢だ。綺麗で可憐で、おっとりとした雰囲気が全身から漂っている。きっと、すごく大切に育てられたんだろうな、と見ていてよくわかる。男性なら誰もが「この淑女をお守りせねば!」と騎士の誓いを立てたくなるようなタイプだ。
 
「最近は何か面白いこととかあった?」
 なぜかマリアンさんの相手はリオがしている。私は黙って二人のやり取りを見守った。
 
「最近、王都で流行っているお芝居を私も見に行きましたわ。とても甘いお話だったので、ドキドキしながら観ましたけど、素晴らしかったですわ」
 
「恋愛の話ですか?」リオが身を乗り出して興味津々に尋ねる。
 
「ええ、王子様と村娘が恋に落ちる話です」マリアンは頬を少し染めて答える。
 
「へえ、楽しそうですね……」リオはそこで一度言葉を切ると、急に真顔になって、とんでもないことを言い出した。「マリアン、よそ行きの話じゃなくて、普通に話そうよ」
 
 一瞬、マリアンさんの顔から笑顔が消え、ポカンとした表情になった。
 マッドも「おいおい、リオ!」と心の中でツッコミを入れてるような顔をしていたが、時すでに遅し。

 しかし、次の瞬間、マリアンさんははにかむように笑った。
 
「そうですね。実は、私は本当はお父様のように商売がやってみたくて、密かに勉強もしているのです。だから、これからは私とも、もっとフランクに仲良くしてくださいね」
 
 マリアンは一見おっとりとしているが、どうやらそうでもなさそうだ。リオのストレートな一言が、まさかこんな隠された情熱を引き出すとは……まったく、リオには敵わないわ。
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