異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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側仕えについて マリア視点

マリア視点
 
 王都にあるブライトン侯爵邸で寛いでいるとキャロルが私に話し掛けてきた。
 
「ねえ、マリア、今度私がマリアに素敵なアクセサリーを贈るわね。ネックレスとブレスレット、どっちがいい?」
 
 キャロルが、目を輝かせながら私に話しかけてくれる。彼女の屈託のない笑顔を見ていると、自然と心が和む。
 
「キャロル、普段使いできる物にしないと駄目だぞ。そうだな、結界とか付けれたり出来るのか?」
 
 リオとキャロルが、私には理解出来ないことを話しているが、きっと魔法に関することなのだろう。するといつの間にかマッドも会話に入ってきた。
 
「リオ、そんなのは普段使いできないし、キャロルに余計なことをさせるなよ。またとんでもないものを作ってしまうだろう。そろそろ行くぞ」
 
 マッドの言葉に、キャロルは少し頬を膨らませていたけれど、すぐに諦めたように笑っていた。彼らのやり取りを見ていると、本当に仲が良いのだと改めて感じる。
 
 馬車の扉が開き、リオが私の手を取って、優しく馬車に乗せてくれた。彼の指は、温かくて、少しだけ緊張していた私の心を落ち着かせてくれる。
 
 今から奴隷商会に向かうようだ。生まれて初めての場所で、少しドキドキする。どんな人がいるのだろう。どんな場所なのだろう。奴隷商会の部屋に案内され、私は再び緊張で体が強張った。その時、リオが何も言わずに、私の手をそっと握ってくれた。彼の温かい手が、私の不安を少しずつ溶かしていく。凄く自然に接してくれているけれど、こういうことに彼は慣れているのだろうか?と、ほんの少しだけ不安になる。もしかして、私以外にも、誰かにこうして優しくしているのだろうか……。
 
 すると、キャロルが私の表情を読み取ったかのように、私を見て耳元に小声で言ってくれた。
 
「マリア、嫌だったらリオを叩いていいからね。リオはこういうの全く慣れていないから、多分、分かってないと思うわ」
 
 『慣れてない』というキャロルの言葉に、私は心底安心した。なんだ、そうだったのか。彼の優しさは、ただ純粋な思いやりからくるものなのだと分かり、私の頬は自然と緩んだ。そして、彼の握る手を、ぎゅっと握り返した。

 部屋の中には、六人の奴隷が前に並んでいた。彼らは皆、俯いて、何の感情も表に出していない。どんな人を選べばいいのか、私には全く分からなかった。自分で何かを選ぶという経験が、私にはほとんどなかったからだ。困ってリオを見てみたけれど、リオは私が自分で選んだ方がいいと考えているようで、あえて何も言わないようだ。
 
 ミシェラン侯爵であるお爺様が、私の戸惑いを感じ取ってくれたのか、私に何かを話したそうな表情をされていた。
 
「ミシェラン侯爵様はどう思われますか?」
 
「難しいですね。スキルを教えることはできますが、自分の身近に置くものだから、自身の感性に任せるのがいいと思いますよ」
 
 お爺様の言葉を聞いて、私は初めて、自分がこれまで、自分で何かを選ぶことをしたことがないのだと気づいた。王宮では、食事も服も、読む本ですら、すべて用意されていた。私の人生は、決められたレールの上を歩くだけだった。
 
 叔母様が、私の迷いを見かねて、優しく助言してくれた。
 
「一番右の女性は、私から見ると体力が無さそうに見えます。その隣の女性は逆で、体力はあるようだけど、少し落ち着きがなく思える。人は物ではありませんから、変えようと思っても性格や性質は簡単には変わりません。自分の隣にいても、お互いが我慢することなく、いい関係を保てると思った者がいいと思いますよ。リオの側仕えはボンドンです。ボンドンは何人かいる中で一番安かったし、パッしないと私は思いました。でもリオは迷わずボンドンを選んだ。彼が一番側にいて安らげるから選んだと、リオは言っていましたよ」
 
 叔母様の言葉で、少し分かった気がする。見た目やスキルだけでなく、一緒にいて心地よいか、互いを尊重できるか、それが一番大切なことなのだと。私はもう一度、一人ずつ、じっくりと観察してみた。彼らの表情、佇まい、そして、わずかに感じる彼らの内面を探ろうと努めた。
 
 しかし、どれだけ見つめても、私の心に響く者は、ここにはいなかった。焦って選ぶべきではない。これは、私の、そして選ばれる人の人生に関わることなのだから。
私は意を決して、皆に伝えた。
 
「ここには、私が心から望む方は居ないと思います。またの機会にしても構わないでしょうか?」
 
 私の言葉に、誰もが驚いた顔をしていた。しかし、誰も私を責める者はいなかった。お爺様も叔母様も、そしてリオも、静かに私の決断を受け入れてくれた。その優しさに、私は感謝した。
 
 次に行くのは、奴隷商店だ。こちらは主に犯罪奴隷を扱っていると聞いていたので、少し不安もあった。どんな場所なのだろう、どんな人がいるのだろう。
 
 先ほどより狭い部屋に案内された。店主は女性で、覇気のある、それでいてどこか知的な雰囲気をまとった綺麗な人だった。彼女は、私たちの意図を汲み取ったかのように、すぐに話し始めた。
 
「話しを聞いて、すぐに条件の合う娘を探したんです。一人だけ、ぴったりの女性がいました。彼女は他国の元子爵令嬢です。両親が借金を残して亡くなったので、その返済のために奴隷になりました。まだ実物を見ておりませんので、どのような方かは分かりません。ですが、年齢や教養、これまでの身分を考えると、マリア様のお相手としては申し分ないかと。購入の意志がありましたら、私が買付けます。買付けの場合は、最終的に購入しない場合でもお客様の負担金が別途発生します。彼女の場合の負担金は、五百万リラになります」
 
 店主の説明に、私は驚きを隠せない。五百万リラもの大金。そして、元子爵令嬢が、借金のために奴隷に……。
 
 ミシェラン侯爵が、店主の言葉に静かに頷いた。
 
「負担金五百万リラは問題ないので、手配をよろしく頼む。いつ頃になるだろうか?」
 
「すぐに連絡を取ってきますので、後ほど伝書鳩でお知らせさせて頂きます」
 
 店主はそう言って、部屋を後にした。まだ見ぬ彼女。どのような人なのだろう。新しい家族となるかもしれない彼女との出会いに、私の心は少しだけ、高鳴り始めていた。
 

 
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