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④咲夜、異世界に行く
しおりを挟むアンジェリクの話はこうだ。
リーヴェの魔素が地球、それもピンポイントで日本に流出しようとしていたのでアンジェリクはリーヴェと地球に繋がる空間に出来た亀裂を塞ごうとしていたのだが、修復の際に発生する衝撃波の余波を咲夜はもろに食らってしまったのだという。
魔素というのは魔法の源のようなもので、それを取り込む事が出来るリーヴェの住人であれば害にはならないのだが、魔法という言葉と概念はあっても使う事が出来ない地球の人間にとっては有害物質でしかないのだ。
熾天使の姿になっていた咲夜であれば、仮に衝撃波の余波を受けたとしても何ら問題はなかった。
だって、天使の肉体は人間よりも遥かに頑丈だから。
神様の御使いとして悪魔と戦ったり、国を滅ぼしたりするエピソードを読めば如何に天使の肉体が人間よりも強いかが分かるだろう。
だが、当時の咲夜は買い物客で賑わっていた市場を歩いていたので熾天使になる事が出来ず、結果として命を落としてしまった。
「そこで提案なのですが、私が創った世界で生きるのはどうでしょう!?」
リーヴェの文明は地球で言うところの中世から近代辺りの剣と魔法の世界。
娯楽は少ないが、魔法が存在しているので二十一世紀の日本並みの暮らしが出来るのだと教える。
「地球では物語とかでしか出て来ない竜やグリフォンといった幻獣に、ゴブリンやオークといった魔物、吸血鬼やメドゥーサが存在しているので、それ等を狩る冒険者やハンターと呼ばれている者が存在しています」
また、オークや一部の魔物が普通に食べられているのだが、料理と日用品に関しては地球と比べたらレベルが低い事もアンジェリクが咲夜に話す。
「肉体の再構築が出来たのだから私を元の世界に戻すのは無理なのですか?」
「無理です」
衝撃波の余波をまともに受けた咲夜の肉体はホラー映画のようにスプラッター状態になっているだけではなく、既に火葬を済ませているのだ。
「先程も言いましたが、貴女には人間の血が流れています。咲夜さんが生粋の熾天使であれば銀河の狭間を通り抜けて日本に戻る事も出来たでしょう」
「・・・・・・私の中に流れている人間の血が、それを出来なくしているという訳か」
元の世界に戻れないのであればリーヴェで生きて行くしかないという事実を受け入れた咲夜は溜め息を漏らす。
「その代わりと言っては何ですが、私の願いを叶えてくれますか?」
「勿論です!」
アンジェリクの言葉を言質に取った咲夜は己の要求を告げる。
地球で売っている日用雑貨や調味料に食材だけでなく衣類や武器を手に入れるスキルと、狩った魔物や店で買った商品を自由に出し入れできるスキル、リーヴェにある世界各国の文字の読み書きが出来るようにして欲しいと──・・・。
「武器って・・・」
(あんた、簡単に国を滅ぼせるだけの力を持っているやん!)
熾天使である咲夜の肉体は頑丈だし、身体能力も高い。しかも、その気になりさえすれば簡単に国を滅ぼす事も出来るのだ。
「拳銃にバズーカ砲、機関銃に戦車といった武器は、リーヴェという世界のパワーバランスを崩してしまいます!!」
もし、咲夜が軍事国家に肩入れをして殺傷能力が高い地球の兵器を売ってしまったら?
最悪のパターンを想像してしまったアンジェリクが思わず声を荒げる。
「あの・・・誤解のないように言っておきますが、私は自分が使っていたミストルティンに代わる剣が欲しいのであって、拳銃やバズーカ砲を使う気なんてないですよ」
イラストレーターとして銃火器を描く機会はあっても使い方を知らないのだから、咲夜にとってそれ等の武器は意味がないのだ。
「分かりました。武器に関してはドワーフに作って貰えば問題ないでしょう」
それでは、第二の人生を楽しんで下さいね
アンジェリクは、武器を除くスキルを与えた咲夜をリーヴェへと送った。
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