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⑥嫉妬と本音-2-
しおりを挟む一人部屋に閉じ籠っているミストレインは、リーベンデールに転生させる為だけに前世の自分を殺した和寿ことアイドネウスに対して思わず暴言を吐いてしまったが、心の底から怒っているのではない。
今の彼女は割り切ってアストライアー・・・ミストレインとしての生を受け入れているのだ。
だって、怒ったところで自分は霧雨 灯夜に戻れないのだから。
それどころか、どのような形であれ人間として転生した自分は寧ろ恵まれているのではないか?と思っているくらいだし、ミスとレンとしての人生を楽しんでいると言ってもいい。
だが、ある事実がミストレインを悩ませているのだ。
(やっぱり男って俺のように背が高い女よりも、ふんわりとした雰囲気で庇護欲をそそる小柄な女がいいのだろうな・・・しかも爆乳の)
今の俺だってDカップはあるし、しかもお椀型なんだぞ!
でも、どう足掻いてもあれには勝てんし、身長が百八十センチもあったらDカップも微乳になってしまうのか?と心の中で愚痴を零しているミストレインは、昨日の昼頃にソープカービングを買いに来た女性客から言われた一言を思い出す。
『アイドネウスさんのような殿方に貴女のような大女は相応しくありませんわ!王太子殿下・・・いえ、国王陛下でさえも足元に平伏してしまう威厳と美しさを持つアイドネウスさんに相応しいのはわたくし・・・即ちシャルロッテ=ライトアンバーですわ!』
ミストレインに対してそう言い放ったのは、この髪型ってセットするのにどれくらいの時間を要するのだろう?と思わず考え込んでしまわずにはいられないくらいに髪を縦ロールしている、身長が百四十センチくらいの小柄で爆乳の少女であるシャルロッテだ。
しかも性質が悪い事に彼女は男爵令嬢だった。
『という訳で店主!今すぐわたくしにアイドネウスさんを渡しなさい!彼は私の従者として引き取る事にしますわ!』
(神様を従者って・・・)
『ただいま、ミストレイン』
何て怖いもの知らずなんだ!とシャルロッテに対してそう思っているミストレインに声をかけたのは、店の切り盛りで忙しい彼女の代わりに食糧の買い出しに出掛けていたアイドネウスだった。
『おかえ『アイドネウスさ~ん♡』
出迎えようとしていたミストレインの前に出てきたシャルロッテがご自慢の爆乳を押し付けながら自分の腕をアイドネウスの腕に絡ませる。
『ねぇ、アイドネウスさん♡貴方のように美しい殿方は、大女が店主というこのような小さい店で燻っている存在ではないのです。寧ろ、わたくしのように高貴で美しい者に仕えてこそアイドネウスさんの美しさと気品が引き立つというもの。給金は今の三倍・・・いえ、四倍は出しますわ♡ですから、今すぐわたくしの従者になりなさい!!』
そう言ったシャルロッテに胸を押し付けられているアイドネウスの顔は、初心な男子高校生のように赤く染まっていた───。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(あの野郎~っ・・・俺を嫁にする為だけに殺しておきながら、爆乳女の胸に鼻の下を伸ばしやがって!!)
アイドネウスはシャルロッテの爆乳に照れていたのではなく、身の毛もよだつ世にも恐ろしい物体を押し付けられた事とミストレインに対する暴言に対して怒り狂っていたというのがあの時の真相なのだが、それを知らない彼女はただ憤慨していた。
コンコンコン
妖精のように愛くるしいシャルロッテと、大女と罵られる自分を比べてすっかり落ち込んでしまっているミストレインがいる部屋の扉を誰かが軽く叩く。
「姉ちゃん、わいや」
「レンちゃん・・・」
幼い頃からの相棒という事もあるのか、ミストレインはレンちゃんを部屋へと招き入れる。
「あ~っ・・・その・・・何て言えばいいかわいには分からんけど、姉ちゃんがアイドネウスはんを恨む気持ちは一応理解しとるつもりや」
けどな、人間は過去を反省して未来へと進む生き物なんやろ?
だったら姉ちゃんはアストライアー・・・いや、ミストレインとして生きて幸せになる道を歩んだ方がええんとちゃうんか?
男に掘られた屈辱っちゅうんは、わいには分からんけどな
「レンちゃん?レンちゃんは私を慰めに来たの?それとも傷つけに来たの?」
短い腕を組みながらうんうんと頷くレンちゃんの言葉に呆れた表情を浮かべてしまったミストレインが問い質す。
「失敬な!わいはただ純粋に姉ちゃんを慰めに来ただけや!!」
(レンちゃん・・・何で顔(?)が劇画風になっているの?)
「そ、そう?一応礼を言っておくわ。でもね、私はアイドネウスを恨んでなんかいないし、今の人生を受け入れているわよ」
「だったら、姉ちゃんは何で怒ってたんや?」
「・・・よ」
「何や?なぁ、姉ちゃん・・・何て言ったんや?」
「嫉妬よ!私はシャルロッテという爆乳女に対して嫉妬していただけではなく、自己嫌悪に陥っていたの!!」
問い詰めてくるレンちゃんにミストレインが顔を赤くしながら叫ぶ。
「何や、ただの嫉妬やったんか~。姉ちゃんも可愛いとこがあるやないか・・・って!だったらそれをアイドネウスはんに言えばええんとちゃうんか?」
「でも、俺はアイドネウスに・・・」
これで万事解決やと自信満々に言い切るレンちゃんに、ミストレインとしての人生を受け入れていながら暴言をぶつけてしまった自分をアイドネウスが許すはずがないと静かに落ち込む。
「男は度胸や!姉ちゃんも男やったら、こんなとこでウジウジ悩んどらんでアイドネウスはんに本音を・・・ぶつけてくるんや!!」
玉砕したら、そん時はそん時や!世界崩壊の日まで姉ちゃんのやけ酒に付き合ったるわ!!!
「レンちゃん、今の俺は女。それに、何か物騒な「んな小っちゃい事に拘っとらんで・・・さっさとアイドネウスはんのとこに行ってこんかーーーい!!!」
「何なのよ、もう!」
レンちゃんに追い出されるようにせっつかれたミストレインは、アイドネウスが閉じ籠っている部屋へと向かうしかなかった。
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