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I
しおりを挟む「なんっっっっで!!!!!!」
その日の夜、私は馴染みになったバーでカルアミルクをあおった。
信じられない。
姫乃と猿山が付き合っていたことも、話すような仲になっていることすら知らなかった。結婚するというのはもう、本当にあり得ない。
「まぁまぁ、岸さん。落ち着いて」
「これが落ち着いてられるわけがない!!」
私の隣に居る好青年は大学の同期、三隅洋輔だ。今は24歳の大手銀行員。仔犬系の顔をしているが、スマートに周囲の調整が出来る気が利く男である。その手腕から将来有望株に違いないと勝手に私は思っている。
一方で24歳の私は、輸入雑貨を扱う会社の経理をしていた。仕事中は長めの髪を一纏めにしている私には何故かファンクラブが出来ているらしい。だからといって、特に構うことはないのだけれど。
会社に勤めながら小物作家をしている姫乃がいつか独立した際に、私の得意な分野で力になりたいと考えている。そのために得られるモノを全て得るために働いているだけだ。
三隅は静かに私にチェイサーを渡した。
「よくこれで本人達の前では平然としていましたね」
「姫乃の前で取り乱したりはしないから」
どんな状況でも、私は姫乃の騎士なのだ。
カッコよく動じない存在になるべく鍛錬をしてきた甲斐がこのようなところで発揮されるとは。
「どこで間違えたのかな......」
*
心当たりは、ある。
同い年の私達ーー姫乃、猿山、私は地元の同じ大学に進学したけれど、二人は総合学部で私だけが経済学部で学部が違った。
(このままでは姫乃が猿山と接点を持ってしまう)
猿山という危険要素を排除するために、私は同じ講義をとっていたことで仲良くなった総合学部の三隅に目をつけた。私がいないときに姫乃を見てくれるように、と頼んでいたのだ。
三隅は当時から誠実そうな見た目で見た瞬間に好印象を持った。チームプレゼンのときに、リーダーにはならないが、チーム全体のアシストをさりげなくするようなタイプだ。
私は二番手になることが多く、議論の方向性を修正するときなどに反発を買いやすい。そのようなときに自然にフォローを入れてくれる仕草が有能だと思っていたのだ。
“岸さんの頼みなら良いですよ”
そう言って無茶な頼みを引き受けてくれたのを覚えている。姫乃と三隅、そして私の三人はすぐに仲良くなった。
よく、三人でショッピングや映画などにも行った。楽しい大学生活だったと思う。
(それなのに、猿山の奴! いつの間に......)
三隅だって四六時中姫乃の側にいられたわけではないので、その間に猿山の毒牙にかかってしまったのかもしれない。そうであれば三隅に罪はない。
いや、でも。
私は三隅の端正な顔を見つめる。
この話をするのは初めてなのにあまり驚いていないように見えるのは気のせいだろうか。
「っていうか、もしかして、三隅、二人のこと知ってた......?」
隣で烏龍茶を飲む三隅は困ったように微笑んだ。
「はい、知ってました」
ここに来て爽やかな声での裏切り。
「な、なんで」
「二人がお似合いだと思ったからです」
全く意味がわからない。
私は項垂れてもう一杯カルアミルクを頼んだ。
「私は三隅になら姫乃を託せると思ってたのに。カッコいいし、穏やかだし、誠実そうだし。今からでも姫乃のこと救ってあげてくれないか」
“それは出来ないですね”と三隅は苦笑いした。カウンターにのせた私の手に三隅の手の温もりが加わる。
「俺が好きなのは岸さんだから」
飲みかけのカルアミルクが大きく揺れた。意外だった。私は三隅の手をやんわりと離す。
「三隅でもそんな冗談言うんだ。私は姫を守る騎士だ。冗談も恋愛もしてる暇ないんだから」
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