「だから結婚は君としただろう?」

イチイ アキラ

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23 幼き日の黄金の。1

 公爵の孫のアンドリューと伯爵の孫であるプリシラに、出会うきっかけが祖父同士の交流であるならば、当然。

 その親たる――プリシラの父親も、公爵家の子らと会ったことがある。



 彼らは学園の同期だった。
 学生時代、親友と言える間柄であったという。
 いずれホンス伯爵となるクリストフは身体は弱かったが真面目な性格で、学業成績も優れていた。

 フェアスト公爵の跡取りであったダミアンは同じクラスの、そんな休みがちだが、決して授業において行かれまいとするクリストフの真面目で真っ直ぐな姿勢に、好感を持った。
 親が貴族だからと、その座に胡座をかいているものが多くある学園で、そんなタイプはまぶしいほどだ。
 だから休んでいた間のノートを自主的に貸していた。
「良ければ授業中に出た、次の課題範囲も教えよう」
「ありがとう。助かります」
 クリストフがそれに素直に礼を述べ。しかしながらそれによって公爵家の人間とお近づきになったと、天狗にならずに立場や姿勢を変えなかったことも、また好感を高めた。
「ここ、少しだけ綴り違いありましたよ」
 ノートを添削されて返され……ひっそり、ますます好感を持った。教えるつもりが、時に苦手科目を習うことになった。


 結婚は予てよりの許嫁がいたダミアンの方が早かった。
 クリストフも身体が弱かったが、それでも良いと言ってくれ、彼を大事にしてくれる伴侶を迎えた。

 ――ひっそり、馬術部の麗人を射止めたのは図書館の天使であったと話題になったのだが。

 むしろ彼らが、クリストフとジョアンナが出会うきっかけになったのは馬術部に入部した自分のおかげであると、事ある毎にダミアンは度々、胸を張った。
 運動が苦手な分、本が好きで、図書室に良くいることから「図書室の天使」と呼ばれていることに本人は「図書室の幽霊」じゃないのかと首をかしげていたが。こんなヒョロガリの自分が、と。
 彼は母親に似て女顔であったのもあり。細身で儚げな容姿をしていたから。
 彼の光に当たると金にも見える薄い茶色の髪色は、陽に焼けぬよう薄暗くしてある図書室にいるとまさに淡く金に輝いたからだろう。その様子を天使、と。
 性格も優しくて、天使とはまさにと……ダミアンはジョアンナと頷いた。

 家格の違いもあり、学生時代のように気軽に会えるわけではなかったが、それでも季節の挨拶は欠かさずにいた。むしろ理由をつけて会いに行って、互いの妻に呆れられたり。やがて妻同士も親しい友になって。
 互いに息子に家督を譲ったあとにのんびりと過ごそうじゃないかと、笑いながら予定を立てていた。

 それが。

「……早すぎるよ、クリストフ」
 友人の葬儀に、ダミアンは涙をこらえてつぶやいた。
 まだまだこれから。
 家督を譲ったあとはまたのんびりとするはずだったじゃないか。
 楽しみがたくさん控えていたのに。

 そう、互いの孫たちがもうじき結婚する予定だったのに。

 葬儀を取り仕切るプリシラの側には彼のかわいい孫の末っ子が。

 その彼にも、まさか始まりは自分と彼の交流にあり……その子らにもあるとは思わなかった。

 クリストフの息子が、片方の娘だけを――鮮やかに華やかな色の髪をした娘を溺愛する、その理由が。



 学園を卒業して互いに結婚し、子をもうけて数年後。
 その日。友人に久しぶりに会うためにクリストフはフェアスト公爵家に訪れていた。身分は違うが友情は続いており、王宮の催しや互いに招かれる夜会などで会った時は親しくしていた。
 だからその日、訪れた理由も深くは無い。たまたま今年の果実酒の出来が良かったから、酒好きのダミアンと奥方に楽しんでもらいたい。
 ただ、その程度。
 昔の笑い話や、最近の愚痴や雑談もいつものこと。
 そこに長男を連れてきていたのは、そろそろ息子も他所様の家に招かれる経験を積むのも必要な歳になったから、である。友人であるダミアンがそういうことなら喜んで協力しようと以前から申し出てくれていたから。
 その後、次男や娘も順番にお呼ばれデビューを公爵家で迎えるという、小さな伯爵家ではできない経験をさせてもらえて。

 ――その数十年後には、孫たちも……となるのだが。

 それは次男のオリバーと末娘のジェシカには大変大きな経験となり、後々までに役にたった。
 ただ、クライスには――。

 ダミアンに招かれて、クリストフの横でクライスもお行儀良くしていた。
 七歳になったばかりの少年の緊張した様子に、親たちは気がついて苦笑していたのだが。それは微笑ましく。
 親がクライスを甘やかして困る、だなんてクリストフは言うが、なかなか礼儀正しい良い子じゃないかとダミアンは――その頃は。

 大人たちの会話がつまらないのか、自分の話題であるから居心地がわるいのか。クライスがそわそわとしだした。親たちは気がついて苦笑する。自分たちも幼い頃はこうだったのか、なと。
 ダミアンは既に二人の子持ちであったので、我が子たちの七歳の頃を思い出していた。我が子たちはこのようにおとなしく座っていただろうか。
 その悪戯すきで腕白だった子たちが、いまは……と、目頭も熱くなるとき。

 ちょうど思い出していた娘が、顔を出した。

「あら、お父さま、お客様でしたの?」
「おお、マリエラ。お帰り」
「あ、クリストフおじさま! いらっしゃいませ!」
「こんにちは、マリエラ嬢。またきれいになったね」
 父の友人であるホンス伯爵ならば遠慮なくと、マリエラ嬢は帰宅の挨拶を告げに居間に。そこは応接室ではなく家族の居住区であり、クリストフがいかにダミアンに親しく思われているか解るように。

 クリストフの挨拶に、少女は嬉しそうに礼を。
 ダミアンは急に室内に入ってきた娘に、まだ年が近い相手の方が緊張もほぐれるだろうと頼むことにした。
 娘にクライスはびっくりしているように固まっている。人見知りならばやはり子ども同士の方が良いだろう。

 ――それが、いずれ孫に関わる一因とは誰に解ろうか。

「ちょうど良かった。もし時間があるのなら、この子の相手をしてあげなさい」
「よろしくてよ。お庭に行っても良いかしら?」
「ありがとうマリエラ嬢」

 自分も大人たちの付き合いで話がわからず退屈な時間を過ごした事があるマリエラ嬢だ。
 しかも今し方も大人たちに関わり疲れてきたところ。
 マリエラ嬢は幸い、自分よりお小さい子の相手は嫌いではないし――それも何れは仕事になる。今日もまた、経験にもなろう。

 だからマリエラ嬢も親しみを込めてその小さなお客様に挨拶を。

「初めまして。小さな紳士さん。わたくしはマリエラ。お名前を教えていだいてもよろしいかしら」

 マリエラ嬢は輝く黄金の髪を揺らしながら首を傾げて。
 それは幼いお子に対しての優しく、柔らかく――美しい微笑みで。

 ――幼くもあまりにも美しい美貌の、輝く黄金の髪をした少女だった。



 ――それが心の底に焼き付いて。


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