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『 灰色だった俺と第三聖剣と見えぬ亡霊 』
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俺たちは予想以上の売上だったこともあり、今日はアーガイルで一泊することにした。
日はまだ落ちていないが、二人が手伝ってくれたお礼も兼ねて、村の食堂でささやかながら売上パーティーを開くことにした。
「シエロいいですか、女子たる者、年齢も場所も立場も関係ありません。常に好きな服を着て好きな装飾で彩る事ができるのです。ですが私は見ての通りシエロのように可愛い系ではない——だからこそ、だからこそ私の代わりにシエロには可愛い服を着てもらいたいのです。明日、一緒に見繕いましょう。良いですよね総司郎」
聖剣見習いたるもの酒は口にできない(年齢もあるのか知らないが)といってジュースを飲んでいるミセリアだが、酔ってもいないのに女子の話題に異様に食いつきが良い。
あれか聖剣見習いと言えど、学生さんのようだし、そういう話題好きなんだろう。
「ああ、好きな服を見てこい」
流石にごり押しだとマリアベルの時のように嫌がるだろうなあと思って隣に座るシエロを盗み見る。
「……うん、お願いするの」
シエロははにかみながら、両手でジュースに口をつける。
な、なにいい!
荷物卸の時は考えとく程度だったのに、なんだその意識の違いは!
凄い、凄い成長だぞこれは。世間知らずだった娘が、年上のお姉さんのごり押しにより、心を動かしたのか、ありがとうミセリア!
「そういえば剣はすぐに返さないとな、ミセリア」
今はまだ馬車だが、金が手に入ったんだ。もう返してもいいだろう。
しかしミセリアは大きく首を左右に振り、仰々しく右手を前に突き出す。
「総司郎の依頼は行商人ギルドへ納金することで完了する。それまで品物は受け取れない」
「全くどこまでも固いやつだな」
「私は十四番目の聖剣使いになる者として、秩序という名のルールは日頃から守りたい。聖剣使いは世界の調停者、均衡を保つ者。ルールに綻びを生んでしまえば、私の心も小さな綻びから更に大きくなってしまう。聖剣使いとしてそれは見過ごせない」
「そうだな権力とや力を手にしたとき、人は間違いやすいからな。日常的に気を付けるミセリアは良い道を歩んでいると俺は思うよ」
「私はまだまだです。総司郎に預けている剣、あれが覚醒しなくては聖剣見習いの土台にも立てないのが本来のこと、まだ私の心に——」
「開いてるか!」
ドガッと食堂の両開きのドアが蹴られ、食堂にいた者たちは一斉に入り口を見た。そこには煉瓦のように赤焦げた甲冑を身に纏った男が豪快に入ってきた。
よく見るとマントも赤焦げており、男の顔周りにふさふさのファーが付いている。
右手には斬馬刀のような剣を持っている。両手でも持てないほどの巨大な剣が納められており、巨人のような種族がいたとしても簡単には振り回せないだろう。
「酒だ、酒を今すぐ並べろ!」
男の顔は斜めに痛々しい傷が一つ走っている。顔は豪傑とは彼の為にある言葉じゃないかと思えるほど、修羅場を潜り抜けてきた彫りの深い顔だ。
「奴はもしかして……」
あの単色でまとめられた鎧と、ただならぬ立ち振る舞い。嫌が応にも身構えてしまう。シエロの手を引っ張りすぐさま背中へ隠す。
ミセリアも気が付いたのか、はっと息を飲んだ。
「第三聖剣——ガドウ様」
やっぱりそうなのか。
男は誰もいない広いテーブルを見つけて、大きな動きで席に座り、彼についてきた剣士達十人ほども同じテーブルに着く。
「酒は紳士の嗜みだ、酒がなくちゃ話にならん!」
がっはっはと笑い、ガドウは運ばれてきたビールを一気に飲み干す。
「姉ちゃん、これじゃ何度も呼び出しちまう。樽を三つここにおいておけ」
呼びつけられたウェイトレスは、「は、はい」と気迫に押されながら、店長たちと共に酒だるを運び始めた。
店長がが最後の酒樽を置いたころ、ガドウは店長を呼び止める。
「この辺りでグロウスがいると聞いてきたんだが情報はあるか」
「い、いや私は、さあ、どうでしょう」
「ん、知らんのか? 確かな情報だと聞いてきたんだがな」
すみません、と店長はそそくさとガドウから離れる。
「おいてめえら、酒を飲んだら聞き込みを開始しろ。今は他国よりも早く多くのグロウスが必要だからな」
「はい、今すぐに!」
ガドウの脇に立っていた剣士がすぐさま立ち上がるが、ガドウは目にも止まらぬ速さで彼の肩を片手で押さえつける。そして力ずくで椅子に座らせるた。
「聞こえなったか? 酒を飲んでからだ。役に立たねえ耳は切り落とすか? それとも頭の方が良いか?」
「い、いえ、しょ、承知しました」
剣士は怯えながら目の前のビールを一気に飲み干す。
「分かればいい。おら、お前らも全部飲み干してからだ。紳士たるもの、酒の力を取り込んでから優雅に事に当たれ」
は、はい! と他の剣士たちもすぐさま飲み始める。
何なんだこの宴会パワハラ聖剣使いは。
「シエロ、グロウスの声は聞こえるか?」
背中に隠したシエロに呟くと、シエロはそっと俺に耳打ちする。
「グロウスの声は聞こえないんだよ。ここにはいないと思うの」
「そうか、じゃあ誤報なのか……? アトラ、ラプチャーから収集したデータを元にグロウスを探せるか?」
『ラプチャーと同様の波長は感じ取れません。もし存在するならば個体により波長が別の為に認識できないか、データ不足化になります』
「そか、ありがとう」
そうなるとあの聖剣使いのガドウは無駄足となる。けど俺には気になる事があった。
「なあミセリア、グロウスがいるという報告で、十三聖剣が出てくるのはどの程度のレベルの話なんだ?」
十三人しか存在しない聖剣だ。グロウス狩りの他にも極彩色の魔女捕獲も行っているはずだ。そんな忙しいのに、この村での不確かなグロウスに人員を割くのは不可思議だ。
「百パーセントでしょうか。十三聖剣を動かしつつももし誤報だった場合は、国務を邪魔したこととなり、最悪首を切られます」
「想像通りだ」
ということはこの村にグロウスはいる。
グロウスがいるということは、俺とシエロは彷徨っている彼を鎮魂させねばならない。
彼女の家族と住みよい未来を築くために。
「そうじろう、探すんだよ」
「シエロ、探そう、そのグロウスを」
グロウスの気配が無いのは気にかかるが、ガドウに渡すわけにはいかない。
俺たちはそそくさと食事を済ませ、酒盛りをしているガドウ達がいる食堂を後にした。
『 灰色だった俺と第三聖剣と見えぬ亡霊 』
日はまだ落ちていないが、二人が手伝ってくれたお礼も兼ねて、村の食堂でささやかながら売上パーティーを開くことにした。
「シエロいいですか、女子たる者、年齢も場所も立場も関係ありません。常に好きな服を着て好きな装飾で彩る事ができるのです。ですが私は見ての通りシエロのように可愛い系ではない——だからこそ、だからこそ私の代わりにシエロには可愛い服を着てもらいたいのです。明日、一緒に見繕いましょう。良いですよね総司郎」
聖剣見習いたるもの酒は口にできない(年齢もあるのか知らないが)といってジュースを飲んでいるミセリアだが、酔ってもいないのに女子の話題に異様に食いつきが良い。
あれか聖剣見習いと言えど、学生さんのようだし、そういう話題好きなんだろう。
「ああ、好きな服を見てこい」
流石にごり押しだとマリアベルの時のように嫌がるだろうなあと思って隣に座るシエロを盗み見る。
「……うん、お願いするの」
シエロははにかみながら、両手でジュースに口をつける。
な、なにいい!
荷物卸の時は考えとく程度だったのに、なんだその意識の違いは!
凄い、凄い成長だぞこれは。世間知らずだった娘が、年上のお姉さんのごり押しにより、心を動かしたのか、ありがとうミセリア!
「そういえば剣はすぐに返さないとな、ミセリア」
今はまだ馬車だが、金が手に入ったんだ。もう返してもいいだろう。
しかしミセリアは大きく首を左右に振り、仰々しく右手を前に突き出す。
「総司郎の依頼は行商人ギルドへ納金することで完了する。それまで品物は受け取れない」
「全くどこまでも固いやつだな」
「私は十四番目の聖剣使いになる者として、秩序という名のルールは日頃から守りたい。聖剣使いは世界の調停者、均衡を保つ者。ルールに綻びを生んでしまえば、私の心も小さな綻びから更に大きくなってしまう。聖剣使いとしてそれは見過ごせない」
「そうだな権力とや力を手にしたとき、人は間違いやすいからな。日常的に気を付けるミセリアは良い道を歩んでいると俺は思うよ」
「私はまだまだです。総司郎に預けている剣、あれが覚醒しなくては聖剣見習いの土台にも立てないのが本来のこと、まだ私の心に——」
「開いてるか!」
ドガッと食堂の両開きのドアが蹴られ、食堂にいた者たちは一斉に入り口を見た。そこには煉瓦のように赤焦げた甲冑を身に纏った男が豪快に入ってきた。
よく見るとマントも赤焦げており、男の顔周りにふさふさのファーが付いている。
右手には斬馬刀のような剣を持っている。両手でも持てないほどの巨大な剣が納められており、巨人のような種族がいたとしても簡単には振り回せないだろう。
「酒だ、酒を今すぐ並べろ!」
男の顔は斜めに痛々しい傷が一つ走っている。顔は豪傑とは彼の為にある言葉じゃないかと思えるほど、修羅場を潜り抜けてきた彫りの深い顔だ。
「奴はもしかして……」
あの単色でまとめられた鎧と、ただならぬ立ち振る舞い。嫌が応にも身構えてしまう。シエロの手を引っ張りすぐさま背中へ隠す。
ミセリアも気が付いたのか、はっと息を飲んだ。
「第三聖剣——ガドウ様」
やっぱりそうなのか。
男は誰もいない広いテーブルを見つけて、大きな動きで席に座り、彼についてきた剣士達十人ほども同じテーブルに着く。
「酒は紳士の嗜みだ、酒がなくちゃ話にならん!」
がっはっはと笑い、ガドウは運ばれてきたビールを一気に飲み干す。
「姉ちゃん、これじゃ何度も呼び出しちまう。樽を三つここにおいておけ」
呼びつけられたウェイトレスは、「は、はい」と気迫に押されながら、店長たちと共に酒だるを運び始めた。
店長がが最後の酒樽を置いたころ、ガドウは店長を呼び止める。
「この辺りでグロウスがいると聞いてきたんだが情報はあるか」
「い、いや私は、さあ、どうでしょう」
「ん、知らんのか? 確かな情報だと聞いてきたんだがな」
すみません、と店長はそそくさとガドウから離れる。
「おいてめえら、酒を飲んだら聞き込みを開始しろ。今は他国よりも早く多くのグロウスが必要だからな」
「はい、今すぐに!」
ガドウの脇に立っていた剣士がすぐさま立ち上がるが、ガドウは目にも止まらぬ速さで彼の肩を片手で押さえつける。そして力ずくで椅子に座らせるた。
「聞こえなったか? 酒を飲んでからだ。役に立たねえ耳は切り落とすか? それとも頭の方が良いか?」
「い、いえ、しょ、承知しました」
剣士は怯えながら目の前のビールを一気に飲み干す。
「分かればいい。おら、お前らも全部飲み干してからだ。紳士たるもの、酒の力を取り込んでから優雅に事に当たれ」
は、はい! と他の剣士たちもすぐさま飲み始める。
何なんだこの宴会パワハラ聖剣使いは。
「シエロ、グロウスの声は聞こえるか?」
背中に隠したシエロに呟くと、シエロはそっと俺に耳打ちする。
「グロウスの声は聞こえないんだよ。ここにはいないと思うの」
「そうか、じゃあ誤報なのか……? アトラ、ラプチャーから収集したデータを元にグロウスを探せるか?」
『ラプチャーと同様の波長は感じ取れません。もし存在するならば個体により波長が別の為に認識できないか、データ不足化になります』
「そか、ありがとう」
そうなるとあの聖剣使いのガドウは無駄足となる。けど俺には気になる事があった。
「なあミセリア、グロウスがいるという報告で、十三聖剣が出てくるのはどの程度のレベルの話なんだ?」
十三人しか存在しない聖剣だ。グロウス狩りの他にも極彩色の魔女捕獲も行っているはずだ。そんな忙しいのに、この村での不確かなグロウスに人員を割くのは不可思議だ。
「百パーセントでしょうか。十三聖剣を動かしつつももし誤報だった場合は、国務を邪魔したこととなり、最悪首を切られます」
「想像通りだ」
ということはこの村にグロウスはいる。
グロウスがいるということは、俺とシエロは彷徨っている彼を鎮魂させねばならない。
彼女の家族と住みよい未来を築くために。
「そうじろう、探すんだよ」
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