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■幸せの足音
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「今日も一日、よろしくお願いします」
私たちはいつものように、祠の前でお祈りをあげた。今日も泉は魚が跳ね、水草が穏やかにたゆたっている。夏の強い日差しも、ここではさえぎられていてひんやりと涼しい。虫と魚と、草花が風に揺れる音色が耳朶をくすぐる。緩やかに時間が流れるこの場所は、彼らの楽園だ。
「カナちゃん、これからどうするのかな?」
今日はカナの姿はない。昨晩、カナのおじさんの病が悪化し、そのまま急逝されたので、農協の人たちと今後のことについて話し合いをしているのだ。彼女はおじさんのあとを継ぐと言っていたが、いつもお手伝いしていたとは言え、さすがにすぐには農場を任されないだろう。おそらく、彼女が一人前になるまでは、農協の誰かが彼女の農場を一時的に取り仕切ることになるはずだ。
「どうするのかって?」
ユユの質問の意味を問う。
「農場につきっきりで、あたしたちといる時間が減るのかなーって思って。日食祭とか遺跡調査とか、もう一緒にできないのかな」
「それなら大丈夫よ。カナだって、まだ十五歳なんだから、そんなにすぐには農婦になれないよ。これから空いた時間を使って、いろいろ勉強していくんだから。たぶん、しばらくはいままで通り、一緒にいられるよ」
「じゃあ、あと何年ぐらい?」
「そうねー。カナなら、あと三、四年もすれば一人前になるんじゃない」
もっと早いかもしれないけれど、私もカナともうしばらく一緒にいたいので、予想より多めに勘定してしまった。
「そんなに? なんだ、カナちゃんってばたいしたことないないなぁ」
「あんたね……。どんな仕事でもそうだけど、熟練者になるには相当の時間と努力が必要なのよ。軽く見すぎてると、連絡係になれるのは十年以上かかるかもね」
「十年! あたし二十四歳? うーん、それはちょっと……。努力、ドリョクか……」
頭を抱えるユユ。うん、たまには厳しいことを言ってやらないとね。
「安心して、ユユちゃん。大好きなことなら努力してるつもりなくても、時間を忘れてできちゃうんだから」
エルフリーデが励ましていた。
「そうだよね。さすがエルフリーデ、いいこと言うじゃん。うん、あたしはやればできる子なんだもん」
私とエルフリーデの飴と鞭に、ユユの表情はころっと変わった。
都合よく元気を取り戻したユユは、うれしさ余りあってエルフリーデの頭を思いっきり撫で回す。エルフリーデは目を回しているようだ。こうして私たちは、カナの分もおしゃべりに花を咲かせながら洗濯をしていた。
「ところで、今日からクジラの調査の予定でしたけれど、どうしましょうか? カナさんがいないので中止にしますか?」
ここ数日、ドームの調査を続けていたが、大きな収穫はなかった。大樹の塔の周囲にある廃屋も、一軒一軒調べたものの、どれも代わり映えのない民家で、目新しいものは見つからなかった。
大樹の塔の上層も、電力を使わない方法でどうにか上がれないものか、散々試してみたが、すべては空振りに終わった。やはり、高度な知能を有した旧人類の道具は、私たちには扱うことができないらしい。
ドームの調査は頭打ちだった。このままでは埒が明かないので、ここはひとつ、クジラの調査に切り替えよう、となったのが昨日のことである。
「えー。今日、楽しみにしてたのに」
ユユが駄々をこねる。まぁ、彼女のことは悪く言えない。私だって、今日はドームへ初めて行った時のように楽しみにしているのだから。
「それなら大丈夫。カナから連絡があって、午後には会議が終わるから、っていうか終わらせるから、少し遅れるけどそのあと一緒に行きたいって」
「さっすがカナちゃん。やる時はやるね」
午後の予定が少し繰り下がるが、問題はないだろう。むしろ、カナがいないことのほうが問題なのだ。彼女がきてくれるなら、これほど心強いものはない。
「その真っ直ぐさ、カナさんらしいですね」
「曲がれないし、とまれないもんね」
あの調子なら午後と言わず、午前中に終わらせるかもしれない。それはそれでせっかちすぎるけれど。
私たちは洗濯を終わらせると、水遊びはせずに帰り支度を始めた。下山し、村に戻る。今日はカナの分の洗濯物もあるので、いつもよりひとり当たりの量は多い。私たちは洗濯物を四等分にして村の家々に配達することにした。
「それじゃあ、みんな。配り終わったら、私んちに集合ね」
カナを待っている間、私の家で日食祭の準備をすることにした。まだ日があるとは言え、こっちはこっちでしっかり進めておかなければならない。そうしないと、あっという間に日食祭になってしまう。カナには配達の途中で、話し合いが行われている村長の家に寄り、私の家に来るように伝えておこう。
いつもより少し多めの洗濯物を持ち主に返却し、私は家に戻った。両親はまだ仕事中だ。邪魔にならないようにそそくさと自室へ入る。
部屋には先客がいた。
「よっ。遅かったね」
お調子者のお隣さん、ユユだ。勝手知ったるなんとやらで、彼女は私の部屋で座布団を枕代わりにし、うちわで涼んでいる。
「ユユ……。ずいぶん早いのね」
「走ったからね。驚かせようと思って」
そんなことのためにわざわざ暑い中、走ってきたのか。ご苦労なことだ。
「ま、驚いたけど。それで、ちゃんと衣装は持ってきた?」
「あったり前じゃん。目的を忘れるなんて、お馬鹿さんだけだよ」と言って、ユユは荷物を探った。「……あれ? 裁縫道具がないや」
「早く取りに帰りな、お馬鹿さん」
照れ笑いを残してユユは駆け足に出て行った。驚かすために焦って忘れ物をするなんて、彼女らしい。彼女と入れ違いにリディとエルフリーデがやってくる。当然だが、ふたりはちゃんと道具を持ってきていた。
そして僅差で、遅れてユユが再び到着した。
「あ、ユユちゃんビリだよー」
エルフリーデが茶化す。
「違うのー。あたし、本当は一番乗りだったんだよ。マリちゃん、このおチビちゃんにいかにあたしがすばらしい人間なのか、説明あそばせ」
「ユユちゃんってばドンケツー」
私は知らん振りをした。
「薄情ものー!」
ユユが私の両肩をつかんで、ガクガク揺らす。エルフリーデとリディはくすくす笑っていた。いつも茶化す側に立つユユにはいい薬だ。
「さぁさ。お遊びはこれくらいにして。みんな、内職の成果を見せてもらおうか」
私は手を叩いて場を仕切った。それぞれが袋から衣装を取り出す。妖精を模した衣装だ。日食祭では、これを着て村の伝統の舞踊を踊る予定だ。妖精に敬意と感謝を込めて、村の幸福を祈るのである。
日食祭とはその名の通りである。太陽が月に隠れる時に開始されるお祭で、やぐら型の高い焚き火と村中に装飾される燈篭で暗闇をしのぐのだ。
明かりだけでなく、賑わいも重要だ。伝統の音楽を演奏し、お酒と豪華な食事を用意する。そして、大人から子どもまで数人でひとつの組を作り、村の中央の広場で出し物を披露して、活気盛んに太陽を待つのだ。もちろん、私たちはいつもの五人でチームを組んで出し物に臨むつもりだ。
この日食祭は、太陽が姿を消している間、私たち人間が太陽の代わりになる、という意味を持つ。太陽は神様の象徴である。昼間なのに神様がいないという矛盾をなくす、重要なお祭りだ。中途半端にやるのは失礼に値する。
日食祭まで、まだ日数はあるが、あまりぼやぼやしていられない。舞踊の練習もしなければならないのだから。
私は衣装監督として、一人ひとりの衣装の出来栄えをチェックしていった。衣服屋の娘として、この大役は私に任されている。腕の見せ所だ。
「リディはきれいにできてるけど、ちょっと進み具合が遅いね。丁寧にするのも大事だけど、これからはスピードも重視して」
リディの衣装は、彼女の性格を映すように細かいところまで丁寧に手が行き届いている。この進捗状況であれば、日食祭に間に合わないことはないだろうが、用心するに越したことはない。
「そうですね。エルフリーデが早いだけかと思いましたが、おふたりの衣装を見ると、どうもゆっくりしすぎていたようです」
「エルフリーデのは……。うん、いいね。きれいに縫えてる。うまいじゃない」
絵が得意なエルフリーデは、やっぱり手先が器用なようだ。衣装のサイズが小さいとは言え、作業も早い。
「リディがわかんないところを教えてくれたからだよ。でも、あたしのせいでリディが遅くなっちゃって。ごめんね」
髪の毛をくるくるいじりながら、エルフリーデはしょんぼりと謝った。
「エルフリーデが気にすることはありませんよ」
リディはエルフリーデの頭を撫でて励ましていた。本当の姉妹のようだ。
何をするにも手落ちのないリディの作業が遅いのは、そういうことか、と得心がいく。だけど、もともと素質のあるエルフリーデも要領を得たようなので、これからはリディも遅れを取り戻すだろう。
「さて、ユユのは……」
「どう? もう完成間近でしょ」
「そうだけど、ちょっと縫い目が雑ね。あ、ここ。糸もほつれてるし。でも大丈夫。これぐらいなら簡単に修正できるから。やり方教えるから見てて」
私はユユにお手本を披露する。すんなりと理解したようで、てきぱき作業に取り組んだ。もともと彼女は手作業が得意なのだ。ただ、先を急ぐあまり雑になってしまうだけで、それでいて集中力が持たないだけだ。……よく考えたら、それは手作業が不向きということか、前言撤回である。
それから私は三人の作業の監督をしていた。自分の分も終わってはいないが、私はこの中でも裁縫はダントツで得意なので、いまはほかのみんなの質を上げることに専念し、自分の衣装は後回しにした。
しばらく四人で作業を進めていると、玄関から訪問を告げる声が聞こえた。カナが来たようだ。時刻は正午を過ぎたばかりである。思っていた通り、彼女は大急ぎでことをすませたようだ。忙しない足音が、廊下から聞こえてくる。
「遅くなってごめん。みんなもう集まってるよね?」
慌てているのか、一目見ればわかるのに、カナは私の部屋の戸を開ける前から確認を取っていた。
「遅くなんてないよ。ちょうど、きりがいいところだったんだ」
「うわぁ。みんなの衣装、よくできてるじゃん。私、追いつけるかなぁ」
私たちの衣装をためつすがめつして見て、カナは不安に駆られているようだった。
「大丈夫。私がつきっ切りで指導するから」
私はにっこりと微笑んだ。覚悟しててね、と言わんばかりに。
「ううっ。……お手柔らかに頼みます」
「話し合いは無事、終わったようですね。どういう方針に決まりましたか?」
リディが問いかける。私たちも気になるところだ。
「うん。とりあえず、村長と農協の人たちが交代でウチの農場を管理してくれるみたい。私が一人前の農婦になるまでね」
「それはよかったです。がんばりましょうね」
力強く、カナはうなずいた。その表情には向上心と決意が見える。やはり、彼女なら立派な農婦になれそうだ。物事がいい方向へ進んだようで、これで一安心である。
「時間はまだあるよね? これからクジラの調査に行こう」
もちろん、とみんなは声をそろえた。
持ってきた衣装はとりあえず私の部屋に置いておいて、私たちは遺跡調査の準備を始めた。持って行くものは提燈にたいまつ、長い縄、それから厚手の上着と大樹の塔で見つけた遺物――この水面の板だ。水面のように姿を映し出すから、私たちはこの板を水面の板と名づけた。吟遊詩人の言う通り、自分たちで名前をつけたらよりいっそう大切なものになったように感じる。
上着とこの水面の板を持っていこうと発案したのは、やっぱりリディだった。上着が必要になる理由はクジラの体内では太陽の光が届かないから、気温が低くなっているだろう、という予測の基だ。
そして、もうひとつ。なぜ水面の板が必要かと言うと、理由はふたつある。
ひとつは真っ暗なクジラの体内では、提燈の明かりだけでは心もとない。それでこの水面の板を使って、提燈の光を反射させ、明度を向上させようというもの。
もうひとつは、これが特に重要かもしれない。クジラの体内は上下、左右に道が入り組んでいる。左右の通路はその足で歩けば問題ないが、上下の場合はどうしても目視しづらい場面が出てくるだろう。そこで水面の板を上下の通路に差し込んで角度を調整し、通路の奥を反射させて確認するのだ。
準備したものをリヤカーに乗せ、私たちはクジラを目指した。
夏の炎天下。私たちは未知のものへの羨望を胸に、大はしゃぎであぜ道を走る。凹凸の激しい砂利道も、蒸し暑い気候も、私たちの足を鈍らせられるようなものじゃない。村を出て、南西の森に入る。ここのむき出した木の根も、肌をこする枝だってそうだ。なんら痛痒を感じない。
森を抜けると、広大な草原に巨大なドームとクジラが視界いっぱいに入ってくる。いよいよ、あのクジラの中を調査するんだ。思わず身震いする。この感覚は、ドームを調査した初日と同じだった。
クジラの体内への入り口は、あの大きな口ではない。そもそも口ははるか上にあるので、村で一番長いはしごを使っても届かないだろう。入り口は接地している腹部の中央だ。そこに穴がぽっかり空いている。偶然、クジラの周囲を散歩していたリディとエルフリーデが見つけた、唯一の入り口だ。
「そういえばここって、まさかこのクジラのお尻の穴じゃないよね?」
ユユがまじまじと入り口を見て、そう漏らした。肛門だけに、なんて。
「ちょっと、いやな想像しないでよ。私も人のこと言えないけど」
むしろ、私のほうがなんだか汚い。自重しないと。
「ばっちぃ」
エルフリーデが鼻をつまんでいる。
「大丈夫ですよ。これは生物じゃないのですから、排泄はしないでしょう」
「そういうこと。うわぁ、すごいなこれ。中は真っ暗だよ」
カナのあとに続いて、恐る恐る中の様子を窺う。赤土の色に似た内壁は、金属とも木造とも取れない感触だ。少し弾力もある。光がさしているのは、入り口付近だけだ。外の光は吸い込まれていくように闇色に染められている。まるで奥が見えない。以前、見た時と同じだ。異変はない。
「よし、準備しよう」
私の呼びかけで、時がとまったように見入っていたみんなが動き出した。
準備と言ってもすることは少ない。提燈に火を灯し、入り口付近の地面に杭を打って縄の端を結ぶだけだ。中で何があるかわからないから、縄はきつく、固く縛った。これで帰り道は確保できた。あとは縄がなくなる前に戻るようにすればいいだけのことだ。何重にも巻かれた重い縄は、頃合を見て交代で担当することにした。
今回の目的は体内の構造の様式を少しでも知ることである。深くまで潜る必要はない。この縄が尽きたら、そのすぐ先にどんなに興味深いものを見つけても引き返すことをみんなに確認した。
「特にユユは羽交い絞めにしてでもつれて帰るからね」
カナはユユの脇腹を肘でつついた。
「あぅ。わかってるよぅ」
ユユより私がカナに羽交い絞めにされないか、ちょっと心配だったり。この注意事項は自分に言い聞かせるためのものでもあるのだ。
「みんな、準備はいい?」
私は自分の顔を両手でぴしゃり、とはたいて気を引き締めた。一人ひとりの顔を見る。みんな待ちきれない様子だ。
「それじゃ、しゅっぱーつ」
号令とともに、私たちはクジラの体内へ入った。先頭は私とカナが歩き、その後ろを残りの三人がついてくる陣形になった。
道は緩やかな上り坂、足元の感触は不思議なものだった。硬すぎず、やわらかすぎない。これならどんなに歩いても疲れなさそうだ。天井はそれほど高くない。背の高いカナとリディが肩車をすれば届きそうだ。これなら上に空いた通路も確認が取れるだろう。
問題はやはり、この暗さであった。入り口から入って少し歩くと、あたりは一気に外の光が届かなくなった。提燈を吊り下げた竹の棒を握り締める。ここからは光源が一切ないだろう。提燈の明かりだけが頼りなのだが、それも私たちの姿をぼう、と浮かび上がらせるだけで、通路の奥は闇に飲み込まれていた。
水面の板で提燈の光を反射させてはみたが、思ったほど効力を発揮しない。いかんせん、面積が小さいので反射できる範囲が限られているのだ。
「やはり気温が下がってきていますね。みなさん、上着を羽織りましょう」
外気の暑苦しさに比べて中は異様な寒さだ。活動を停止したクジラには、ぴったりのイメージかもしれない。
私たちは用意していた上着をそれぞれ羽織った。
外は夏で、中は冬。その気温差ゆえに、私は思わず身震いしていた。予想以上に気温は低い。こんなことならもっと厚手の上着を持ってくればよかった。
「みんな、足元に気をつけて。穴が開いてるよ」
後ろの三人に注意を促す。穴は大人ひとりが充分に入れる程度の大きさだ。
「少し調べましょう」
リディはろうそくを取り出し、提燈の火を分け、腹ばいになって穴を覗き込んだ。
「マリアさん、水面の板を貸してもらえますか」
穴は奥まったところで角度を変えているらしい。水面の板が役に立つ時だ。
「……ダメです。見えませんね。奥まで光が届かないようです。ろうそくの火が風で揺れているので、どこか大きな空間か、もしくは外につながっているはずですが」
大きな空間――その響きは得も言えぬ魅力があるが、さすがにこの小さい穴を進んでいくのは気が引ける。
「ひとつ、思いついた仮説があります」
リディはおもむろに立ち上がり、たたずまいを正す。みんなは彼女の言葉を待った。
「この穴は、いえ、たぶんこの通路もそうですが、通気口かゴミを外に排出するための縦穴なのではないでしょうか。このクジラの中で人が生活していたのであれば、換気やゴミ捨ては必要不可欠のはずです」
「どうしてそんなことがわかるの? 換気はわかるけどゴミ捨て口には見えないよ」
疑問を呈したのはカナだ。たしかにゴミを外に捨てるとしたら、こんな歩けるような緩やかな傾斜ではうまく外まで排出できそうにないし、あたりに排出する装置らしきものも見当たらない。
「もともと、この通路は正規の入り口ではないと思っていたのです」
と言って、リディは顎に人差し指を当てた。
「みなさん、遠くから見たクジラの姿を思い出してみてください。クジラのお腹は船底のように丸みを帯びていたでしょう? ですから、接地した状態だと斜めに傾いていました。お腹を出した状態で横たわっていましたよね? 通常、クジラのお腹は地面に向いているものですし、この通路の入り口もお腹にありました。もし、言い伝えの通りに、このクジラが正しい姿勢で空を飛んでいたとしたら、その時はこの通路は地面と垂直に伸びているはずなのです」
リディの仮説は驚くほど信憑性が高かった。もし、このクジラがいま空を飛んだら、私たちはここから真っ逆さまに地面に叩き落とされるだろう。地面と垂直の穴が、通用口であるわけがない。
「ゴミも出てきて、空気も呼吸みたいに出入りするってことだよね。ふむふむ、なるほど。お口でもあり、やっぱりお尻の穴でもあったんだ」
あごに手を置いて、しかつめらしくユユは独自の解答を出した。
「やっぱりばっちぃの」
そして、エルフリーデの合いの手である。
「ゴミですからね。汚いものもあったかもしれません。ですが、この仮説が正しければ、この小さな横穴は個人、あるいは少人数の部屋に続いていて、私たちが歩いているこの主要の大穴はそれ相応の巨大な空間に繋がっている可能性が高いです」
この小さな横穴の先は、いたるところに設置された小さなごみ捨て口か、あるいは換気口なのだろう。
「それじゃあ、小さな穴は気にせず、この道を突き進んでいけばいいんだね」
「はい。本来、人が歩くための通路も、きっとこの先にあるでしょう」
リディの導き出した答えに俄然やる気が高まり、雰囲気が明るくなった。この暗い洞穴で、みんな不安が募っていたのだ。それを払拭してくれたのは、やはりリディだ。彼女の存在は私たちにとって、光の道しるべのようにかけがえのないものである。いつも足元のおぼつかない私たちをしっかり支えてくれるのだった。
私たちはこの先に切望する何かがあると信じて進んだ。縄はまだ充分すぎるほどある。クジラの高さはどれぐらいだっただろうか。大樹の塔よりは低かったはずだ。それでも低めにできたわた雲に届きそうなぐらいの高さだったので、相当なものだ。さすがにそこまで縄は長くないが、まさか天辺まで突き抜けているとも思えない。必ずや、縄が足りる範囲に目的の場所に出るはずだ。
「ねぇねぇ。もしもさぁ、旧人類の魔術師だっけ? が、生き残ってたらエルフリーデはどうする?」
安堵感からか、後ろでユユがおしゃべりを始めた。前にいる私とカナは、足元に注意しなければならないので気を抜けない。
「んーっとね。まずはごあいさつして、魔術師さんのご飯を食べてみたいな。どんなの食べてるんだろうね」
「身長とおんなじで願望もちっちゃいなぁ。リディは?」
「私は魔術師の医療技術を教えてもらいたいですね。きっと、私たちには及びもつかない技術がありますよ」
「どっちもらしいと言えばそうなんだけど、なーんかいまいちだね」
「じゃあ、ユユちゃんはどうなの?」
「あたしは決まってるよ。このクジラを動かしてもらうんだ。操縦できるんなら、あたしが動かしてみたい。だってこんなでっかいものが空を飛ぶんだよ? 信じられないじゃない。でも言い伝えが本当なら、実際に飛んでたんだよね? だったらあたしはこの空飛ぶクジラで世界一周したいの」
「すごい! ユユちゃんらしいね。あたしはちゃんと動かせる自信、ないなぁ。なんだか壊しそうでできないや」
「ユユだって絶対壊すから自信なくすことないよ、エルフリーデ」
後ろの歓談にカナが割って入る。ユユは、「何をー」と背後からカナに抱きついた。みんなの歓声が上がる。
このどんなに進んでも代わり映えのしない長い道も、ゴミ捨て口兼換気口だと思えばどうってことない。必ずどこかの部屋に繋がっているのだから、と思えばみんなにも少しずつ余裕が出てきていた。はしゃげるほどではないが、鬱屈するほどのものでもない。馬鹿話程度なら邪魔にもならないだろう。
「空気が……とまってください」
しばらく歩いていると、リディが異変に気がついた。
「どうかしたの?」
私にはまだ微細な変化に気づけずにいた。
「……空気の流れが肌で感じられるほどになっています。肌を撫でる程度ですが、風が吹いているのです」
「どれどれ」カナが指先を舌で湿らせる。「……ほんとだ。部屋が近いんじゃない?」
先ほどまでとは違う歓声が上がる。
「早く行こう!」
ユユが待ちきれず、私を追いこそうとする。
「待って! こんな時こそ慎重に進まないと。みんな、離れないでくっついて移動するよ。絶対に先走っちゃダメだからね」
ユユを押しとどめ、私たちは息をするのも忘れて歩いた。しばらく緊張のまま歩を進めていると、急に道が途絶えた。壁にぶつかったのではなく、通路は大きな穴に繋がっていたのである。まるで巨大な生物がぱっくりと大口を開けているみたいだ。四方は切り立っており、崖にできた横穴のようなところだった。暗闇の中は、何も見えない。
「どうなってるの? ここで終わり?」
混乱しかける私を、リディは背中を撫でて落ちつかせてくれた。
「大丈夫です。あまりに巨大な空間で提燈の光が届いていないだけです。私たちはこのクジラの底から昇ってきた形になりますから、前方は天井なので何もないでしょう。何かあるとすれば、上下か左右でしょうね。そちらがこの空間の本来の壁にあたります」
リディの説明で頭が冷える。「ありがとう」と、小さくつぶやくと、彼女は微笑を返してくれた。「がんばりましょう」と。
リディに鼓舞され、私は周囲を綿密に調べた。
しゃがみ込んで、崖の際を検める。垂直に断崖絶壁、となっているわけではなさそうだ。クジラは斜めに横たわっているので、その分の角度がある。だが、それでも急すぎる傾斜だ。歩くのも滑り落ちるのも、とてもじゃないができそうもない。
よく観察してみると、崖の先が直角に盛り上がっており、人ひとり立てそうなスペースがある。それは連綿と横に繋がっており、この大穴を中心に囲っているようだ。光が弱くて確認しづらいが、その先にいくつも同じように直角の盛り上がりがある。
頭の中でクジラが正常な角度になった場合で考えてみる。地面に開いた大穴を中心に同心円状にできたいくつもの段差。
「あれは……階段だ。この穴を中心に何重も円状の階段があるみたい」
「へぇ。ゴミ捨て口まで階段で降りてたってことか」
カナが覗き込む。
「カナ、縄はまだ余ってる?」
「うん。まだまだけっこうあるよ」
カナから縄を受け取る。これだけあれば充分足りそうだ。
「私、ちょっと降りてみる」
「えっ? マリちゃん、それは危ないんじゃ」
ユユが心配そうなまなざしで私を見つめる。心配してくれるのはもちろんうれしいけれど、私はどうしてもここで引き返したくはなかった。
「たぶん大丈夫。わずかだけど足場だってあるし、壁に背中を預けて縄を握ってスピードを調整しながら降りれば、きっといけるはず」
「それなら私が最初に行ったほうがいいんじゃない? この中じゃ、私が一番腕力あるだろうし」
カナが名乗りを上げる。
「いや、カナは腕力があるからこそ、ここで縄を支えててほしいの。杭はしっかり打ったし、縄もちゃんと縛ってきたけど、念のために」
「なるほど、大役だね」
「よろしくね、カナ。……そうだ。たいまつ貸して」
私はたいまつに火をつけて、階段に引っかからないように放り投げる。たいまつは地面に落ち、周囲をほのかに明るく照らしていた。せめて目印ぐらいは必要だ。暗闇の中で地面がどこにあるかもわからなければ、引き際を見誤ってしまう。
「思ってたより近いね」
ユユが安堵の息を漏らす。それでも充分、危険な高さだ。
「たしかにそうですが……エルフリーデ、大丈夫そうですか?」
「うん。がんばる」
エルフリーデも覚悟を決めたようだ。伊達に私たちは毎日お山で遊んでいない。遊びの範疇を遥かに超えた高さではあるが、どうにかできそうだ。いや、なんとしてでも先に進んで見せよう。
私は縄を大穴から地面に向けて放り投げる。縄は直線に伸び、すぐに闇に飲まれてしまったが、地面についた手応えがあった。私は縄を引っ張って、しっかり固定されているかたしかめてから大穴に向き直った。
「それじゃ、いくよ」
私は大穴から身を乗り出して地面を目指した。一歩一歩、足場を確認して慎重に滑り落ちる。上ではみんなが固唾を呑んで見守っていることだろうが、上を見る余裕はない。階段を一段飛ばしで滑り落ち、休憩をはさむ。数回の休憩で私は地面にたどりついた。たいまつを拾い上げ、周囲を見回す。少し傾いているが、崖のない広い地面だ。ここまでくれば危険なところは見当たらない。
私はたいまつを振って、みんなに無事を伝えた。
「次、降りてきていいよ。落ちちゃったら私が受けとめてあげる」
同じ要領で、エルフリーデ、ユユ、リディの順で降りてくる。みんな問題ない。カナなんて懸垂下降で壁を蹴りながら降りてきた。さすがである。
「ふう。なんとかみんな無事に降りられたね」
カナが一息つく。私もなんだか疲れてしまった。だが、調査はこれからが本番だ。このクジラの体内では私たちが立っている地面が壁である。つまり、部屋の扉があるとすれば、この地面にもあるはずだ。
「みんな、ここは足場か広いから、あんまり離れすぎないように――――」
言い終える前に、あたりは一変した。拳ほどの無数の光の玉がどこからともなく出現し、この巨大な空間を一瞬にして埋め尽くしたのだ。私たちの目の前、手の届く距離にも浮かんでいる。みんな、驚きのあまり言葉を失っていた。光の玉は踊るようにゆらゆらと浮遊している。まるで、たくさんの蛍に囲まれているようだった。
永遠のように感じる時間の圧縮は、しかし、ほんの一瞬の奇跡だった。
……私はこの光景を生涯忘れることはないだろう、と確信した。寸劇の光のダンスは終わり、今度は高速で遠くの中空に集まりだした。光の玉はひとつに収束し、大きな光の玉となってこの空間を隙間なく照らしつける。まるで真夏の太陽のような光だ。
「…………きれい」
沈黙を破ったのはエルフリーデだった。飾り気のない、率直なその感想に私も同じ気持ちになった。
「…………リディ。あれ、なんだろう」
「わかりません。ただ、自然現象でないことはたしかです。……もしかすると、これは魔術なのかもしれないですね」
あれが、魔術? たしかにあんな現象、見たことも聞いたこともないが……。
「魔術を使うには、魔力っていう動力が必要なんじゃないの? 大樹の塔ではどんなに探しても電力が見つからなくて科学は使えなかったのに、いつの間に私たちは魔術を使ったんだろう?」
「科学も魔術も、私たちからすれば大差のない奇跡です。ですが、名前が違うだけに、そのふたつは根本から違うのでしょう。私の理解の埒外ですから、これ以上はなんとも言えませんが、あれは私たちが魔術を使った、というより、私たちがなんらかの条件を満たして魔術が発動した、ということではないでしょうか」
「なんらかの条件、か。私たちがやったことと言えば……この空間に入ったってことくらいだけど」
「そうかもしれません。暗い部屋に入った時、勝手に明かりが灯ってくれたら何かと便利ですからね」
自動的に明かりが灯る魔術。暗闇の中、手探りで行燈に火を灯す必要がないのだ。目の前の奇跡に、私はただただ感動していた。ドームでは科学の片鱗を垣間見て当然、感激したが、この魔術の視覚的に華やかな奇跡に私はより虜になっていた。
これだけ明るければ提燈の明かりなんてないようなものだ。私は提燈の火を消して、この空間を一望した。目の前に広がる大きな空間。小高い丘から広大な景色を俯瞰しているようだ。てっきり私たちが通ってきた穴は、この空間の中央にあると思い込んでいたが、一番端っこのくぼみに位置していた。スケールはまるで違うが、部屋でいうところのニッチの部分と言えよう。
「ここ、クジラの胃袋になるのかな。調べるのは骨が折れそうだね」
愚痴をこぼしているようだが、カナは期待で胸を膨らましている。
「家みたいなのがいっぱいあるよ。本当にクジラの中で人が暮らしてたんだね」
落ちついてきたのか、みんな口々に感想を漏らす。
クジラの胃袋にはたくさんの家が立ち並んでいた。レンガ造りに木造、金属のような造りのものもあれば、材質がわからないものまである。いろんな文化が混在しているようだ。しかし、地面がほどんど直角に傾いているこの空間だと、家が立地しているところは私たちから見たら、はるか上方にある。家の中に入るのは難しそうだ。いまの私たちの装備では調べることはできない。
この胃袋はたしかに広大だが、外から見たクジラの体積はこれをさらに上回るものだった。クジラの内部構造がここだけ、ということはないはずだ。さっきまでの換気口とは違い、ここは人が往来する場所。であれば、どこかに本来の通路や多目的の部屋などがあるのではないだろうか。
「みんな、この地面――ほんとは壁だけど――ここに扉や入り口がないか注意しつつ、奥へ行ってみよう」
私たちは胃袋の中央に向かって歩き始めた。地面は斜めに傾いて歩きにくいが意にも介さない。右側の壁には高く積み重なる住宅群、左側は丸天井、前方の空には光り輝く巨大な光の玉を見て、私たちは勇み足に歩き出した。
しばらく歩いていると、地面に等間隔に並んだ扉を見つけた。鉄製の丈夫そうな扉である。扉に装飾の類がないところを見ると、それほど重要な部屋ではなさそうだ。
「錠前や鍵穴は見当たりませんね。開くのでしょうか?」
「どれ、やってみようか」
カナが取っ手をつかむ。普通に取りつけられた扉と違い、床下収納の扉のように地面にある扉だ。開けるには扉そのものを持ち上げるほどの力が必要となる。この重そうな鉄扉は、さすがのカナと言えど、苦労している。
「みんなで開けるよ。せーのっ」
五人の力を合わせて、扉は錆びついた音を上げながらようやく開いた。中を覗き込む。薄暗いが、開いた扉から差し込む光で見えないことはない。私の部屋より一回り大きいぐらいの部屋だ。
「うん。大丈夫そう。入ってみよう」
私たちは部屋の中に飛び込むように入った。提燈に火を灯し、明かりを照らす。部屋の中は嵐でも通ったかのように散らかっていた。地面が大きく傾いているから、ある程度は予想していたが、それでもこの散らかりようは異常である。書架は倒れ、本は地面を埋め尽くしている。机や椅子も無造作にひっくり返っていた。
リディが本を拾い上げ、一ページずつ丹念に目を通す。
「……やはり、わからない言語ですね。解読なんて、できそうもありません」
私も足元に落ちていた本を開いてみる。線虫がのた打ち回ったような文字に目がくらむ。旧人類はこんな見分けのつかない文字を使っていたのか。せめて文章ではなく、絵だったらまだ理解できそうなものだが……。
「ねぇ。こっちにお骨さんがいるよ」
ユユの呼びかけにみんなが集まる。そこには白骨化した遺体が、本や雑貨に埋もれていた。これが、この人が旧人類。私は思わず生唾を飲み込んでいた。リディが遺体を調べる。これまで勉強してきた医学の知識が活躍する時だ。
「どうやら男性のようです。細かいところはわかりませんが、三十代から四十代でしょう。何年前のものかは、わかりませんね。……おや?」
「どうしたの?」
「頭蓋骨に穴が開いていますね。治療の痕でしょうか? ……いえ、事故のようですね。反対側にも穴があります。何かが貫通したのでしょう」
「あぅ。痛かっただろうね」
エルフリーデが頭を押さえて自分のことのように痛がる。
「頭を一気に貫通したなら、痛みなんて感じる暇もなかったはずよ。リディ、ほかにわかったことは?」
「そうですね。あとは、旧人類も私たちも、そう大差ない身体だということぐらいしかわかりませんね。いまの私にはこれが限界です」
この部屋にほかに有益なものがないか、私たちは再び探し始めたが、特に目新しいものはなかった。魔術師たちが持っていた雑多なものは、私たちのものより技巧が優れてはいるが、新発見のものとは言いがたい。
私たちは名残惜しいが部屋をあとにし、ほかの部屋も見て回った。順番通りにいくつかの部屋を覗いてみたものの、最初の部屋と同じように散乱した室内で、これといって目ぼしいものはない。
いくつ目になるだろうか、私たちは両開きの仰々しい扉にたどりついた。扉には見たこともない動物の装飾や、色あせているが塗装のあとがある。明らかにほかの部屋とは、その重要性が違う。ほかのものより幾分重い扉をどうにか開け、私たちは中に入った。扉同様、室内もほかの部屋に比べて広い。
「ここはいかにも何かある感じがするけど……」
提燈のささやかな明かりで室内は、ぼう、と照らされる。一目見ただけではどうにもわからない。私たちは手分けしてあたりを物色した。
落ちている本を拾い上げると、地面があらわになった。そこに何か書いてある。これはなんだろう。……模様だろうか。
「いや……これ、絵だ。みんな、床にあるものをどけて」
落ちているもの壁際に寄せる。出てきたのは大きな一枚の絵だった。なんと形容すればいいのか、形の違ういくつもの水溜りがある絵のように見える。それに、ところどころ文字も書いてあるようだ。
「なんの絵だろう?」
「おねしょかな? エルフリーデったらこんなところで」
こんなこと言うのは当然、ユユである。
「あたし、もうおねしょしないもん」
頼りのリディはこの絵を見つめて沈黙している。何か解明できればいいが……。
「お、こっちにもなんかおもしろいものがあるよ」
カナが何かを見つけたようだ。みんなの関心は床に描かれた絵から、彼女の手にあるものに移る。
「何だろ、これ? ボール?」
ユユがまじまじと見つめる。それは台座に固定された球体だった。球体には半円の鉄が取りつけられている。
「取れないね、この球。あ、でもクルクル回るよ」
カナが片手で台座を持って球体を回転させる。用途不明の道具だ。
「ん? 模様……絵かな。球に絵が描いてある。床の絵にそっくりだけど……」
床の絵と見比べる。多少違いはあるが、同じ絵のようだ。
「なるほど」
リディが横手を打つ。
「さっすがリディ。何かわかったんだね?」
「ええ。これはおそらく地図ですね」
地図? これが地図なのだろうか。私の知っている地図は村と村を繋いだ道のりや、目印を書いたものだが、この絵にはそのようなものは見当たらない。私はその疑問をリディにぶつけた。
「あまりにも規模が大きいので、細かいものは簡略化されているのです。なぜなら、世界地図ですからね。それでも地形は精巧に作られているのでしょう。海岸線や川の歪曲もしっかり描かれています」
「これが……世界? じゃあ、こっちの球体は?」
「この世界、地球を模した像でしょう。この地は平坦なようで、太陽や月と同じように球体であると聞きます。それから、地図に書いてある文字は村の名前や地名でしょうね。……すごい数ですね。場所によっては密集して名前が書かれています。旧時代はこれだけ開拓が進んでいたのでしょう」
この広い大地がこんな小さく描かれているのか。この地図からすると、私たち人間はどれほどのサイズなのだろう。なんだか小人になった気分だ。
「へぇ。世界かぁ。あたしたちの村はどの辺にあるんだろうね」
ユユが世界地図を指でなぞる。エルフリーデも真似してなぞり始めた。
「あれ? ここ、丸が書いてあるよ。こっちにも」
よく見てみると、かすんではいるがいくつか丸印が書かれている。もともとこの地図に描かれたものではなく、あとから書き足したもののようだ。
「なんの目印だろう? 目的地だったのかな」
「そうでしょうね。その目的まではわかりませんが、この空飛ぶクジラでそこまで移動していたのでしょう」
そうか。このクジラなら大空を飛んで、川も山も、海すら越えて移動できるのだ。だから、地図も世界規模のものが必要となるわけだ。隣村を行き来するだけの私たちとは、まるでスケールが違う。
「さすがにこの大きな地図は持って帰れないから、この小さな地球は持って帰ろうか」
持ってきた袋に小さな地球の像を入れ、調査を再開する。水面の板に加えて、このクジラの遺跡からも遺物を手に入れることができた。持ち帰ってじっくり解析し、私たちがどのあたりで暮らしているのか特定できれば、大いなる発見となるだろう。
だが、それ以上に珍しいものは、この部屋にはなかった。いままで部屋を見て回ってわかったことは、魔術師はとにかく多くの書物を所有している、ということだった。未知の道具はあまり見当たらない。それとも、この壁側の部屋が書庫なだけで、中央にあるあの住宅らしき家には私たちの知らないものがたくさんあるのだろうか。そうだとしたら、いまのところ私たちには手が出せない。
私たちは部屋から出て、先へ進んだ。すると、道端に穴――ではなく、扉のない入り口を見つけた。覗いてみると、直角に折れ曲がった通路だった。本来の壁には手すり、床には滑り止めのぎざぎざした加工が施されている。これは換気口ではないだろう。魔術師が行き来していた正規の通路だ。この先には確実に何かがある。
「やっぱりここだけじゃなかったんだ! 足場はちゃんとある、行ってみよう」
「ぶっぶー。お時間ですよ。ほら」
意気揚々と入り口に入ろうとすると、リディがそれを制止した。縄を担当していた彼女の手には、もう縄は残っていなかった。彼女は縄の先端をくるくるまわして、おどけて見せる。せっかく通路を見つけたのに。
うん。でもダメだ。これはみんなで決めて、みんなで納得した約束事なんだから。
「そうだね。名残惜しいけど、今日はここまでにしよう」
「お腹ペコペコだよ。外に出たら、ご飯たべようね」
そういえば私たちは、昼食すらとらずにひたすら調査を続けていた。エルフリーデが言うまで、自分の空腹感に気がつかなかった。
「今日もリディとエルフリーデのお弁当、あるの?」
ユユがたずねると、エルフリーデは何がうれしいのか、笑顔でうなずいた。今日もたくさん作ってきたらしい。相変わらずピクニック気分だ。
踵を返し、来た道を戻る。後ろ髪引かれる思いだが、調査は今日だけじゃないんだ。楽しみは取っておこう。
「リディ、縄当番、交代するよ」
私はリディから縄を受け取って、わっかに手繰りながら歩く。行きは垂らすだけでよかったが、帰りは苦労する。壁から生えてきたような家々を横目に、私たちはこのクジラの内部にきた感想を興奮気味に話しながら帰った。
やがて同心円状の階段がある大穴まで戻ってきた。ここをのぼれば、あとは暗い洞窟のような通路を延々と歩くだけだ。ああ、やっぱりちょっと物足りない。
……ううん。そんなわがままダメよね。お祭りのあとはいつだってこんな気分になるもんだ。どうせ、帰るころには疲れがどっときて、あの時引き返しててよかったねってなるんだから、いまはこれでいい。
大穴へはまず、カナとリディがのぼった。それから荷物を縄に縛り、ふたりに引き上げてもらう。それから、再度縄を下ろしてもらい、エルフリーデをのぼらせる。
「マリちゃん、正直もっと奥まで調べたかったでしょ」
エルフリーデがのぼっている最中に、ユユがいたずらっぽく微笑みかけた。
「うっ。やっぱ、わかる?」
「そりゃあ、あたしぐらいになるとマリちゃんの顔見ただけで、何考えてるかわかるよ。この先何があるんだろー。いきたいー、いきたいー。うずうずって」
「うん、まぁね。でもみんながいてくれてよかったよ。私ひとりだったら、たぶん、日が暮れるまで進んでただろうから」
「だろうねー。でもここだと太陽が見えないから、ずっと潜り続けてるんじゃないの? きっと今日中には帰らないよね」
さすがユユだ、私のことをよくわかっている。ひょっとしたら、ここの魔術師と同じ骨になるまで潜っていたかもしれない。何も言い返せない自分が情けなかった。
「はいはい。どうせ私は好奇心旺盛な子どもですよっ」
「違う違う。そうじゃなくって、あたしは感謝してるの。マリちゃんが率先してあたしたちを引っ張ってくれるから、あたしたちは楽しく遊べるんだよ。みんなそう思ってるはずだよ。ブレーキ利かないところはお姉さんのカナちゃんやリディが抑えてくれる。エルフリーデはかわいい。ほら、あたしたちって最強じゃない?」
「ふふふ、何それ。あんたはなんにもしてないじゃん」
「えへへー、ばれちゃったかー」
エルフリーデがのぼり終え、縄を渡される。上では三人が待っている。
「それじゃあ、リーダー。お先にどうぞ。あたしはマリちゃんのお尻を存分に眺めてから行くよ」
ユユが私に縄を手渡す。
「もう。変なこと言わないの」
私は縄を握り締め、大穴を目指した。のぼってみてようやく気がついたが、やはりけっこう疲れが出てきている。今日はちょっとはしゃぎすぎたかな。正直、少しつらい。ありがたいことに、大穴に手が届きそうになると、カナが手を差し伸べてくれた。手をつかむと、彼女が力強く引き上げてくれた。
「ユユー、いいよー」
下に向かって声をかける。ユユは縄をつかむと、手際よくのぼり始めた。
ユユは私たちにいろんなことをしてくれる。たまにおふざけが過ぎることもあるが、それは彼女がみんなを笑顔にしたいからなのだ。みんなの笑顔がユユの喜びなのである。いつも、どうすればみんなが笑顔になるか、そして自分が笑顔でいられるかを考えている。その性格のすばらしさに、本人は気づいていない。気づいていないからこそ、できることなのかもしれない。……私ぐらいになると、ユユのことはなんでもわかるのだ。
ユユが大穴に手をかける。さっきの私とカナの再演だ。私は彼女の手をつかみ、勢いをつけて引き上げる――その瞬間。
煌々と照らし続けていた巨大な光の玉が、なんの前触れもなく破裂した。もとの小さな光の玉になり、高速でこの空間を乱舞する。
暗い部屋に入った時、勝手に明かりがつけば便利だ――。逆も然り、である。部屋に入って明かりがついたのなら、出て行く時に消えるのは道理。そこまで考えが至らなかった。
小さな光の玉は私たちのところまで一瞬にして飛来し、目の前を飛び交う。時にはぶつかってきたが、衝撃はなかった。
だが、あまりに突然の出来事に驚き、私とユユはお互いの手の力を緩めてしまった。繋いでいた手が離れる。腕で支えていた命の重みが、ふっ、と失われる。
バランスを失い、ユユは大穴から足を踏み外した。傾いた彼女の身体は私たちの元から離れ、重力のままに地面へ吸い寄せられる。
「ユユ!」
「マリちゃん!」
私とユユは慌てて手を取り合おうとするが、ふたりの手が再び繋がれることはなく、空をつかむだけだった。彼女を追いかけて大穴から飛び出そうとしたが、寸前でカナが私を取り押さえてくれた。
地面に押さえつけられ、崖の淵から下を覗いた。
高所から硬い地面へユユは落ちていく。この高さは――。
光の玉が飛び交う中、私はユユが落ちていく姿を見ていることしかできなかった。その吹雪のような光の隙間に、私は彼女の顔を見た。
ユユは、何よりも幸せそうに笑っている。
ああ、――――ユユ。――――ユユ。
「――ユユ、よかったね」
私も、喜びに打ちひしがれて笑みをこぼした。
ぐしゃり。
私たちはいつものように、祠の前でお祈りをあげた。今日も泉は魚が跳ね、水草が穏やかにたゆたっている。夏の強い日差しも、ここではさえぎられていてひんやりと涼しい。虫と魚と、草花が風に揺れる音色が耳朶をくすぐる。緩やかに時間が流れるこの場所は、彼らの楽園だ。
「カナちゃん、これからどうするのかな?」
今日はカナの姿はない。昨晩、カナのおじさんの病が悪化し、そのまま急逝されたので、農協の人たちと今後のことについて話し合いをしているのだ。彼女はおじさんのあとを継ぐと言っていたが、いつもお手伝いしていたとは言え、さすがにすぐには農場を任されないだろう。おそらく、彼女が一人前になるまでは、農協の誰かが彼女の農場を一時的に取り仕切ることになるはずだ。
「どうするのかって?」
ユユの質問の意味を問う。
「農場につきっきりで、あたしたちといる時間が減るのかなーって思って。日食祭とか遺跡調査とか、もう一緒にできないのかな」
「それなら大丈夫よ。カナだって、まだ十五歳なんだから、そんなにすぐには農婦になれないよ。これから空いた時間を使って、いろいろ勉強していくんだから。たぶん、しばらくはいままで通り、一緒にいられるよ」
「じゃあ、あと何年ぐらい?」
「そうねー。カナなら、あと三、四年もすれば一人前になるんじゃない」
もっと早いかもしれないけれど、私もカナともうしばらく一緒にいたいので、予想より多めに勘定してしまった。
「そんなに? なんだ、カナちゃんってばたいしたことないないなぁ」
「あんたね……。どんな仕事でもそうだけど、熟練者になるには相当の時間と努力が必要なのよ。軽く見すぎてると、連絡係になれるのは十年以上かかるかもね」
「十年! あたし二十四歳? うーん、それはちょっと……。努力、ドリョクか……」
頭を抱えるユユ。うん、たまには厳しいことを言ってやらないとね。
「安心して、ユユちゃん。大好きなことなら努力してるつもりなくても、時間を忘れてできちゃうんだから」
エルフリーデが励ましていた。
「そうだよね。さすがエルフリーデ、いいこと言うじゃん。うん、あたしはやればできる子なんだもん」
私とエルフリーデの飴と鞭に、ユユの表情はころっと変わった。
都合よく元気を取り戻したユユは、うれしさ余りあってエルフリーデの頭を思いっきり撫で回す。エルフリーデは目を回しているようだ。こうして私たちは、カナの分もおしゃべりに花を咲かせながら洗濯をしていた。
「ところで、今日からクジラの調査の予定でしたけれど、どうしましょうか? カナさんがいないので中止にしますか?」
ここ数日、ドームの調査を続けていたが、大きな収穫はなかった。大樹の塔の周囲にある廃屋も、一軒一軒調べたものの、どれも代わり映えのない民家で、目新しいものは見つからなかった。
大樹の塔の上層も、電力を使わない方法でどうにか上がれないものか、散々試してみたが、すべては空振りに終わった。やはり、高度な知能を有した旧人類の道具は、私たちには扱うことができないらしい。
ドームの調査は頭打ちだった。このままでは埒が明かないので、ここはひとつ、クジラの調査に切り替えよう、となったのが昨日のことである。
「えー。今日、楽しみにしてたのに」
ユユが駄々をこねる。まぁ、彼女のことは悪く言えない。私だって、今日はドームへ初めて行った時のように楽しみにしているのだから。
「それなら大丈夫。カナから連絡があって、午後には会議が終わるから、っていうか終わらせるから、少し遅れるけどそのあと一緒に行きたいって」
「さっすがカナちゃん。やる時はやるね」
午後の予定が少し繰り下がるが、問題はないだろう。むしろ、カナがいないことのほうが問題なのだ。彼女がきてくれるなら、これほど心強いものはない。
「その真っ直ぐさ、カナさんらしいですね」
「曲がれないし、とまれないもんね」
あの調子なら午後と言わず、午前中に終わらせるかもしれない。それはそれでせっかちすぎるけれど。
私たちは洗濯を終わらせると、水遊びはせずに帰り支度を始めた。下山し、村に戻る。今日はカナの分の洗濯物もあるので、いつもよりひとり当たりの量は多い。私たちは洗濯物を四等分にして村の家々に配達することにした。
「それじゃあ、みんな。配り終わったら、私んちに集合ね」
カナを待っている間、私の家で日食祭の準備をすることにした。まだ日があるとは言え、こっちはこっちでしっかり進めておかなければならない。そうしないと、あっという間に日食祭になってしまう。カナには配達の途中で、話し合いが行われている村長の家に寄り、私の家に来るように伝えておこう。
いつもより少し多めの洗濯物を持ち主に返却し、私は家に戻った。両親はまだ仕事中だ。邪魔にならないようにそそくさと自室へ入る。
部屋には先客がいた。
「よっ。遅かったね」
お調子者のお隣さん、ユユだ。勝手知ったるなんとやらで、彼女は私の部屋で座布団を枕代わりにし、うちわで涼んでいる。
「ユユ……。ずいぶん早いのね」
「走ったからね。驚かせようと思って」
そんなことのためにわざわざ暑い中、走ってきたのか。ご苦労なことだ。
「ま、驚いたけど。それで、ちゃんと衣装は持ってきた?」
「あったり前じゃん。目的を忘れるなんて、お馬鹿さんだけだよ」と言って、ユユは荷物を探った。「……あれ? 裁縫道具がないや」
「早く取りに帰りな、お馬鹿さん」
照れ笑いを残してユユは駆け足に出て行った。驚かすために焦って忘れ物をするなんて、彼女らしい。彼女と入れ違いにリディとエルフリーデがやってくる。当然だが、ふたりはちゃんと道具を持ってきていた。
そして僅差で、遅れてユユが再び到着した。
「あ、ユユちゃんビリだよー」
エルフリーデが茶化す。
「違うのー。あたし、本当は一番乗りだったんだよ。マリちゃん、このおチビちゃんにいかにあたしがすばらしい人間なのか、説明あそばせ」
「ユユちゃんってばドンケツー」
私は知らん振りをした。
「薄情ものー!」
ユユが私の両肩をつかんで、ガクガク揺らす。エルフリーデとリディはくすくす笑っていた。いつも茶化す側に立つユユにはいい薬だ。
「さぁさ。お遊びはこれくらいにして。みんな、内職の成果を見せてもらおうか」
私は手を叩いて場を仕切った。それぞれが袋から衣装を取り出す。妖精を模した衣装だ。日食祭では、これを着て村の伝統の舞踊を踊る予定だ。妖精に敬意と感謝を込めて、村の幸福を祈るのである。
日食祭とはその名の通りである。太陽が月に隠れる時に開始されるお祭で、やぐら型の高い焚き火と村中に装飾される燈篭で暗闇をしのぐのだ。
明かりだけでなく、賑わいも重要だ。伝統の音楽を演奏し、お酒と豪華な食事を用意する。そして、大人から子どもまで数人でひとつの組を作り、村の中央の広場で出し物を披露して、活気盛んに太陽を待つのだ。もちろん、私たちはいつもの五人でチームを組んで出し物に臨むつもりだ。
この日食祭は、太陽が姿を消している間、私たち人間が太陽の代わりになる、という意味を持つ。太陽は神様の象徴である。昼間なのに神様がいないという矛盾をなくす、重要なお祭りだ。中途半端にやるのは失礼に値する。
日食祭まで、まだ日数はあるが、あまりぼやぼやしていられない。舞踊の練習もしなければならないのだから。
私は衣装監督として、一人ひとりの衣装の出来栄えをチェックしていった。衣服屋の娘として、この大役は私に任されている。腕の見せ所だ。
「リディはきれいにできてるけど、ちょっと進み具合が遅いね。丁寧にするのも大事だけど、これからはスピードも重視して」
リディの衣装は、彼女の性格を映すように細かいところまで丁寧に手が行き届いている。この進捗状況であれば、日食祭に間に合わないことはないだろうが、用心するに越したことはない。
「そうですね。エルフリーデが早いだけかと思いましたが、おふたりの衣装を見ると、どうもゆっくりしすぎていたようです」
「エルフリーデのは……。うん、いいね。きれいに縫えてる。うまいじゃない」
絵が得意なエルフリーデは、やっぱり手先が器用なようだ。衣装のサイズが小さいとは言え、作業も早い。
「リディがわかんないところを教えてくれたからだよ。でも、あたしのせいでリディが遅くなっちゃって。ごめんね」
髪の毛をくるくるいじりながら、エルフリーデはしょんぼりと謝った。
「エルフリーデが気にすることはありませんよ」
リディはエルフリーデの頭を撫でて励ましていた。本当の姉妹のようだ。
何をするにも手落ちのないリディの作業が遅いのは、そういうことか、と得心がいく。だけど、もともと素質のあるエルフリーデも要領を得たようなので、これからはリディも遅れを取り戻すだろう。
「さて、ユユのは……」
「どう? もう完成間近でしょ」
「そうだけど、ちょっと縫い目が雑ね。あ、ここ。糸もほつれてるし。でも大丈夫。これぐらいなら簡単に修正できるから。やり方教えるから見てて」
私はユユにお手本を披露する。すんなりと理解したようで、てきぱき作業に取り組んだ。もともと彼女は手作業が得意なのだ。ただ、先を急ぐあまり雑になってしまうだけで、それでいて集中力が持たないだけだ。……よく考えたら、それは手作業が不向きということか、前言撤回である。
それから私は三人の作業の監督をしていた。自分の分も終わってはいないが、私はこの中でも裁縫はダントツで得意なので、いまはほかのみんなの質を上げることに専念し、自分の衣装は後回しにした。
しばらく四人で作業を進めていると、玄関から訪問を告げる声が聞こえた。カナが来たようだ。時刻は正午を過ぎたばかりである。思っていた通り、彼女は大急ぎでことをすませたようだ。忙しない足音が、廊下から聞こえてくる。
「遅くなってごめん。みんなもう集まってるよね?」
慌てているのか、一目見ればわかるのに、カナは私の部屋の戸を開ける前から確認を取っていた。
「遅くなんてないよ。ちょうど、きりがいいところだったんだ」
「うわぁ。みんなの衣装、よくできてるじゃん。私、追いつけるかなぁ」
私たちの衣装をためつすがめつして見て、カナは不安に駆られているようだった。
「大丈夫。私がつきっ切りで指導するから」
私はにっこりと微笑んだ。覚悟しててね、と言わんばかりに。
「ううっ。……お手柔らかに頼みます」
「話し合いは無事、終わったようですね。どういう方針に決まりましたか?」
リディが問いかける。私たちも気になるところだ。
「うん。とりあえず、村長と農協の人たちが交代でウチの農場を管理してくれるみたい。私が一人前の農婦になるまでね」
「それはよかったです。がんばりましょうね」
力強く、カナはうなずいた。その表情には向上心と決意が見える。やはり、彼女なら立派な農婦になれそうだ。物事がいい方向へ進んだようで、これで一安心である。
「時間はまだあるよね? これからクジラの調査に行こう」
もちろん、とみんなは声をそろえた。
持ってきた衣装はとりあえず私の部屋に置いておいて、私たちは遺跡調査の準備を始めた。持って行くものは提燈にたいまつ、長い縄、それから厚手の上着と大樹の塔で見つけた遺物――この水面の板だ。水面のように姿を映し出すから、私たちはこの板を水面の板と名づけた。吟遊詩人の言う通り、自分たちで名前をつけたらよりいっそう大切なものになったように感じる。
上着とこの水面の板を持っていこうと発案したのは、やっぱりリディだった。上着が必要になる理由はクジラの体内では太陽の光が届かないから、気温が低くなっているだろう、という予測の基だ。
そして、もうひとつ。なぜ水面の板が必要かと言うと、理由はふたつある。
ひとつは真っ暗なクジラの体内では、提燈の明かりだけでは心もとない。それでこの水面の板を使って、提燈の光を反射させ、明度を向上させようというもの。
もうひとつは、これが特に重要かもしれない。クジラの体内は上下、左右に道が入り組んでいる。左右の通路はその足で歩けば問題ないが、上下の場合はどうしても目視しづらい場面が出てくるだろう。そこで水面の板を上下の通路に差し込んで角度を調整し、通路の奥を反射させて確認するのだ。
準備したものをリヤカーに乗せ、私たちはクジラを目指した。
夏の炎天下。私たちは未知のものへの羨望を胸に、大はしゃぎであぜ道を走る。凹凸の激しい砂利道も、蒸し暑い気候も、私たちの足を鈍らせられるようなものじゃない。村を出て、南西の森に入る。ここのむき出した木の根も、肌をこする枝だってそうだ。なんら痛痒を感じない。
森を抜けると、広大な草原に巨大なドームとクジラが視界いっぱいに入ってくる。いよいよ、あのクジラの中を調査するんだ。思わず身震いする。この感覚は、ドームを調査した初日と同じだった。
クジラの体内への入り口は、あの大きな口ではない。そもそも口ははるか上にあるので、村で一番長いはしごを使っても届かないだろう。入り口は接地している腹部の中央だ。そこに穴がぽっかり空いている。偶然、クジラの周囲を散歩していたリディとエルフリーデが見つけた、唯一の入り口だ。
「そういえばここって、まさかこのクジラのお尻の穴じゃないよね?」
ユユがまじまじと入り口を見て、そう漏らした。肛門だけに、なんて。
「ちょっと、いやな想像しないでよ。私も人のこと言えないけど」
むしろ、私のほうがなんだか汚い。自重しないと。
「ばっちぃ」
エルフリーデが鼻をつまんでいる。
「大丈夫ですよ。これは生物じゃないのですから、排泄はしないでしょう」
「そういうこと。うわぁ、すごいなこれ。中は真っ暗だよ」
カナのあとに続いて、恐る恐る中の様子を窺う。赤土の色に似た内壁は、金属とも木造とも取れない感触だ。少し弾力もある。光がさしているのは、入り口付近だけだ。外の光は吸い込まれていくように闇色に染められている。まるで奥が見えない。以前、見た時と同じだ。異変はない。
「よし、準備しよう」
私の呼びかけで、時がとまったように見入っていたみんなが動き出した。
準備と言ってもすることは少ない。提燈に火を灯し、入り口付近の地面に杭を打って縄の端を結ぶだけだ。中で何があるかわからないから、縄はきつく、固く縛った。これで帰り道は確保できた。あとは縄がなくなる前に戻るようにすればいいだけのことだ。何重にも巻かれた重い縄は、頃合を見て交代で担当することにした。
今回の目的は体内の構造の様式を少しでも知ることである。深くまで潜る必要はない。この縄が尽きたら、そのすぐ先にどんなに興味深いものを見つけても引き返すことをみんなに確認した。
「特にユユは羽交い絞めにしてでもつれて帰るからね」
カナはユユの脇腹を肘でつついた。
「あぅ。わかってるよぅ」
ユユより私がカナに羽交い絞めにされないか、ちょっと心配だったり。この注意事項は自分に言い聞かせるためのものでもあるのだ。
「みんな、準備はいい?」
私は自分の顔を両手でぴしゃり、とはたいて気を引き締めた。一人ひとりの顔を見る。みんな待ちきれない様子だ。
「それじゃ、しゅっぱーつ」
号令とともに、私たちはクジラの体内へ入った。先頭は私とカナが歩き、その後ろを残りの三人がついてくる陣形になった。
道は緩やかな上り坂、足元の感触は不思議なものだった。硬すぎず、やわらかすぎない。これならどんなに歩いても疲れなさそうだ。天井はそれほど高くない。背の高いカナとリディが肩車をすれば届きそうだ。これなら上に空いた通路も確認が取れるだろう。
問題はやはり、この暗さであった。入り口から入って少し歩くと、あたりは一気に外の光が届かなくなった。提燈を吊り下げた竹の棒を握り締める。ここからは光源が一切ないだろう。提燈の明かりだけが頼りなのだが、それも私たちの姿をぼう、と浮かび上がらせるだけで、通路の奥は闇に飲み込まれていた。
水面の板で提燈の光を反射させてはみたが、思ったほど効力を発揮しない。いかんせん、面積が小さいので反射できる範囲が限られているのだ。
「やはり気温が下がってきていますね。みなさん、上着を羽織りましょう」
外気の暑苦しさに比べて中は異様な寒さだ。活動を停止したクジラには、ぴったりのイメージかもしれない。
私たちは用意していた上着をそれぞれ羽織った。
外は夏で、中は冬。その気温差ゆえに、私は思わず身震いしていた。予想以上に気温は低い。こんなことならもっと厚手の上着を持ってくればよかった。
「みんな、足元に気をつけて。穴が開いてるよ」
後ろの三人に注意を促す。穴は大人ひとりが充分に入れる程度の大きさだ。
「少し調べましょう」
リディはろうそくを取り出し、提燈の火を分け、腹ばいになって穴を覗き込んだ。
「マリアさん、水面の板を貸してもらえますか」
穴は奥まったところで角度を変えているらしい。水面の板が役に立つ時だ。
「……ダメです。見えませんね。奥まで光が届かないようです。ろうそくの火が風で揺れているので、どこか大きな空間か、もしくは外につながっているはずですが」
大きな空間――その響きは得も言えぬ魅力があるが、さすがにこの小さい穴を進んでいくのは気が引ける。
「ひとつ、思いついた仮説があります」
リディはおもむろに立ち上がり、たたずまいを正す。みんなは彼女の言葉を待った。
「この穴は、いえ、たぶんこの通路もそうですが、通気口かゴミを外に排出するための縦穴なのではないでしょうか。このクジラの中で人が生活していたのであれば、換気やゴミ捨ては必要不可欠のはずです」
「どうしてそんなことがわかるの? 換気はわかるけどゴミ捨て口には見えないよ」
疑問を呈したのはカナだ。たしかにゴミを外に捨てるとしたら、こんな歩けるような緩やかな傾斜ではうまく外まで排出できそうにないし、あたりに排出する装置らしきものも見当たらない。
「もともと、この通路は正規の入り口ではないと思っていたのです」
と言って、リディは顎に人差し指を当てた。
「みなさん、遠くから見たクジラの姿を思い出してみてください。クジラのお腹は船底のように丸みを帯びていたでしょう? ですから、接地した状態だと斜めに傾いていました。お腹を出した状態で横たわっていましたよね? 通常、クジラのお腹は地面に向いているものですし、この通路の入り口もお腹にありました。もし、言い伝えの通りに、このクジラが正しい姿勢で空を飛んでいたとしたら、その時はこの通路は地面と垂直に伸びているはずなのです」
リディの仮説は驚くほど信憑性が高かった。もし、このクジラがいま空を飛んだら、私たちはここから真っ逆さまに地面に叩き落とされるだろう。地面と垂直の穴が、通用口であるわけがない。
「ゴミも出てきて、空気も呼吸みたいに出入りするってことだよね。ふむふむ、なるほど。お口でもあり、やっぱりお尻の穴でもあったんだ」
あごに手を置いて、しかつめらしくユユは独自の解答を出した。
「やっぱりばっちぃの」
そして、エルフリーデの合いの手である。
「ゴミですからね。汚いものもあったかもしれません。ですが、この仮説が正しければ、この小さな横穴は個人、あるいは少人数の部屋に続いていて、私たちが歩いているこの主要の大穴はそれ相応の巨大な空間に繋がっている可能性が高いです」
この小さな横穴の先は、いたるところに設置された小さなごみ捨て口か、あるいは換気口なのだろう。
「それじゃあ、小さな穴は気にせず、この道を突き進んでいけばいいんだね」
「はい。本来、人が歩くための通路も、きっとこの先にあるでしょう」
リディの導き出した答えに俄然やる気が高まり、雰囲気が明るくなった。この暗い洞穴で、みんな不安が募っていたのだ。それを払拭してくれたのは、やはりリディだ。彼女の存在は私たちにとって、光の道しるべのようにかけがえのないものである。いつも足元のおぼつかない私たちをしっかり支えてくれるのだった。
私たちはこの先に切望する何かがあると信じて進んだ。縄はまだ充分すぎるほどある。クジラの高さはどれぐらいだっただろうか。大樹の塔よりは低かったはずだ。それでも低めにできたわた雲に届きそうなぐらいの高さだったので、相当なものだ。さすがにそこまで縄は長くないが、まさか天辺まで突き抜けているとも思えない。必ずや、縄が足りる範囲に目的の場所に出るはずだ。
「ねぇねぇ。もしもさぁ、旧人類の魔術師だっけ? が、生き残ってたらエルフリーデはどうする?」
安堵感からか、後ろでユユがおしゃべりを始めた。前にいる私とカナは、足元に注意しなければならないので気を抜けない。
「んーっとね。まずはごあいさつして、魔術師さんのご飯を食べてみたいな。どんなの食べてるんだろうね」
「身長とおんなじで願望もちっちゃいなぁ。リディは?」
「私は魔術師の医療技術を教えてもらいたいですね。きっと、私たちには及びもつかない技術がありますよ」
「どっちもらしいと言えばそうなんだけど、なーんかいまいちだね」
「じゃあ、ユユちゃんはどうなの?」
「あたしは決まってるよ。このクジラを動かしてもらうんだ。操縦できるんなら、あたしが動かしてみたい。だってこんなでっかいものが空を飛ぶんだよ? 信じられないじゃない。でも言い伝えが本当なら、実際に飛んでたんだよね? だったらあたしはこの空飛ぶクジラで世界一周したいの」
「すごい! ユユちゃんらしいね。あたしはちゃんと動かせる自信、ないなぁ。なんだか壊しそうでできないや」
「ユユだって絶対壊すから自信なくすことないよ、エルフリーデ」
後ろの歓談にカナが割って入る。ユユは、「何をー」と背後からカナに抱きついた。みんなの歓声が上がる。
このどんなに進んでも代わり映えのしない長い道も、ゴミ捨て口兼換気口だと思えばどうってことない。必ずどこかの部屋に繋がっているのだから、と思えばみんなにも少しずつ余裕が出てきていた。はしゃげるほどではないが、鬱屈するほどのものでもない。馬鹿話程度なら邪魔にもならないだろう。
「空気が……とまってください」
しばらく歩いていると、リディが異変に気がついた。
「どうかしたの?」
私にはまだ微細な変化に気づけずにいた。
「……空気の流れが肌で感じられるほどになっています。肌を撫でる程度ですが、風が吹いているのです」
「どれどれ」カナが指先を舌で湿らせる。「……ほんとだ。部屋が近いんじゃない?」
先ほどまでとは違う歓声が上がる。
「早く行こう!」
ユユが待ちきれず、私を追いこそうとする。
「待って! こんな時こそ慎重に進まないと。みんな、離れないでくっついて移動するよ。絶対に先走っちゃダメだからね」
ユユを押しとどめ、私たちは息をするのも忘れて歩いた。しばらく緊張のまま歩を進めていると、急に道が途絶えた。壁にぶつかったのではなく、通路は大きな穴に繋がっていたのである。まるで巨大な生物がぱっくりと大口を開けているみたいだ。四方は切り立っており、崖にできた横穴のようなところだった。暗闇の中は、何も見えない。
「どうなってるの? ここで終わり?」
混乱しかける私を、リディは背中を撫でて落ちつかせてくれた。
「大丈夫です。あまりに巨大な空間で提燈の光が届いていないだけです。私たちはこのクジラの底から昇ってきた形になりますから、前方は天井なので何もないでしょう。何かあるとすれば、上下か左右でしょうね。そちらがこの空間の本来の壁にあたります」
リディの説明で頭が冷える。「ありがとう」と、小さくつぶやくと、彼女は微笑を返してくれた。「がんばりましょう」と。
リディに鼓舞され、私は周囲を綿密に調べた。
しゃがみ込んで、崖の際を検める。垂直に断崖絶壁、となっているわけではなさそうだ。クジラは斜めに横たわっているので、その分の角度がある。だが、それでも急すぎる傾斜だ。歩くのも滑り落ちるのも、とてもじゃないができそうもない。
よく観察してみると、崖の先が直角に盛り上がっており、人ひとり立てそうなスペースがある。それは連綿と横に繋がっており、この大穴を中心に囲っているようだ。光が弱くて確認しづらいが、その先にいくつも同じように直角の盛り上がりがある。
頭の中でクジラが正常な角度になった場合で考えてみる。地面に開いた大穴を中心に同心円状にできたいくつもの段差。
「あれは……階段だ。この穴を中心に何重も円状の階段があるみたい」
「へぇ。ゴミ捨て口まで階段で降りてたってことか」
カナが覗き込む。
「カナ、縄はまだ余ってる?」
「うん。まだまだけっこうあるよ」
カナから縄を受け取る。これだけあれば充分足りそうだ。
「私、ちょっと降りてみる」
「えっ? マリちゃん、それは危ないんじゃ」
ユユが心配そうなまなざしで私を見つめる。心配してくれるのはもちろんうれしいけれど、私はどうしてもここで引き返したくはなかった。
「たぶん大丈夫。わずかだけど足場だってあるし、壁に背中を預けて縄を握ってスピードを調整しながら降りれば、きっといけるはず」
「それなら私が最初に行ったほうがいいんじゃない? この中じゃ、私が一番腕力あるだろうし」
カナが名乗りを上げる。
「いや、カナは腕力があるからこそ、ここで縄を支えててほしいの。杭はしっかり打ったし、縄もちゃんと縛ってきたけど、念のために」
「なるほど、大役だね」
「よろしくね、カナ。……そうだ。たいまつ貸して」
私はたいまつに火をつけて、階段に引っかからないように放り投げる。たいまつは地面に落ち、周囲をほのかに明るく照らしていた。せめて目印ぐらいは必要だ。暗闇の中で地面がどこにあるかもわからなければ、引き際を見誤ってしまう。
「思ってたより近いね」
ユユが安堵の息を漏らす。それでも充分、危険な高さだ。
「たしかにそうですが……エルフリーデ、大丈夫そうですか?」
「うん。がんばる」
エルフリーデも覚悟を決めたようだ。伊達に私たちは毎日お山で遊んでいない。遊びの範疇を遥かに超えた高さではあるが、どうにかできそうだ。いや、なんとしてでも先に進んで見せよう。
私は縄を大穴から地面に向けて放り投げる。縄は直線に伸び、すぐに闇に飲まれてしまったが、地面についた手応えがあった。私は縄を引っ張って、しっかり固定されているかたしかめてから大穴に向き直った。
「それじゃ、いくよ」
私は大穴から身を乗り出して地面を目指した。一歩一歩、足場を確認して慎重に滑り落ちる。上ではみんなが固唾を呑んで見守っていることだろうが、上を見る余裕はない。階段を一段飛ばしで滑り落ち、休憩をはさむ。数回の休憩で私は地面にたどりついた。たいまつを拾い上げ、周囲を見回す。少し傾いているが、崖のない広い地面だ。ここまでくれば危険なところは見当たらない。
私はたいまつを振って、みんなに無事を伝えた。
「次、降りてきていいよ。落ちちゃったら私が受けとめてあげる」
同じ要領で、エルフリーデ、ユユ、リディの順で降りてくる。みんな問題ない。カナなんて懸垂下降で壁を蹴りながら降りてきた。さすがである。
「ふう。なんとかみんな無事に降りられたね」
カナが一息つく。私もなんだか疲れてしまった。だが、調査はこれからが本番だ。このクジラの体内では私たちが立っている地面が壁である。つまり、部屋の扉があるとすれば、この地面にもあるはずだ。
「みんな、ここは足場か広いから、あんまり離れすぎないように――――」
言い終える前に、あたりは一変した。拳ほどの無数の光の玉がどこからともなく出現し、この巨大な空間を一瞬にして埋め尽くしたのだ。私たちの目の前、手の届く距離にも浮かんでいる。みんな、驚きのあまり言葉を失っていた。光の玉は踊るようにゆらゆらと浮遊している。まるで、たくさんの蛍に囲まれているようだった。
永遠のように感じる時間の圧縮は、しかし、ほんの一瞬の奇跡だった。
……私はこの光景を生涯忘れることはないだろう、と確信した。寸劇の光のダンスは終わり、今度は高速で遠くの中空に集まりだした。光の玉はひとつに収束し、大きな光の玉となってこの空間を隙間なく照らしつける。まるで真夏の太陽のような光だ。
「…………きれい」
沈黙を破ったのはエルフリーデだった。飾り気のない、率直なその感想に私も同じ気持ちになった。
「…………リディ。あれ、なんだろう」
「わかりません。ただ、自然現象でないことはたしかです。……もしかすると、これは魔術なのかもしれないですね」
あれが、魔術? たしかにあんな現象、見たことも聞いたこともないが……。
「魔術を使うには、魔力っていう動力が必要なんじゃないの? 大樹の塔ではどんなに探しても電力が見つからなくて科学は使えなかったのに、いつの間に私たちは魔術を使ったんだろう?」
「科学も魔術も、私たちからすれば大差のない奇跡です。ですが、名前が違うだけに、そのふたつは根本から違うのでしょう。私の理解の埒外ですから、これ以上はなんとも言えませんが、あれは私たちが魔術を使った、というより、私たちがなんらかの条件を満たして魔術が発動した、ということではないでしょうか」
「なんらかの条件、か。私たちがやったことと言えば……この空間に入ったってことくらいだけど」
「そうかもしれません。暗い部屋に入った時、勝手に明かりが灯ってくれたら何かと便利ですからね」
自動的に明かりが灯る魔術。暗闇の中、手探りで行燈に火を灯す必要がないのだ。目の前の奇跡に、私はただただ感動していた。ドームでは科学の片鱗を垣間見て当然、感激したが、この魔術の視覚的に華やかな奇跡に私はより虜になっていた。
これだけ明るければ提燈の明かりなんてないようなものだ。私は提燈の火を消して、この空間を一望した。目の前に広がる大きな空間。小高い丘から広大な景色を俯瞰しているようだ。てっきり私たちが通ってきた穴は、この空間の中央にあると思い込んでいたが、一番端っこのくぼみに位置していた。スケールはまるで違うが、部屋でいうところのニッチの部分と言えよう。
「ここ、クジラの胃袋になるのかな。調べるのは骨が折れそうだね」
愚痴をこぼしているようだが、カナは期待で胸を膨らましている。
「家みたいなのがいっぱいあるよ。本当にクジラの中で人が暮らしてたんだね」
落ちついてきたのか、みんな口々に感想を漏らす。
クジラの胃袋にはたくさんの家が立ち並んでいた。レンガ造りに木造、金属のような造りのものもあれば、材質がわからないものまである。いろんな文化が混在しているようだ。しかし、地面がほどんど直角に傾いているこの空間だと、家が立地しているところは私たちから見たら、はるか上方にある。家の中に入るのは難しそうだ。いまの私たちの装備では調べることはできない。
この胃袋はたしかに広大だが、外から見たクジラの体積はこれをさらに上回るものだった。クジラの内部構造がここだけ、ということはないはずだ。さっきまでの換気口とは違い、ここは人が往来する場所。であれば、どこかに本来の通路や多目的の部屋などがあるのではないだろうか。
「みんな、この地面――ほんとは壁だけど――ここに扉や入り口がないか注意しつつ、奥へ行ってみよう」
私たちは胃袋の中央に向かって歩き始めた。地面は斜めに傾いて歩きにくいが意にも介さない。右側の壁には高く積み重なる住宅群、左側は丸天井、前方の空には光り輝く巨大な光の玉を見て、私たちは勇み足に歩き出した。
しばらく歩いていると、地面に等間隔に並んだ扉を見つけた。鉄製の丈夫そうな扉である。扉に装飾の類がないところを見ると、それほど重要な部屋ではなさそうだ。
「錠前や鍵穴は見当たりませんね。開くのでしょうか?」
「どれ、やってみようか」
カナが取っ手をつかむ。普通に取りつけられた扉と違い、床下収納の扉のように地面にある扉だ。開けるには扉そのものを持ち上げるほどの力が必要となる。この重そうな鉄扉は、さすがのカナと言えど、苦労している。
「みんなで開けるよ。せーのっ」
五人の力を合わせて、扉は錆びついた音を上げながらようやく開いた。中を覗き込む。薄暗いが、開いた扉から差し込む光で見えないことはない。私の部屋より一回り大きいぐらいの部屋だ。
「うん。大丈夫そう。入ってみよう」
私たちは部屋の中に飛び込むように入った。提燈に火を灯し、明かりを照らす。部屋の中は嵐でも通ったかのように散らかっていた。地面が大きく傾いているから、ある程度は予想していたが、それでもこの散らかりようは異常である。書架は倒れ、本は地面を埋め尽くしている。机や椅子も無造作にひっくり返っていた。
リディが本を拾い上げ、一ページずつ丹念に目を通す。
「……やはり、わからない言語ですね。解読なんて、できそうもありません」
私も足元に落ちていた本を開いてみる。線虫がのた打ち回ったような文字に目がくらむ。旧人類はこんな見分けのつかない文字を使っていたのか。せめて文章ではなく、絵だったらまだ理解できそうなものだが……。
「ねぇ。こっちにお骨さんがいるよ」
ユユの呼びかけにみんなが集まる。そこには白骨化した遺体が、本や雑貨に埋もれていた。これが、この人が旧人類。私は思わず生唾を飲み込んでいた。リディが遺体を調べる。これまで勉強してきた医学の知識が活躍する時だ。
「どうやら男性のようです。細かいところはわかりませんが、三十代から四十代でしょう。何年前のものかは、わかりませんね。……おや?」
「どうしたの?」
「頭蓋骨に穴が開いていますね。治療の痕でしょうか? ……いえ、事故のようですね。反対側にも穴があります。何かが貫通したのでしょう」
「あぅ。痛かっただろうね」
エルフリーデが頭を押さえて自分のことのように痛がる。
「頭を一気に貫通したなら、痛みなんて感じる暇もなかったはずよ。リディ、ほかにわかったことは?」
「そうですね。あとは、旧人類も私たちも、そう大差ない身体だということぐらいしかわかりませんね。いまの私にはこれが限界です」
この部屋にほかに有益なものがないか、私たちは再び探し始めたが、特に目新しいものはなかった。魔術師たちが持っていた雑多なものは、私たちのものより技巧が優れてはいるが、新発見のものとは言いがたい。
私たちは名残惜しいが部屋をあとにし、ほかの部屋も見て回った。順番通りにいくつかの部屋を覗いてみたものの、最初の部屋と同じように散乱した室内で、これといって目ぼしいものはない。
いくつ目になるだろうか、私たちは両開きの仰々しい扉にたどりついた。扉には見たこともない動物の装飾や、色あせているが塗装のあとがある。明らかにほかの部屋とは、その重要性が違う。ほかのものより幾分重い扉をどうにか開け、私たちは中に入った。扉同様、室内もほかの部屋に比べて広い。
「ここはいかにも何かある感じがするけど……」
提燈のささやかな明かりで室内は、ぼう、と照らされる。一目見ただけではどうにもわからない。私たちは手分けしてあたりを物色した。
落ちている本を拾い上げると、地面があらわになった。そこに何か書いてある。これはなんだろう。……模様だろうか。
「いや……これ、絵だ。みんな、床にあるものをどけて」
落ちているもの壁際に寄せる。出てきたのは大きな一枚の絵だった。なんと形容すればいいのか、形の違ういくつもの水溜りがある絵のように見える。それに、ところどころ文字も書いてあるようだ。
「なんの絵だろう?」
「おねしょかな? エルフリーデったらこんなところで」
こんなこと言うのは当然、ユユである。
「あたし、もうおねしょしないもん」
頼りのリディはこの絵を見つめて沈黙している。何か解明できればいいが……。
「お、こっちにもなんかおもしろいものがあるよ」
カナが何かを見つけたようだ。みんなの関心は床に描かれた絵から、彼女の手にあるものに移る。
「何だろ、これ? ボール?」
ユユがまじまじと見つめる。それは台座に固定された球体だった。球体には半円の鉄が取りつけられている。
「取れないね、この球。あ、でもクルクル回るよ」
カナが片手で台座を持って球体を回転させる。用途不明の道具だ。
「ん? 模様……絵かな。球に絵が描いてある。床の絵にそっくりだけど……」
床の絵と見比べる。多少違いはあるが、同じ絵のようだ。
「なるほど」
リディが横手を打つ。
「さっすがリディ。何かわかったんだね?」
「ええ。これはおそらく地図ですね」
地図? これが地図なのだろうか。私の知っている地図は村と村を繋いだ道のりや、目印を書いたものだが、この絵にはそのようなものは見当たらない。私はその疑問をリディにぶつけた。
「あまりにも規模が大きいので、細かいものは簡略化されているのです。なぜなら、世界地図ですからね。それでも地形は精巧に作られているのでしょう。海岸線や川の歪曲もしっかり描かれています」
「これが……世界? じゃあ、こっちの球体は?」
「この世界、地球を模した像でしょう。この地は平坦なようで、太陽や月と同じように球体であると聞きます。それから、地図に書いてある文字は村の名前や地名でしょうね。……すごい数ですね。場所によっては密集して名前が書かれています。旧時代はこれだけ開拓が進んでいたのでしょう」
この広い大地がこんな小さく描かれているのか。この地図からすると、私たち人間はどれほどのサイズなのだろう。なんだか小人になった気分だ。
「へぇ。世界かぁ。あたしたちの村はどの辺にあるんだろうね」
ユユが世界地図を指でなぞる。エルフリーデも真似してなぞり始めた。
「あれ? ここ、丸が書いてあるよ。こっちにも」
よく見てみると、かすんではいるがいくつか丸印が書かれている。もともとこの地図に描かれたものではなく、あとから書き足したもののようだ。
「なんの目印だろう? 目的地だったのかな」
「そうでしょうね。その目的まではわかりませんが、この空飛ぶクジラでそこまで移動していたのでしょう」
そうか。このクジラなら大空を飛んで、川も山も、海すら越えて移動できるのだ。だから、地図も世界規模のものが必要となるわけだ。隣村を行き来するだけの私たちとは、まるでスケールが違う。
「さすがにこの大きな地図は持って帰れないから、この小さな地球は持って帰ろうか」
持ってきた袋に小さな地球の像を入れ、調査を再開する。水面の板に加えて、このクジラの遺跡からも遺物を手に入れることができた。持ち帰ってじっくり解析し、私たちがどのあたりで暮らしているのか特定できれば、大いなる発見となるだろう。
だが、それ以上に珍しいものは、この部屋にはなかった。いままで部屋を見て回ってわかったことは、魔術師はとにかく多くの書物を所有している、ということだった。未知の道具はあまり見当たらない。それとも、この壁側の部屋が書庫なだけで、中央にあるあの住宅らしき家には私たちの知らないものがたくさんあるのだろうか。そうだとしたら、いまのところ私たちには手が出せない。
私たちは部屋から出て、先へ進んだ。すると、道端に穴――ではなく、扉のない入り口を見つけた。覗いてみると、直角に折れ曲がった通路だった。本来の壁には手すり、床には滑り止めのぎざぎざした加工が施されている。これは換気口ではないだろう。魔術師が行き来していた正規の通路だ。この先には確実に何かがある。
「やっぱりここだけじゃなかったんだ! 足場はちゃんとある、行ってみよう」
「ぶっぶー。お時間ですよ。ほら」
意気揚々と入り口に入ろうとすると、リディがそれを制止した。縄を担当していた彼女の手には、もう縄は残っていなかった。彼女は縄の先端をくるくるまわして、おどけて見せる。せっかく通路を見つけたのに。
うん。でもダメだ。これはみんなで決めて、みんなで納得した約束事なんだから。
「そうだね。名残惜しいけど、今日はここまでにしよう」
「お腹ペコペコだよ。外に出たら、ご飯たべようね」
そういえば私たちは、昼食すらとらずにひたすら調査を続けていた。エルフリーデが言うまで、自分の空腹感に気がつかなかった。
「今日もリディとエルフリーデのお弁当、あるの?」
ユユがたずねると、エルフリーデは何がうれしいのか、笑顔でうなずいた。今日もたくさん作ってきたらしい。相変わらずピクニック気分だ。
踵を返し、来た道を戻る。後ろ髪引かれる思いだが、調査は今日だけじゃないんだ。楽しみは取っておこう。
「リディ、縄当番、交代するよ」
私はリディから縄を受け取って、わっかに手繰りながら歩く。行きは垂らすだけでよかったが、帰りは苦労する。壁から生えてきたような家々を横目に、私たちはこのクジラの内部にきた感想を興奮気味に話しながら帰った。
やがて同心円状の階段がある大穴まで戻ってきた。ここをのぼれば、あとは暗い洞窟のような通路を延々と歩くだけだ。ああ、やっぱりちょっと物足りない。
……ううん。そんなわがままダメよね。お祭りのあとはいつだってこんな気分になるもんだ。どうせ、帰るころには疲れがどっときて、あの時引き返しててよかったねってなるんだから、いまはこれでいい。
大穴へはまず、カナとリディがのぼった。それから荷物を縄に縛り、ふたりに引き上げてもらう。それから、再度縄を下ろしてもらい、エルフリーデをのぼらせる。
「マリちゃん、正直もっと奥まで調べたかったでしょ」
エルフリーデがのぼっている最中に、ユユがいたずらっぽく微笑みかけた。
「うっ。やっぱ、わかる?」
「そりゃあ、あたしぐらいになるとマリちゃんの顔見ただけで、何考えてるかわかるよ。この先何があるんだろー。いきたいー、いきたいー。うずうずって」
「うん、まぁね。でもみんながいてくれてよかったよ。私ひとりだったら、たぶん、日が暮れるまで進んでただろうから」
「だろうねー。でもここだと太陽が見えないから、ずっと潜り続けてるんじゃないの? きっと今日中には帰らないよね」
さすがユユだ、私のことをよくわかっている。ひょっとしたら、ここの魔術師と同じ骨になるまで潜っていたかもしれない。何も言い返せない自分が情けなかった。
「はいはい。どうせ私は好奇心旺盛な子どもですよっ」
「違う違う。そうじゃなくって、あたしは感謝してるの。マリちゃんが率先してあたしたちを引っ張ってくれるから、あたしたちは楽しく遊べるんだよ。みんなそう思ってるはずだよ。ブレーキ利かないところはお姉さんのカナちゃんやリディが抑えてくれる。エルフリーデはかわいい。ほら、あたしたちって最強じゃない?」
「ふふふ、何それ。あんたはなんにもしてないじゃん」
「えへへー、ばれちゃったかー」
エルフリーデがのぼり終え、縄を渡される。上では三人が待っている。
「それじゃあ、リーダー。お先にどうぞ。あたしはマリちゃんのお尻を存分に眺めてから行くよ」
ユユが私に縄を手渡す。
「もう。変なこと言わないの」
私は縄を握り締め、大穴を目指した。のぼってみてようやく気がついたが、やはりけっこう疲れが出てきている。今日はちょっとはしゃぎすぎたかな。正直、少しつらい。ありがたいことに、大穴に手が届きそうになると、カナが手を差し伸べてくれた。手をつかむと、彼女が力強く引き上げてくれた。
「ユユー、いいよー」
下に向かって声をかける。ユユは縄をつかむと、手際よくのぼり始めた。
ユユは私たちにいろんなことをしてくれる。たまにおふざけが過ぎることもあるが、それは彼女がみんなを笑顔にしたいからなのだ。みんなの笑顔がユユの喜びなのである。いつも、どうすればみんなが笑顔になるか、そして自分が笑顔でいられるかを考えている。その性格のすばらしさに、本人は気づいていない。気づいていないからこそ、できることなのかもしれない。……私ぐらいになると、ユユのことはなんでもわかるのだ。
ユユが大穴に手をかける。さっきの私とカナの再演だ。私は彼女の手をつかみ、勢いをつけて引き上げる――その瞬間。
煌々と照らし続けていた巨大な光の玉が、なんの前触れもなく破裂した。もとの小さな光の玉になり、高速でこの空間を乱舞する。
暗い部屋に入った時、勝手に明かりがつけば便利だ――。逆も然り、である。部屋に入って明かりがついたのなら、出て行く時に消えるのは道理。そこまで考えが至らなかった。
小さな光の玉は私たちのところまで一瞬にして飛来し、目の前を飛び交う。時にはぶつかってきたが、衝撃はなかった。
だが、あまりに突然の出来事に驚き、私とユユはお互いの手の力を緩めてしまった。繋いでいた手が離れる。腕で支えていた命の重みが、ふっ、と失われる。
バランスを失い、ユユは大穴から足を踏み外した。傾いた彼女の身体は私たちの元から離れ、重力のままに地面へ吸い寄せられる。
「ユユ!」
「マリちゃん!」
私とユユは慌てて手を取り合おうとするが、ふたりの手が再び繋がれることはなく、空をつかむだけだった。彼女を追いかけて大穴から飛び出そうとしたが、寸前でカナが私を取り押さえてくれた。
地面に押さえつけられ、崖の淵から下を覗いた。
高所から硬い地面へユユは落ちていく。この高さは――。
光の玉が飛び交う中、私はユユが落ちていく姿を見ていることしかできなかった。その吹雪のような光の隙間に、私は彼女の顔を見た。
ユユは、何よりも幸せそうに笑っている。
ああ、――――ユユ。――――ユユ。
「――ユユ、よかったね」
私も、喜びに打ちひしがれて笑みをこぼした。
ぐしゃり。
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