8 / 37
「こりゃあきまへんわ。現実みよ」
06
スピカの兄ファビアンの婚約者は、リーシャの従姉妹のレティシア嬢となった。
リーシャと友人になったのが先だけれど。
だから何の話の流れであったか「そういえば兄の婚約者がレティシア・バーディさまになりました」と告げたときのリーシャの顔よ。
細めの瞳を、眉をひそめられ下げられた。
レティシア嬢は兄と同じで一学年上だから、学園であまり関わることはないのだけれど。
なんというか、リーシャが言うには「めんどくさい」らしく。
レティシア嬢はバーディ子爵家の一人娘、だった。
父親がリーシャの母の兄となるらしい。リーシャの母がフランター伯爵家に嫁入りしたのだ。
だった、と過去系になってしまうのは。
父親の再婚により、「弟」ができたからだ。
しかもレティシア嬢より出来の良い。
しかし、バーディ家の跡取りは父親の娘のレティシアだろう――と、もならず。普通ならお家の乗っ取りと騒がれるところではあるが。
その再婚はバーディ子爵家の本家筋、主家の侯爵家による命令であった。しかもレティシアに「次期当主の資格なし」と判断を下されたが理由の。
実は再婚の義母の血筋は、バーディ子爵家の本家である侯爵家に近しい方であり。そして亡くなった彼女の旦那さんもまたバーディ家の縁のひと――まぁ、父親の従兄弟であり。祖父同士が兄弟で。
家格血筋でいったら、「弟」の方が……と、なってしまった。
後に義弟のセオドアくんから「実際はバーディ家押しつけられたようなものなんですけどね」と言われ。彼もまたお疲れ様であった。
レティシア嬢は文句を当然言ったらしいのだが、「では何故、跡取りなら受けるべきの領地管理科目を取ってないのか?」と、また本家に当然尋ね返され。
侯爵家はきちんと、把握なさっていた。寄子貴族たちの跡取りたちを。
それ故に、だ。
レティシア嬢の学力では一年の始まりで、ついて行けなかったらしい。
「一年、歳が……時期がズレて本当に良かった……同級生にならなくて、良かった……宿題、めんどう、押し付けられるかもだった……」
心底からつぶやくリーシャに、スピカはお疲れ様と背中を撫でるしかない。
レティシア嬢、早くに母を亡くしたことで父親や祖父母に甘やかされており、リーシャの方が伯爵令嬢であるというのに年上ぶって――まぁ、よくある「リーシャの方が良いものもっているのずるい」と、やらかしてくれていたらしい。
「ぬいぐるみとかリボンとか、小さなアクセサリーとか、よくとられたわ」
「うへぁ……」
「あと、最近では母の店で騒がれて……あの貴方のデザインの、寄こせって……」
ため息しかないわぁ。
「祖父母は完全に一緒に暮らしてるレティシアの味方なの。リーシャは伯爵家で大事にされてるから、その分レティシアは自分たちが、て気持ちなのかも……」
それはしんどい。
最近では「義母にいじめられるかわいそうな私」と騒いでいたが、なんてことはない。侯爵家から来た義母に「躾」直されているだけである。
そうしたわけで、レティシア嬢は嫁に行くこととなった。追い出すとはかわいそうだから言わないように。
主家が「弟」という存在を組み込むためにバーディ子爵に再婚を勧めたのは、そうしたあたり、将来を心配したのだろう。
義母さんこそ貴族として主命を把握してなさった。再婚も受け入れ、義娘の躾も頑張ろうとなさっていた。
そしてマーロウ家に御縁できてしまった。
スピカにしてみたら「厄介な奴に厄介な奴をぶつけんなよ」となるのだが……。
けれども、なんということでしょう。
ファビアンとレティシアの相性は抜群だった。
互いに出来の良い弟妹に苦労している彼らは。
そうしたところも気が合ったのだろう。
格下の男爵家に嫁入りで、レティシアはその辺りはご不満らしいが――モブとはいえ主人公の兄である。
ファビアンは美少年である。
レティシア嬢は顔合わせで手のひら返し、あっさりと婚約を受け入れた。それまでは子爵家を追い出されるとごねていたというのに。
ちなみにレティシアもなかなかの美少女。細目な従姉妹を馬鹿にしたりもするそうで……。
ひっそりとマーロウ家も兄の婚約者探しに難儀していたことは、後に知ったスピカだった。
御婦人たちのお茶会というのは情報収集の場。兄の評判評価も勿論そこで流れるわけで。
いかに祖母や母が頑張っても、親戚や同級生の親御さんから漏れたりするわけで。
まぁ、顔が良いからその辺りから話を持ちかけられはしているのだそうだが。
やはり継母や妹への態度が「貴族としてどうなの?」と、なり……。
貴族とは血筋が大事。血統を繋ぐために庶子を家に入れることは、実は法でも認められている。
今回のレティシアとセオドアのようなことも。
兄の評判は、良くなかった。
スピカは、まだ知らないことがあり――世間には隠せないものだ。
だからこそ、レティシア嬢と気が合うならこちらも受け入れるしかない。むしろレティシア嬢とお似合いです。
「大丈夫よ、めんどくさい従姉妹が義姉になっても友達辞めないから」
「リーシャぁ……」
「もともとこっちが親戚なんだから……縁はきれないわ……縁、こわい……」
「……リーシャさんや?」
しかしながら、レティシアは義妹となるスピカが、「身分高くて裕福なことをひけらかす従姉妹」と友人なことがご不満であるらしく。
チクチクと。それはもうチクチクと。
「スピカさん? ちょっと? 私が来てるのに出かけるの? ふぅん、リーシャと先約? そうよね、子爵家の私より伯爵家のリーシャと付き合う方が良いわよね……ファビアン様ぁ?」
「すまないレティシア嬢。妹は外面が良いのだ。まったく、将来の義姉が歩み寄ってくれているというのに」
最後は兄に泣きつくのであり。兄は妹の無作法を、妹の前でレティシアに詫びるという一連のコンボ。
うっわ、めんどくさい。
リーシャの言った意味を同意したスピカだった。本当に良く気が合うことで。
ゲームの中で、主人公の家庭がこんなめんど――複雑だと、あったかしら。
スピカは今更ながら、きちんとクリアしておけばよかったと、後悔で。
「厄介なのと厄介なのを合わせたら、もっと厄介になるんよ……」
スピカとリーシャは、この頃はまだ、ため息をつくだけですんでいたと、遠い目だ。
厄介なのがさらに――とんでもなく厄介なことをしでかしやがるのだから。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、面倒なので全部放置します
かきんとう
恋愛
王都の大広間に、どよめきが広がった。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、何百もの蝋燭の光を反射し、きらきらと輝いている。その光の中心に立つ私は、妙に他人事のような気分で、その場の空気を眺めていた。
「エレノア・フォン・リーベルト! 私は貴様との婚約をここに破棄する!」
高らかに宣言したのは、第一王子であり私の婚約者でもあったアルベルト殿下だった。
周囲の貴族たちが一斉に息を呑み、次の瞬間には小声のざわめきが連鎖のように広がっていく。
――ああ、ついに来たのね。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
わたくしの婚約者が病弱な幼馴染に縋り付かれた…あれ?
ぼん@ぼおやっじ
恋愛
ある日私の婚約者に幼馴染から連絡が来ました。
病気にかかって心細いから会いたいというのです。
これって最近聞いた…
私たち死一体どうなってしまうのでしょう…
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。