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無色の俺と幸運切りの均衡者
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「ガドウ!」
俺は墓守の少女を小脇から降ろし、ミセリアと共にガドウへと次々と攻撃を放つ。俺自身の白い焔の打撃は決定打どころか傷一つつける事すらできない。
「火力不足——!」
「はあああっ!」
ミセリアが俺の脇から飛び出してガドウへと一振りで数連撃を放つが、そのどれもを片腕ではじかれる。
ガドウの攻撃は一振りが大きくも素早く、力強い。
パスカル化の俺じゃなければ、今頃ミンチになって壁に叩きつけられていただろう。ミセリアはさすが聖剣見習いというべきか、ガドウの攻撃にも的確に対処し、隙を見つけて攻撃を加えるが、こちらも火力不足だ。
ところどころ、ガドウは剣を振ると同時に自動追尾型の赤いレーザーのような鋭利な線による攻撃を行う。それによって折角詰めた距離も離されてしまう。
「ふははは、聖剣見習いと獣小僧ではその程度か」
斬馬刀に圧縮した赤い刀気を纏い、飛び道具として次々と放つ。近くに建てられている家や草木は粉々になり、今や周囲は焼け野原だ。
俺は逃げ場のない攻撃に対して、すぐさま黒い少女を守りに戻る。前衛はミセリアが受け持ってくれている。
「くそ、これじゃ埒が明かない」
「ど、どうしてそこまでするの——ここであの人に勝利しても、この村で朽ち果てるだけなのに」
「いっただろ、朽ち果てる気はないって」
改めて少女を抱いて、ガドウが放つ遠距離攻撃を機敏に回避して、木の枝に留まる。この動きはまるで忍者だ。
「君がグロウスならこの村を解放できないのか?」
「——私はグロウスじゃない。グロウスは私を守ってくれるけど、言うことはあまり聞いてくれない」
「だから君も出られないってことか?」
「ここで永遠に私を守るのがグロウスの悲願だから……寂しくならないように時折人間を取り込み、時が経つと魔力源へと消化する」
今はガドウからシエロを助け、その後、この村として存在しているグロウスを鎮魂する。そうすれば俺達も彼女も助かるはずだ。
追尾攻撃に補足されすぐさま、枝から移動する。さっきみたいにこの少女に援護してもらっても良いのだが、やはり決定打に掛ける。
アトラスが必要だ。
「アトラ、首尾はどうだ」
『現在、マスターたちの居場所に到着しておりますが、次元と次元の狭間に干渉する魔術を用いているようで、侵入に苦労しています』
「分かった引き続き頼む」
戦場から遠く離れた場所に少女を下ろし、俺は彼女の目線に合わせた。
「もし君が避ければ、俺はこの村から君を開放したいと考えてる。君が無意味な選択なんて言ったものは、必ず俺が塗り替える。だからもし良かったら、グロウス達に言ってくれないか。外にいる真っ黒な奴も飲み込んでくれって」
「私は——」
下手に希望を持ちたくないのだろう。期待を裏切られた時の辛さを彼女は何回も体験しているのだろうから。
「君が望むものを祈ってくれればいいさ」
それが例え、この永遠の世界だったとしたら、俺はそれを知った上で対峙することにはなるが。
ミセリアを見ると大分、苦戦しているようだ。ガドウは本気を出しているようには見えないが、その一撃一撃がミセリアを押し、最後の一振りで彼女を大きく吹き飛ばす。
「ミセリア!」
倒れこんだミセリアの元へ滑り込み、彼女に手を貸す。
「総司郎、ごめんなさい。私ではガドウ様の剣に着いていけない——」
剣を地面に突き刺し、杖代わりにして立ち上がる。
「歯ごたえがないねえ。芸もない。こりゃ早いとこ、グロウスの女を片付けて終わりとしますか」
「行かせはしません——」
満身創痍の姿でガドウの前に立ちふさがる。
「シエロを返してください」
「断る」
ガドウの一振りが再度、ミセリアへと襲い掛かるが、彼女は剣でその攻撃を薙いだ。だが衝撃は逃がしきれず、ミセリアの皮膚が裂けて血が流れる。
「その子は、私利私欲のために使われるべきではありません」
「ふん」
次の一撃も薙ぐ。衝撃で膝をつきそうになるが、ガドウの前に立つ。
「聖剣とは均衡者、人類の守護者——もし犠牲の上に成り立つのが真実だとしても、頭から犠牲が必要だと行動するのは許しがたい——!」
「若いっ!」
乱暴なまでの左から右への一線、ミセリアの左腕から妙な鈍いとが響く。
「う、がああ」
「全てを助けたいなど戯言に過ぎず。現実には平等という文字も存在しない。貴様も聖剣見習いならば、武をもって俺を止めよ!」
「いえ、私は——」
折れた左腕はだらんと垂れ下がり、右腕だけで剣を構えるが、ミセリアは決して引こうとしない。引いてしまえば、彼女が信じ続けてきた聖剣という存在は消え、力によって正義が決まる存在になってしまうからだ。
「——私はその考えには賛同できない!」
構えた剣からゆらゆらとした蒼の刀気が立ち上る。
「守るための力、聖剣同士で撃ち合うものではない!」
蒼の刀気はミセリアの言葉に呼応するかのように、徐々に色合いを強め、彼女の正面に蒼の透明なガラスを出現させる。
「私は、私が選んだ剣の道で止める!」
「聖剣もどきになったか——」
ガドウが剣を振るうと、ミセリアが生んだガラスはあっけなく砕けガドウへと降り注いだ。しかしガラス片さえも傷の一つになりはしない。
「所詮口だけか、守る意思もこの通りだ。聖剣への道は遠いな」
ガドウが剣をミセリア目がけて振り下ろし、彼女を脇へと吹き飛ばす。俺は滑り込むように彼女のクッションとなり、すぐさまガドウへと向かう。
「遅い、これで積みだ」
斬馬刀を振り上げ今度こそ少女めがけて振り下ろそうとしたとき、《それ》は今まさに出現した。
斬馬刀をクロスした両手で受け止める黒い装甲。全身に走る薄緑のライン。
『準備運動としては物足りない。次はもう少し硬くても良いですね』
「よく言うよ」
あの黒い少女に開けてもらったのに。
「こい、アトラアアアアス!」
俺は猛然と走りだす。宙を飛んで来るこまごまとしたパーツは一つ一つ左足と右足に吸い付くように構成され、下半身上半身と、アトラスが完成していく。
俺が立ち止まらぬままガドウへ右腕を叩きつける。すると右腕にバラバラに分かれているパーツが集まり、アトラスの右腕を構築していく。ボルトが締まり、アーマー部分がゆっくりと閉じて蒸気を吹き出す。
右腕は剣ではじかれるが、左腕でガドウの兜の顎を狙う。狙っている最中でもパーツは次々組みあがって拳を形成する。
「ぬっ」
ガドウは一歩引いたつもりだが、珍しく地面に足を取られ、一瞬よろめく。俺はその隙を逃がさずに、シエロへと手を伸ばした。
「——届いた」
弛緩した腕からシエロを抜き取り、小脇に抱える。
体勢を立て直そうとしたガドウの地面はさらにへこみ、バランスを取るためにガドウは踏ん張るほかなかった。
地面に細工したのは少女だろう。その隙に彼女も俺の足元へとたどり着いた。
「な、何が起きている」
ガドウは心底不思議そうに己を見る。
今まで戦場でこんな初歩的なミスをしたことがないんだろう。
「ガドウ様、すみませんがあなたの幸運は断ち切らせてもらいました」
左腕を抑えながら見ミセリアも俺の隣に立つ。
「行くぜガドウ、紳士的にフィナーレを飾ろうじゃないか」
『無色の俺と幸運切りの均衡者』
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「火力不足——!」
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パスカル化の俺じゃなければ、今頃ミンチになって壁に叩きつけられていただろう。ミセリアはさすが聖剣見習いというべきか、ガドウの攻撃にも的確に対処し、隙を見つけて攻撃を加えるが、こちらも火力不足だ。
ところどころ、ガドウは剣を振ると同時に自動追尾型の赤いレーザーのような鋭利な線による攻撃を行う。それによって折角詰めた距離も離されてしまう。
「ふははは、聖剣見習いと獣小僧ではその程度か」
斬馬刀に圧縮した赤い刀気を纏い、飛び道具として次々と放つ。近くに建てられている家や草木は粉々になり、今や周囲は焼け野原だ。
俺は逃げ場のない攻撃に対して、すぐさま黒い少女を守りに戻る。前衛はミセリアが受け持ってくれている。
「くそ、これじゃ埒が明かない」
「ど、どうしてそこまでするの——ここであの人に勝利しても、この村で朽ち果てるだけなのに」
「いっただろ、朽ち果てる気はないって」
改めて少女を抱いて、ガドウが放つ遠距離攻撃を機敏に回避して、木の枝に留まる。この動きはまるで忍者だ。
「君がグロウスならこの村を解放できないのか?」
「——私はグロウスじゃない。グロウスは私を守ってくれるけど、言うことはあまり聞いてくれない」
「だから君も出られないってことか?」
「ここで永遠に私を守るのがグロウスの悲願だから……寂しくならないように時折人間を取り込み、時が経つと魔力源へと消化する」
今はガドウからシエロを助け、その後、この村として存在しているグロウスを鎮魂する。そうすれば俺達も彼女も助かるはずだ。
追尾攻撃に補足されすぐさま、枝から移動する。さっきみたいにこの少女に援護してもらっても良いのだが、やはり決定打に掛ける。
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「アトラ、首尾はどうだ」
『現在、マスターたちの居場所に到着しておりますが、次元と次元の狭間に干渉する魔術を用いているようで、侵入に苦労しています』
「分かった引き続き頼む」
戦場から遠く離れた場所に少女を下ろし、俺は彼女の目線に合わせた。
「もし君が避ければ、俺はこの村から君を開放したいと考えてる。君が無意味な選択なんて言ったものは、必ず俺が塗り替える。だからもし良かったら、グロウス達に言ってくれないか。外にいる真っ黒な奴も飲み込んでくれって」
「私は——」
下手に希望を持ちたくないのだろう。期待を裏切られた時の辛さを彼女は何回も体験しているのだろうから。
「君が望むものを祈ってくれればいいさ」
それが例え、この永遠の世界だったとしたら、俺はそれを知った上で対峙することにはなるが。
ミセリアを見ると大分、苦戦しているようだ。ガドウは本気を出しているようには見えないが、その一撃一撃がミセリアを押し、最後の一振りで彼女を大きく吹き飛ばす。
「ミセリア!」
倒れこんだミセリアの元へ滑り込み、彼女に手を貸す。
「総司郎、ごめんなさい。私ではガドウ様の剣に着いていけない——」
剣を地面に突き刺し、杖代わりにして立ち上がる。
「歯ごたえがないねえ。芸もない。こりゃ早いとこ、グロウスの女を片付けて終わりとしますか」
「行かせはしません——」
満身創痍の姿でガドウの前に立ちふさがる。
「シエロを返してください」
「断る」
ガドウの一振りが再度、ミセリアへと襲い掛かるが、彼女は剣でその攻撃を薙いだ。だが衝撃は逃がしきれず、ミセリアの皮膚が裂けて血が流れる。
「その子は、私利私欲のために使われるべきではありません」
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次の一撃も薙ぐ。衝撃で膝をつきそうになるが、ガドウの前に立つ。
「聖剣とは均衡者、人類の守護者——もし犠牲の上に成り立つのが真実だとしても、頭から犠牲が必要だと行動するのは許しがたい——!」
「若いっ!」
乱暴なまでの左から右への一線、ミセリアの左腕から妙な鈍いとが響く。
「う、がああ」
「全てを助けたいなど戯言に過ぎず。現実には平等という文字も存在しない。貴様も聖剣見習いならば、武をもって俺を止めよ!」
「いえ、私は——」
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「——私はその考えには賛同できない!」
構えた剣からゆらゆらとした蒼の刀気が立ち上る。
「守るための力、聖剣同士で撃ち合うものではない!」
蒼の刀気はミセリアの言葉に呼応するかのように、徐々に色合いを強め、彼女の正面に蒼の透明なガラスを出現させる。
「私は、私が選んだ剣の道で止める!」
「聖剣もどきになったか——」
ガドウが剣を振るうと、ミセリアが生んだガラスはあっけなく砕けガドウへと降り注いだ。しかしガラス片さえも傷の一つになりはしない。
「所詮口だけか、守る意思もこの通りだ。聖剣への道は遠いな」
ガドウが剣をミセリア目がけて振り下ろし、彼女を脇へと吹き飛ばす。俺は滑り込むように彼女のクッションとなり、すぐさまガドウへと向かう。
「遅い、これで積みだ」
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俺は猛然と走りだす。宙を飛んで来るこまごまとしたパーツは一つ一つ左足と右足に吸い付くように構成され、下半身上半身と、アトラスが完成していく。
俺が立ち止まらぬままガドウへ右腕を叩きつける。すると右腕にバラバラに分かれているパーツが集まり、アトラスの右腕を構築していく。ボルトが締まり、アーマー部分がゆっくりと閉じて蒸気を吹き出す。
右腕は剣ではじかれるが、左腕でガドウの兜の顎を狙う。狙っている最中でもパーツは次々組みあがって拳を形成する。
「ぬっ」
ガドウは一歩引いたつもりだが、珍しく地面に足を取られ、一瞬よろめく。俺はその隙を逃がさずに、シエロへと手を伸ばした。
「——届いた」
弛緩した腕からシエロを抜き取り、小脇に抱える。
体勢を立て直そうとしたガドウの地面はさらにへこみ、バランスを取るためにガドウは踏ん張るほかなかった。
地面に細工したのは少女だろう。その隙に彼女も俺の足元へとたどり着いた。
「な、何が起きている」
ガドウは心底不思議そうに己を見る。
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