Erased Knight/Princess

藍沢 紗智子

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III

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 奴の顔を見た瞬間に口から出た言葉は二文字だ。

「遅い」

「待ち合わせ時刻ジャストに着いて遅いわけないだろ」

 猿山に考えられるありとあらゆる嫌味、そして罵声を届けたい。春風がちょっと肌寒いことも、猿山が大学時代ぐらいから変わって来て、しっかりした人格者になってきていたことも全てが憎らしい。

(そう、コイツは少しずつ変わっていった)

 粗野で横暴で知恵のない猿から少しずつ人語を解するようになっていたのだ。それを私はずっと見ないフリをしてきた。

(何故だか、コイツと顔を合わせるのが気まずかったから)

 その理由は今でもよくわからない。

 アウトドア専門店のアウターが不覚にも似合うガッチリとした体格の猿山は、昨日の話ではイベント会社でインストラクターをやっているらしい。そんな収入で姫乃を養えるのかとか怪我をしたらどうするのかとか散々聞いた気がする。

(姫乃がいざとなったら自分が支えると言い出したのには驚いた)

 姫乃がいつの間にかしっかりした子になっていたことも、猿山との信頼関係が厚いことにも私は全然気が付けて居なかったのだ。

「で、話とは」

 早く話を終わらせたい。イライラする私を前に大男の猿山の影から、ひょっこりと昨夜見たばかりの人影が現れた。

「岸さん、ちょっと落ち着いて」

「なんで三隅まで......」

 私は開始早々裏切られた気分でいっぱいだ。姫乃も三隅も、どうして猿山の味方をするのだろう。

「姫乃っていう婚約者がいる手前、お前と二人で会うのは憚られるからな。それに昨日みたいな話がしたいわけじゃない。無理言って三隅に来てもらったんだ。姫乃が居なくて三隅が居ればお前とちゃんと腹を割って話せると思ったから」

 三隅は私の感情セーブ機なんかじゃない。私を知ったかするような猿山の発言も、ノコノコと着いてきてしまう三隅も皆嫌いだ。

(そもそも三隅は私のことが好きとかなんとかのジョークを言ったあとに、なんで猿山に付くんだ)

 私が三隅をキッと睨んでも三隅はどこ吹く風だ。私、三隅、猿山の順で公園のベンチに座るとちょうど雲梯が目の前に見える位置だった。保育園のものとは違うピンクの雲梯。成長しすぎた私たちはもう棒にぶら下がることも足を足を浮かせることすら出来ない。

「どこから話そうか。いや、あの雲梯事件からかな」
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