4 / 10
III
しおりを挟む
奴の顔を見た瞬間に口から出た言葉は二文字だ。
「遅い」
「待ち合わせ時刻ジャストに着いて遅いわけないだろ」
猿山に考えられるありとあらゆる嫌味、そして罵声を届けたい。春風がちょっと肌寒いことも、猿山が大学時代ぐらいから変わって来て、しっかりした人格者になってきていたことも全てが憎らしい。
(そう、コイツは少しずつ変わっていった)
粗野で横暴で知恵のない猿から少しずつ人語を解するようになっていたのだ。それを私はずっと見ないフリをしてきた。
(何故だか、コイツと顔を合わせるのが気まずかったから)
その理由は今でもよくわからない。
アウトドア専門店のアウターが不覚にも似合うガッチリとした体格の猿山は、昨日の話ではイベント会社でインストラクターをやっているらしい。そんな収入で姫乃を養えるのかとか怪我をしたらどうするのかとか散々聞いた気がする。
(姫乃がいざとなったら自分が支えると言い出したのには驚いた)
姫乃がいつの間にかしっかりした子になっていたことも、猿山との信頼関係が厚いことにも私は全然気が付けて居なかったのだ。
「で、話とは」
早く話を終わらせたい。イライラする私を前に大男の猿山の影から、ひょっこりと昨夜見たばかりの人影が現れた。
「岸さん、ちょっと落ち着いて」
「なんで三隅まで......」
私は開始早々裏切られた気分でいっぱいだ。姫乃も三隅も、どうして猿山の味方をするのだろう。
「姫乃っていう婚約者がいる手前、お前と二人で会うのは憚られるからな。それに昨日みたいな話がしたいわけじゃない。無理言って三隅に来てもらったんだ。姫乃が居なくて三隅が居ればお前とちゃんと腹を割って話せると思ったから」
三隅は私の感情セーブ機なんかじゃない。私を知ったかするような猿山の発言も、ノコノコと着いてきてしまう三隅も皆嫌いだ。
(そもそも三隅は私のことが好きとかなんとかのジョークを言ったあとに、なんで猿山に付くんだ)
私が三隅をキッと睨んでも三隅はどこ吹く風だ。私、三隅、猿山の順で公園のベンチに座るとちょうど雲梯が目の前に見える位置だった。保育園のものとは違うピンクの雲梯。成長しすぎた私たちはもう棒にぶら下がることも足を足を浮かせることすら出来ない。
「どこから話そうか。いや、あの雲梯事件からかな」
「遅い」
「待ち合わせ時刻ジャストに着いて遅いわけないだろ」
猿山に考えられるありとあらゆる嫌味、そして罵声を届けたい。春風がちょっと肌寒いことも、猿山が大学時代ぐらいから変わって来て、しっかりした人格者になってきていたことも全てが憎らしい。
(そう、コイツは少しずつ変わっていった)
粗野で横暴で知恵のない猿から少しずつ人語を解するようになっていたのだ。それを私はずっと見ないフリをしてきた。
(何故だか、コイツと顔を合わせるのが気まずかったから)
その理由は今でもよくわからない。
アウトドア専門店のアウターが不覚にも似合うガッチリとした体格の猿山は、昨日の話ではイベント会社でインストラクターをやっているらしい。そんな収入で姫乃を養えるのかとか怪我をしたらどうするのかとか散々聞いた気がする。
(姫乃がいざとなったら自分が支えると言い出したのには驚いた)
姫乃がいつの間にかしっかりした子になっていたことも、猿山との信頼関係が厚いことにも私は全然気が付けて居なかったのだ。
「で、話とは」
早く話を終わらせたい。イライラする私を前に大男の猿山の影から、ひょっこりと昨夜見たばかりの人影が現れた。
「岸さん、ちょっと落ち着いて」
「なんで三隅まで......」
私は開始早々裏切られた気分でいっぱいだ。姫乃も三隅も、どうして猿山の味方をするのだろう。
「姫乃っていう婚約者がいる手前、お前と二人で会うのは憚られるからな。それに昨日みたいな話がしたいわけじゃない。無理言って三隅に来てもらったんだ。姫乃が居なくて三隅が居ればお前とちゃんと腹を割って話せると思ったから」
三隅は私の感情セーブ機なんかじゃない。私を知ったかするような猿山の発言も、ノコノコと着いてきてしまう三隅も皆嫌いだ。
(そもそも三隅は私のことが好きとかなんとかのジョークを言ったあとに、なんで猿山に付くんだ)
私が三隅をキッと睨んでも三隅はどこ吹く風だ。私、三隅、猿山の順で公園のベンチに座るとちょうど雲梯が目の前に見える位置だった。保育園のものとは違うピンクの雲梯。成長しすぎた私たちはもう棒にぶら下がることも足を足を浮かせることすら出来ない。
「どこから話そうか。いや、あの雲梯事件からかな」
10
あなたにおすすめの小説
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
Fly high 〜勘違いから始まる恋〜
吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。
ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。
奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。
なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる