いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

文字の大きさ
13 / 26

13

しおりを挟む

 ヨアヒムは、皆に望まれた通りの子であった。

 望まれたとおり――敏かった。

「なるほどね?」
 自分が、一目惚れした少女から――あれよあれよと、理解していった。
 本当に、「いつから?」と尋ねられたのを、ヨアヒムは正しく答えていた。
 どこにきっかけが落ちているかわからないものだ。
「長期戦だなぁ……あ、それだけ恨まれたのね? っても、どっちもどっちだねぇ……」

 そして彼は小さく微笑んだ。

 ロベリアも頑張ったんだねぇ。

「僕を殺すために」




 もしもロベリアが彼の目に触れなければ、こんなことにはならなかったろう。
 一目惚れは間違いなく、であったのだから。

 帝国も吃驚した。

 ロベリアは――毒の娘は、あまり当てにされてない計画の端にある、何かに使えたら良いね――程度だった。ひと一人と、その家族の人生を使いながら。
 それがまさか、計画のど真ん中になるだなんて。

 歴史あり、忠臣のヒューリック家の娘ならば、王家に侍女としてあがることもできるだろう。
 そうして潜り込むのを想定していた。
 お茶出しなどの機会があれば良し。
 さらに――もしも、ヨアヒムが好色で、閨に呼ばれることがあれば。

 ロベリアにとっては命がけなその計画は――ところがところが。帝国も吃驚、まさかの婚約者。

 学園にて見初められた。
 帝国も本当に、吃驚。
 ヒューリック伯爵も吃驚。

 一番吃驚したのはロベリアだ。

 ヒューリック伯爵家にその旨の書状が届き。
「え? 貴方が婚約者? え、え? え? 婚約者?」
 え? を何回かくり返し。
「……どうしよう。貴方の毒、そんなに強くないのに」
 育ての親のベラの。いつもは冷静な彼女が「えぇー?」と。頭を真っ白にしているのを初めて、見た気がした。
「……わたしが、婚約者? 毒。どうするの? わたし、出来損ないなんですよね……?」
 くり返してしまったロベリアも頭が真っ白だった。

 ここで辞退することはヒューリック家にもできない。
 親戚などからは気の早い祝福も届いていて。亡きヴィオラのご実家なんかは、今から輿入れに必要なものの援助は惜しまないとドレスや宝飾品の商人に声をかけまくっちゃってるらしい。

 あれよあれよと、外堀が埋まっていく。

 ――そうして、ヨアヒムの手のひら上で転がされていたのだ。

 ヨアヒムは一目惚れしたロベリアのお家に。
 ヒューリック家はやたらと帝国とつながりがあるなと気がついて。
 定期的に荷物が届くし。それは一見、薬草とかのお薬の材料で。確かにロベリアのためのお取り寄せ、でもあったのだけれども。

 ――薬も時に毒になる。

 調べればあっさり。
 自分が幼い頃に亡くなった父とその正妃であったというエリーゼの、その後ろ盾に気がついた。

 どうして、仲の良かった母と婚約を無しにしてまで、男爵家の娘を妃にしたのか。

 ――妃にできたのか。

 学園で見初めたという美談なんかには、彼は騙されなかった。
 父の、そのまた父の残された日記なんかも見つかった。
 王子としての特権をフル活用してあちこち秘匿も調べれられた。

 父と正妃のことは薄っすらとしか覚えていないけれども。
 二人とも、ヨアヒムのことは可愛がってくれていたと思う。
 正妃にも、嫌なことをされたり言われた記憶もない。
 ただ「わたしもお母さまと呼んで?」とおねだりされて、応えたらすごく喜んでいた記憶が、ある。

「悪い人じゃなかった……んだろうな……」

 悪い人ではないが、残念な人ではあった。

 ただ、そう思った。

 ――気の毒に、と。



 父が父でありながら、祖父と兄弟でもあるとは――祖父はなんとも、大変なことを。
 そこまでして血を、繋ごうとした祖父には、悪いことしてしまうなぁ、と。
 父亡きあと、母を助けて政務を頑張ってくれていた姿は、しっかりと瞼に残ってる。
 そんな祖父は、きっと知らない。

 そこまでしてもうけた息子を殺したのが、その最愛の人であったことを。

 知らない方がきっと幸せ。
 祖父は葬儀のとき、どこかホッとした死に顔だったから、自分という後継に満足はしていたのだろう。

 そう。
 彼はまた、彼らを殺したのが母であるとも知ってしまった。

「……うーん」
 これは困った。
 これは母か自分の首を差し出さなければ収まらないところだ。

 いやたぶん――母の首では駄目だ。

 母の首で良いのならば、話はとっくに終わっているはずで。

 帝国が何故にこんな悠長で手間のかかることを、しているのか。

 ――ヨアヒムは、本当に敏かった。

「……僕かぁ」

 ヨアヒムが成長し、幸せの真っ最中に。
 毒で。
 父と――というか、妃と同じように。

 そうしてなによりも。
 ガブリエーレに仕返しするのが、帝国の目的なのだ。



 ヨアヒムは本当に、敏く、聡く――そして王子だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。 妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。 そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。 それは成長した今も変わらない。 今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。 その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。

こうして私は悪魔の誘惑に手を伸ばした

綴つづか
恋愛
何もかも病弱な妹に奪われる。両親の愛も、私がもらった宝物もーー婚約者ですらも。 伯爵家の嫡女であるルリアナは、婚約者の侯爵家次男ゼファーから婚約破棄を告げられる。病弱で天使のような妹のカリスタを抱き寄せながら、真実の愛を貫きたいというのだ。 ルリアナは、それを粛々と受け入れるほかなかった。 ゼファーとカリスタは、侯爵家より譲り受けた子爵領へと移り住み、幸せに暮らしていたらしいのだが。2年後、『病弱』な妹は、出産の際に命を落とす。 ……その訃報にルリアナはひっそりと笑みを溢した。 妹に奪われてきた姉が巻き込まれた企みのお話。 他サイトにも掲載しています。※ジャンルに悩んで恋愛にしていますが、主人公に恋愛要素はありません。

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

こんな婚約者は貴女にあげる

如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。 初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...