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IV
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猿山の話はよくある話だった。
保育園の頃に可愛くて気になる子が居た。構ってほしくてちょっかいを出すことにした。幼いが故に愛情の表現方法がわからず、ひとまず背中を押して興味を引きたかったという。
(なんだ、やはり猿だったんじゃないか)
姫乃の可愛さに幼い頃から気付けた心眼は認めるが、あまりにも幼稚だと思った。
しかし、ここからは予期せぬ話だった。
「髪型が同じで後ろ姿を間違えたんだ」
猿山が背中を押そうとしていたのは違う女の子だったらしい。髪型のせいで間違えて姫乃に怪我をさせてしまったのだという。力加減も手加減できずに強かった。
「......なんて可哀想なことを」
では、姫乃はとばっちりではないか。
姫乃はあの事件で額を縫うことになった。おでこの中心にできた傷は大人になっても消えず、姫乃はずっと傷を隠すように前髪を作っている。
“私、前髪くらい気にしないよ”
姫乃は気丈に振る舞ってはいたが、人生において何度かは思い悩んだことだろう。猿山と結婚することになったけれど、相手が猿山でなければもっと思い悩んでいたはずだ。
「全部俺のせいだ。姫乃には傷をつけてしまったし、お前にもずっと変に責任負わせてしまった。悪かった」
すくっと立って私に向かって謝罪をする猿山。すまなかった、と90度に腰を曲げる猿山は私が見てきたどんな猿山よりも大人だった。
「い、今更謝られたって」
「あぁ、今更だ。今更だけど、俺は今本気で姫乃を愛している。出会った頃はお前がーー」
「猿山、それ以上は」
三隅が猿山の言葉を遮った。
何故か怒っているように見えるのは私だけだろうか。
猿山は口をもごもごさせて、最後にこれだけは伝えたいと言い出した。
「姫乃にはこれからは俺が居る。だから、お前はもう姫乃を守らなくて良いんだよ」
春のまだ冷たさの残る風が強く吹いた。
まるで、私はもう用済みだという風に聞こえた。
*
「平気ですか?」
「あぁ、うん」
帰り道、猿山と別れた後は三隅が送ってくれると言い出した。夜でもないから大丈夫、と言っても聞かない。学生時代はこんなことはなかったのに。
「もし、姫乃じゃなくて本当に猿山が好きだった子が怪我をしていたら、私の人生は変わっていたかな」
「もし仮にそんなことがあれば俺が猿山をシメていました」
「?」
三隅の言葉は小さくて聞こえなかった。
保育園の頃に可愛くて気になる子が居た。構ってほしくてちょっかいを出すことにした。幼いが故に愛情の表現方法がわからず、ひとまず背中を押して興味を引きたかったという。
(なんだ、やはり猿だったんじゃないか)
姫乃の可愛さに幼い頃から気付けた心眼は認めるが、あまりにも幼稚だと思った。
しかし、ここからは予期せぬ話だった。
「髪型が同じで後ろ姿を間違えたんだ」
猿山が背中を押そうとしていたのは違う女の子だったらしい。髪型のせいで間違えて姫乃に怪我をさせてしまったのだという。力加減も手加減できずに強かった。
「......なんて可哀想なことを」
では、姫乃はとばっちりではないか。
姫乃はあの事件で額を縫うことになった。おでこの中心にできた傷は大人になっても消えず、姫乃はずっと傷を隠すように前髪を作っている。
“私、前髪くらい気にしないよ”
姫乃は気丈に振る舞ってはいたが、人生において何度かは思い悩んだことだろう。猿山と結婚することになったけれど、相手が猿山でなければもっと思い悩んでいたはずだ。
「全部俺のせいだ。姫乃には傷をつけてしまったし、お前にもずっと変に責任負わせてしまった。悪かった」
すくっと立って私に向かって謝罪をする猿山。すまなかった、と90度に腰を曲げる猿山は私が見てきたどんな猿山よりも大人だった。
「い、今更謝られたって」
「あぁ、今更だ。今更だけど、俺は今本気で姫乃を愛している。出会った頃はお前がーー」
「猿山、それ以上は」
三隅が猿山の言葉を遮った。
何故か怒っているように見えるのは私だけだろうか。
猿山は口をもごもごさせて、最後にこれだけは伝えたいと言い出した。
「姫乃にはこれからは俺が居る。だから、お前はもう姫乃を守らなくて良いんだよ」
春のまだ冷たさの残る風が強く吹いた。
まるで、私はもう用済みだという風に聞こえた。
*
「平気ですか?」
「あぁ、うん」
帰り道、猿山と別れた後は三隅が送ってくれると言い出した。夜でもないから大丈夫、と言っても聞かない。学生時代はこんなことはなかったのに。
「もし、姫乃じゃなくて本当に猿山が好きだった子が怪我をしていたら、私の人生は変わっていたかな」
「もし仮にそんなことがあれば俺が猿山をシメていました」
「?」
三隅の言葉は小さくて聞こえなかった。
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