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第一章
新しい一歩は不安定です。
しおりを挟む「おい…き…って、おい起きろって」
「っ!?」
俺が目を開けると、厳つい顔をした男が覗き込んでいた。俺は速攻で後ろ回りをすると戦闘態勢に入る。
「そんなに警戒すんなって、ほらよ。まずこれ飲んで落ち着け」
そう言い男が何かを放ってくる。一見水筒のような筒だが何が入ってるかわからない。
「…飲めるかよ」
俺は水筒を弾くと男と一定の距離を置く。
「おうおう、こりゃまた盛大に警戒されてんなぁ…柚、ちょっと何とかしてくれや」
男は参ったと言わんばかりに頭を抱えると、一人の少女を連れてきた。
(確か、この子は…)
「もう何よ…ってアンタ起きてたの!?」
男が連れてきたのは、昼間の勘違いして襲ってきた少女だった。
「柚、彼、今目が覚めたんだが警戒してこっちの話に聞く耳さえ持ってくれねぇんだ」
「そりゃそうでしょ、パパ顔が怖いんだもん。私、初見なら逃げてるわよ?」
(パパ?この男の人、この少女の親父さんなのか…)
よくよく見てみれば顔が似ていないことも…ない。
「あぁそれは自覚しているよ。でも今は一刻を争う。とりあえず彼との綱渡しをお願いできるか?」
「分かったわよ、さっきは守ってくれてありがと。私は葉月柚、横の葉月健の娘よ」
(いや、別に守ったんじゃなくて守らされたんだけどな…お前も信用してないないからな?)
「…星野有賀、魔法使いだ…」
自己紹介は短縮に限る、さっきまで散々騙されてきた俺にとって、この二人が味方という保証もない。
(それに…さっきからそんなに経ってない、魔力も回復していないしな)
応戦するにも魔力が圧倒的に足りない。
だがそんな考えも束の間、男は俺が自己紹介をすると急に頭を下げ出した。
「俺は葉月健。ここらの治安維持を仕事にしている者だ。俗に言う自主的な警察みたいなものか…さっきは娘を助けてくれたこと、感謝する」
「え…やめてください頭も上げてもらわないと困るんですけど。も、もう分かりました!味方って信じますから!」
ここまで下手に出られるとこっちが困ってしまう。俺は必死に男の頭を上げた。
「…ようやく警戒を説いてくれたみたいだな、これで本題に入れる」
(半ば強制だけどな…)
「本題ってなんですか?」
「さっきの事件についてだ。柚、綱渡しありがとうな。悪いがちょっと席を外してくれるか?」
「私の扱い雑過ぎないっ!?ていうか私も関係者だから居残るわ」
「そうか。いいかい?有賀君」
「俺はどちらでも良いですよ?まぁ、あまり聴いてて楽しい話でなないのですが…」
「聞くわ」
「…分かりました。実は…」
俺は異世界からきたこと、そして亜美に利用されそうになった事、そしてそこに葉月柚が割り込んできたことを話した。
(まぁ警察だし怪しまれない為にも正直な方がいいよな…?)
そして、一通り聞いた葉月柚は笑い出した。
「ねぇねぇ、亜美さんの件は分かったけど、途中に厨二病入れるのやめなさいよ…ブフッ」
「やめないか柚、実際お前も見ただろ魔法を…信じるべきだ」
どうやら親父さんは信じてくれたようだ。隣では未だ笑い続ける柚がいる。
(畜生…このロリっ子ぜってぇ許さない…)
「あぁそうだ、まだ聞き込みもしたいし、外に出ると危険もある。今日は泊まって行ったらどうだ?家もないんだろ?」
「…え、いいんですか?」
ホームレス一直線に比べ、ここには飯も寝床もある。
(ヤバい、このおっちゃん惚れるわ!)
「ちょっとちょっと!年頃の娘がいるのよ!?そんな厨二病男と一緒なんて嫌よ!」
柚は机をバンッと叩く。顔から警戒と共に嫌悪が滲み出されている。
(おい、ひでぇ言いようだな…どんなけ嫌なんだよ。というか誰のお陰で助かったと思ってんだ。本当可愛くねぇなコイツ)
「いいじゃないか、柚は実際に魔法を見てみたいとは思わんのか?」
「この時代、科学で充分よ、もうパパの好きにしたらいいわ!」
柚はそう言うと、ドアをバタンと閉め出て行ってしまう。
「娘さん反抗期ですか?というか俺だけ異様に嫌われているというか…」
「あれでも抑えている方だったんだ許してやってくれ。実は今日機嫌が悪くてな」
「機嫌?何かあったんですか?ってすいません勝手に頭突っ込んで…」
「別にいいんだ。娘は今日試験の日でな」
「試験と言いますと…ここのですか?」
「あぁここもれっきとした警察の組織、資格などは要らんのだが採用試験は実施していてな」
(なるほど、大体は理解した)
「今日の事件に巻き込まれて、あなたに採用が難しいと判断されたんですね?」
「そういうことだ。親としちゃあの時有賀君が居なかったらどうなっていたことか…考えたくもなくてな」
親父さんの言っていることはもっともである。子供が危ない行動をしていたら注意する、柚が機嫌を悪くするのもわかるが、親父さんも分かる。
(これはどんな反応をしたらいいんだ…って待てよ?あいつが試験落ちたのって俺のせいでもあるんじゃねぇか?)
「あの、ちなみに娘さんには何と言って不合格にしたんですか?」
「たしか、一般市民に守られてるようじゃウチには入れないな…」
「それだぁぁ!」
(完璧に俺のせいにされてんじゃねぇか!通りで俺に敵対心を燃やしてる訳だ…さっさと鎮火しないと面倒なことになりそうだな…)
「どうした?いきなり奇声なんか上げて…?」
親父さんは心配そうに俺を覗き込む。
(普通に謝るだけじゃ納得してもらえないだろう、となると1番近い道は…)
「あの、おじさん」
「おう、なんだ?」
「俺を雇ってくださいっ!」
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