続・乙女ゲームのヒロインに転生した(仮)

白雪の雫

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続・乙女ゲームのヒロインに転生した(仮)

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【Forever~貴女に永遠の愛を~】のヒロインであるベルゼフォーネとして転生してしまった水無月 蘇芳は、メンタルが絹ごし豆腐よりも柔い攻略対象者共に会いたくない事と彼等の婚約者に虐められたくないという理由で本人が必死になって拒否していたにも関わらず、娘の才能を開花させたいという親心で両親が入学金や授業料を納めてしまったので仕方なく・・・本当に仕方なくリュミエール学園に通っていた。
(※短編では語っていませんが、蘇芳としての記憶を取り戻したベルゼフォーネは数独・クロスワードといった娯楽を中心に商業ギルドに登録して個人的に大金を稼いでいます)
ゲームのベルゼフォーネは全属性の魔法を簡単に使いこなせるチートであったが、中身は某イケオジなエリート警視長と中二病を患っている某連続殺人鬼のように気品と教養を兼ね備えているだけではなく身体能力にも優れていた蘇芳だ。
ゲームよりもスペックの高い現実の彼女は、本来であれば貴族科に入学するはずだった。
だが、幼馴染みの結衣がプレイしていたのを隣で見ていてストーリーを知っていたし、何と言っても貴族科は名前が示す通り貴族子女しか選択しない学科だ。
理論上は男爵令嬢のベルゼフォーネも貴族科に進む事は出来る。しかし、その実態は伯爵家以上の子女が占めるクラスなのだ。そのような場所に男爵家の子女が入って来たらどうなるか───。
『男爵令嬢が自分の家よりも位の高い貴族がいる貴族科に進める訳がないじゃない。虐められるのが目に見えているわ』という感じで両親を言い含めたベルゼフォーネは、彼等が高位貴族の子女というプライドを守る為に決して籍を置かない学科───商業科の生徒になる事が出来た。
(例:自分の家が貧乏だと分かっているのに、侯爵家というプライドがある。見栄の為に貴族科より授業料が安い一般科や騎士科には籍を置かないという感じです)
最初は公務員になろうかと思ったベルゼフォーネが官吏科ではなく商業科を選んだのは理由がある。
公務員=王宮勤め。
つまり、攻略対象者共と顔を会わせる可能性が高いかも知れないと思ってしまったベルゼフォーネは、将来安定の公務員になるのを諦めて商業科のクラス入りを目指したのだ。
前世では王族や上流階級の人達の前でマジックを披露していた超一流のマジシャンだった事もあり、肌理細やかな気遣いと巧みな話術ですぐに商業科と一般科の生徒達の心を掴んだベルゼフォーネはクラスに馴染んだ。
またゲームとは異なり現実のベルゼフォーネが選んだ学科は商業科なのだから、当然メンタルが絹ごし豆腐よりも柔い攻略対象者共との出会いイベントが起こるはずなどない。
そうなると必然的に彼等の婚約者による陰湿で壮絶な虐めが起こらなくなる。
仲良くなった平民や自分と同格の家柄である女子生徒達とガールズトークに花を咲かせたり、休日には街に出かけてショッピングや食べ歩きを楽しんだり、学園祭やオリエンテーションを楽しんだりという風に平穏な学園生活を送る事が出来た。
学園に通っていた間、ある子爵令嬢が貴族科に入ったとか、その令嬢がケイオス達に言い寄っていたとか、王太子にして攻略対象者の一人であるハーディスの婚約者・ヘカーテが彼等の心の闇(笑)を解消して逆ハーレムを築いているらしいとか、ヘカーテと彼女の取り巻きと化してしまったメンタルが柔い攻略対象者共が子爵令嬢に冤罪を被せようとしたとか風の噂で聞いたのだが、事実かどうかは分からない。
というより、自分には関係ないのでヘカーテの事などベルゼフォーネにしてみればどうでもいい話だった。
ゲーム補正とヒロイン補正を恐れていた当初はリュミエール学園に通うのは嫌だったが、カラフルな攻略対象者共およびセットに時間がかかっていそうな縦ロールヘアーの悪役令嬢共に一切関わらなかったし、何より気の置けない友人が出来たものだから学園生活は楽しかった。
リュミエール学園に通えて良かったと、今は心の底からそう思う事が出来る。
「先生方、心よりお礼を申し上げます──・・・」
(俺が名もないモブ男として転生していたら・・・・・・就職先で彼女を作って脱童貞が出来たんだろうな~)
舞台に立つ卒業生代表による挨拶を聞き流しながらベルゼフォーネは前世と未来に思いを馳せる。
(でも、前世の俺は宏樹さんによって女を抱けない身体にされただけではなく、プロポーズまでされてしまったからさ。そんな俺が脱童貞なんて夢のまた夢だよな~・・・)





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





『俺の人生にはお前が必要なんだ。蘇芳、俺と結婚してくれ・・・』
『宏樹さん・・・』
(俺にはマジシャンになるという夢がある。それに、家を継いだ宏樹さんは俺なんかより相応しい女性を選ばないといけない。だから俺は──・・・)






『さよなら、宏樹さん。俺達は二度と会う事はないでしょう・・・』





高校を卒業したその日、蘇芳は日本を去った。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





当時の蘇芳は若かった事もある。
自分が姿を消す事が、宏樹にとって最善だと思っていたからこそ何も言わず海外に渡ったのだ。
(いや・・・本当は怖かったんだ。あの時の俺には宏樹さんの想いを受け止める勇気がなかったから・・・・・・)
本当の意味で宏樹を受け入れたら、自分が自分でなくなるような気がした蘇芳は逃げた。
己の行為を正当化する為に理由を並べてもそれが真実なのだ。
(・・・・・・あれ?何か今日の俺はおかしいな。卒業式の最中だというのに、気が付けば宏樹さんの事ばかり思い出してる)
前世の自分が現世のように女性であったのなら、間違いなく宏樹と共に歩む道を選んだのかも知れない。
(宏樹さん・・・)
自分は宏樹を兄のように慕っていた。
幼馴染みの結衣に対して抱いた淡くて仄かに甘い恋心ではなく、甘美でありながら胸を焦がし締め付けられる程に苦しい愛情を宏樹に抱いた。
そして自分に向けられる、宏樹の激しく情熱的な想いからから逃げた。
二度と会えない男を想いベルゼフォーネは静かに涙を流す。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










学園を卒業したと同時に家を継ぐ者もいれば、結婚する者もいる。
王宮勤めになる者もいれば、商人となる為にどこかの店で働く者もいる。
魔法を極める道に進む者もいれば、学問の研究に進む者もいる。
卒業後の進路は人それぞれだ。
王都でも指折りの品揃えを誇るトワイライト雑貨店に就職する事が決まっていたベルゼフォーネは、領地に戻らず新天地へと向かっていた。
アパートから歩く事暫く
トワイライト雑貨店の裏口に到着したベルゼフォーネが足を踏み入れると、店内にいたのは見覚えのない一人の青年だった。
「当店は開店準備中です、美しいお嬢さん」
「いえ。私は客ではなく今日からここで働く事になった「ああ、ベルゼフォーネさんか。俺は店主のベルゴフェールだ。君の事は面接を担当したウィレム君から聞いているよ」
早速だけど──・・・
仕事の説明を受ける為、ベルゼフォーネは青年と共に奥の部屋へと消える。










(ここって雑貨店だよな?!間違ってもホストクラブじゃないよな?!)
ベルゼフォーネが心の中で驚くのも無理はない。
年の頃は分からないが、おそらく自分より十くらい上ではないだろうか。
店主はベルゴフェール=リヒトミステルという、見た目だけではなく声までもが【歩く18禁】という言葉を具現化した男だったのだ。
(この人・・・攻略対象者共よりカッコいいな。というより、店主・・・宏樹さんじゃねぇか!!!って事は何か?宏樹さんもこの世界に転生していたのかよ?!)
宏樹は180cm超えの長身に端正な顔立ちをしていた黒髪の青年で、身体能力面においても蘇芳を上回っていた。
蘇芳も某イケオジな警視長並みにスペックが高かったけど、身長が170cm台だったし体格も貧相だったので男として負けたと何度も思った事か───。
(※貧相というか細身でした)
一方のベルゴフェールはシルバーブロンド色の髪に190cm近い長身、攻略対象者共など足元にも及ばない美形であるだけではなく、声もエロい。しかも、男の色気というものがダダ漏れである。
正に歩く18禁!
こうやって比べると宏樹とベルゴフェールは別人だとしか思えない。だが、猛禽類を思わせる鋭い目つきと有無を言わさぬ雰囲気がベルゴフェールは宏樹の生まれ変わりなのだと、ベルゼフォーネの勘がそう訴えているのだ。
ベルゼフォーネの前世は、常に笑みを浮かべながら場の雰囲気を盛り上げる世界で生きていたマジシャンなのでメンタルも強い。
当然、相手に自分の考えを悟られないように表情を取り繕う事だって出来る。
「分かりました。では、仕事に取り掛かりますね」
ベルゴフェールによる説明を聞き終えたベルゼフォーネは平静を装いつつ逃げるように部屋を出て行く。










(つ、疲れた・・・)
「今日は本当にやばかった」
アパートに着くなりベッドに身を投げたベルゼフォーネは、天井を眺めながら今日の事を思い出す。
新人という事もあるのか、ベルゴフェールは親切に仕事を教えてくれたし、傍から見ればミスをしたらフォローする為に見守っていたように思えるだろう。
だが、ベルゼフォーネには分かる。
周囲の従業員達に気づかれないよう、ベルゴフェールは自分の一挙手一投足を探っていたのだ。
「まさか、店主は・・・宏樹さんは俺が蘇芳だって気が付いた、のか?」
いや、そんなはずがない。
今の自分は前世と性別だけではなく外見だって異なっている。
だが、相手は敏腕経営者で洞察力に優れていた宏樹の転生体。
何気ない一つの仕種と一言だけで宏樹ことベルゴフェールが、ベルゼフォーネが蘇芳の生まれ変わりだと気づくかも知れないのだ。
本当の意味で宏樹を受け入れてしまったら、認めてしまったら自分はどうなってしまうのだろうか?
先の見えぬ不安と恐怖にベルゼフォーネは囚われる。






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