また逢う日まで 単話短編まとめ

澪ナギ

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たくさんの幸せを一緒に経験して、君といつか

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「一日があっという間なんだよね~」

 そう言う親友の言い方が、ものすごく残念そうで。うたた寝しそうな陽気の中、なんとか目を開けて隣の親友を見た。
 その親友はときどき色が変わる爪をいじりながら、それ以降黙る。それに、数回眠気を覚ますよう瞬きをして。

『残念か』
「あはは、トリスト眠そう」
『この暖かさならば寝るのに最適だからな』

 けれど親友の言葉にも応えたくて。静かな森で、暖かな日差しが降り注ぐ中。隣の親友へと首を傾げた。

『それで?』
「うん~?」
『あっという間に終わるのが残念なのか』

 聞けば、淋架は私の体に横たわる。

『あいにく私は枕ではないぞ淋架』
「いいじゃん、もふもふ」
『刹那ではあるまいし』
「えー、これ刹那ちゃん特権?」
『そういうわけでもないが』

 いかんせん基本的にこの体、というか毛に触るのはその少女くらいなので、慣れないは慣れない。けれど淋架は意に介さず、ときおりごろんと寝返りを打つようにしながら考えた。

『……落ち着かないな』
「触られてるのが?」
『いや枕にされているのが、だ。そこは刹那でもしないぞ』
「いーじゃん、親友特権~」

 なにを言ってもそんな感じではぐらかされるだろうことはわかったので、諦めて。淋架の言葉を待つ。
 彼女はしばらく悩んでから。

「残念、っちゃあ残念かも」
『ほう』
「でも、そのくらい人生楽しいんだな~って思う自分もいるかなぁ」

 それに、心の中で安堵する。
 私も淋架も、これまでの環境はあまりよくなかった。あの集団のメンバーが基本的に、龍達と出逢うまではそんな感じだったと聞く。私と淋架も、それまで二人だけで、人目を避けるように生活してきた。
 こうして淋架と穏やかに過ごしていた二人きりの日々も、決して悪くはなかった。
 森や静かな場所に出てしまえば、私達を遠ざけたり、噂をするような者はいなかったし、ゆったりと流れる時間も心地よかったように思う。

 どこか遠くに感じるその時間を、懐かしく思いながら。

『同感だな』
「お、トリストも~?」
『あぁ』

 淋架に同意して、起き上がった彼女の肩にもたれるように体重を掛けた。

『こうしてゆっくりとした日々も、悪くなかった』

 先ほど心の中で思ったことを、口にも出して。

『けれど、あっという間に過ぎる時間というのは、名残惜しいこともあるが。やはり楽しいな』

 それが、ただただ忙しいだけであっという間に過ぎていたのなら、感想は違っただろう。少なくとも、今のこの楽しい時間で過ぎていく感覚は、悪くない。

『時間が足りないという感覚を、初めて理解できた気がする』
「ふふっ、わかる~」

 淋架も同じようにもたれかかってきて、どちらともなく頭をすり寄った。

「いわゆる青春、って感じだよね~」
『青春というものは一般的に高校生のときではないのか?』
「えぇ~? 学生時代は全部青春でしょ」

 味わえてよかったね、なんて。ぽつりとこぼすから。

 心のどこかで、自分だけではそれをできなかったことに悔しさのようなものが生まれる。
 苦しい中、支え合っていたという自負はある。けれど、彼女の望むようないわゆる青春というものは。


『……ここからか』
「ん? なにが?」
『いいや、なんでもない』
「トリストが言葉濁すなんて珍し~。やらしいこと?」
『悪いがいくら悪魔とはいえどこのタイミングで破廉恥なことを思い浮かぶような精神はしていないな??』


 私でも言葉を濁すことくらいある。
 そう言えば、ただただ笑われて。合わせた頭から振動が伝わる。それに、無意識にまたすり寄って。

『……まぁ、破廉恥とまではいかないが、恋愛云々については考えたな』
「なに、恋でもしてるの?」
『そうだな』

 きっと前から。
 なんだかんだ鈍感な彼女には伝わっていないだろうし、まだ伝える気もないが。

「隠し事はなしだよトリスト」
『当然だ。そのうち教えてやろう』

 いつの日かした、互いに隠し事はしないという約束は、今も忘れてはいない。ただ、もう少しだけ時間が欲しいから。

『楽しみと、あとは覚悟をしておくといいかもしれないな』
「え、そんなびっくりな感じ?」

 その様子だと本当に自分だとは思っていないことがうかがえる。それに、ふっと微笑んで。

『さぁな』

 そう、言えば。

「えー、めっちゃ気になる。教えてよトリスト」
『まだ秘密だ。角を触るな』
「え~」

 くっついていた体を離し、立ち上がる。今日は水色が基調となっている髪の毛を耳に掛けた淋架を見下ろし、瞬きするたびに色が変わる彼女の目をまっすぐに見て。

『お楽しみというのは、とっておく方がいいと知っただろう?』

 彼らと出逢ってから知った、そんな楽しみをこぼせば。

 彼女はまた目の色を変えながら、にっと笑って立ち上がる。ヒトと鹿ということで、やはりいつも通り、目線は彼女の方が上になった。また見上げるような形になった中で、ふと思う。


 いつか。



 いつか、彼女に想いを伝えるとき。そのときには、どうか。
 この背を、追い越していたいと思う。

 そう、心の中で願いながら、歩き出した淋架についていくよう歩き出す。


「じゃあ期待して待ってようかな~」
『そうするといい』
「ふふっ、早く教えてね!」
『それは淋架次第かもしれないぞ』
「え~、刹那ちゃんのサンタさんみたいにいい子で待ってよ~」
『そうしろ』

 笑い合いながら、森の中を抜けていき。

「お、みっけぇ」
「またここにいたんですね先輩方」
「刹那ちゃんたち待ってんぜ」
「うん、お待たせ~」
『行こう』

 そこで鉢合わせた陽真たちと合流し。


『……』


 隣に立つ淋架を見上げ。

「ん?」
『いや』

 まずは、この楽しい日々を謳歌していこうと。

『幸せになったものだと思っただけだ』


 そうこぼして、歩を進めた。


『たくさんの幸せを一緒に経験して、君といつか』/トリスト


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