無能アラフォー暗黒騎士。治癒師で再出発したら、SSS最強クランを結成してた。~美少女達と戻れ? いまさら言われても、もう遅い~

ひなの ねね

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★第12話 アベルたちの新たなクエスト

 ギリアムが決闘を控える少し前――時と場所は王都グランヴェルムへ遡る。

 S級クラン『黄金の剣エクスカリバー』のアベルは、玉座の間の中央で冷汗を流していた。赤い絨毯を凝視し、目を逸らすことしかできない。

「……して、言い訳は他にあるか?」

 玉座の間に、低く重たい声が響いた。
 両脇に控える衛兵は全身鎧に包まれたまま微動だにせず、その冷ややかな視線さえ、アベルの心を削る。

 玉座に座すはヴァルヴァリアス王。
 二メール近い巨体を持ちながら、その顔には人を測るような理性的な光が宿っている。
 強者の余裕――だがそこにあるのは慈悲ではなく、失敗者を値踏みする冷酷な現実主義だった。

「えーっと、ですからですね。サイクロプスが、昔よりも強くなってまして……あれは強化種だったんじゃないかと、あはは……」

 乾いた笑いで誤魔化そうとするアベル。
 だが心の奥で、追放した暗黒騎士ギリアムの影がちらついていた。

 ――くそっ、あのオッサンがいた時のサイクロプスは弱かったのに。運よく抜けやがって……!

 口には出せぬ言い訳を胸の内で吐き散らす。
 これまでも依頼主とのやり取りや謝罪は、全部ギリアムに押しつけていたのだ。

 ――なんで俺が矢面に立たなきゃならねえんだ!

「余は貴様らを、伝説のクラン『クロノ・クロノスの再来』と聞き、依頼した。
 ……だが、噂というものは往々にして誇張されるらしい」

 王の声音は怒号ではなく、ただ事実を並べる冷ややかさに満ちていた。

「い、いや、今回は偶然……そう、偶然です!
 証拠にご覧ください、俺の指揮で無傷のまま戦略的撤退ができました!」

 背後のクランメンバー、エメラダが冷ややかな視線を寄越すが、アベルはそれを無視する。

「次は必ず上手くやってみせます!
 こいつらさえ指示通り動けば、あの程度の魔物に遅れを取るはずがありません!」

 そうだ、次の依頼さえ成功させればいい。
 名誉を取り戻せば――。

「次はない、となれば話は早いのだが……あいにく別件で人手が足りなくてな」

 王は淡々と告げる。
 その声に苛立ちも怒気もない。
 ただ事務的に、駒を選別しているかのようだ。

「ど、どんなクエストでしょうか!?
 我ら『黄金の剣エクスカリバー』なら、ドラゴン退治でも希少鉱の採掘でも!
 世界に名を轟かせるためなら、なんでもします!」

「……ほう、なんでも、か。
 その言葉に二言はあるまいな」

 冷ややかな瞳がアベルを射抜く。
 怒りではなく、淡々と命を削る刃のように。

「も、もちろんですとも……」

 だがアベルの胸には期待が膨らんでいた。
 王命を果たせば、一気に大きな依頼が舞い込むはずだ。

 ――オッサンを追放して正解だった。
 あんな陰気な暗黒騎士がいれば、せっかくの名声が汚されるところだったからな。

「ならば今すぐ旅支度を整えよ」

「と、申されますと……?」

 ヴァルヴァリアス王は、平然とした口調で命じた。

「脱走した聖女の暗殺を任せる」

+++++++++++++++++++++++++++

 黄金の剣エクスカリバーのクランハウスは、白を基調とした豪奢な屋敷だった。

 二十を超える部屋は、いずれ仲間で満ちる日を夢見て用意されたものだが――現実は広すぎる空虚さばかりが漂っている。

 最高級の調度品が並ぶリビングでは、アベルが落ち着かぬ様子で足を鳴らし、室内を行ったり来たりしていた。

「暗殺だと……なんでこんなことになったんだ、くそッ!」

 苛立ちをぶつけるように椅子を蹴り飛ばす。
 乾いた音を立てて脚が折れ、木片が床に散らばった。

「受けるのですか?」

 振り向けば、旅支度を整えた聖騎士エメラダが扉の前に立っていた。
 その瞳には、未熟なクランマスターへの冷ややかな批判が浮かんでいる。

「断れるはずねえだろ。
 あの状況で逆らったら、俺たちごと潰されてた」
「……」
「それに殺す相手は犯罪者だ。遠慮する理由なんかねえさ」

 言葉とは裏腹に、アベルの手は小刻みに震えていた。
 その震えが恐怖からか、名誉挽回の機会を前にした昂揚か――彼自身すら分かっていない。

「確か……聖女を騙る偽物、という話でしたね」

「ああ。本物の聖女様が現れて、これまでの聖女は偽物だったと明言したらしい」

「神の使いを偽り、民の信を欺き、城で贅を尽くしていた……。
 実に下劣ですね」

「だからこそ俺たちが断罪を下す。
 聖騎士のお前と、S級冒険者の俺でな」

 アベルの口元がにたりと歪む。

 ――そうだ、これは許された殺人だ。
 偽りの聖女を討てば、サイクロプスの失態も帳消しになる。

「せいぜい逃げ惑えよ、偽聖女様。
 俺の踏み台になるためになぁ」

 その不気味な声に気圧されたのか、階段を降りてきた治癒師アイテールと魔術師ドロシーは、用意を整えながらも一歩引いてリビングへ踏み込むのを躊躇する。

「あ、あの……アベルさん。準備が整いました」

「今度こそ役に立てよ。足を引っ張るんじゃねえぞ」

「は、はい……」

 治癒師のアイテールは「こんなときギリアムさんがいてくれたら……」と胸の奥でつぶやいた。

 けれども口にすればクランマスターに押し潰されそうで、ただ瞳に涙を浮かべるしかない。

 サイクロプス討伐の失敗、アベルの焦り――それらは不協和音のように響いているのに、演奏者は気付かずに鍵盤を叩き続けている。

 アベルは足元の革袋を掴み上げ、床を鳴らす足音に合わせて笑みを歪ませた。
 それは狂気を帯び、期待と恐怖が入り混じる歪んだ仮面だった。

「さあ、出発だ。目指すは衛星都市アクアヴェルム――」
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