真実の愛とは何ぞや?

白雪の雫

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①第一王女から婚約破棄されてしまった-1-

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 「カルディナーレ」

 私はお前を・・・

 だが、お前は・・・誰かに恋をしているのだろ?

 私にとってお前は陽炎

 今の私の姿を見たら・・・

 化け物を見るような目つきでお前に見られるのが何よりも怖い

 背中に巨大な一対の翼を生やしている、月の女神を思わせる気高さと花の女神のような可憐さを持つ美しい少女が、闇色に覆われている空に輝く十三夜月を眺めながら悲しげに呟く。





 「エカルラート」

 俺はお前を・・・

 だが、お前は・・・第一王女の婚約者

 今の俺の姿を見れば・・・

 お前は俺を化け物と罵るのだろうか?

 俺にとってお前は水面に映る月

 手に届かぬ水の月に恋焦がれている、背中に巨大な一対の翼を生やしている神話に出てくる軍神のように美しい青年が、闇色に覆われている空に君臨している十三夜月を眺めながら悲しげに呟く。









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 ガブリエラ王国の宮殿には、第一王女であるローザリアの生誕祭という事で流行の衣装に身を包んでいる紳士淑女が集っている。

 ある者達は楽師が奏でる音楽に耳を傾け、ある者達はダンスを、またある者達はユーモアとウィットに富んだ会話をそれぞれ楽しんでいた。

 「エカルラート=エルグラード!私が真実の愛を捧げるアレク男爵子息に対する貴方の所業は悪魔そのものです!ガブリエラ王国第一王女の名の下に、貴方との婚約を破棄いたします!!」

 宴もたけなわなところに本日の主役であるローザリアから婚約破棄を宣言する言葉が出てきたものだから、当の本人であるエカルラートだけではなく出席者達、そして彼女の父親である国王夫妻も唖然とするしかなかった。

 「王女殿下、アレク男爵子息とは一体何者なのでしょうか?」

 エカルラートにとってアレクの名前は初めて耳にするものだったので、慇懃な態度でローザリアに尋ねる。

 (こ、恐い・・・!)

 女である自分よりも美しい容貌を持ち、礼儀作法だけではなく立ち居振る舞いも完璧。

 何より自分より人望があるエカルラートは、ローザリアにとって苦手な人間だった。

 何かを探るような、或いは真実を見抜くような瞳でエカルラートに見つめられているローザリアの身体は恐怖で震えているが、なけなしの勇気を振り絞ってアレクに対して働いた虐めの数々を告げる。





 曰く

 取り巻きを使ってアレクの服を切り裂いた

 アレクを階段から突き落とした

 王女のお気に入りであるアレクを下賤と罵った

 自分に近づかせない為だけにアレクに殴る蹴るといった暴行を加えた





 「いえ!あれは暴行ではなく殺人です!!」

 ローザリアの言葉に、エカルラートだけではなく出席者一同及び国王夫妻は、開いた口が塞がらないでいる。

 「王女殿下?私が王女殿下のお気に入り・・・王女殿下が真実の愛を捧げているアレクとやらに対する非道を加えたという証拠と記録はあるのでしょうか?」

 「そんなものある訳ないじゃない!アレク本人がそう言っているのよ!!本人の証言ほど確かなものはないわ!エカルラート、アレクを殺そうとした事を認めたらどうなの?!」

 (この女・・・マジで馬鹿だわ)

 ローザリアは知らないのだろうか?

 王家の者には影と呼ばれる存在が護衛として付いている事を。

 そして──・・・

 「ところで王女殿下。実はカルディナーレ殿が面白いものを持っているのですが・・・御覧になって頂けますか?」

 エカルラートの言葉は尋ねるような丁寧口調であるが、その中には拒絶は許さないという色が含まれている。

 「カルディナーレ殿。早速ですが、あれの提出をお願いいたします」

 「承知した」

 エカルラートの呼びかけに答えたのは彼の幼馴染みにして次期辺境伯、そして遠縁にあたるカルディナーレ=リヒトシュタインだった。

 今から起こる事が楽しみだと言わんばかりに、懐から水晶型の魔道具を取り出したカルディナーレが手に持っているそれを空中に翳すと、蜃気楼のようにある映像が映し出される。

 「きゃっ!」

 今回の生誕祭に出席している令嬢達から悲鳴が上がる。

 空中に映っていたのは、どこかの宿屋の一室なのだろうか。

 一糸纏わぬ姿でローザリアとアレクが睦みあっている姿だった。

 『アレク。実は私、エカルラートと結婚したくないの。だって、全てにおいて王女である私より秀でているなんて屈辱以外の何者でもないわ!!』

 『それでしたら、エカルラート殿には罪を被って貰う事にいたしましょう。例えば・・・王女の想い人である私に残虐非道な仕打ちをしたという風に』

 『そうね!それだったら、お父様もエカルラートとの婚約破棄を認めてくれるわ!』

 『私に対する仕打ちに国王陛下はエカルラート殿に国外追放を命じるでしょう。そして、市井の暮らしを知らないエカルラート殿は野垂れ死に──・・・』





 「い、いやあああああ!!!」

 ローザリアから断末魔の悲鳴が上がり、もう一人の当事者であるアレクの顔は血の気が引いており、白くなっていた。

 「国王陛下、王后陛下。私は王女殿下に相応しくあろうと日々研鑽してまいりました。ですが、皮肉にもそれが王女殿下の気に障ったようです」

 慇懃な態度でエカルラートはそう答えるが、自分を磨いてきたのはあくまで己の為、ひいてはローザリアから『エカルラートとの婚約を破棄する』という言葉を引き出す為だ。

 「「幸いな事に王女殿下はアレクという青年と恋仲のようです。国王陛下、王后陛下、どうか真実の愛(笑)とやらで結ばれているお二人の仲を認めて下さい」」

 国王夫妻に対して頭を下げたエカルラートとカルディナーレがローザリアとアレクの結婚を願い出る。

 一国の王女が男爵令息と懇ろになっているところを大勢の前で見せられてしまったら認めるしかないではないか。

 それを知った上で提案してきた二人に対して苛立ちを隠せないが、自分の娘が未婚であるにも関わらず不貞を働いていたのもまた事実。

 国王はローザリアの王位継承権を剥奪。しかも、子供を産めない身体にした上で男爵家に輿入れをさせる。そして、自分の弟に王位を継がせると宣言する。






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