中年おっさんサラリーマン、異世界の魔法には賢者の石搭載万能パワードスーツが最強でした ~清楚幼女や錬金術女子高生と家族生活~

ひなの ねね

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極彩色の魔女と漆黒の墓守

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 シエロは今日こそ一つ上の姉さんになるって決めたの。



 この村に向かう馬車からずっとそう決めてた。



 そうじろうに「がんばってるな」って言われたから、それに応えたいって思った。



 がんばってるって不思議な言葉だなと思ったの。



 館に聖剣たちが攻めてきて姉さんたちを全員連れて行った後も、シエロと数匹のグロウスで館で生活していた。 



 飲み物も食べ物も保管している分しかなかったから細々と食べていたし、食料がなくなったときは深い森の中で野草を齧ってた。



 水がなくなればパスカル君の案内で、一緒に水を汲みにいったし、パスカル君となら、一応一人で寝ることもできたの。



 いつも騒がしかった館は毎日静かで、シエロが音を出さない限りは何の音もしなかった。



 何もしなければ朝出した食器は、夕方に見ても同じ場所に置かれたままで、シエロが手を出さなければずっと時間が止まっているようだった。



 あの時はシエロは頑張ってるって自分で思ってたけど、頑張ってるって思えば思うほど悲しくて心細くなった。



 でもそうじろうが馬車で言ってくれた「がんばってる」を聞いたときは、「うん、がんばってる、だからもっとがんばる!」って思えて胸が温かくなった。



 そうじろうがいるから、無理だと思っていることも、ひとつひとつ進んでいける気がしたの。



 館でシエロは一人になって、ずっとどうしたら良いのか分からなかった。姉さんたちを探しに行くのが正解なのか、このまま引きこもっているのが正解なのか。



 何日か過ぎたある日、聖剣たちは再び、屋敷に踏み込んできた。多分、魔術に関する資料をあさりに来たんだと思ったの。



 シエロは前に姉さんたちに押し込められた食糧庫に隠れてた。



 外ではタツタ君が聖剣率いる騎士団と戦ってくれた。あれほど叫び声と金属がぶつかり合う音があったけど、不意に声が聞こえなくなって、多くの甲冑たちが家に飛び込んできたの。



 シエロは一つ上の姉さんの真っ白なローブを羽織って——あと、少しでも大人に見られた方が安全かと思って、年齢をごまかす魔術道具を使ったけど、結局騎士団に掴まって。



 これでシエロも姉さんたちみたいに、死ぬ事もできないまま永遠に魔術を供給するための道具として使われていくんだって思ったの。



 でもこのままシエロはずっと森にいても一人だし、道具として使われても、もういいかなって思った。シエロはもうずっと一人だし、これからも一人。



 シエロをシエロとして見てくれる人にもう会うこともない。



 せめて一緒に住んで寂しさを紛らわせてくれたグロウスを、煉獄の輪から解放してあげたかった。そうすれば次生まれ変わったとき、グロウスとして苦しむことはなくなる。寂しさを紛らわせてくれたせめてもの恩として、輪廻の輪へと正しく戻してあげたかった。



 誰かに殺されるとまたグロウスとして更に苦しむから隠れててっていったのに、オオカミのグロウス、パスカル君はシエロを助けようとして深手を負った。



 でもあの時、何故か分からないけど、聖剣の仲間だと思ってたそうじろうが助けてくれた。



 大人はみんな、弱い者から奪っていくだけだって思ってたの。



 シエロの姉さんも、友達も、家も、生活も、未来も、全部全部全部。



 けどそうじろうは、何の理由もなく、関わり合いのないシエロを助けて、姉さんを助ける旅を手伝ってくれてる。グロウス全員を煉獄の輪から解放して、正しい輪廻の輪に戻すことも、それが世界中から魔術を消すことになっても、分かった上で着いてきてくれてる。



 野菜は残さず食べろとか、帽子はしっかり握っておけとか、口煩いときもあるけど、シエロは知ってる。シエロにいっぱい気にかけて言葉を選んでくれてたりすること。



 本当は今日の聞き込みも一人で活かせるのは凄い心配してるの知ってた。口では良いよって言ってたけど顔に出てたし。そんなときのそうじろうは眉毛が下がってる。たぶん誰も知らないと思うし、それはシエロの秘密としてしまっておく。



 数日前の事なのに、凄い昔の事みたい。



 色々と思い出しちゃったけど、だから少しでも、シエロがやらなきゃいけないことは、シエロ自身ができるようにならないと。



 少しでも自分で出来る事が増えれば、立派な姉さんになれるって姉さんたちがいつも言ってた。



 だから村の広場でグロウスや魔術研究をしていた人について聞いて回ってるけど、誰も何も知らないの。貰えるのは情報じゃなくてちょっとしたお菓子のみ。



 困ったの早くも行き詰ってしまったの。



 そうじろうとミセリアは手掛かりが掴めたか心配。二人はグロウスの声を聴くことはできないから。



 ふと路地を盗み見ると、路地に咲いた小さな花を見つめている女の子を見つけた。



 服装はシエロと全然違くて、髪の色も含めると全身真っ黒。



 話しかけていいのかな……と思ったらシエロの背中をついてきていた黒猫が、彼女の足元に駆け寄ってすりすりと体を擦り付ける。



「あ……」



 女の子は少し驚いて優しそうに足元の猫をなでた。



「こ、こんにちはなの!」



 目の前にいるのにずっと見てたら変な子だって思われちゃうから、勇気を出して声をかけてみた。同じ年の子と話すの初めてだから、すっっごく緊張するの。



「……」



 黒い少女はシエロをじっと見つめる。足掻い前髪が目にかかりそうなのも、シエロそっくりだった。



「シエロは、シエロだよ。あなたは?」



 勇気を出して手を出してみる。そうじろうがいつも言ってた。初めて会う人には挨拶しとけば間違いないって。



「私は——誰だっけ?」



「名前ないの?」



 ふるふると少女は頭を振る。思い出せないみたい。



「じゃシエロが名前を付けてあげるの。えっと、くろ、クロ、クエ、クロエ——クロエなんてどうかな」



「クロエ……わるくないかも」



 ふふと少女——クロエちゃんは小さく笑った。はにかんだ笑みはお淑やかで小さなお花みたいでとってもかわいかったの。



 クロエちゃんは猫を抱き上げて、近くの置きっぱなしの木箱に座った。シエロもそれに倣って同じように座ったの。
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