魔法使いと発明娘

三本道

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第二章

主人公って絶対絶命まで追い込まれるよね。

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「あの、本当にいいんですか?」

「あぁ、君たちのポテンシャルを見たいんだ。俺を犯人だと思って捕まえてみてくれ」

俺達、もとい俺と柚と栗髪の少女は、葉月家地下の訓練所に来ていた。

「いいんじゃないフウちゃん?私はこの男を合法的に手にかけれるんだからやるわよ」

どうやら柚はやる気のようだ。腕をまくり、腰で髪を束ねる。

(ですよねー、っていうか殺す気満々かよ…)

「柚ちゃん…わかりました。私もやります!」

「お、おう、無理はすんなよ」

栗色少女も腕をまくると、右手に手袋をつけた。

(この子、フウちゃん…だっけか?情報なしだ。ここは慎重にい…)

バシュン。

「っオワッ!?」

「外したわね…じゃあ行くわよ!」

「言いながら撃ってくるなy…」

「私も…!」

「っと、危ねぇっ!?」

どうやらフウちゃんは剣士らしい。銃弾を避け体勢を崩した俺に距離を詰めてくると横に一閃、惜しくも空を斬った。数本の髪の毛がチリチリと舞う。

(言い忘れた俺が悪いけど…二人いっぺんに相手するのかよ!?)

「まぁ言ってない俺も悪いしな、とりあえず…"ブースト"、"アースウォール"」

俺はバフと共に自身の周囲に壁を作る。身長ほどの壁だが普通の少女が乗り越えるには一苦労だろう。

「この間に作戦立てて…」

「スキありです!はっ!」

「うおっ、ちょ、マジかよ、どこからっ!?」

突如頭上から繰り出される連弾の突き、バフをかけた俺は体捌きで何とか躱す。

顔の前には容赦なく突かれた竹刀のような剣が通っては戻るを繰り返す。

(し、死ぬ、殺される!てゆうか壁作ったはずなのに!?越えてきたのか…!?)

キュインキュイン。

「わわっ!?今度は何だ!?」

続いてくるのは曲がりくねった銃撃。壁の上から意思を持っているように俺に向かってくる。

銃弾はフウちゃんの援護をするかのように俺の前方に着弾する。

「もう逃さないわよ…」

(柚の銃撃か…!?畜生、壁張ったのが完全に裏目に…って、違う!この銃弾がおかしいんだよ!)

「ぐっ…"フライ"!」

俺は苦し紛れに地下の天井まで飛び上がる。

と、

「ていやっ!」

突如フウちゃんの剣筋が俺の肩をかすめる。

ヒリヒリとした痛み、掠ったようだ。

(ちょ、何で剣士が空中にいるんだよ!)

目の前には確かに空中で剣を振り回すフウちゃんがいた。俺は間一髪でかわすもバランスを崩し落下する。

「今度は斬りますっ!」

「風穴開けてあげる…!」

「…ははっ、本当どうなってんの?この都市…」

(空中問わず自由自在に動き回る少女に、銃弾捻じ曲げるロリっ子…異世界より遥かにレベルが高けぇじゃねぇか…!)

『この時代、科学で充分よ』

と、唐突に俺の脳裏に柚の言葉が蘇る。

(ん?ちょっと待てよ…?人間離れした動きに銃弾…もしかして!?)

落ちる体を強引に捻り、迫りくる彼女たちを見る。

背中には宇宙服のようなパック、二人とも同じようなものを背負っていた。

(やっぱりな…どうせこのまま逃げてても魔力尽きるし、何よりアイツらの訓練にならねぇ!)

「魔術師としてはタブーだが、今回だけは信じさせてもらうぞ、科学を!"エレキバレット"」

俺は手から針金ほどの電気の塊を無数に作り出すと、二人に飛ばした。

「わぁ…有賀さんの機械どんなの使ってるんでしょうか…!?」

「そんなショボイ魔法!機械の方が断然有効よ!」

(知ってるわ!しょぼいとか言うなっての、悲しいわ!…まぁ狙うはあいつら本体じゃ無い、あいつらが持ってるであろう…)

(機械の本体…エンジンだ!)

「きゃっ!何!?」

華麗にエレキバレットを躱していたフウちゃんが落下する。地上ではカチャカチャと発砲できない銃の引き金を引いている柚。

(やっぱりな…本体さえ壊せば機械を使えないんだ…!)

進んだ科学と言ってもエネルギー源は存在する。二人の背負っているパックのような物だ。俺はそこを狙って魔法を放ったのだ。

「って、危ねぇ…!"フライ"」

俺は落下するフウちゃんをキャッチする。

「うぅ、敵に助けられるなんてぇ…」

ションボリとするフウちゃん、近くで見る美少女に俺は息を呑んだ。

(って何照れてんだよ、普通に人を斬ろうとした女だからな!?)

「しゃ、しゃーねーだろ?今日はこれから機械使用なしの自身の強化訓練だ。お前も聞こえてるんだろ…柚?」

フウちゃんにニヤニヤした顔を見せまいと柚の方を向く。

「柚って言わないで、馴れ馴れしい」

柚はゴミを見るような目でこちらを見ると、プイッとそっぽを向いた。

(けっ、マセやがって…)






昼下がりの訓練場。訓練終わりの休憩中。

「えぇ!?それじゃあ、有賀さんの壁作ったり、飛んだりしてたのって魔法だったんですか!?」

「お、おう。そんなに驚くことか?」

「驚きますよ!魔法ですよ!?私夢だったんです、魔法使いに会うこと!」

昼間特有の、のほほんとした訓練場にフウちゃんの大声がこだます。

「魔法使いって、そんなに珍しいのか?」

「珍しいなんてもんじゃありません!この世界には存在しないであろう空想ですよ!?夢ですよ!?」

(まぁ、俺が異世界に行く前の日本じゃあり得なかったからな…魔法なんて。というかフウちゃん魔法好きすぎんだろ…)

「フウちゃん、ダメよそんなに褒めたら…コイツが調子乗るわ」

横から口を挟んできたのは柚、口には差し入れのおにぎりのノリが付いている。

「乗らねぇよ」

俺は柚にゲンコツを落とす。痛っ!、と言うと柚は頬を膨らます。

「でも本当に凄いですよ!私達の開発も有賀くんに助けてもらおうよ!」

(開発?開発って何のことだ…?)

「馬鹿なこと言わないでフウちゃん、ただでさえ、ここに泊まって困ってるのに…これ以上関わりたく無いわ」

冷めた調子でフウちゃんを咎める柚、しかし時すでに遅し…3人の空気は柚のある発言によってピキピキに凍りついていた。

「え…泊まってるの?」

フウちゃんは瞬時に顔を真っ赤にすると俯く。

(なんて早い反応…さすが剣士だな。あ、あと純情な少女の反応、ご馳走様です…)

「あ…ち、違うのよ!?パパが泊まって行けって無理やり…!」

柚も意味に気づいたらしく、手をあたふたと振りながら解説を始めた。

(へぇ、意外に柚もウブだなぁ。やべっ、ニヤけてきた…)

「有賀くんと柚ちゃんがど、ど、同居…」

一方のフウちゃんは何を考えているのか、一人でにブツブツ言っている。

「そんなんじゃないからぁぁぁ!!」

訓練場に柚の声が響き渡った。


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