乙女ゲームのヒロインに転生した(ヘカーテ編)

白雪の雫

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悪役令嬢として転生した専業主婦

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「流石、ヘカーテ。ヒロインのライバルだけあって目つきは鋭いし、きつい顔立ちをしているけど十分に美人だわ・・・」
漆黒の闇を思わせる黒い髪に緋色の瞳
雪のように白い肌と赤い唇
出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるという、実にけしからん身体つき
「でも、どうせ生まれ変わるなら悪役令嬢のヘカーテではなくベルゼフォーネの方が良かったな~」
だって、ベルゼフォーネって顔面偏差値100の清楚可憐な美少女だもん!
あのゲームをした事があるプレイヤーだったら、【董卓の女版】と言われたヘカーテよりもヒロインのベルゼフォーネに生まれ変わりたいと思うわよ!
鏡に映る自分の姿を眺めながら少女が呟く。
彼女の名前はヘカーテ=グラスシャッテン。
王太子であるハーディスの婚約者にして、由緒正しいグラスシャッテン公爵家の長女だ。

生まれ変わり
悪役令嬢
プレイヤー
ヒロイン

この言葉で察した人もいるだろう。
そう。
ヘカーテは転生者なのだ。
前世の彼女は安川 結衣という世界的に有名なマジシャンである水無月 蘇芳の幼馴染みだった。
互いに想いを寄せているIQ400の某高校生探偵と、ヘアースタイルに大きな特徴がある某空手少女がいずれ一緒になる事が予想出来るように、自分は蘇芳と結ばれるのだと思っていた。
だが、その蘇芳は高校を卒業すると同時にどこかへと姿を消してしまったのだ。
当然のように傍にいた蘇芳がいないという事実にショックを受け嘆き悲しんだ結衣であったが、友達に慰められたからなのか、或いは自分の中で気持ちを切り替える事が出来たからなのか、彼女は自身の人生を歩む。
「蘇芳ちゃんがいなくなった時、一番荒れていたのはあたしより宏樹さんなのよね~」
あの時の宏樹さんは本当に怖かったわ・・・
視線だけで人を殺せるっていう表現があるけど、あの時の宏樹さんだったらそれが簡単に出来てそうだったわね
当時の宏樹に声をかける事はおろか近寄る事さえ出来なかった事を思い出した結衣ことヘカーテは思わず身体を震わせる。
大学を卒業した結衣は、とある企業に就職してから数年後に寿退社をして専業主婦になる。
(※結婚してから結衣の苗字は神谷になります)
家事・子育て・ママ友との付き合い・ご近所付き合い───
変わり映えはないが穏やかで平凡な日々を送っていたある日
『ねぇ、あんたの幼馴染みの蘇芳くんなんだけどさ・・・日本では無名だけど海外では凄く有名なマジシャンなんだって!』
高校の同窓会に出席して蘇芳に関する噂を耳にした結衣は早速スマホで検索した。
(蘇芳ちゃん・・・)
画面に映るのは、大勢の観客の前で楽しそうにマジックを披露している、高校生だった時の姿をそのまま留めているかのように若く、そして宏樹とはタイプの異なるイケメンとなった幼馴染みの姿───。
(夢を叶えられて良かったね、蘇芳ちゃん・・・)
幼馴染みが海外で成功している姿を目にしてから程なく、結衣は蘇芳が車に牽かれて命を落としたというニュースを耳にする事となる。










こんな感じで、前世の結衣は蘇芳のように超一流のマジシャンでもなければ、宏樹のように敏腕経営者でもないという、ごく普通の平凡な主婦だった。
そんな自分が何故、学生時代にプレイしていた【Forever~貴女に永遠の愛を~】の悪役令嬢の一人であるヘカーテとして転生したのは謎であるが、これは現実として受け止めるしかないと悟ったのは、何時の頃だっただろうか。
(あれは、そう・・・。あたしが七歳の時だったわ)
ヘカーテは結衣として生きた記憶を取り戻した時の事を思い出す。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










我が儘で短気で癇癪持ち
自分に意見をしたり、意にそぐわない行動をしようものなら【躾】という名目で、乗馬用の鞭で叩くといった体罰を与えては、苦しむ姿を目にしては笑い飛ばす。
『お前の家は確か男爵家だったかしら?お父様に言いつけて取り潰してやるわ!』
『奴隷の分際で私に逆らおうなんて生意気よ!!』
『下賤な輩が私の馬になれるのだから光栄に思いなさい!!』
ヘカーテに甘い両親は娘に強請られたらそれを実行するという、権力を笠に着て脅迫するだけではなく時には虐待し、場合によっては奴隷のように扱う。
メイドやクラスの女子が自分より可愛かったり綺麗だったりすると、ならず者を雇い傷物に、好みの異性に恋人か婚約者がいようものなら彼女達と別れされる。
暫くは傍に置くが、飽きたらポイ捨てする。
子供として、貴族として、女としてだけではなく人間としても実に最低で最悪。残忍で悪逆非道な暴君。
グラスシャッテン家に仕える家令やメイド達はヘカーテをそう評価していた。
現に彼女に仕えていたメイド達は三日もしない内に、メイド長にヘカーテの我が儘振りを訴えた上で配置換えか退職願を出すくらいなのだ。
そんなヘカーテに変化が起こったのは八年前。
七歳になって間もない彼女は父親に連れられて王宮に来ていた。
理由は王太子との顔合わせ及び婚約を結ぶ為である。
家令とメイド達からは最低で最悪な令嬢という目で見られている事など知らないヘカーテは、自分と同じ色の髪と瞳をしている王太子のハーディスに一目惚れしたのだ。
すっかり恋する乙女モードになってしまったヘカーテは、足繁く王宮に足を運んではハーディスの都合と迷惑を考えずに付き纏う。
『ハーディス様♡ハーディス様♡』
今日も今日とて自分が姿を見せる度に嫌そうな表情を浮かべるハーディスに纏わりついているヘカーテ。
『五月蝿い!!』
父親が決めた婚約者であっても、こうして彼女と毎日顔を合わせるのに嫌気が差していたハーディスはヘカーテを突き飛ばしてしまう。
『!!?』
その衝撃で身体のバランスが崩れ、石畳で頭を強く打ち付けてしまったヘカーテから血が流れ出す。
鬱陶しい女であるとはいえ、自分は彼女を傷つける事など望んでいなかった。しかし、自分のせいでヘカーテが傷を負ってしまうなんて夢にも思っていなかったハーディスの全身から血の気が引いていく。
『ヘカーテ様!?』
『誰か医師を!薬師を!』
自分が倒れてから何が起こったのか、ヘカーテは知らない。
だが、これが切っ掛けでヘカーテが前世の記憶を取り戻したのは確かだ。
『ヘカーテ嬢・・・僕は君に対して、取り返しのつかない事を──・・・』
『ハーディス様?全ての責は私にありますし、それにこうして生きているのです。ですから、気に病む事などありません』
!!(⊃ Д)⊃≡゚ ゚
意識を取り戻したヘカーテの一言に、涙をぽろぽろと流しながら謝罪の言葉を口にするハーディスだけではなく、彼女の両親およびグラスシャッテン家に仕える者達の間に驚愕と衝撃が走る。
『お、お父様?お母様?ハーディス様?』
『立場の弱い者を当然のように甚振った挙句、奴隷商人に売り飛ばしてしまうあのお嬢様が・・・・・・』
『謝った・・・だと!!?』
『お、奥様!?』










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










(あたしがハーディス様に謝罪した事でお母様は失神するわ、お父様は取り乱すわ・・・・・・あの時は本当に大変だったわ)
普段からあんな態度を取っていたら、ハーディス様があたしを嫌うのも当然よね~
昔の自分が如何に最低であったのかを思い出してしまったヘカーテは遠い目になっていた。
(神谷 結衣としての前世を思い出さなかったら、あたしはゲームのようにヒロインであるベルゼフォーネに対する数々の殺人未遂の証拠を人前で披露された結果──・・・)
良くて世界でも一・二位を争う戒律の厳しい修道院に監禁、悪くて両目を抉られるだけではなく全ての歯を抜かれて国外追放。
一番最悪なエンディングは、某世紀末救世主伝説の漫画に出てきそうな、ヒャッハーな犯罪奴隷者達の肉便器にされる。
悪役令嬢の一人である自分の末路のスチルを思い出してしまったヘカーテは、思わず身体を震わせる。
(蘇芳ちゃんは知らないけど、実は隠しキャラのカイザーを出してからの逆ハーエンドを失敗してしまうと、ヒロインも肉便器にされちゃうのよね~)
でもさ・・・肉便器といってもヒロインの相手はカイザーを含めた攻略対象者達だけなのよ!?
羨ましい以外の何者でもないわ!!
攻略対象者達の肉便器になってしまったヒロインの美麗なスチルを思い出してしまったヘカーテが、同じ肉便器でもこの差は何なのよ!?と、ゲームを制作したスタッフに対して愚痴を零す。
(今のあたしはヘカーテだけどプレイヤーから【董卓】と言われていた、暴君なヘカーテじゃない!!)
前世の記憶を取り戻してからのヘカーテは、いずれ我が身に降りかかるであろうバッドエンドを回避しようと、メイドにだけではなく屋敷で働く庭師や下働きの者達に優しく接するようになった。
最初は、『何か裏があるに違いない!』と勘ぐられていたのだが、自分のせいで不幸になってしまった者達を救い出し、誠心誠意で己の罪を償う姿が功を奏したのか、今では家令とメイドだけではなく身内と婚約者からも【心優しく、健気にお妃教育に励む令嬢】として見られている。
(※同時進行でヘカーテは攻略対象者共の心の闇(笑)を解決しているので、結果として無自覚に逆ハーを築いちゃってます)
今の自分であれば、バッドエンドを歩む可能性は0なのだ。
「でも、ヘカーテ!油断は禁物よ?!」
バッドエンディングを回避しようと努力する悪役令嬢を嘲笑うかのように、ゲーム補正やヒロイン補正が働いて冤罪を被せられるかも知れない。
或いは、【永遠の愛】をプレイしたヒロインがカイザーを出現させる為に逆ハーを狙う電波かも知れない。
それらの可能性を否定出来ないヘカーテは鏡に映っている自分に言い聞かせる───。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










今年の秋、ヘカーテはリュミエール学園に入学する事になる。
当初は、婚約者のハーディスやケイオス達にゲーム補正が働いてヒロインに惚れた挙句、ヒャッハーな野郎共の肉奴隷にされるのではないかと不安を抱いていたが、ゲームとは異なり貴族科にベルゼフォーネがいないという事実にヘカーテは戸惑いを覚えるものの、平和な学園生活を送れるのだと胸を撫で下ろす。
だが、カイザー推しの電波な転生者のせいでヘカーテの学園生活がどのようなものになるのかは───神のみぞ知る。





(※ゲームでのベルゼフォーネは成績も良くて、中間テスト・期末テスト・学年末テストは上から数えて3位以内に入っていました。でも、この話のヒロインの中身は蘇芳なので、学園の成績は平均でいるように調整しています。但し、教師が出す捻くれた問題に対しては正解を答える形にしています)





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