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14 じわりじわりと。
期限は六年。
離婚したリリアラに再婚話がなかったわけではない。
伯爵という地位。
領は小さくとも果実酒などの安定した収入があるという。騒ぎで一時下がった評判も、持ち直してきているとか。
そして本人の華やかな美貌は間違いなく。
だが。
リリアラのやらかしは貴族世界に広まっていた。
リリアラに来る再婚話は、とてつもない相手ばかりだった。
博打で散財してあとがない者。借金を肩代わりしてくれるなら、など。
だがこういうのはまだマシな方だ。
商売のために爵位が手に入るならどんな女でもよい。ただし跡取りの子どもは自分の真実の愛、まぁつまり愛人が――など。
こちらの条件をはじめから解らぬ商売人には先がないだろう。
酷い病持ちで、それでも身持ちの悪い噂のあるリリアラなら――同じように阿婆擦れの好き者だから構わないだろうという者。
その理由により妻子に逃げられたが、再婚相手探しをしているのも同じくだろう、と……。
さすがにリリアラに会わせる前に、ジョアンナ夫人から連絡をもらった理性と誇りある男たちが対処した。さすがに孫を、姪を……姪でなくとも見逃せば他の女性も。そんな目に遭わせるほど、非道ではない。その男は爵位持ちであったが王家により――。
中にはエドワードと変わらぬ年の若すぎる子どもを差しだしてくる貴族もあった。それは噂のリリアラなら、婿に困っているなら、厄介者でも喜ぶだろうと……。
その子はとある男爵家の跡取りだったが、亡くなった前妻の子で――跡取りを長年の恋人で愛する後妻の子にしたいなどという理由。しかもその愛人の子も同い年、わずか数カ月違いという呆れたもの。
ずいぶんと虐げられていたのか、痩せて死んだ魚のような目をしていて。リリアラが見ても哀れに思う子であった。
ああ、虐げていたのか……。
その子を見て、話を聞いて、ようやく。リリアラもうっすらと解るようになった。まだうっすらとだけど。
実の母に差別されていた姉は、どんな気持ちだったろうか。
そんなことを少しは、考えるようになった。
兎角、そんな輩たちは伯爵家に迎えることはできない。
気の毒な少年はネイズ子爵とソーン伯爵が間に入って保護し、ちゃんとした家の養子になった。元気になったよと、連絡をもらってほっとした。男爵家も何かしら釘を刺されたらしい。うちの王家は報せるとすぐさま対処してくれる。報せる前に何とかして欲しいとは思うが……こんなの末端の男爵家のは、きちんとお裁きをしてくれるだけ良しとするべきか。
むしろリリアラによって国の膿み出しできたのではとすら思われていることは――彼女には聞かせるのは酷だろう。
それらの取り次ぎなど引き受けくれる、親戚のソーン伯爵たちには本当に世話になっている。叔母にも苦労ばかりを。
ソーン家としては、ホンス家を息子に継がせたくない本音もあるだろうが。今やホンス伯爵家はそんな男爵家や平民の商人たちにすら下に見られていると明らかになっているのだから。
ソーン伯爵が一応の後見人として睨みを効かしていると広まってからは、一見まともな相手からも話は来るようになったが。
……しかし、リリアラたちがあの薬を盛った過去を不意に思い出されるのか、そうしたまともな相手からは――相手も切羽詰まっているだろうに断られるようになって。
一夜の種馬扱いは、さすがに、と。
そもそもソーン伯爵とネイズ子爵のお眼鏡にかなう相手でないと。といっても、彼らもそれほど厳しい条件をつけてもいないのだが。
やはりリリアラのやらかしが未だに問題になっているのだ。やらかしは学生時代や、婚約破棄時のことすら。
そもそも、姉の婚約者を薬を使って寝取る女というのが、一番。
ネイズ子爵家やソーン伯爵家の従兄弟たちにも苦労をかけているのをリリアラもそろそろ理解し始めて。特にエドワード……。
リリアラの救いは、本当はリリアラも一途であり、浮気もしていないと……その親戚たちは理解してくれていること。学生時代に取り巻きにちやほやとされていたのは、彼女にとって決して不埒で破廉恥な遊びをしていたのではなかったのだと判明もした。
取り巻きの一部は男女の関係をと下心あるものもいたようだが、リリアラは父母に同じように自分は美しくてかわいいから何をわがままいっても許されると、そう扱われいたことだから。自分はちやほやされて当然と――何故に姉や、良識ある生徒たちに駄目だと言われるのかすら、当時のリリアラには解らなかったのだ。姉や忠告をしてくれる人たちを、自分は彼女らよりかわいいから嫉妬されて苛められているのだと……斜め上に。
あの薬もそんな非道いものだと知らなかったのが。王家から下賜された素晴らしいものだから、アンドリューとの幸せのために……と。
その一途な想いも無知による。
たった一夜の幸せとなろうとは思いもよらず。
三年間、リリアラがずっとアンドリューだけだったのは、皆が知っている。寝室で毎夜待っていたのを。
そうでなければ申し込みのあんまりすぎる相手を、正に阿婆擦れのお前にはお似合いだと断ることも許されなかったかもしれない。
むしろリリアラが噂のとおりに本当に阿婆擦れであれば、すでに十分恥ではあるが、彼らこそが六年の猶予を許さず身内の恥と田舎に押し込めていた。他の誰にも迷惑をかけぬよう。
それがリリアラの幸いではあるが……――。
それは哀れなのか――道化なのか。
身持ちが悪くないのだけが救いでもあるんだけどなあ……と、ため息をついたのはどの親戚だったか。
だからこそ婿取りを。
そのために縁を繋いだり、顔合わせのために、夜会に行くリリアラの新しいドレスを購入することを彼らは赦し、援助してくれた。後押しも。
そう、リリアラは新しいドレスを作って、何とか縁を作れないかと夜会に行く。
それは安物ではあるが。きちんと新品を。
はじめは三年ぶりにドレスを作れたことを喜んだし、華やかな夜会に出れることを喜んだリリアラは――現実を見た。
自分は離縁され、婿を漁る問題ある女だと、周りに思われていることを。
好き者だろうと暗がりに連れ込まれそうになったり、既成事実を作ろうと、問題ある家の男に襲われかけた。
それすらも影でこそこそ、いや、こちらに解るようにくすくすと笑われて。
じわりと、じわりじわりとさすがに思い知った。
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それでもリリアラは婿をとらねばならない。それしか彼女の道は無い。かつて姉が、自分によってそう決意していたように。
いや、あるにはある。田舎で、皆に忘れられて惨めに枯れていく道は。
それは華やかな世界で生きてきたリリアラには無理なこと。あり得ない。
今日も夜会に向かわせられる。
新しく作ってもらったドレスも、今は嬉しくない。
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一番奥にある――真珠がちりばめられたウェディングドレスも。
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