Erased Knight/Princess

藍沢 紗智子

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IV

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 猿山の話はよくある話だった。

 保育園の頃に可愛くて気になる子が居た。構ってほしくてちょっかいを出すことにした。幼いが故に愛情の表現方法がわからず、ひとまず背中を押して興味を引きたかったという。

(なんだ、やはり猿だったんじゃないか)

 姫乃の可愛さに幼い頃から気付けた心眼は認めるが、あまりにも幼稚だと思った。

 しかし、ここからは予期せぬ話だった。

「髪型が同じで後ろ姿を間違えたんだ」

 猿山が背中を押そうとしていたのは違う女の子だったらしい。髪型のせいで間違えて姫乃に怪我をさせてしまったのだという。力加減も手加減できずに強かった。

「......なんて可哀想なことを」

 では、姫乃はとばっちりではないか。

 姫乃はあの事件で額を縫うことになった。おでこの中心にできた傷は大人になっても消えず、姫乃はずっと傷を隠すように前髪を作っている。

“私、前髪くらい気にしないよ”

 姫乃は気丈に振る舞ってはいたが、人生において何度かは思い悩んだことだろう。猿山と結婚することになったけれど、相手が猿山でなければもっと思い悩んでいたはずだ。

「全部俺のせいだ。姫乃には傷をつけてしまったし、お前にもずっと変に責任負わせてしまった。悪かった」

 すくっと立って私に向かって謝罪をする猿山。すまなかった、と90度に腰を曲げる猿山は私が見てきたどんな猿山よりも大人だった。

「い、今更謝られたって」

「あぁ、今更だ。今更だけど、俺は今本気で姫乃を愛している。出会った頃はお前がーー」

「猿山、それ以上は」

 三隅が猿山の言葉を遮った。
 何故か怒っているように見えるのは私だけだろうか。

 猿山は口をもごもごさせて、最後にこれだけは伝えたいと言い出した。

「姫乃にはこれからは俺が居る。だから、お前はもう姫乃を守らなくて良いんだよ」

 春のまだ冷たさの残る風が強く吹いた。
 まるで、私はもう用済みだという風に聞こえた。



「平気ですか?」

「あぁ、うん」

 帰り道、猿山と別れた後は三隅が送ってくれると言い出した。夜でもないから大丈夫、と言っても聞かない。学生時代はこんなことはなかったのに。

「もし、姫乃じゃなくて本当に猿山が好きだった子が怪我をしていたら、私の人生は変わっていたかな」

「もし仮にそんなことがあれば俺が猿山をシメていました」

「?」

 三隅の言葉は小さくて聞こえなかった。
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