「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ

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「こりゃあきまへんわ。現実みよ」

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「こりゃあきまへんわ。現実みよ」

 芸は身を助ける的なことは、本当にあるんだなあ……と、男爵令嬢であったスピカは、その人生で度々思うのであった。



 スピカには前世というものがあった。
 前世では高卒の社会人であり、休日にはゲームをし、同人活動をし、そしてイベントにも参加し――立派なオタクであった。
 大好きなのはゲーム。
 寝る間を惜しみ、食事も惜しみ、ゲームと同人活動の原稿に精を出していた。

 ――たぶん、死因はそこ。

 過労死であろう。
 会社はブラックではなく、イベントにも出やすいきちんと有給休暇もくださるところで、事務のおばちゃんなどにもずいぶんと可愛がられていた。だからもしも死因で会社に何かしら迷惑がかかったら申し訳ないと、今現在、今の生でも思う。
 度々、同居していた姉が「いい加減に寝ろや食えや! 掃除せえ!」と雷を落としてくれていたのを、「はいはい」と聞き流していたのも、今なら反省だ。
 姉は同人活動に寛容な一般人であったから、きっと部屋の後片付けはしてくれているだろう。同人誌は――見ないで欲しい。マジで、二度死にしてしまう。

 そんなスピカ。
 自分が転生していると気がついたのはとある庭園でだった。

 スピカはマーロウ男爵家に一年前に引き取られたばかりだった。
 それまでは街の一角に母と共に。
 仕立ての下請けで何とか食いつないでいた。

 母はいわゆる「おめかけさん」であったことを理解したのも、前世の記憶を思い出してから。

 そらあきまへんわ、お母さん。

「どーりで、お兄さまの態度がかたいわけだわー」

 思い出して、納得。
 マーロウ男爵には自分の他にも子がいました。
 ちゃんとした、正妻さんの。
 正妻さんとは、正妻さんサイドのお家の事情での円満離婚で、跡取りとなる息子は残してご実家に帰られたらしく。
 記憶を思い出しても兄となるひとはいわゆる「モブ」であったから、このマーロウ家や彼の母にどんなごたごたがあったのかはわからなかったが。
 しかし前世の社会人な記憶を思い出せば、周りをみて察することもでき。

 父親であるマーロウ男爵と自分の母は昔からの恋仲であり。幼馴染みであり。
 母の実家も男爵家だったらしいのだけれども、領地で震災が起きたときに貧しい地方では復興資金がままならず、自分たちが領地や家門にしがみつくより、国に領地ごと納めた方が――民のためになる、と。
 そんな理由で平民と下がった母。父の実家は手助けできないことを申し訳なく思っていたらしい。父のところも被害があったから、他所を助ける余裕がなくて。
 けれどもいかな男爵の父とはいえ、いまや平民の母を娶るには、身分の差はあり。
 二人は泣く泣く別れた……が。
 ふとしたときに再会して焼け木杭に火が付くのはもはやお約束。
「そりゃあ、あきまへんわー」
 不倫ですわー。不倫ですわー。あきまへんわー。

 しかし、正妻さんも政略結婚と割り切っていて。跡取りを産んだのだからお役御免と……なんか、嬉々としてご実家に帰られたとか。
 何でも正妻さんのご実家の跡取りであったお姉さんが、子が生まれない悩み云々の末。幼馴染と駆け落ちだかなんだかあったとか。そっちも幼馴染みかぁ……て、スピカは話聞いて思ったり。
 正妻さんは、ならば跡取りとして、なんとお姉さんの旦那さんと再婚するために離縁したのだという。血筋の存続のために。自分は子供産める実績・・あるわけですし。
 その義理のお兄さんが昔から好きだったとか……あ、察し。

 そしておめかけであった母とその隠し子的な自分は、そういうことになった再婚なら、まぁしょうがないと許されて。マーロウ家に迎えられて。
 母が元貴族なのもあり。母はマナーもしっかりしてましたし、後妻としては悪くなく。
 庶子だが娘なら跡取り対決もないし、むしろ政略の駒、嫁出し要員になるとのことで。自分がそういう扱いに不満はあるけれども。それに跡取りが一人では不安だから、もしものスペアに、とさ。お兄さんに何かあったらお家存続のために自分が婿をとり、らしい。
 複雑……。何だかんだお兄さん、不憫すぎるて……。

 そんなだからお兄さんにしょっちゅう睨まれるんやなぁ。仕方ないわぁ。

 スピカはきちんと自分の分をわきまえた。元社会人で培った気配りよ。

 だからか父母や祖父母に「この子は大人びてるなぁ」と思われていた。下町育ちだからかしら、とも。

 でもお兄さんは自分からこの男爵家に残ったんだけどね。
 正妻のお母さんはお家に戻るときに、一緒に行くかと尋ねられた。ちゃんと。お母さんの子なら血筋的に跡取りになれるからだ。
 それでも。
 お兄さんはこの家に自分から残ると選んだ。
 まぁ、お母さんについて行ったらお母さんがこれから産むかもしれない弟妹さんと……こう、ねえ? 新しいお父さんになるひとのご実家の方が、家格高いので……。
 この家に残ったら、跡取りのままと堂々としていられるもんな。
 
 だから母もスピカもお兄さんにはめちゃんこ気を使ってる。
 父親も。
 彼も正妻さんの気持ちもわかってて。互いに好きなひとがいての結婚だからと、同じ同志みたいな感じで仲は良かったらしいよ、だからお兄さんが産まれたわけだしね。
 だからの円満離婚ですわ。
 正妻さんがお兄さんを置いていったのは正味な話はモヤっとするけど、ご実家も政略結婚で婿さんの方の家格が高くて――そちらの子を改めて産んで跡取りにする計画なら。お兄さんは可哀そうな言い方するなら居候な厄介者。
 それはお兄さんを置いていくわ。こちらにいたら跡取りと大事にしてもらえるもの。それに祖父母にとってもとっても、とっても、大切にされているのだから。スピカより格段に良い品与えられてます。
 複雑ですわー。これが貴族ですわー。

 生前、父親が転勤職だったために内心の方言があちこち怪しいスピカだ。
 だから余計にゲームがお友達でした。
 子供はね、違う言葉とかも虐めの原因にしたりするんよ。幼いよね。愚かよね。
 まあ中にはちゃんと友達になってくれる子も。
 少し歳の離れた姉が短大を卒業してから一緒に暮らそうとしてくれたため、高校からは転校しないで一か所にいられたけれども。
 ありがとうお姉ちゃん。遺品整理まで面倒かけます。ゲーム本体やソフトは売ってください。
 パソコンの中は見ないで。マジで。
 マジで、本気と書いてマジで二度死にしてしまう。
 本当なら世話かけた分、姉の守護霊とかになりたかった。でも余計にまた面倒かけるだけだったろうか。

 そうして記憶を思い出したらさらに思い出したこともあったので。
 いや、一番大切なことで。

「ここ、乙女ゲームの世界ですやん?」

 テンプレですやーん!






「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
 の、あとがきにもありました少女が主人公。まさに主人公なお話です。
 舞台は前作の二年前の設定となります。

 
「輝く星の乙女~スピカ~」(一作目)
「輝く星の乙女~ポーラスター~」(二作目)
 な、感じ。かしら?

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