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プロローグ
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始まりは、そう。
保育園の雲梯の下だったと思う。あの棒にぶら下がったら足が絶対に届かない遊具をよく覚えている。
私とあの子が仲良くなって一緒に遊ぶようになった頃。その日は私の髪型を真似たがるあの子の髪型を三つ編みにしてあげた。
私達はまだまだ非力で、雲梯の初めの棒から数本で手が痺れてしまって落ちてしまっていた。なんとか向こう岸まで辿り着きたくて、他に誰も遊んでいない青い色の雲梯で何度も挑戦していたね。
「やった、まんなか まで きたよ!」
私は数十回目の挑戦で少しコツを掴んできていた。じんじんする手を堪えながら後ろを振り返ると、あの子がキラキラした目でこちらを見ていた。
「わたし も がんばってみる!」
あの子が痛くなっていた手でもう一度棒にぶら下がろうとした瞬間ーー突然、男の子があの子を後ろから突き飛ばしたのだ。
「おい、ここは いまから オレ が あそぶんだ!」
*
「う、うぅ、う」
顔から倒れ込んでおでこから血を流すあの子は涙でぐちゃぐちゃになっていて、私はあんまりのことに驚いて、駆け寄ることしかできなくて。
「なんで。なんで」
何にもできないで雲梯の下で二人でうずくまっていた。泣いているこの子が可哀想で、痛々しくて。それなのにあの男子に言い返したりこの子に何かしてあげたりできない私が情けなくて私も泣いたのだ。この子は特別で大切な子なのに、目の前で傷つけられたことに私も傷ついた。
その内に誰かが先生を呼んでくれて、頭から角を出した先生が偉そうなボス猿みたいなさっきの男子を叱ってくれた。
「どうしてこんな酷いことをしたの! 姫乃ちゃんに謝りなさい!」
「ご、ごめんなさい」
さっきまで威張り散らかしていた男子が萎れた朝顔のように縮こまっている。私ができなかったことを、やりたかったことを、先生は軽々とやってのけた。
私はこのとき悟ったのだ。
“強くならなければならない”
大切なモノを守るには強くならなければならないのだ。弱くて情けないままでは負けてばかりなのだと。
*
私は弱い私を消して、新しく強い私になった。あの子のために。
*
それからずっと、私はあの子の側に居た。
登下校は当然一緒。クラスでも仲良し。放課後はお家で一緒に遊んだ。流石に大学からは会う時間はぐっと減ったけど。
お姫様のようなあの子ーー姫乃は昔から可愛かったけれど、20を超えた今でも砂糖菓子のようにふんわりして可愛い。キャラメル色の髪の毛をふんわりと巻いて、レースのワンピースをお気に入りにしていた。
一方で、私は苗字が岸だったこともあり姫をいつも守る騎士のようだと言われた。滅多にスカートは履かない。男のような格好をして切長の目をいつも光らせていた。姫が苦しまないように、悲しまないように、いつだって私は彼女を守るべきなのだから。
特に”悪い虫”がつかないようにすることには人一倍気を遣った。
あのボス猿はあれから何度もちょっかいを掛けてきたけれど、私は毎回追い払うことに成功していた。今では追い払う協力者だっている。
とはいえ、そろそろ姫乃にも将来を考えてほしいな、なんて思っていた今日この頃。姫乃に呼び出されたカフェで私は白目を剥くことになる。
「キシちゃん、実はね。私達結婚することになったんだ」
そう言って姫乃が照れながら手を繋いでいたのは、まさかのボス猿こと猿山 稔だった。
保育園の雲梯の下だったと思う。あの棒にぶら下がったら足が絶対に届かない遊具をよく覚えている。
私とあの子が仲良くなって一緒に遊ぶようになった頃。その日は私の髪型を真似たがるあの子の髪型を三つ編みにしてあげた。
私達はまだまだ非力で、雲梯の初めの棒から数本で手が痺れてしまって落ちてしまっていた。なんとか向こう岸まで辿り着きたくて、他に誰も遊んでいない青い色の雲梯で何度も挑戦していたね。
「やった、まんなか まで きたよ!」
私は数十回目の挑戦で少しコツを掴んできていた。じんじんする手を堪えながら後ろを振り返ると、あの子がキラキラした目でこちらを見ていた。
「わたし も がんばってみる!」
あの子が痛くなっていた手でもう一度棒にぶら下がろうとした瞬間ーー突然、男の子があの子を後ろから突き飛ばしたのだ。
「おい、ここは いまから オレ が あそぶんだ!」
*
「う、うぅ、う」
顔から倒れ込んでおでこから血を流すあの子は涙でぐちゃぐちゃになっていて、私はあんまりのことに驚いて、駆け寄ることしかできなくて。
「なんで。なんで」
何にもできないで雲梯の下で二人でうずくまっていた。泣いているこの子が可哀想で、痛々しくて。それなのにあの男子に言い返したりこの子に何かしてあげたりできない私が情けなくて私も泣いたのだ。この子は特別で大切な子なのに、目の前で傷つけられたことに私も傷ついた。
その内に誰かが先生を呼んでくれて、頭から角を出した先生が偉そうなボス猿みたいなさっきの男子を叱ってくれた。
「どうしてこんな酷いことをしたの! 姫乃ちゃんに謝りなさい!」
「ご、ごめんなさい」
さっきまで威張り散らかしていた男子が萎れた朝顔のように縮こまっている。私ができなかったことを、やりたかったことを、先生は軽々とやってのけた。
私はこのとき悟ったのだ。
“強くならなければならない”
大切なモノを守るには強くならなければならないのだ。弱くて情けないままでは負けてばかりなのだと。
*
私は弱い私を消して、新しく強い私になった。あの子のために。
*
それからずっと、私はあの子の側に居た。
登下校は当然一緒。クラスでも仲良し。放課後はお家で一緒に遊んだ。流石に大学からは会う時間はぐっと減ったけど。
お姫様のようなあの子ーー姫乃は昔から可愛かったけれど、20を超えた今でも砂糖菓子のようにふんわりして可愛い。キャラメル色の髪の毛をふんわりと巻いて、レースのワンピースをお気に入りにしていた。
一方で、私は苗字が岸だったこともあり姫をいつも守る騎士のようだと言われた。滅多にスカートは履かない。男のような格好をして切長の目をいつも光らせていた。姫が苦しまないように、悲しまないように、いつだって私は彼女を守るべきなのだから。
特に”悪い虫”がつかないようにすることには人一倍気を遣った。
あのボス猿はあれから何度もちょっかいを掛けてきたけれど、私は毎回追い払うことに成功していた。今では追い払う協力者だっている。
とはいえ、そろそろ姫乃にも将来を考えてほしいな、なんて思っていた今日この頃。姫乃に呼び出されたカフェで私は白目を剥くことになる。
「キシちゃん、実はね。私達結婚することになったんだ」
そう言って姫乃が照れながら手を繋いでいたのは、まさかのボス猿こと猿山 稔だった。
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