「だから結婚は君としただろう?」

イチイ アキラ

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11 きちんと考えた。


 それは仕返しというよりも、事実を突きつける、が正しいかもしれない。



 アンドリューたちは、きちんと考えていた。
 ホンス家のこれからを。

 ホンス伯爵家を継げるのは――血は、プリシラとリリアラに。
 その他には……――。


 考えの一つ目は。
 プリシラが婿を、アンドリュー以外の男と結婚して、ホンス家を継ぐこと。
 これが一番、彼ら以外が納得し、平穏に終わる道だった。
 アンドリューが叫べず拳を――手のひらを自ら傷つけるほど堪えても。プリシラが夜ごと涙を流しても。

 考えの二つ目は。
 一つ目と同じくアンドリューが責任をとるため、二度と触れたくないリリアラを連れてホンス家を出るが、プリシラもまた出て――修道院に行こうと――ホンス家を縁戚のどなたかに引き継いでもらうこと。
 それは、プリシラもまた、アンドリュー以外の男に――だったから。
 これもまた、平穏に終わる道だったろう。
 二人の純愛の末に。


 考えの三つ目。
 アンドリューもまたホンス家から出るが、縁を切り、リリアラに新たに婿を迎えるように整えること。三年間の責任を果たしたのちに。
 ――そして……。


 そうして、彼らは三つ目を選ぶことにした。

 そちらがその気なら――責任などしったことか。むしろ責任をとったアンドリューの決意を踏みにじったのはリリアラたちだ。


 アンドリューとプリシラははじめは一つ目を、決意していた。
 やはり血統は大事だから。
 プリシラはホンス家を継ぐように育てられた。それは領民たちの納めてくれている税金や領地の収益によって。
 だから、罪なき彼らに苦労は……と。

 だけど親は、妹は、そんなプリシラではなく、自分たちがこのまま引き継ぐつもりであるという。

 確かに、リリアラもホンス伯爵の血統である。継ぐ資格は――ある。

 しかし、不意に気がついた……気がついてしまった。

 プリシラを嫁に――ホンス家から出すと言う彼らに。


 こいつらに引き継がせたら、逆に領に、民に迷惑なんじゃないか? 苦労かけるんじゃないか?


 と。
 それは、そう。
 家名に泥を塗り、王家にも縁あるフェアスト公爵家にも睨まれている。
 そんな家に、先はあるかというと。
 ……どうだろう。

 はじめアンドリューがそんな屈辱的な目に遭ったことを公表するのはと、フェアスト公爵家の皆は悩んだのだが――ホンス伯爵家のプリシラ以外の理解していない様子に、やはり怒りが勝った。
 アンドリュー自身の考えの元に。


 そうして。
 ホンス伯爵家のやらかしは、今や主だった貴族には知られることとなり。
 それにどうしたって結婚式直前に相手が変更になったことなど、噂にならない方がおかしい。
 フェアスト公爵家は「どうして?」と遠回しに尋ねられると、ただ正直に、ありのまま、やられたことを話した、だけである。


「――……と、いうわけで。リリアラは姉の婚約者を寝取った阿婆擦れと、未だ皆さまのご記憶に」

 そしてアンドリューとプリシラは、ただただ、被害者、と。

「そんな女に、まともな相手が現れるか……はてさて?」

 それがアンドリューの復讐であった。

 己がそんなことをされた屈辱的な目で見られることはある。
 相談した大伯父に「そんな肉を切らせて骨を断つどころかどっちも腐るような。もうちょっと冷静になりなさいよ」と呆れられた。確かにもっと上手いやり方があったろう。それができなかったのはまた、アンドリューの未熟さだろうか。

 実際に、かわいい方の妹が相手になってよかったね、何て慰めを――理解不能に揶揄ってくるものたちもいたが。「では貴方はその一度のためにかの薬を飲めるひと、なんですね」と。次の日より、そうした話が広まり、その相手たちは婚家や己の身内からも白い目を向けられるように。
 それくらいはやり返せるようになり。
 そもそも、王家にも縁があるフェアスト公爵家の息子に、よくもそんな口を聞けたものだ。

 リリアラは三年間、ろくに社交をしていなかった。させて貰えなかった、が。
 その間に自分がまさか。自分たちがまさか。そんな風に見られているだなんて。
「な、な……」
「そんな……」
「でもまぁ、事実でしょう?」
 事実、アンドリューに薬を盛って、寝取った。

 それは変えようもない、事実。

「そしてホンス伯爵家に婿入りしたら、かの薬を飲まされる……とも、何故か噂になっていますね」
 婿入りしたら、一度の交わりのために――種馬として、とんでもない目に遭わせられる。
 そんな噂がまことしやかに、貴族の男たちの中に広まっていた。
 それはアンドリューたちが流したわけではなかったから、聞いたときには驚いたが。アンドリューとマリスは……まぁ仕方ないよねと、放置している。まぁ仕方ない、仕方ない。本当かもしれないし。

「まぁ、私もホンス伯爵家には世話になりましたから」
 それは色んな意味で。
「そして貴方がたが遊んでいる間にきちんと、しておきました」

 きちんと。
 ホンス伯爵家の未来を考えて。

「伯爵家の跡取りを決めておきました」

 アンドリューの左手の人差し指にはめられた黄金造りの指輪がきらりと光る。
 それは王家より与えられている、ホンス伯爵家の家紋の印章が彫られた指輪だった。


 ――それは、プリシラより正式に譲られたもの。


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